チートヒーラー、男女比1:999の異世界で女子を治癒したら激重感情を向けられる件   作:茨木野

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第15話 悪人を成敗する

 えっちを餌に、ドロジョから情報を引き出すことに成功した。

 こういうやり方は、あんまり好きではないのだけれど。

 

 でも、ここで見過ごしてしまえば、また同じような陰惨な事件が繰り返されていた可能性が高い。

 だから、これでいいんだ。

 

「御男様《おとこさま》に命令されたんですぅ〜」

 

 場所は、村長の家。ロープで拘束されたドロジョが、涙ながらにぼくへ告げた。

 

 何故、ゴブリン・メイジを村に引き入れ、あんな非道な罠を張ったのかと。

 

「命令?」

 

「はいぃ。御男様に、やれと」

 

「カレシに命令されたってこと?」

 

「カレシというか、御男様にです」

 

 どうにも要領を得ない。御男様とは一体何なのだろう。

 カレシでもない、父親でもなさそうだ。そんな得体の知れない相手の言いなりになる理由がわからない。

 

 とにかく、だ。

 

「人に言われて犯罪をしたってことでしょ? どうしてそんなことを。何か弱みでも握られて脅されていたとか?」

 

「いえ。脅されはしてなくて。ただ、言うことを聞けば、一発やらせてくれると」

 

「??????」

 

 意味が、意味がまったく分からない。一ミリも理解できない。

 やらせてくれる? ただそれだけの理由で? 人をゴブリンの餌食に売ったの?

 

「…………」

 

 ドロジョも最低だが、その強すぎる性欲を利用して命令した男も、底抜けのクズだ。

 

「サイテー」

 

 腕を組んだシウネーも同意見らしい。本当に、信じられないほど酷い奴もいたものだ。

 まあ、理由はわかった。ドロジョがこんなことをしたのは、他人に利用されたからだ。

 

 でも、だからと言って許されるわけではない。

 ドロジョの浅ましい欲望のせいで、実際に何の罪もない人が何人も死んでいるのだ。

 

「シウネー。ドロジョって、この場合どうなるのかな」

 

「騎士団に引き渡される。多分、犯罪奴隷になる。重罪を犯した者や罰金を支払えない者が、国や法によって強制的に奴隷化されるから」

 

 なるほど。

 

「奴隷は、いやぁ」

 

 そりゃそうだろう。

 

「一生、交尾できなくなるなんてぇ〜っ」

 

 そっちかい。本当にどうしようもないほどにスケベな人だな、ドロジョは。

 

「彼女の処遇は騎士団に任せよう。とりあえず、今は二次被害がでないように動かないと」

 

「二次被害?」

 

「ドロジョを利用した黒幕がいるんでしょ? そいつを捕まえないと、また別の村で同じような悲劇が繰り返される」

 

「りょーたっ♡ かっこいいっ♡ やばいっ♡」

 

 シウネーが目を♡にして、体をくねらせている。今にもぼくを押し倒しそうな熱量だった。そういうお楽しみは後でね。

 

「やりたいことは、わかったよ。でもりょーた。その黒幕はどこにいるの?」

 

「ドロジョ。その御男様とやらはどこにいるの?」

 

 ドロジョは「わかりません」と力なく首を横に振った。

 

「わからない?」

 

「はい。ふらっと現れて、命令してくるんです。あ、命令と同時に交尾させてくれるんです」

 

 なるほど。

 ドロジョはこの村から出ない。一方、黒幕はドロジョの居場所を確実に把握している、と。

 

「うーん。どうしよう。何か御男様の手がかりとかない?」

 

「手がかり、ないです」

 

 うーん、どうしたものか。手がかりもなしに、どうやって相手を探し出せというのか。

 

「その御男様って、何が目的でこんな手の込んだことをさせているんだろうね」

 

 単に金が欲しいだけなら、ドロジョにどこかから盗んで持ってこさせればいいわけだし。

 

「ああ、実は」

 

 ドロジョから、その御男様についての詳しい話を聞き出す。それを聞いて。

 

「そうだ」

 

「なにか、思いついたの?」

 

「うん。黒幕の居場所を探し出す方法をね」

 

    ☆

 

 ドロジョに非道な命令を下した男、名前を中津川《なかつがわ》といった。

 

 中津川は、現代日本からこの世界に転生してきた人間だった。

 

 彼はしばらくこの世界で過ごし、ある狂った仕組みに気づいた。

 ここが、男が極端に少ない異常な世界であるという事実に。

 

 中津川は、女を利用する側に回ることにした。

 どうやらこの世界では、女が大金を払ってでも、若い男と肌を重ねたがるらしい。

 

 中津川は女に半ば強引に関係を迫り、セックスさせてやるから金をよこせと要求した。

 飢えた女たちは、誰もが喜んでそれに従った。だから、彼自身が汗水流して働く必要など微塵もなかった。

 

 女にすべてをやらせれば、それでいいのだから。

 

 女の欲望を利用し、女にすべてをやらせる寄生生活。自分は働かなくて、日がな一日ゴロゴロしているだけでいい。

 最初、なんと素晴らしい生活だろうと、中津川は歓喜した。

 

