植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~ 作:九泉
父上に呼ばれた。
「ルース、お前の畑、いつの間にか向こうの牧草地まで食い込んでいるそうだが」
「そうですか」
「他人事みたいに言うな。羊の餌場が減ったと、牧童から苦情が来ている」
まずい。畑を広げることに気を取られて、境界のことは特に意識していなかった。
たしかに、数えてみれば、ゴブリンの区画とスライムの区画を合わせると、当初の何十倍にもなっている。
「すみません。対処します」
「対処って、お前、どうするつもりだ」
「間引きます」
「間引く、というのは……潰すのか」
「いえ、分けるだけです」
父上は釈然としない顔をしていたが、それ以上は追及してこなかった。昔から、俺のやることに深く首を突っ込まない人ではある。
「よく分からんが、早めに頼むぞ」
それだけ言って、父上は去っていった。
とはいえ、口にしてから考えた。間引くとは言ったが、ただ数を減らすのでは、せっかく育てたものが無駄になる。
減らすのではなく、分ければいい。
動ける個体と、動かない個体。前に出して使う精鋭と、畑に根を張らせたままにしておく残りだ。働き方を分けてやれば、数そのものは減らさなくて済む。
さすが、俺は頭がいい。
選別は、思ったより簡単だった。睨みつけて、きびきび動く個体を前へ。反応の鈍い個体は、そのまま後ろへ。これだけで、だいたい分かれていった。
中には、睨んだ瞬間に転んで、それでも律儀に立ち上がって整列し直す個体もいた。不器用だが、根性は見える。これも前に残しておくことにした。
逆に、隣の個体を押しのけて前に出ようとした奴は、問答無用で後ろに回した。精鋭に協調性のない奴はいらない。
前に出てきたのは、十匹ほど。ゲルゴブは当然その中にいる。むしろ先頭だ。睨んだ瞬間の反応の良さが、他とは一段違う。
残りは――畑の境界に沿ってずらりと並べ、膝丈程度の浅い穴に植え直した。
「お前たち、今日から生垣だ」
ゴブリンたちは、よく分からないといった顔のまま、されるがままに境界線へ植えられていった。何か言いたそうな顔もいくつかあったが、見なかったことにする。間引きとは非情なものだ。
「ふむ、なかなかどうして。いいじゃないか」
囲いができると、畑の境界がはっきりした。見た目も整って、見栄えが良くなった気がする。農業というのも意外と面白いものだな。
ちょうど通りかかった農家のおっさんが、生垣になったゴブリンの列を見て、感心したように頷いた。
「ほう、立派な生垣だな。風通しも良さそうだ」
「羊の餌場との境もはっきりしますし、ちょうどいいかと」
「いい仕事だ」
スライムの区画も整理した。こちらは好きに合体させて数をまとめればいいだけなので、ゴブリンよりよほど手間がなかった。子供サイズの塊をいくつか合わせて、一回り大きいのを二つ作っただけで、場所はずいぶん空いた。
作物によって、手入れの仕方がこれほど違うのかと、妙な感心をしてしまう。
「それで、前に出したほう、今度は何に使うの」
「まだ決めていない」
「決めてから選ぶんじゃないんだ……」
「決めてから選ぶのでは遅い。農業というのは、そういうものだ」
以前にも似たようなことを言った気がするが、リナは今回も納得していないようだった。
「まあいいや。はい、これ。差し入れ」
いつもの黒パンを渡しながら、リナは精鋭組の列をちらりと見た。
「……言われてみれば、なんとなく頼りになりそうな顔つきしてる気がする」
「そうだろう。こいつらの強化方法も考えているところだ」
「嫌な予感しかしないんだけど……」
精鋭は精鋭らしく働いてもらう必要がある。このまま畑に転がしておくだけでは、選んだ意味がない。
前に出した十匹を見渡す。先頭のゲルゴブリンが、心得たような顔でこちらを見上げていた。心得たような顔、というのも変な話だが、そう見えるのだから仕方ない。
「よし、お前たち。今度は少し遠くまで行くぞ」
睨みを利かせると、十匹はびしっと姿勢を正した。ろくに統率の取れない三十匹を引き連れていた頃と比べると、驚くほど揃っている。単純に数が少ないというのは、それだけで楽だ。
これまでは、荒れ地の奥、森との境目あたりまでしか足を延ばしていなかった。だが、こいつらとなら、もっと先まで進めるかもしれない。
森のさらに奥。農家のおっさんも、そのあたりまでは行ったことがないと言っていた。
誰も踏み入らない場所というのは、裏を返せば、誰にも収穫されていない場所ということでもある。
遠くに何があるのかは、俺もまだ知らない。
知らないことは、行ってみれば分かる。
そんなことを考えながら、俺はその日の作業を終えた。