植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~   作:九泉

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第6話 接ぎ木

 朝、畑に出ると、何かがおかしかった。

 

 数を数える癖がついていたから分かった。杭で仕切ったゴブリンの区画。いつもそこにいるはずの、例の動きの良い一匹の姿が見当たらない。穴だけがぽっかりと空いている。

 

 代わりに、仕切りのすぐ脇――本来はスライムの区画側に、見慣れない色をした塊が転がっていた。

 

 近づいてよく見ると、青かったはずの塊が、半分近く緑色に染まっている。表面には、ゴブリンの輪郭のような、うっすらとした盛り上がりが浮いていた。

 

 ――まさか。

 

 棒の先で、そっと押してみる。

 

 塊は、ぶよんと震えたあと、ゆっくりと形を変えていった。耳の形、肩の盛り上がり、膝の位置。見慣れた輪郭だった。間違いない。ゴブリンの形だ。

 

 色はスライムの青と、ゴブリンの緑が混ざったまだら模様で、触れた感触は紛れもなくスライムだった。

 

 間違いない。スライムがゴブリンを吸収したのだろう。

 

 森でこんな魔物は見たことがない。それは動きの遅いスライムが、生きた魔物を取り込める機会などそうは無いからだろう。

 

 畑に植え、身動きが取れなくなっていたから吸収できたのだ。農業だからこそできる品種改良ってやつだな。

 

 試しに睨んでみる。

 

 ぴしっと、ゲルゴブリンは背筋を伸ばして直立不動になった。動きも、反応の仕方も、いつもの個体とそっくりだ。

 

「……ゲルゴブリン、か」

 

 思いつきで名付けてみたが、悪くない響きだ。

 

 ふと気になって、隣の穴にいる別の普通のゴブリンの近くまで、ゲルゴブリンをそっと移動させてみた。

 

 触れ合うぎりぎりの距離で、数分間、様子を見る。

 

 特に何も起きなかった。相手のゴブリンは、むしろ怯えた顔で距離を取ろうとしている。近づくだけでは伝染しないらしい。安心した。伝染するようでは、農業どころではなくなる。

 

 昼前、様子を見に来たリナが、空いた穴を見つけて声を震わせた。

 

「ねえ、ルース。ここのゴブリン、どこいったの? もしかして脱走……?」

 

「ここにいる」

 

 俺はゲルゴブリンを指す。

 

「え……これ、あの子なの……? あ、スライムに食べられちゃった……?」

 

「分からん。だが、睨むと同じ反応をする」

 

「それって生きてるってこと? 死んでるってこと?」

 

「品種改良だ」

 

「意味わかんない」

 

 俺にも、正直よく分からなかった。だが、見た目も反応も変わらないのだから、些細な問題だろう。

 

「触ってみるか?」

 

「いい、いい! 触らない!」

 

 リナは後ずさった。やけに怖がる。触感は悪くないと思うのだが。

 

 試しに、棒で小突いてみた。普通のゴブリンなら威嚇してくるところだが、ゲルゴブリンはぶるんと震えただけで、特に怒る様子もない。表面に押した跡が、ゆっくりと戻っていく。

 

「おとなしいな。むしろ前より扱いやすい」

 

「扱いやすいとかそういう話じゃなくて……」

 

 そういえば、こいつは元々、やたらと素早い個体だったはずだ。試しに棒を振りかぶってからやや遅めに振り下ろすと、さっと避けた。機敏さは残っているようだ。

 

 これは元のゴブリンの特性と、スライムの打撃に強そうな特性を合わせ持っているんじゃないか? まさにハイブリット品種だ。

 

「そうだ、思い出した」

 

 俺がウンウン頷いていると、リナがふと声を上げた。

 

「少し前、他のゴブリンたちがスライムをやけに怖がってたことあったよね。あれ、もしかして」

 

「ああ、これを察知していたのかもしれないな」

 

 だとすれば、あいつらにも多少の勘はあるらしい。見直してやってもいい。

 

 リナは何か言いたそうにしていたが、結局、諦めたようにため息をついた。

 

 

 農家のおっさんが昼過ぎに顔を出し、ゲルゴブリンを一目見るなり頷いた。

 

「おお、こいつはまた。接ぎ木がうまくいったみたいだな、ぼっちゃん」

 

「接ぎ木……まあ、近いものかもしれません」

 

「色が混ざっとるのは、活着が深いってことだ。いい仕事してる」

 

 褒められるのは悪くない。

 

 

 夕方、屋敷に顔を出した父上にも、一応報告しておいた。

 

「ゴブリンとスライムが混ざった個体ができました」

 

「……そうか。害はないのか」

 

「ないと思います」

 

「思います、か」

 

 父上は少し考えたあと、「まあ、金になるなら好きにしろ」と、いつもの台詞で片付けた。うちの家は、だいたいこれで通る。

 

 

 夜、ひとりで畑を見ながら考えた。

 

 合体でゴブリンの形を再現できるというなら、他の魔物でも同じことができるかもしれない。

 

 牙のある魔物と合わせれば、牙付きの品種ができるかもしれない。毛皮のある魔物なら、毛皮付きだ。硬い甲羅を持つ魔物なら、鎧のように硬い品種もできるかもしれない。

 

 翼のある魔物と合わせたら、飛べるようになるのか。それとも、重さに負けて落ちるだけか。これは試してみるまで分からない。

 

 考えれば考えるほど、組み合わせは無限に思えてくる。

 

 ――これは、夢が広がる話だ。

 

 とはいえ、今すぐ試す材料はない。近場で見かける魔物といえば、相変わらずゴブリンとスライム、あとはビックボアかコボルトくらいのものだ。

 

 幸い、時間はある。当面は、このゲルゴブリンの様子を見ながら、次に何を合わせるかを考えることにした。

 

 数日経つ頃には、ゲルゴブリンは他のゴブリンたちの列にすっかり馴染んでいた。最初は距離を取っていた連中も、害がないと分かったのか、今では隣に並んでも気にしない様子だった。

 

 見た目はまだらで異様だが。ちょっと気持ち悪い。

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