【男女比1:999】異世界に転生したら、なぜか美少女たちから激重感情と熱い眼差しを向けられるようになった件〜男に飢えた彼女たちを満足させられるのは、何度もできる僕だけ〜 作:茨木野
ゴブリン・メイジを殴り飛ばした後、なぜかシウネーが強烈に襲いかかってきた。
そのまま何度でも、と言いたいところだが、ぐっと堪えて一回だけにしておいた。シウネーは残念そうに潤んだ目を向けてきたが、他に行うべき重要な目的があるのだ。
「……りょーた、だめ、もっとぉ〜♡」
「駄目だよ。被害状況を確認しないと」
メイジは狡猾な罠を張り、ギルドの冒険者たちをここに呼び寄せていた。ということは、シウネー以外にも、すでに罠にはまってしまった人たちがいる可能性がある。
というわけで、ぼくはこの悪臭漂うゴブリンの洞窟を探索することにした。
現在ぼくらがいるのは、不気味な祭壇がある広間のような場所だ。ゴブリンたちの集会場として使われているのだろう。
ぼくが入ってきた出入り口以外にも、左右に薄暗い通路が続いている。
「手分けして探そう」
「駄目」
「やっぱり……」
シウネーはぼくの腕にべったりとくっついている。ぎゅっと抱きしめ、絶対に離れようとしないのだ。
……カトレアやアルクと比べると、やや小ぶりなシウネーのおっぱい。
しかし彼女は移動速度を重視しているためか、二人よりも露出の多い軽装の防具を身に着けている。
だから服の布面積が極端に少ないわけで。柔らかい肌が直接当たってしまうわけで。当然、ぼくのテンションも上がってしまうわけでっ。
いけない。今は探索に集中しなければ。
ぼくは腕にしがみついた状態のシウネーとともに、右の通路へと足を踏み入れた。
「これは……」
「……酷いね」
通路の奥の小部屋には、そこら中に夥しい数の骨が散らばっていた。
獣のそれではないことは、骨の形で嫌でもわかる。人間だ。人間の骸骨である。
しかも、色が変色していることから、かなり古い骨も混ざっていることがわかる。多分、ここに連れ込まれて犯され、用済みになって無残に捨てられたのだ。
ゴブリンどもは、繁殖のために人間の女を拉致するという話だし。
「…………」
異世界ファンタジーの女の子たちに、なんて酷いことをしやがるんだ。
ぼくはしゃがみ込み、散らばった骨を丁寧に集め始めた。
こんな薄気味の悪い冷たい場所ではなくて、外の景色の綺麗な日当たりの良い場所に、きちんと埋葬してあげよう。
ぼくと彼女たちとの間には、別に特別な関係があるわけではないけれど。
一歩間違えれば、シウネーもこうなっていたのだ。カトレアたちがあの時身を挺していなければ、もっと早くにシウネーたちはこうなっていたかもしれない。
シウネーが無事なのも、名も知らぬ彼女たちの尊い犠牲の上に成り立っているのだ。
ぼくの大事な彼女が、無残な骨にならずに済んだ。せめて、そのささやかなお礼をしてあげたい。
骨を一カ所に集め、巣の隅に放置されていた食料袋を拝借し、そこにまとめて収める。
ずっしりと重い袋を持ち、一旦広間へと戻る。
次に入って左手の通路へ。ひんやりとした壁伝いにしばらく進んでいくと。
「……人の気配がする」
ちゃきっ、と。シウネーが鋭い音を立てて剣を構えた。隠れ潜んでいる敵がいると思ったのだろう。
ぼくはその細い手にそっと触れ、剣を収めるように指示する。
「大丈夫だよ。多分、敵じゃない。すぐに助けに行こう」
「っ。わかった……」
ほどなくして、ぼくらは通路を進んでいった先の大きな空間で、探していた彼女らに出会った。
「うぅ……」
「ぐすっ……ひぐっ……」
「いやぁ……かえしてぇ……」
そこは、まさに地獄だった。
たくさんの女性たちが、冷たい土の床に転がされていた。彼女らは皆、逃げられないように足を無残に潰されていた。
そして、ほとんどの女性たちは、不自然にお腹が大きく膨らんでいた。
……ゴブリンの被害に遭った女性たちだ。
「だ、だれ……?」
一番手前に倒れていた女性が、怯えた瞳でぼくを見上げる。
儚げな印象の、美しい長い髪の女性だ。
震える女性に、ぼくは優しく微笑みかけた。
「ぼくたちは冒険者です。皆さんを助けに来ましたよ」
ぼくたちがギルドカードを提示すると、じわっ、と。女性たちの目に大粒の涙が浮かんだ。
「助けに来てくださったのですね……ありがとう、ございます……」
ぽろぽろと涙をこぼし、女性たちが安堵の嗚咽を漏らす。
「さ、すぐに治療しますからね」
手前にいた女性に声をかけると、彼女は青ざめた顔で首を激しく横に振った。
「大丈夫です。わたし……足の怪我だけで、致命傷ではないので」
……よく見ると、足が潰されている以外に目立った外傷は見られなかった。他の女性と違って、まだお腹も膨らんでいない。けれど。
「貴重なポーションは、どうか他のもっと酷い人に……」
なるほど、ぼくの治療がポーションを使ったものだと思っているんだ。つまりは、回復できる回数に限界があると考えているのだ。
「心配いりませんよ。【治癒】っ」
瞬間、彼女の体が眩い光に包まれる。
無残に潰されていた足の骨と肉が、みるみるうちに元通りに再生していく。
「よし、OKです」
「っ!?。足の激痛が一瞬で引いた……それに……」
女性が、なぜか自分のお腹を愛おしそうにさすっている。……ん?
