植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~   作:九泉

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第5話 融合

 数日後の朝、スライムの区画を覗きに行くと、様子がおかしかった。

 

 放り込んだはずの数十匹が、何割か見当たらない。かわりに、以前より一回りか二回り大きい個体が交ざっている。

 

 目を凝らして、ようやく腑に落ちた。

 

 スライムたちは、互いにくっつき合い、溶け合うようにして、数を減らしながら大きくなっていたのだ。

 

「……増えるどころか、減っているな」

 

 ゴブリンは株から分かれて増える。スライムは逆に、寄り集まって一つになる。

 

 作物によって育ち方がまるで違うらしい。

 

 試しに、目についた小さい個体をひとつ、少し離れた個体へ押し付けてみる。

 

 ――ぶよん、と音を立てて、あっさり吸収された。ひと回り大きくなった塊が、何事もなかったかのように、またぷるぷると震えている。

 

「……おお」

 

 声が出た。合体するというのは悪くない性質だ。嫌いではない。

 

 農業において、果実や野菜を大きく育てるために余分な蕾や小玉を摘み取る「摘果」や「間引き」という作業があるそうだ。放っておくと栄養が分散して、どれも小さく育ってしまうからだ。

 

 だが、このスライムという作物はどうだ。人間がわざわざ手を下すまでもなく、自分たちの意志で寄り集まり、自主的に間引きを行って肥大化している。

 

 なんて手のかからない、優秀で自律的な作物なのだろうか。

 

「素晴らしいぞ。農家を理解している」

 

 俺が褒めてやると、子供サイズの青い塊は、嬉しそうにふるふると身を震わせた。

 

 とはいえ、際限なくやるようなことでもないだろう。今のところ、毬くらいだったものが、子供くらいの大きさのものが数匹――そのくらいに落ち着いている。十分すぎる成果だ。

 

「……ねえ、ルース。また何かやってる?」

 

 昼前、様子を見に来たリナが、籠を片手に恐る恐る覗き込んでくる。今日の差し入れは黒パンと干し肉だった。ありがたく受け取る。

 

「スライムが合体していた」

 

「え、なんで」

 

「知らん。増えるより、まとまる方が性質に合っているらしい」

 

「性質とか言われても」

 

 リナは眉をひそめながら、子供サイズに育った青い塊をしばらく眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……まあ、これくらいなら」

 

「これくらい?」

 

「前のゴブリンよりは、まだ可愛げがある気がする。ほら、丸っこいし」

 

 複雑な褒められ方をした気がする。

 

 リナはおそるおそる手を伸ばし、塊の表面をつんつんと人差し指でつついてみた。指が沈み込み、離すとゆっくりと元の形に戻っていく。

 

「わ、すごい弾力。しかも、ひんやりしてて気持ちいいかも。……ねえルース、これって夏場のクッションとか冷やし枕として売れないかな? 宿屋の部屋に置いたら、旅の人に喜ばれそうなんだけど」

 

「馬鹿を言え」

 

 俺は即座に却下した。

 

「スライムとはいえ魔物だぞ。領民たちになにかあったらどうする」

 

「なんでそういうところは常識的なのよ」

 

 リナが唇を尖らせたが、職人とは時に頑固でなければならない。頭のいい俺の確固たる農業哲学だ。

 

「おーい、ぼっちゃん。精が出ますなあ」

 

 そこへ、例によって近所の農家のおっさんが、鍬を担いで通りかかった。

 

 おっさんは畝の境目で立ち止まり、青くぬめる塊を見て、感心したように顎髭を撫でた。

 

「ほう……! こいつぁ見事なスライム玉だ。みっちりと詰まってて、実にいい張りをしとる」

 

「やっぱり畑として見てるし!? なんでみんなそんなに順応性が高いの!?」

 

 やはり、俺の目に狂いはなかった。おっさんの太鼓判をもらい、俺の胸は誇らしさで満たされる。

 

 ふと視線を横に向けると、隣の区画のゴブリンたちが目に入った。

 

 種芋ゴブリンたちは、青くぬめるスライムの塊を異様な怯え顔で見つめていた。まるで得体の知れない天敵でも見るような目つきだ。

 

 ――ズンッ。

 

 俺が地面に棒を突き立てると、ゴブリンたちはビクッと涙目で固まった。

 

「お前たちもスライムを見習って、しっかり根を張れ」

 

 睨みつけて指導を終えると、おっさんは「頼もしいこった」と笑いながら去っていき、リナは「もうツッコミ疲れたから帰る……」と肩を落として宿屋へ戻っていった。

 

 数日が経っても、スライムたちはそれ以上大きくなる様子もなく、畑の隅でおとなしく転がっていた。

 

「ん……?」

 

 ある夕方、畑を見回っていてふと気づいた。

 子供サイズの塊が三つ。たしか、もう少しスライムの区画の中心寄りに置いていたはずだが――今は、杭で仕切ったゴブリンの区画のほうへ、心なしか近い気がする。

 

 スライムに足はないが、ナメクジのようにジワジワと移動することは可能なようだ。大方、水分の多い方へと寄っていったのではないだろうか。まあ気にするほどのことではないだろう。

 

 そう結論づけた俺は、スライム区画に水やりをし、その日は畑を後にした。

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