【男女比1:999の】異世界に転生したら、なぜか美少女たちから激重感情と熱い眼差しを向けられるようになった件〜男に飢えた彼女たちを満足させられるのは、何度もできる僕だけ〜 作:茨木野
冒険者ギルド。冒険者たちへの仕事の依頼や、仕事の受注を行うための場所だ。
これもアニメやマンガで幾度となく見た、お決まりの施設である。
手前が酒場になっており、奥が受付になっている。どうしてどこもかしこもこの構造なのだろうか。それが一番効率的だからだろうか。
ともあれ、ぼくはギルドへとやってきたわけだ。それにしても。
「美人さん、多いなぁ」
ギルドにいる冒険者たちは、軒並み美人だった。顔立ちが整っているのはデフォルトらしい。身長の高いスレンダーな美人、小柄だけれど胸が大きな女性。様々なタイプの美人が集まっている。
……ん?
ちょっと女子の比率が多すぎないだろうか。いやでも、ああいうアニメやマンガだと、大体主人公以外のキャラクターは女の子ばかりだ。
だから別に、おかしくはない。うんっ。
カトレアはぼくの手をずっと、終始しっかりと握りしめている。恋人同士になったからだろうか。ぼくも女の子の手を握っているのは気持ちいいから歓迎だけれど。にぎにぎしたり、指と指を絡ませたりするのは、すごく心地いい。
カトレアに引かれるまま、ぼくは受付へとやってきた。やはりカウンターの前にもたくさんの女の子が並んでいた。
ほどなくして、ぼくたちの番になる。
「いらっしゃいませにゃーんっ」
「ねっ!? 猫耳……っ」
なんてこった。本物の猫耳の女の子だっ。すごい、さすがはファンタジーの世界だっ。
わぁ、すごーいっ。
「にゃっ!? お、男の子っ!? 男の子がにゃんでこんなところにっ」
……あれ? なぜそんなに驚いているのだろう。
カトレアがぼくを指差して胸を張る。
「あたしのっ! あたしのカレシが、冒険者になりたいって言うから連れてきたんだ。ギルド登録をお願いするよ」
アタシのカレシ、という部分をやけに強調している。でも、カレシかぁ。そう言われると、なんだか嬉しくて口元が緩んでしまう。へへっ。
「にゃにゃっ!? は、働く……!? 男の子が冒険者として!? 嘘でしょっ!?」
「えー……」
そんなにぼくは、ひ弱に見えるのだろうか。見えるか。うん。
ヒキニート期間が長かったし、腕もひょろひょろで色白だ。そういうリアクションをされるのも仕方がないかもしれない。
「これがマジなのさ。あたしのカレシは、労働意欲にあふれててね」
「にゃーっ!? それは……す、すごいですにゃぁ〜。えらいにゃんっ。かっこいいにゃ〜っ」
「そ、そうですか?」
猫耳の受付嬢さんが、なぜかトロンと熱を帯びた瞳をぼくに向けてきた。え、なにその目……?
「若くて、せいよくのある男の子なんて……ねえ、お姉さんとちょぉっと良いこと……いたぁーっ」
カトレアがお姉さんの尻尾を思いきり握り潰していた。それ、すごく痛そう。実際に悲鳴を上げているし。
せいよくのある男の子? ああ、精力的に働くってことかな。
「いいから、さっさと登録しな」
「ずるいにゃ……。こんな超レアSSS級の男の子を独り占めにするなんて……」
ブツブツと文句を言いながらも、受付嬢さんが手続きを進めてくれた。
といっても、手続き自体は簡単なものだった。名前を書いて、職業《ジョブ》を記入する。それだけだ。
「こんなあっさりでいいんですか?」
「うにゃ。冒険者は実力があれば誰でもなれるにゃ。それが売りなのにゃ」
なるほど。実力さえあれば、後ろ暗い過去を持っていてもOKということらしい。だから加入審査が甘いんだね。
書類に必要事項を書き込み、ぼくは受付嬢さんに提出した。
彼女は「にゃ〜? せいしょくしゃ……? せいしょくしゃなんて聞いたことないにゃ……まあいいか」と呟きながら処理を進める。良いんだ。
書類を受け取り、彼女はぼくに一枚のカードを差し出してきた。
「はい、冒険者カードにゃ」
「ありがとうございますっ」
キャッシュカードのような質感のものを、お姉さんが手渡してくる。……って、ん?
カードの裏に、何かが。
走り書きの小さなメモが、一緒に手渡されていた。
『冒険者ギルド寮の203号室がお姉さんのお部屋にゃん♡ 今夜待ってるにゃん……♡ 一緒ににゃんにゃんしようにゃん♡』
な、なんてこった……っ。こ、これは伝説の……逆ナンってやつですかっ。
カトレアに引き続き、二人目っ。異世界すごいっ。スピード感が半端じゃない。
「さ、登録も終わったことだし、帰ろうか」
ああっ。カトレアがメモ書きをぼくから没収し、ビリビリに破き捨ててしまったっ。
「な、なんで……むぎゅっ」
「さ、帰ろっか」
「いや、まだ仕事を受けてないんだけど……」
登録して終わりではない。ぼくの目的はお金を稼ぐことなのだから。
「うにゃ……? ちょっと待っててにゃ」
受付嬢さんの背後に、別の受付嬢さんが現れた。
二人で何やらヒソヒソと話している。
「えーっと……ギルマスがお呼びだにゃ。ちょっと着いてきてほしいのにゃ」
「え……? ギルドマスターって……あの?」
ギルドにいる一番のお偉いさんというイメージだ。
え、な、なんでそんなお偉いさんが、ぼくを?
