チートヒーラー、男女比1:999の異世界で女子を治癒したら激重感情を向けられる件 作:茨木野
今回の主犯である中津川を、倒した。
魔物を殺したのとは訳が違う。ぼくは、人を殺めてしまったのだ。
冷たい畳の感触が、足元からじわじわと伝わってくる。
ぼくがいるのは、ジウさんたちの村だ。
今日、騎士団がドロジョを連行することになった。また、中津川を倒したぼくの事情聴取が行われるらしい。
村長の家を使わせてもらっている。部屋の隅には古い木製の棚があり、埃っぽい匂いが微かに漂う。ぼくは畳に正座したまま、ずっと昨日のことを考えていた。
中津川は、許されざる悪人だ。でも、人間だ。ぼくは人間を殺した。自分の手で命を奪ってしまった。
「りょーた」
そっと、シウネーがぼくの震える手を握ってくれた。昨晩も、彼女はずっとこうして手を握っていてくれた。
昨日はえっちをしなかった。シウネーも自分から求めるようなことはしなかった。
ただ、隣に寄り添って、静かに支えてくれた。彼女の手の柔らかさと確かな温もりがなかったら、多分ぼくはもっと深く苦しんでいただろう。
「わたしも、悪人を殺めたことある」
「そうなんだ」
「うん。護衛依頼で、盗賊とか倒すから」
そっか。シウネーはSランカーだし、戦闘経験は豊富なんだ。人を殺した経験も。
「わたしの手も、悪人の血で汚れてる。汚い? けーべつする?」
「まさかっ」
反射で出た言葉だった。こんなに可愛くて強くて、そして優しい彼女を、嫌いになるはずがない。
「わたしのこと嫌いにならないなら、りょーたも自分のこと、嫌いにならないで」
シウネーの真っ直ぐな瞳が、ぼくの心を見透かすように見つめてくる。
「こう思うといいよ。悪人は、ケダモノ。人を食う悪いバケモノだって。ほっといたらもっと多くの人を襲っていたし、不幸を生んでいた。それを未然に防いだの」
害虫駆除と一緒、か。
正直、現代令和の日本からやってきたぼくが、すぐに現地の人である彼女と同じように割り切ることはできない。
でも、そうだ。中津川は明らかに、やっていることが悪だった。あれを野放しにはできなかった。
あれで良かったんだ。
「ありがと、シウネー。少し楽になった」
「それは、良かったっ♡ ちゅっ♡」
シウネーがふわりと微笑み、ぼくの頬に甘い口づけをしてきた。そして、そのままの勢いでぼくを畳の上に押し倒す。
「りょーたっ♡ りょーたっ♡ ちゅーっ♡ んぅっ〜♡」
「も、もぉ〜。シウネー、駄目だよ。もうすぐ騎士が来るんだってば」
「はっはっはっはっはっ♡」
まったく聞いていなかった。シウネーは完全に発情しきっている。ぼくに抱きつき、細い腰をへこへこと動かして擦り寄ってくる。甘い香りが鼻腔をくすぐった。
もう。しょうがないなぁ。人が来るというのにもぉ。と言いつつ、ぼくは嬉々としてシウネーを受け入れようとした。そのときだった。
「は、は、破廉恥めええええええええええええええええええっ」
出入り口のほうから、女性の激しい咆哮が轟いた。
そっちを見やると、白銀の美しい鎧に身を包んだ、背の高い女性が立っていた。
長く艶やかな金髪。凛々しく端正な顔つき。けれど、その顔は茹でダコのように真っ赤に染まっている。
「き、きき、貴様っ。な、何をしてるっ」
ずんずんと、金属音を響かせて女性がこちらへ歩み寄り、剣の柄に手をかけて睨みつけてきた。
「ご、強姦めっ」
「「いや強姦って」」
ぼくもシウネーも思わず動きを止める。
「それ、普通男の人が女の人を襲うときに使う表現ではないかな」
「わたしがりょーたを襲ってるんだけど♡」
だから強姦じゃないような気がする。
「ええい、黙れ黙れっ。さっさとどくのだっ。汚らわしいオスめっ」
どくと言われても、乗っかっているのはシウネーの方なのだが。
「そこの女っ。大丈夫か? 犯されていないかっ」
鎧の女がシウネーの腕を掴み、強引に抱き寄せる。
「やん」
「やんじゃないっ。大丈夫かと聞いている」
「お預け、や」
ぼくはゆっくりと起き上がり、乱れた服を直しながら鎧の女に尋ねる。