「お腹でも痛いんですか?」
「あ、ううん……そうじゃないの……本当に、ありがとう……」
「どういたしまして。さ、残りの人たちも全員治療していきますよっ」
ゴブリンたちは女性をただの苗床として乱暴に扱っていた。
顔が原型をとどめないほど腫れている人。腕が付け根からもげている人。……片方の乳房が残酷に食いちぎられている人。
ゴブリンたちを根絶やしにして、本当によかった。あいつらは文字通り人間じゃない。生きていていい連中ではなかった。
ぼくの治癒スキルがなかったら、今頃彼女たちは一生消えない深い傷を負っていただろう。
「ねえ、これって……」
「うん、やっぱり……」
治癒してあげた女性たちが集まって、ヒソヒソと何事かを話し合っている。
ぼくはその間も、黙々と全員を治癒し続けた。
やがて、この場にいた全員の治療を終える。
すでに事切れていた死人以外は、全員健康な状態に元通りにできた。やっぱりこのスキルは常軌を逸している。
死んでさえいなければ、どんな酷い状態だろうと完全に元に戻せるのだから。
「ありがとうっ」
助けた女性の一人が、顔をくしゃくしゃにして涙を流しながら、ぼくに深々と頭を下げた。
「本当にありがとうっ」
「あなたは命の恩人だわ」
「ほんと、あなたがいなかったら今頃とんでもないことになってたわ……っ」
女性たちが口々に、ぼくへの感謝の言葉を述べる。助かって本当によかった。
そういえば男の姿がないと思ったけれど、繁殖目的のゴブリンが男を連れ去るわけがないか。
……仮に連れ去ったとしても、とうの昔に食料にされているだろうし。
「ほんと……何とお礼を言ったらいいものか……」
最初に治癒した長い髪のお姉さんが、ぼくに深々と頭を下げる。
「ほんと、気にしないでください。ギルドからの調査依頼で来ていたので……って、あ、そうだ」
そもそもこの調査依頼は、ゴブリン・メイジの卑劣な罠だった。
洗脳された村人が、ギルドに嘘の依頼を出していたのだった。
ということは。
「村の人たちの洗脳も、解いてあげないとだね」
☆
シウネーは、村の女たちが泣きながら異様なほど喜んでいる理由に、ある程度の見当がついていた。
「……良かったね、みんな。魔物の汚い子ども、産まなくて済んで」
彼女らは全員、ゴブリンに慰み者にされ、犯された。全員が腹の中に魔物の子を孕んでいたのである。
そんな絶望のどん底にいた彼女たちに対して、良太は治癒スキルを惜しみなく使用した。
良太の治癒は、対象を元の正常な状態に戻すという神の御業だ。怪我を治すだけでなく、魔物に妊娠させられる前の清らかな状態にまで、体を完全に回帰させることができるのだ。
そして。
「あんなに酷かった初体験の思い出も、今は霞がかかったように、どうしても思い出せないんです」
「っ。そうなの……?」
良太が最初に助けた村娘が、信じられないというように頷いた。
「はい。どういうわけか自分でもわからないのですが……。脳裏に焼き付いていたはずの、あの地獄のような悪夢が、もう思い出せないんです」
(これは……もしかして、魂に刻まれた心の傷さえも治癒してしまうということかな……)
前に、冒険者仲間の噂で聞いたことがある。
ある任務で盗賊を斬り殺した若い剣士が、それが深いトラウマとなって剣を握れなくなり、引退したと。
世の中には肉体だけでなく、心にも深い傷を負う人たちがいる。
目に見える外傷は、良質なポーションを塗っておけばいつしか治る。
しかし、心の傷はそうはいかない。どれほど時間が経っても、魂の奥底に残り続ける。一生消えることのない悪夢となって、その者を蝕み続けるのだ。
この村娘たちもそうだ。
ゴブリンに無理やり拉致され、集団で犯された恐怖は、心の深い部分を致命的に傷つけた。
眠りにつくたびに、おぞましい悪夢を見ていたはずだ。無事に助けられた今も、本来ならそのフラッシュバックに苦しみ続ける。……やがて自分の腹を突き破って生まれてくる、醜い魔物の子を出産するという、さらなる絶望のトラウマイベントもセットで。
