【男女比1:999】異世界に転生したら、なぜか美少女たちから激重感情と熱い眼差しを向けられるようになった件〜男に飢えた彼女たちを満足させられるのは、何度もできる僕だけ〜 作:茨木野
シウネーとカトレアの二人と、甘く濃密な時間をたっぷりと楽しんだ後。
ぼくたちはアルクと合流し、冒険者ギルドへとやってきた。
アルクはぼくたちの隣の部屋に宿を取っていた。
今朝から、なぜか彼女はぼくと目を合わせてくれない。
フードの奥に視線を隠し、そっぽを向いている。どうしたのだろうか。
「さて、じゃあさっそく依頼を受けようかな」
冒険者ギルドの壁には、大きなクエストボードが設置されている。
羊皮紙や木札が所狭しと貼られており、ギルド内は酒と汗の入り混じった独特の熱気に包まれていた。
アニメやゲームでおなじみの光景に、胸が高鳴る。
例えば『薬草を十個拾ってきてほしい』や『迷子を捜してほしい』といった依頼書が貼り出されているはずだ。
やりたい依頼書を剥がして受付へ提出することで、クエストが開始される。
そして無事に達成すれば報酬がもらえる、というのが冒険者の基本システムらしい。
さあて、どんな依頼があるのだろうか。
■依頼内容:夜のお相手
わたしと一晩同じ部屋、同じベッドで過ごしてほしい。
報酬五千ゴールド
「えっと、他には」
■依頼内容:えっちなマッサージ
あたしの体をマッサージしてほしい。ぬるぬるプレイ含めて。
報酬一万ゴールド
「その」
■依頼内容:男のアレを■■■させて
君のそのお■■■を■■■させてほしいな。
報酬二万ゴールド
なんだか大人の夜の店のような、きわどいプレイ内容が書かれた紙ばかりだ。
しかも、報酬がどれも異常に高い。
ちょっとした奉仕で数万円から数十万円の世界だ。
しかも、してもらう側がお金を払うのではなく、してあげる側である男にお金が支払われるという逆転現象が起きている。
本当にどうなっているのだろうか。
「坊や。こういう依頼は気にしなくていいよ」
「そうだよ。こういうのは、ただのおふざけ」
カトレアとシウネーが、呆れたようにため息をつく。
なんだ、ただの悪戯なのか。
ギルド側も、風紀を乱すような依頼書もどきはさっさと破棄してほしいものだ。
「えーっと、まともなクエストは、あったっ」
■依頼内容:調査任務
森に出現したという謎の魔物を調査してきてほしい。
報酬千ゴールド
うん、いいぞ。これぞ異世界ファンタジーらしい、王道の依頼だ。
報酬の十万円というのも、駆け出しの冒険者には悪くない金額に思える。
「やめておいた方がいいよ」
「やめよう」
「避けた方が無難だね」
あれ、なぜかみんなの反応がひどく冷たい。
カトレアが呆れたように腕を組んだ。
「内容が抽象的すぎるよ。坊やを狙う悪い女からの、罠の依頼の可能性があるね」
「どんな魔物かって書いてない。危険生物の可能性もある。りょーたが危ない」
「そこの二人が言っている通りさ。命を張る仕事の割に報酬が安すぎる。危険だ」
確かに言われてみると、危ない気がしてきた。
アルクの言う通り、命がかかっている仕事で十万円の報酬というのは、割に合わないのかもしれない。きな臭い匂いがする。
断ろうとして、ぼくはふと依頼書をよく見つめ直した。
紙の端がボロボロに擦り切れ、何度も誰かに手に取られては戻されたような痕跡がある。
「よし、やっぱりこの調査依頼を受けよう」
「どうしてだいっ」
カトレアがひどく心配そうな顔をして、ぼくの腕にきつくしがみついてきた。
「ほら、見てよ。この依頼書、しわくちゃだ。多分アルクさんが指摘した通り、誰もこんな危ない仕事を引き受けないんだよ」
依頼主が誰かはわからない。でも、ここに依頼を出した以上、何かにひどく困っているのは確かなのだ。
困っているのに、誰も助けてくれない。
その孤独な気持ちは、ぼくにも痛いほどわかる。引きこもりのニート時代、誰からも手を差し伸べられない辛さを味わってきたからだ。
「ぼくには心強い味方もいるし、治癒スキルも」
言い終わる前に、ぼくはカトレアに強く抱きしめられ、ふいに唇を塞がれた。
彼女は周囲の目も気にせず、当然のように甘い舌を滑り込ませてくる。
うねうねと口内で絡み合う柔らかい感触に、背筋が甘く痺れた。
「うわ、えぐいキスしてる」
「ずるい」
「いいなぁ、若い男」
「でも氷剣鬼もいるし、怖くて近寄れないよね」
周囲にギャラリーがいるというのに、カトレアはお構いなしに口付けを続ける。
まったくもう、目立ってしまうじゃないかっ。
いやではないけれど。
「坊や、ずるい。ずるいよ。そんなに優しくて嬉しくなるようなこと言われたら、だめって言えないじゃないか」