そりゃ、アニメやマンガならある展開だよ? でもそれって、ものすっごいチート能力持ちの主人公が、めちゃくちゃ凄い功績を上げて呼び出されるって展開じゃないの……?
ぼく、まだ何もやってないんだけども。
「ど、どうしようカトレア?」
カトレアは苦虫を噛み潰したような険しい表情になる。そして、大きくため息をついた。
「冒険者やっていくんだったら、ギルマスに挨拶しておいたほうがいい」
「そっか……そうだよね」
会社で言うところの社長だもんね、ギルマスって。
「わかりました」
「うにゃ。着いてくるにゃんっ」
受付嬢さんがカウンターから出て、ぼくを手招きする。どうやらギルマスの部屋は二階にあるらしい。
「あ、カトレアは来ちゃだめにゃ。あくまで用事はそこのリョータくんだけにゃ」
「はぁっ!? 聞いてないぞ……っ。どうしてあたしのカレシなのに、あたしもついてっちゃだめなんだよっ」
なんだってそんなに怒るのだろう。わわっ。カトレアがぼくにくっつき、ぎゅううううっと強く抱きしめてくる。お、おっぱいが……柔らかいぃぃ。
昨日の甘い記憶が蘇ってしまう。吸ったり、揉んだり、優しくしごいてもらったりしたあの時の柔らかさを。
「呼んでるのはリョータ君だけにゃ。従わないと……ギルドカード取り上げもありえるにゃよ?」
「かまわないっ」
いやいやいや。
「ぼくが構うから……ね? 待っててカトレア」
「坊や……っ」
潤んだ瞳をぼくに向け、カトレアはさらに強く抱きしめてきた。
「置換されそうになったら、大声であたしを呼ぶんだよっ」
うーん、気持ちは嬉しいけれど、多分そのセリフ、逆だと思うなぁ。
☆
良太がギルマスの部屋へ向かった後。
「……心配だ。心配だ。大丈夫かい……?」
階段の入り口付近で、カトレアは落ち着きなく行ったり来たりを繰り返している。
良太がギルマスの部屋に入ってから、まだ五分も経っていなかった。
「おちつくにゃー。カトレア」
猫耳の受付嬢、アメショが呆れたようにカトレアの肩を叩く。
「ギルマスに食われてないといいけど……」
「あの人は分別のある大人にゃ。出会い頭にぱくっと食べたりしにゃいよ。おまえと違ってにゃ」
「うるさいな……っ」
と、そのときだった。
「た、大変だ……っ。誰かっ。誰か助けてくれ……っ」
ギルドの重厚な扉が、乱暴に蹴り開けられた。
「あれは……黄昏の竜の面々だにゃっ」
「うちのトップパーティじゃあないか。一体何があったっていうんだい?」
カトレアとアメショは血相を変えて入り口へと急ぐ。
黄昏の竜。
それは、この国で数えるほどしかいない、最高ランクのS級を持つ冒険者パーティだ。
「黄昏の竜だって……?」
「確か、暗黒光輝竜《ピュア・ブラックドラゴン》の討伐に向かったんじゃ……?」
Sランク冒険者たちに課せられる任務は、過酷を極めるものばかりだ。
通常の人間では到底対処できない、凶悪な魔物の討伐が主なのである。
それに立ち向かうのは、可憐な乙女たちだ。
この男女比一対九百九十九の世界では、戦いの場に出る男など皆無である。必然的に、女冒険者しか戦う者がいない。
職業《ジョブ》は遺伝の要素が強く、性差というものも明確に存在する。
例えば魔女には女しかなれないし、逆に重騎士や戦士といった、強靭な筋力が必要となる職業《ジョブ》に女が就くことはほとんどない。
女ばかりのこの世界、冒険者の九割以上が、重い金属の鎧などの防具を身につけずに戦う。魔法を主力とするか、軽い武器を身につけて回避主体で戦うしかないのだ。
すると、どうしても発生してしまう問題が、怪我である。魔物との戦闘で致命傷を負い、命を落とす確率は、普通の世界より遥かに高かった。
防具による防御力のアドバンテージ、巨大な武器による一撃必殺。そういった、戦闘を優位に運べる前衛特化の職業《ジョブ》を持つ女がいないのだ。だから、致命的な怪我を負いやすい。
「【シウネー】っ。しっかりっ。シウネーっ」
「シウネーって……黄昏の竜のリーダーじゃないか。これは……うっ……。ひどい……」
医学の知識を持たないカトレアが見ても、シウネーの状態は絶望的だった。
……なにせ、両腕と片足が付け根から欠損しているのだ。
それだけではない。魔物に深く噛まれた痕跡があり、その周囲の細胞がどす黒く変色している。
シウネーは額に大粒の汗を浮かべている。それなのに、呼吸は驚くほど浅い。
これほどの大怪我をして、さらに周囲がこれだけ大騒ぎをしているというのに、目を覚ます気配はなかった。