 だが、次第に彼はこう思うようになった。

 

『飽きた』と。

 

 剣と魔法のファンタジー世界。なるほど、一部の人間からすれば夢のような場所だろう。

 だが、文化レベルが中世のままで止まっているこの世界は、現代人から見ると少々娯楽が少なすぎる。

 

 なにせアニメも漫画もない。

 スマホもなければ、映画館もないのだ。

 

 暇でしょうがなくなる。

 

『そうだ。ひひっ、人が死ぬところを見るのはどうだろうかぁ』

 

 退屈しのぎの手段として、中津川は最悪なものを選択した。

 女に命令し、誰かを殺させる。

 

 相手が理不尽な死の恐怖に怯え、命を散らす様を、自分は安全な特等席で高みの見物をする。

 これ以上の極上なエンターテイメントはないじゃないか。

 

 中津川はそう考え、女に人殺しをさせようとした。

 だが、いくらセックスを引き合いに出したとしても。

 

『さすがに、人殺しまではできません』

 

 皆、青ざめてそう口にした。この世界は男女比が著しく狂っている。

 

 だが、その比率だけが狂っているだけであって、倫理観までもが完全にバグっているわけではないのだ。

 誰だって、無闇に人は殺したくない。

 

 そこで中津川は、邪悪な知恵を絞った。

 

『ひひひっ。そうだっ。魔物を利用しようじゃあないか』

 

 良太が天からギフトをもらったように、中津川もまた、比類なき素晴らしい力を持っていた。

 彼のスキルは、『翻訳(極)』。

 

 あらゆる言語や記号で書かれた文章の意味を、別の言語や同等の表現に置き換えて伝えることができるスキルだ。

 

 これがあれば、例えば古代語で書かれていた貴重な文献を解読することもできる。例えば共通語がしゃべれない他種族との架け橋となり、彼らの救世主になることだってできる。

 

 そんな素晴らしい能力を、中津川は己の欲望を満たす犯罪に使うことにした。

 

 彼は翻訳スキルを悪用し、知能の高い魔物と直接会話し、取引を持ちかけたのだ。

 

『お前たちに極上の人間の女をあてがう。見返りとして、そいつから奪った金品をよこせ』

 

 とんでもなく悪質で外道な取引だった。

 ただ金が欲しいだけなら、自分でその翻訳スキルを使ってまっとうに稼げばいい。それこそ、女にたかって生きるだけでも、この世界ならギリギリ許容されるだろう。

 

 でも彼の始めたことは、紛れもない大罪だった。女や魔物を利用し、無関係の人間を殺し、そして金銭と歪んだ愉悦を得る。

 

 とんでもない、ドが付くほどのクズだった。

 

 さて。

 中津川は、薄暗いゴブリンの巣へと向かっていた。

 

 ここに、彼の持つ記録の魔道具を設置してあるのだ。魔物たちが女を無残に犯し、おびき寄せられた冒険者たちを無慈悲に殺している光景が記録された映像があるはずだ。

 

 上納金と、その魔道具の回収のために、中津川は悠々とやって来た次第である。

 

「ん? なんだ? 魔物の気配がまったくしない」

 

 洞窟に入ってすぐ、中津川はいつもと違う異様な静けさに気がついた。

 いつもなら、ゴブリンどもが下卑た笑い声を上げながら、女を一人か二人犯しているところだろうに。

 

 死体が積み上げられているはずの部屋へと向かう。だが、白骨化した死体は一つも残っていなかった。

 

「なっ!? ど、どうなってんだっ!?」

 

 壁の隙間に隠してあった記録の魔道具を探す。だが。

 

「魔道具もねえっ。くそっ。何だってんだよっ。どうなってんだっ!?」

 

「探し物は、これでしょ?」

 

 そのとき、背後の暗がりから若い男の澄んだ声が響いた。

 黒髪に、小柄な。どう見ても若い男。少年といってもいい風貌だ。

 

「てめえ、なんだ」

 

「冒険者だよ。事情はドロジョから全部聞いている。中津川、だっけ。あんたが魔物と女を使って、悪逆非道な真似を働いていることはすでに把握しているよ」

 

(ちっ。あのくそ女。あっさりとゲロったのかっ)

 

「はぁ? なんですかー? ドロジョってー。しらんのですがー?」

 

(とりあえず、とぼけてみることにするか)

 

 しかし少年、良太は極めて冷静だった。

 

「無駄だよ。君の犯罪の証拠は、全部この記録の魔道具にバッチリ保管されている。でしょ?」

 

(っ。しまった。そうだ、魔道具を設置して録画を開始した瞬間、おれの顔がバッチリ映っているじゃないか)

 

 これで録画の仕掛け人が中津川だとばれる。そのうえ、これをゴブリンの巣に設置できている時点で、じゃあどうしてゴブリンは彼を襲わないのかという決定的な疑問が出てくる。

 

 そしてこの映像を見れば、魔物を利用して人を殺しているという事実が、誰の目にも明らかになるだろう。

 