とろけるような瞳で、カトレアが熱い吐息を漏らした。
どうやら、この依頼を受けることに賛同してくれたようだ。
「ありがとう」
「りょーたがしたいなら、いいよ」
「もう好きにすればいいさ」
シウネーも小さく頷き、アルクも呆れ半分に許可を出してくれた。
「よし、じゃあこの依頼を受けるってことで」
☆
カトレアは不安で不安で仕方がなかった。
どう見ても怪しい裏がありそうな依頼を、愛する良太が受けてしまったからである。
「坊や」
「なぁに?」
「会心必中撃」
(ごめん、ごめんよ坊や。本当にごめん。安全な家で待っていておくれ)
心の底で謝罪しながら、カトレアは良太の首筋へ手刀を振り下ろした。
くたぁ、と。
糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる良太を、カトレアが優しく抱きとめる。
そして、眠りに落ちた彼の頬にキスをして、ぎゅっと抱きしめた。
「これは、坊やのためなんだ」
「普通にドン引きなんだけれど」
一部始終を見ていたアルクは、完全に顔を引き攣らせていた。
カトレアが涙を流しながら、この子のためだと言いつつ物理的に気絶させたからである。
「まじで意味がわからない。サイコパスなのかい、君は」
アルクの理解を超える異常な行動。誰も共感できないと思われたのだが。
「わたし、カトレアの気持ち、わかる」
ぐすっ、と。シウネーが目尻に浮かんだ涙を拭った。
「君もサイコパスなのかい」
「愛する人が誰かに傷つけられるくらいなら、最小限の力でわたしから傷つける。そのほうが安全。わかる」
「悪いけれど、君たちの言っていること、僕にはまったく理解できないよ」
美しい自己犠牲のような雰囲気を醸し出しているが、普通に考えてただの暴力である。
「それで、なんでリョータ君を気絶させたんだい」
「依頼は、あたしが一人で行ってくるよ」
「わたしも協力する」
ははあ、と。アルクはようやく彼女たちの意図を理解した。
「要するに、リョータ君が一緒だと彼が危険に晒されるから、彼の代わりにそこのサイコ二名が依頼をこなしてくるということだね」
「そういうこと」
二人の声が見事に重なった。
意図は理解できたものの、アルクは深いため息をつかずにはいられなかった。
「でも、ヒーラー抜きで行くのは危険だと思うよ。リョータ君の治癒があるからこそ、未知の相手でも大丈夫だと思ったのさ。それがないんじゃ、怪我をする可能性は跳ね上がる。君らが大怪我したり、下手を打って死んだりしたら、それこそリョータ君が悲しむんじゃないかい」
(なぜ僕はこの狂った女たちのために必死に説得しているのだろうか)
別に特段、仲が良いというわけでもない。同じギルドに所属しているだけの、ただの同業者だ。しかし、一応は顔見知りであり、不本意な形とはいえパーティメンバーになってしまった。
死なれては後味が悪いということなのかもしれない。
(別にそこのスケベな男が死んでも、どうでもいいのだけれど)
「あたしが死んだとしても、リョータが怪我をするよりはましさ。それに、もしあたしが死んで、それでリョータが悲しんでくれるなら、あたしは本望だよ」
「愛が重いんだよ。まったく。わかった、わかったよ。はいこれ」
アルクは腰に下げていた魔法袋を外し、そのままカトレアへと投げ渡した。
「中には最高級のポーションとか、離脱用の転移結晶とかが入っている。やばそうならそれを躊躇なく使って、さっさと逃げてきなよ」
錬金術師。物質の形質を変換させる力を持つ。それを応用し、ポーションや魔道具を作り出すことができる。
転移結晶とは、ホームタウンに一瞬で転移できるという、非常に高価でレアなアイテムだ。
そう、アルクはこう見えてかなりの高ランク冒険者である。彼女の作る薬や魔道具は、市場で高く評価され流通している。
ならばそれを売って日銭を稼げばいいではないか。わざわざ危険な冒険者にならずともよいではないか。
だが、名門ファート家の圧力によって、彼女個人の名義で魔道具を流通させることは禁じられていたのだ。
彼女の家長である父親は、この男女比一対九百九十九の世界における希少な男である。自分が希少種であるという絶対的な優位性を利用し、常に女を見下し、偉そうに振る舞う暴君だった。
何でも支配しようとする父親に嫌気がさして家を飛び出したのだが、その後も実家からの執拗な嫌がらせは続いている。
アルクは父親、ひいては男という生き物そのものに、ほとほと嫌気がさしていた。
だからこそ、この男に飢えた狂った世界において珍しく、彼女は男を見ても発情しないのである。
ややあって。
カトレアたちを見送ったアルクは、気絶した良太を背負い、彼らが拠点としている宿へと戻ってきた。