「だ、だれか……っ。聖女の職業《ジョブ》持ちはいないかっ。解毒《アンチドート》の魔法を使える者はっ。ポーションでもいいっ」
シウネーの仲間が悲痛な顔で、周囲の冒険者たちに訴えかける。
見かねた一人の冒険者が近付いてきた。
「確か、錬金術師の職業《ジョブ》持ちだったな……」
ポーション等、薬品を作る事に特化した職業《ジョブ》である。
錬金術師の女は、懐から取り出した最高級のポーションをシウネーの口に流し込んだ。
少し、ほんの少しだけ、魔物に噛まれた傷の表面が塞がった。
……だが、当然失った手足が再生することはない。そして。
「駄目だ。毒が強すぎて、解毒しきれない……血も相当量失っている……」
「そ、そんなっ。シウネーは助からないのっ!?」
「聖女持ちがいればあるいは……だが、仮に解毒できても失血多量で死んでしまうだろう。奇跡が起きて血が戻り、毒が完全に抜けたとしても、失った手足は聖女でも戻せない……」
両手と片足を失って、冒険者など務まるはずがない。特にシウネーはSランクであり、パーティの要であるアタッカーだ。
最前線に立って戦う彼女の両腕、片足がなくなることは、冒険者としての完全な死を意味する。
「そん……な……っ」
毒を治すこともできない。失った手足を戻すこともできない。
「駄目だ……安らかに死なせてやろう……」
錬金術師が苦渋の決断を下し、首を横に振る。彼女はこのギルドで最も調剤の技術に自信があるエキスパートだ。その彼女がお手上げだと言うのだ。
もう、誰にも治せない。
仲間たちは一縷の望みをかけ、聖女持ちが偶然居合わせていることに期待した。新たなる人材がギルドを訪れることは少なくないからだ。
「聖女はいらっしゃらないのですかっ!?」
……だが、答える者はいない。
そして、シウネーの浅い呼吸が、ついに止まった。
くったりと、彼女の体から完全に力が抜ける。
「そんな……っ」
そのときだった。
「何かあったんですか……?」
「リョータっ」
ギルマスの部屋から、良太が階段を下りてきたのである。彼は何が起きているのか、まだ状況を理解していないようだった。
だが、彼の視界に血まみれの怪我人が映る。そして、仲間たちの悲痛な涙。それだけで、良太はある程度の事情を察した。
「大丈夫、助かるよ」
助ける、ではなく。助かるよ、と断言した。錬金術師が不審な目を彼に向ける。
「助かる? 君は何をふざけたことを言っているのだ? こんな状態の彼女を、一体どうやって治すというのだ? 高度な治癒魔法でも、最高級のポーションでも治らないんだぞ?」
無論、治癒魔法はこの場に使い手がいないため試していない。だが、錬金術師の作る薬は、並の治癒魔法よりも遥かに高い治癒能力を持っていた。
彼女は、自身の作る薬に絶対の自信を持っていたのだ。だからこそ、治癒魔法でも治らないと断言したのである。
「あ、大丈夫ですよ」
良太はさほど慌てている様子はなかった。なぜなら、彼だけが持っているからだ。
転生者に与えられる、天からの絶対的なギフテッドを。
彼はシウネーの冷たくなりかけた肩に手を置き、スキルを発動させる。
パァアアッ、と。目も眩むような強い光が発生した。それはまるで、神が地上に降臨したかのような神々しい後光だった。
彼の光を受けたシウネーの体は、みるみるうちに元通りに再生していった。
失われた両手足、深く抉られた噛み傷、そして毒に侵されたどす黒い細胞。
そのすべてが、ほんの一瞬にして、完全に治ったのである。
「す、すごい……っ」「奇跡だ……っ」
誰もが、彼の使った神がかり的な力に驚愕していた。錬金術師は「うそだ……うそだ……」と信じられないものを見る目で呆然と呟く。
「…………」
「あ、起きました?」
「……あなた、だれ?」
目を覚ましたシウネーが、ぼんやりと良太に尋ねる。すると「ぼくは今日冒険者になった良太です」と人懐っこく答えた。
シウネーは、自身が死の淵から助けられたことに気付いたようだ。泣き崩れる仲間たちの顔を見て。
そして、命の恩人である良太に尋ねる。
「あなたが……? なぜ……?」
なぜ私を助けてくれたのか、と問うている。良太は満面の笑顔で答えた。
「綺麗な女の子は、この世の宝ですからねっ」
……まあ、こんな極上の言葉をかけられて、この狂った世界で落ちない女性はいないわけで。
「……好きっ」
感謝の言葉よりも先に、シウネーは熱を帯びた瞳で想いを良太に伝えた。
「……大好きっ。私に、子ども……産ませてっ」