「あなたは?」
「王国騎士団騎士団長の、【ファナティオ】だ」
「ファナティオ。騎士団長? 騎士団長様が、一体何をしにこんな村へ?」
ぼくが尋ねると、ファナティオがツンと顎を上げて答える。
「通報があり、凶悪な犯罪者を回収しにはせ参じたのだ」
「ははあ。ファナティオさんが、ドロジョと中津川の死体を回収しに来た騎士さんなんですね」
ぼくが詳細を話そうと彼女に近づこうとすると。
「近寄るな、汚らわしい男めっ」
「えー。汚らわしいって連呼しているけれど、ぼく何かしました?」
何もしていないような気がするのだが。
「か、下半身のそれを、し、しし、しまえっっ」
あー。そうだ。さっきまでぼくは、シウネーとやる気満々だったのだ。
ズボンとパンツがだらしなくずらされているわけで。
「そ、その立派なものをさっさとしまうがいいっ」
「ん?」
なんだろう。今の発言に、何か引っかかったような。
☆
ファナティオは、良太の股間に熱い視線を釘付けにしていた。
(あ、あれが。男性器。男の人の。お、おち○ぽ。おっきぃ〜)
ファナティオは言葉と態度には絶対に出さないが。
エロいことに興味津々の、超絶ドスケベ女騎士だった。
(おちん○。ああ、なんておっきいの。あんなのでぐちゃぐちゃにされたら、私、一体どうなってしまうんだぁ〜)
ファナティオは表面上キリッとした顔を保ちながら、内側では男性器への興味で頭がいっぱいだった。
さっきから良太の股間に、穴が開くほどの熱烈な視線を浴びせている。
が、良太はファナティオの剣幕に萎縮してしまい、彼女の怪しい視線には気づいていなかった。
「ごめんなさい」
「ふ、ふんっ。ま、まあいい。おまえへの尋問は、あとだっ」
「尋問って。ぼく何もしてないんですけど」
(尋問っていうのは、密室でおまえのさっきのおち○ぽを至近距離で見せてもらうことだ。じっくりたっぷり。触って♡)
尋問にかこつけて、自身の抑圧された性欲を解消しようという算段だった。職権乱用も甚だしい。
「とりあえず、まずは報告にあった男の死体の場所へ連れてゆけ」
「はい」
ファナティオたちは、森の奥にあるゴブリンの洞窟へと移動した。
重かったのと、死体をむやみに動かしてはいけないという判断の下、良太は中津川をそのまま放置してきていたのだ。
死体を覆っていた布を取り、ファナティオはしゃがみ込む。
すると、ちょうどファナティオの顔の正面に、良太の股間が来る形になった。
(おっ♡ おっ♡ お、男のおち●ぽ♡ おち●ぽがすぐ目の前に。おおぉお♡ おち●ぽぉ♡)
ふがふが、と豚のように荒い鼻息で匂いを嗅ごうとする。
(駄目だっ。血の匂いが充満しているっ。くそっ。速く外に出て、おち●ぽくんかくんかしたいっ)
「どうですか?」
良太が恐る恐る尋ねてくる。
「え、おち●ぽが?」
「は?」
「うぉほんっ。なんでもない。死体の状態だったな。ふむ。凶器は?」
「あ、はい。これです」
中津川の使っていた致死性毒ナイフを、良太はアイテムボックスから取り出した。
「貴様、アイテムボックス持ちなのか?」
「え、あ、はい」
「そうか。レアだな」
「ええ、まあ」
この世界において、アイテムボックスを持っているのは千人に一人である。だから、純粋にレアだと言ったのだ。
何も召喚者だけがアイテムボックス持ちであるわけではない。それだけで、ファナティオが良太を召喚者だと疑うことはない。
毒ナイフの刃の形と、死体の刺し傷とを見比べる。
「ふむ。これで間違いないようだな」
「そうですね」
(嘘は言っていない、ようだな)
ファナティオの瞳の奥に鋭い光が灯る。彼女の固有スキルが発動したのだ。
(【超直感】。私のスキル。常人離れした直感力を持つ)
先の危険を回避したり、相手の本当の性格や嘘を直感で見破れる力だ。
彼の自然な仕草から、彼が犯人ではないことをファナティオは直感で理解した。
(まあ、報告に受けていた通りだ。そもそも、この男が自ら通報しているからな)
最初から、良太が犯人ではないということはわかっていたのだ。