「男のくせに、軽いんだよな」
アルクは良太をおんぶしながら、小さくこぼした。
父親は背が高く、威圧的で声も大きい。そんな威張るだけの男が心底嫌いだった。
それに比べると、背中の良太は割と小柄であり、声も穏やかだ。無駄な威圧感を感じないのである。だからこそ、こうして背負うことができたのだ。
(それに、なんだかひどく甘くていい匂いがする)
良太を背負った時から、彼からふわりと、今まで嗅いだことのない不思議な香りが立ち上っていた。
(体が熱い。なんだこれ。体の奥底から、じわじわと熱が湧き上がってくる)
自身の体に起きる謎の現象に戸惑いながら、アルクは宿屋へと到着した。
一刻も早く、良太から離れたかった。理由はわからないが、このまま長く密着していると、頭がどうにかなってしまいそうだったのだ。
良太たちが使っているのは、広めの二人用の部屋だ。
ここにカトレア、シウネーとともに寝泊まりしているらしい。女二人と男一人では狭いだろうが、良太とシウネーが小柄なため何とかなっているのだろう。
アルクはそっと、良太を柔らかいベッドに下ろした。
「こ、これで良し。僕は帰るからねっ」
逃げるように良太を置いて、アルクは隣にある自室へと駆け戻った。
バタンとドアを閉め、ずるり、とその場にへたり込む。
「なんだったんだ、さっきのは。体が熱い。あ、はぁ」
良太を隣の部屋に置いてきたというのに、まだ彼から発せられていた甘い香りが、自身の体にまとわりついているような気がした。
良太の匂いが染み付いてしまったのだと思い、アルクは身に着けていた白いマントを乱暴に脱ぎ捨てた。
「っ。こ、これって」
マントの背中から胸元にかけて、布地がじっとりと濡れていた。
最初、それが良太の汗だと思った。確認のため、アルクは無意識にマントへ鼻を近づける。
汗臭さは微塵もなかった。それどころか、むせ返るような花のような甘い香り。
どこかで嗅いだことのある花の匂い。
(そうだ。これは金木犀の香りに近い。錬金術の素材を採取しに森へ入ったとき、一度だけ嗅いだことがある)
しかし、どうして良太に触れていたこの濡れた部分から、金木犀の香りがこれほど濃厚に立ち上るのだろうか。
好奇心が刺激され、気づけばアルクはマントに深く顔を埋めていた。
「ふーっ、ふーっ、ふぁっ」
近づけるというレベルを超えていた。
彼女は完全に鼻を布地に押し当て、すうすうと貪るように匂いを吸い込んでいる。
彼女は冷静さを完全に欠いていた。いつも理性的で、感情に流されず行動していた彼女の脳髄が。
金木犀の甘い香りに、完全に焼き切られていた。
何度も何度も、狂ったように匂いを嗅ぎ続ける。そのたびに、頭の芯がぽーっと熱く痺れていく。
(なに、これ。なんなの、これ)
論理的な思考が、どろどろに溶けてまとまらない。
ただ、この甘い匂いを嗅いでいる間、下腹部が粟立ち、自分が途方もなく幸せな気分に満たされていることだけは事実だった。
(これ、さっきより匂いが薄い。もっと、もっと濃い匂いがしていた。そう、あのとき。リョータ君を背中に背負い、彼の体温を感じていた時)
夢遊病患者のように、アルクはよろよろと立ち上がった。
そして、ふらふらとした足取りで自室を出て、良太の眠る部屋へと滑り込む。
彼は無防備に、ベッドの上で仰向けになって寝息を立てていた。
彼に近づくにつれ、あの金木犀の香りがさらに色濃く、むせ返るほどに充満していく。
(あ、だめ。なんで。腰から力が抜けて、立っていられなくなっちゃう)
ぽすっ、と。アルクはベッドの端に力なくへたり込んだ。
そして、四つん這いになり、シーツを握りしめながらじりじりと良太へと這い寄っていく。
動物のように鼻を鳴らしながら、彼女はついに、この抗いがたい匂いの正体に気づいてしまった。
知識としては知っている。
これが、雄の放つ匂い。成熟した男のフェロモンだ。
(そうか。これが、匂いの正体。これが)
残っていたわずかな理性が、真っ白に染まり消えていく。
頭が完全におかしくなっていた。四つん這いのまま、ベッドの上で良太の体に覆いかぶさる。
良太の股間に顔をうずめるように、逆向きの姿勢で重なり合う形になった。
(これ。これが、ほしい。この、匂いが。これが、これぇっ)
アルクの瞳に、知性の色はまったく残っていなかった。
その目に宿るのは、飢えた獣の怪しい光。
血走った熱い瞳で、彼女は極上の餌である良太を完全にロックオンしていた。
男女比一対九百九十九の狂った世界では珍しく、男との性的な接触を忌み嫌い、男への興味を一切持たなかったアルク。
そんな氷のように冷たかった彼女が、人生で初めて。
男が欲しいと、明確な欲情に身を焦がすのだった。