しかし、である。
(ゴブリンによって無残に傷つけられた心の傷。深いトラウマが思い出せないでいる。つまり、りょーたは体の傷だけでなく、心の傷さえも完全に治せるってこと)
無論、それだけではない。
暴力によって望まぬ処女喪失をさせられた彼女たちの、大事な純潔の証である処女膜もまた、良太のスキルによって元通りに再生されているのだ。
(すごい……りょーたは、世の理不尽に虐げられるか弱い女性たちの味方だ……っ。いや、味方なんて陳腐なレベルじゃない。神がこの狂った世界に遣わした……救いの神子っ)
シウネーは自分の愛する恋人が、これほどまでに偉大な存在であることに深く感動していた。そして、途方もなく誇らしかった。
(……ちょっと待って。わたし、そんな凄い彼に見合うだけの価値がある女かしら……)
押しも押されもせぬSランカー。世界で数えるほどしかいない超実力派のエリート剣士が、本気でそう思い悩む。
(ううん、駄目。もっと、もっともっともっと、わたし……りょーたの隣に相応しい女にならないとっ。そのためには、ギルドでばしばし高難度依頼を受けて、がんがん稼がないと。そして……りょーたに全部貢ぐのっ♡)
途中から思考の方向性がおかしな方にシフトしていたが、残念ながらこの場にはそれをツッコむ冷静な常識人はいなかった。
「あの……シウネー様」
最初に助けられた長い髪の村娘が、おずおずと話しかけてきた。
「……なに?」
シウネーの目は、確かに見た。村娘の瞳の奥に、明らかな熱を帯びた♡が浮かんでいるのを。
そしてそれは、この最初に治癒した村娘だけではない。
「……素敵♡」
「……あのお方、本物の英雄だわ♡」
「……英雄様の御子を孕みたい♡」
(全員……りょーたに惚れてるっ。まあ、当然か。りょーたは凄いし、かっこいいし。素敵だし。この世に彼以上の完璧な男なんて存在しないし。神の子だし)
神の子というのは単なるシウネーの惚れ込んだ感想に過ぎないわけだが。
ともあれ、彼女らは全員、良太の規格外の力によって救われたのだ。体も、そして心も。
さらに言うなら、この男女比が一対九百九十九という絶望的な世界において、ここまで自らを顧みず行動力がある若い男は、良太以外に存在しない。
村娘たちが、ちょっと優しくされただけで惚れ込むのも無理はない。こんな大スペクタクルな救出劇のヒロインにされてしまった彼女らは、それはもう、心酔レベルで彼に盲目的な好意を抱くのも不可抗力と言えた。
「……貴方たち」
こほん、と。シウネーがわざとらしく咳払いをする。
「……わかっていると思うけど」
「ええ、無論です。あ、私はジウと申します」
良太が最初に救った村娘、ジウが静かに言う。
「私たち、別に良太【様】と恋仲になりたいだなんて、そんな恐れ多いことを望んではおりません」
「りょーた……様?」
はぁん、と。うっとりとした恍惚の表情をジウが浮かべる。
「良太様は……尊き神様ですので♡」
「神……」
「ええ、我らを救い給うた神……ですわ♡ ねえ、みんな♡」
救出された村人全員の瞳の奥に、怪しい♡が浮かんでいた。
……どうやら今回の神がかった救出劇は、彼女らに強烈な信仰心を抱かせるレベルだったらしい。
好意を通り越して、尊敬。それをさらに通り越して、狂信的な崇拝の域にまで達していた。
(……まあ、気持ちはわかる……♡ りょーたは誰よりも凄いから……♡)
シウネーは共感の笑みを浮かべると、ジウの震える手を優しく包み込んだ。
「気持ち、よくわかるよ……」
「わかってくださいますかっ」
「うん……。りょーたは、救いの神」
「はい……♡ 本当に素敵な神様……♡」
シウネーを含め、助けられた女全員から強烈な崇拝の念を向けられている、リョータ。
(そんな神の子をこの腹に宿せるなんて……♡ ああ、なんてわたしは光栄で幸せなんだろう……♡)
村娘たち全員の狂った人生観を決定づけた張本人は。
そんなこととは露知らず、暢気に背伸びをしながら通路の前を歩いているのだった。