だがどうして、ファナティオという騎士団長自らが、それも単独でこんな僻地まで乗り込んできたのか。
(お、おおお、男と二人きりっ♡ 若い男のおち●ぽが目の前にっ♡)
とまあ、己の抑えきれない性欲に負けてしまい、彼女はわざわざここへと足を運んだのである。
(尋問と称して男を狭い部屋に連れ込み、色々と聞きたい。じっくりねっとり♡ そして、おお、おち●ぽさわりたい♡)
見た目はキリッとした高潔なる美貌の女騎士なのに、中身は思春期の中学生レベルだった。
そのときだった。
カラン、と。毒ナイフをうっかり落としてしまったのだ。
ファナティオが慌てて手を伸ばす。そして、良太もまた拾おうと手を伸ばす。
二人の手が、重なる。
(ああっ♡ 男の手が触れてしまったぁっ)
「っ」
良太が何故か、驚いたように目を剥いていた。きょろきょろと周囲を見渡す。
「どうした?」
「あ、いえ。なんだこれ。この声」
「声?」
(何言っているんだろうか。それより、まあさっきの手♡ いいなぁ♡ あのゴツゴツした男らしい手でぇ♡ 乱暴に私の胸を揉みしだいてほしいなぁ♡)
「っ!?」
良太が再度、ギョッと目を剥く。
(あの手で毎日、自分のおち●ぽをしごいているんだろうなぁ♡ 若い雄の性欲は旺盛だと聞くからなぁ♡ ああ、私の前でやってくれないだろうかぁ♡)
「そ、そんなの見たいんですか?」
「へ?」
良太の発言がひどく引っかかった。まるで、自分の心の奥底を読んだみたいだった。
(まさか、読心スキル? いや、あれは超レアなスキルだったはず)
「いや読心じゃなくて、翻訳スキル持ちなんですけど」
(っ!? やっぱり、私の心を読んでいる、だとっ!?)
翻訳は、単に『ある言語で表現された文を他の言語に移し変えて表す』スキルだ。
相手の心を読む事なんて、本来不可能なはず。
(けれど、心の中の声を、自分に向けられた言語に変えて翻訳するとしたらどうだろう。まさかそんなことができるとしたら)
「あ、多分そういうことかなと。翻訳の極みスキルなんで」
(ああ、駄目だっ。ということは。私の浅ましい願望がっ。相手に筒抜けになってしまうじゃないかぁ♡)
「浅ましい願望? へえ。どんな願望があるのかな?」
良太がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら近づいてくる。
(ああやめろぉ♡ わ、私に近づくんじゃないっ。み、見えちゃう。おち●ぽみえちゃう♡)
「へえ。高潔な騎士様は、おち●ぽとか言っちゃうんだ。興味あるんだぁ、へえ」
「ち、ちがっ。ちがうっ」
(あるんですぅ〜♡ おち●ぽ大好きなんですぅ〜♡)
言葉では必死に違うと否定していても、心の中の正直な声は偽れなかった。
「処女のくせに、おち●ぽ好きなの?」
「そんなわけ無いだろっ。愚弄するなっ」
(そうでぇすぅ〜♡ 処女だからぁ♡ 妄想たくましくてぇ♡ エロ本も千冊くらいこっそり持ってまぁす♡)
「わぁ」
普通に、良太はドン引きしていた。
「千冊って。エロガキなんだね、ファナティオさんは」
「ぅうううううっ」
(なんたる屈辱っ。けど。けどぉ♡ それが。いいぃ〜♡)
いつの間にか、だらしなくとろけた表情をしているファナティオ。
すでに彼女は、極度の興奮状態に陥っていた。
「おち●ぽ欲しいの? じゃあ、口で言わないともらえないよ」
「だだだ、誰がそんなはしたないことを言うかっ」
「へえ。あ、そ」
くるっ、と良太があっさりと踵を返す。
「ああ、おまえどこへ行くっ」
「え、現場検証も終わったし、帰るんでしょ?」
「あ」
(そ、そんな。せっかく、二人きりなのに)
「二人きりだから、なに? おち●ぽに興味ないんでしょ?」
「ふぐぅうううううううう」
良太がそのままスタスタと帰っていってしまった。ファナティオは洞窟の床に崩れ落ちる。
(ちくしょうっ。私のつまらないプライドが、邪魔してしまったっ。素直に欲しいと言えばよかったっ。くそっ。くそぉおっ)
そんなエロ騎士の心の声を、良太はバッチリと聞きながらほくそ笑んでいるのだった。