「ドロジョから君の話を聞いて、ここで待っていたんだ。あんたは金じゃなくて、人が惨たらしく死ぬところを見たい異常者だ。ならば、この記録の魔道具を回収しに、絶対に、このゴブリンの洞窟へ戻ってくる。だから、ここで網を張って待っていたのさ」

 

(ちっ。頭の切れるガキだ。だが、所詮はひ弱なガキっ)

 

 中津川は懐から鋭く光るナイフを取り出す。そして、切っ先を良太に向ける。

 

「おとなしくそれを渡しな」

 

「渡したらどうしてくれるの?」

 

「てめえを、この場で楽に殺してやらぁっ」

 

 中津川はナイフを振りかぶり、良太に向けて一直線に走り出す。良太は逃げようとも、身を守ろうともしない。

 無防備な良太の肩に、ナイフが深く突き刺さる。

 

「はっ。勝ったっ。そのナイフにはなぁ、強力な麻痺の呪毒を発生させる仕掛けがあるんだよっ」

 

 がくん、と良太がその場に膝をつく。

 勝利を確信した余裕から、中津川はべらべらと自慢げに喋り出す。

 

「おれの翻訳スキルはよぉ、物質に秘められた情報すら引き出すことができるんだっ。つまり、そのアイテムや武器の性能や効果を、百パーセント完全に引き出せるってことなんだよぉっ」

 

「そっか」

 

 良太は肩からナイフをあっさりと引き抜く。

 

「なっ!? てめえ、麻痺が……がっ」

 

 良太は、引き抜いたナイフを中津川の太ももに逆に突き刺した。強烈な麻痺の呪毒が中津川の体に回り、あっという間に崩れ落ちて立てなくなる。

 

「どう、して」

 

「ぼくには治癒スキルがある。どんな強力な呪いも毒も、一切効かないんだ」

 

「ち、ゆ、だとぉ。なんだそれ……チートじゃねえかっ」

 

 良太の肩にできた深い傷も、光に包まれてみるみるうちに塞がっていく。

 

 彼は冷え切った眼差しで、這いつくばる中津川を見下ろす。

 

「君、黒い髪だね。転生者だよね? 武器から情報を引き出すなんて、すごいチート力も持っているし」

 

「だ、だからぁなんだぁ」

 

「どうして、ここの現地の人にそんなひどいことをするの? 君はよそ者なんだよ?」

 

「う、るせえ。異世界で、力をどう使おうと、おれの勝手だろうがぁっ。てめえも、てめえもどうせそうだろぉっ」

 

 同じ黒髪。そしてどんな呪いや怪我も一瞬で治す反則的なスキル持ち。

 どう見ても、自分と同じ転生者だ。

 

「そうだよ。ぼくもよそ者だ。でも、あんたと違ってこの世界のルールを守っている。君のやったことは、万死に値する死罪だってさ」

 

 かたかた、と麻痺で震える体を無理やり動かしながら、中津川は隠し持っていたもう一本のナイフを取り出す。

 こっちは、一滴で象を殺すほどの致死の猛毒が塗られたナイフだ。

 

 中津川は最後の力を振り絞り、ナイフを良太の心臓めがけて思いきり突き刺す。

 

「ぎゃははっ。死ねよっ」

 

「死なないよ」

 

「なんだ、ってぇ!?」

 

(致死毒をモロに受けて生きているだと!? しかも心臓を刺されているのに。まさか、死ぬよりも早く体が再生しているってことか!?)

 

 手の先が、急速に冷たくなっていった。何が起きたのかと思って自分の手を見ると、皮膚がどす黒く染まっていくのがわかる。

 

「毒が、毒がおれに返ってきているだと!? なんだ、どうなってっ!?」

 

「呪詛返しってやつじゃない? よくわからないけれど。呪いの毒なんでしょ? 他人にかけた強い呪いが、そのまま自分に返ってきているんだよ、きっと」

 

 指先が凍るように冷たくなる。腕が、肩が、順番に感覚を失い冷たくなっていく。体からだんだんと生命の力が抜け落ちていく。

 

「や、やだぁ。やだぁ。死にたくない。しにたくないよぉお」

 

 中津川が、生きることに執着して良太に無様な手を伸ばす。

 

「おまえぇ。ちゆすきる、持ってるんだろぉ。なおしてくれよぉ。たのむよぉ。同じ地球のなかまだろぉ?」

 

 すると良太は、氷のように冷たい眼差しを向けたまま、静かに首を横に振った。

 

「ぼくは君の味方じゃない。この世界で懸命に生きる、女性の味方だよ」

 

 死の猛毒が完全に全身に回りきる。中津川は血を吐いて苦しみながら、永遠に意識を失った。

 

 良太は、小さく息を吐いた。

 

『条件を達成しました』

『職業《ジョブ》せいしょくしゃ、のレベルが上がります』

 

『スキル捕食のレベルが2となりました』

『条件を達成しました』

 

『【翻訳(極)】を捕食しました』

 




短編書きました。
よろしければぜひ。

https://syosetu.org/novel/431009/1.html
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