植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~   作:九泉

7 / 7
第7話 間引き

 父上に呼ばれた。

 

「ルース、お前の畑、いつの間にか向こうの牧草地まで食い込んでいるそうだが」

 

「そうですか」

 

「他人事みたいに言うな。羊の餌場が減ったと、牧童から苦情が来ている」

 

 まずい。畑を広げることに気を取られて、境界のことは特に意識していなかった。

 

 たしかに、数えてみれば、ゴブリンの区画とスライムの区画を合わせると、当初の何十倍にもなっている。

 

「すみません。対処します」

 

「対処って、お前、どうするつもりだ」

 

「間引きます」

 

「間引く、というのは……潰すのか」

 

「いえ、分けるだけです」

 

 父上は釈然としない顔をしていたが、それ以上は追及してこなかった。昔から、俺のやることに深く首を突っ込まない人ではある。

 

「よく分からんが、早めに頼むぞ」

 

 それだけ言って、父上は去っていった。

 

 とはいえ、口にしてから考えた。間引くとは言ったが、ただ数を減らすのでは、せっかく育てたものが無駄になる。

 

 減らすのではなく、分ければいい。

 

 動ける個体と、動かない個体。前に出して使う精鋭と、畑に根を張らせたままにしておく残りだ。働き方を分けてやれば、数そのものは減らさなくて済む。

 

 さすが、俺は頭がいい。

 

 

 選別は、思ったより簡単だった。睨みつけて、きびきび動く個体を前へ。反応の鈍い個体は、そのまま後ろへ。これだけで、だいたい分かれていった。

 

 中には、睨んだ瞬間に転んで、それでも律儀に立ち上がって整列し直す個体もいた。不器用だが、根性は見える。これも前に残しておくことにした。

 

 逆に、隣の個体を押しのけて前に出ようとした奴は、問答無用で後ろに回した。精鋭に協調性のない奴はいらない。

 

 前に出てきたのは、十匹ほど。ゲルゴブは当然その中にいる。むしろ先頭だ。睨んだ瞬間の反応の良さが、他とは一段違う。

 

 残りは――畑の境界に沿ってずらりと並べ、膝丈程度の浅い穴に植え直した。

 

「お前たち、今日から生垣だ」

 

 ゴブリンたちは、よく分からないといった顔のまま、されるがままに境界線へ植えられていった。何か言いたそうな顔もいくつかあったが、見なかったことにする。間引きとは非情なものだ。

 

「ふむ、なかなかどうして。いいじゃないか」

 

 囲いができると、畑の境界がはっきりした。見た目も整って、見栄えが良くなった気がする。農業というのも意外と面白いものだな。

 

 ちょうど通りかかった農家のおっさんが、生垣になったゴブリンの列を見て、感心したように頷いた。

 

「ほう、立派な生垣だな。風通しも良さそうだ」

 

「羊の餌場との境もはっきりしますし、ちょうどいいかと」

 

「いい仕事だ」

 

 

 スライムの区画も整理した。こちらは好きに合体させて数をまとめればいいだけなので、ゴブリンよりよほど手間がなかった。子供サイズの塊をいくつか合わせて、一回り大きいのを二つ作っただけで、場所はずいぶん空いた。

 

 作物によって、手入れの仕方がこれほど違うのかと、妙な感心をしてしまう。

 

「それで、前に出したほう、今度は何に使うの」

 

「まだ決めていない」

 

「決めてから選ぶんじゃないんだ……」

 

「決めてから選ぶのでは遅い。農業というのは、そういうものだ」

 

 以前にも似たようなことを言った気がするが、リナは今回も納得していないようだった。

 

「まあいいや。はい、これ。差し入れ」

 

 いつもの黒パンを渡しながら、リナは精鋭組の列をちらりと見た。

 

「……言われてみれば、なんとなく頼りになりそうな顔つきしてる気がする」

 

「そうだろう。こいつらの強化方法も考えているところだ」

 

「嫌な予感しかしないんだけど……」

 

 精鋭は精鋭らしく働いてもらう必要がある。このまま畑に転がしておくだけでは、選んだ意味がない。

 

 前に出した十匹を見渡す。先頭のゲルゴブリンが、心得たような顔でこちらを見上げていた。心得たような顔、というのも変な話だが、そう見えるのだから仕方ない。

 

「よし、お前たち。今度は少し遠くまで行くぞ」

 

 睨みを利かせると、十匹はびしっと姿勢を正した。ろくに統率の取れない三十匹を引き連れていた頃と比べると、驚くほど揃っている。単純に数が少ないというのは、それだけで楽だ。

 

 これまでは、荒れ地の奥、森との境目あたりまでしか足を延ばしていなかった。だが、こいつらとなら、もっと先まで進めるかもしれない。

 

 森のさらに奥。農家のおっさんも、そのあたりまでは行ったことがないと言っていた。

 

 誰も踏み入らない場所というのは、裏を返せば、誰にも収穫されていない場所ということでもある。

 

 遠くに何があるのかは、俺もまだ知らない。

 

 知らないことは、行ってみれば分かる。

 

 そんなことを考えながら、俺はその日の作業を終えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

スパイディのことが大大大好きなマッドサイエンティスト幼女(作者:サイリウム)(原作:MARVEL)

スパイダーマン。カッコよくて可愛くて素敵だなぁ……、せや!


総合評価:5499/評価:8.78/完結:14話/更新日時:2026年10月13日(火) 13:00 小説情報

千年後のグルメ時代(作者:鳩夜(HATOYA))(原作:トリコ)

~第一部完結しました~▼転生した先は、憧れ続けた『トリコ』の世界。▼だが、そこは主人公が夢見たグルメ時代ではなかった。▼時代はトリコたちが活躍してから千年後。▼地球の開拓はほぼ終わり、グルメ界ですら一般人が出入りする時代。▼人々は生まれた時からグルメ細胞を接種し、過酷な環境にも当たり前のように適応している。▼未知なる食材を求めた冒険の時代は、すでに終わってい…


総合評価:12277/評価:9.06/連載:156話/更新日時:2026年10月15日(木) 17:31 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>