僕のヒーローはヒモ…天体戦士サンレッドだ!   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

2 / 2
第二話 ちょうどいいのが溝ノ口

 

サンレッドは苛立っていた。

 

今日も今日とて、地元でパチンコを打っていると早々に大当たりを引いて勝ちを確信していたのだが…調子に乗って深追いしたら、ずるずると出玉を吐き出して結局はマイナス収支になってしまった。

ストレートに負けた時より、一度は手に入れたはずの収入を目の前で失った分、ショックが大きかったようだ。

 

しかも今月はかなり運が悪く、これ以上の金の無心は彼女を怒らせるだけだと知っているので、これ以上悪足掻きも出来ず撤退を選ばざるを得ないのも、サンレッドの不機嫌さに拍車を掛ける。

 

「くそっ…どっかで楽して稼げるバイトでもするか…? RPGみたいにヴィランをぶん殴るだけで金が落ちりゃ話は早いんだが……」

 

そんな物騒で現実逃避めいた事を考えながら時間潰しに散歩をしていると、それこそランダムエンカウントする敵のように電柱の影からヴィランが飛び出してきた。

 

「クックックッ、こんなところで有名人の貴様を見つけられるとはなぁ!」

「あぁ…?」

「お前をやれば、ヒーロー倒しのヴィランとして名が売れるんだよ、さぁサッサと倒れ

「うるせぇ」

「あ」

 

殴り掛かってきた拳を片手で受け止め、パチンコのハンドルを回す感覚で軽く捻ってやるとヴィランが体ごと浮いて超高速で横回転。数瞬の浮遊感を味わった後、地面に叩き付けられて、更に頭を踏まれる。

 

「今、聞き捨てならねぇ話をしてたな…? 何を知ってやがる」

「あ、あば…ばばばばばばばッ!」

 

数分後。顔が地面にめり込んで喋れなかったヴィランがようやく解放されて語り出したのは、先日の人質事件を発端にしたネット界隈の流行りによる凸行為だったらしい。

 

ネットニュースはおろか報道番組も見ないサンレッドは知らなかったが、事件当日。街の治安用カメラが奇跡的に内蔵バッテリーで録画を続けており、ヒーロー達を正座させて説教をする謎のヒーローというエンタメ感抜群の映像が流出したらしい。

これを一部のネット民が面白おかしく話を盛り上げ、こいつを倒せば並のヒーローよりよっぽど名前が売れるというおかしな風潮を作り出し、日本各地で彼を探すヴィランが続出しているという。

 

「なんつー傍迷惑な話だよ…」

「ま、まぁ有名税だと思ってもらえれば」

「俺に何の利益も発生してないがな!」

 

何が悲しくて売名行為のために利用されなくてはいけないのか。

不快な気分をそのままぶん殴ってストレスを発散する手もあるが、それよりも面倒くさい気分が勝るというもの。

第一、人を動物園のパンダみたいな扱いをするなら入園料でも取ってやろうか……。

……ん?

 

「あの…どうかされましたか?」

「おい」

「はっ、はい!」

「お前、俺を発見した事をネットに広めろ」

「え?」

「そん時によ、近所に河川敷があっから対決はそこで受け付けるって付け足しとけ。有料でな」

「ヒ、ヒーローが金を取るんですか!?」

「そりゃあ人のプライベートに介入するだから、多少の迷惑料は払うべきだろうが。あと、元ヒーローな」

 

徴収する金額はギリギリ注意されない程度の少額に抑えるつもりとはいえ、金蔓が自分から歩いてやって来るというのは素晴らしいどころの話ではない。

しかも、世の中には自分がまだ見ぬ強いヴィランも必ずいる筈だ。

そうであるならばきっと、ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)現(・)役(・)時(・)代(・)か(・)ら(・)ず(・)っ(・)と(・)抱(・)え(・)て(・)い(・)る(・)ア(・)イ(・)ツ(・)以(・)外(・)へ(・)の(・)不(・)完(・)全(・)燃(・)焼(・)を(・)解(・)消(・)出(・)来(・)る(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)。

 

我ながら奇策を思い付いたものだと自画自賛するサンレッド。

返り討ちにしたヴィランのアカウントを聞き出し、その場で最初のSNSを発信したのを見届けてから、ようやく彼を解放する。

 

「あの。ちゃんと情報は拡散しときますんで、今日のところは…」

「そうだな。じゃあ最後に…」

 

無言で掌を見せる。

頭に?を浮かべるヴィランに対してサンレッドはヘラヘラと笑いながら、当然のように言い放つ。

 

「お前も金払えよ、顧客第一号」

「…」

 

この日の昼食で一人は定食の大盛りを食べ、もう一人はコンビニのオニギリだけで済ませたらしいが、これもまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

雄英学園。

新入生を向かい入れた直後の忙しい時期に緊急で開催された職員会議の場では、一風変わった議題とてサンレッド…今はまだ謎の赤マスクとしか判明していないヒーローについての話し合いが始まろうとしている。

 

通常ならばこういった市井の話題は学校運営に支障を与えないので精々が日々の雑談ぐらいにしか持ち上がらないが、どうやら今回だけは少しだけ赴きが異なるらしい。

 

小さなネズミの学園長が大ぶりで説明する。

 

「知っている先生もいると思うけど、最近何かとネットを騒がせている彼について、知っている事や意見を聞いておきたいのさ!」

「はぁ…。珍しいですね、学園長自ら情報提供を求めるなんて」

 

思わず口を挟んだのはイレイザー・ヘッドだった。その隣に座るプレゼントマイクも、しきりに頷いている。

 

スライムのヴィランが引き起こした人質事件。

それ自体は物騒な話でありながら、個性社会の現代では稀によくある程度の話でしかなく、普通ならば精々が地方ニュースを賑わすくらいの規模で終わりを告げるのが精々だ。

しかしネットの騒ぎは日を追う事に過激化するばかりで、一部では殺害予告までチラついているらしい。このまま騒動が長引くと最悪の場合、他のヒーローにも影響が出るとして早期の解決が望まれている。

 

「一応、元ヒーローという経歴までは遡れたけど、今は何をしているのかさっぱり分からないのさ。まさかいい歳して無職でもあるまいし、ひょっとしたらヴィランと繋がっている…なんて懸念があるからね」

 

いいえ、本当にただの無職です。

なんて真実を知る人間はこの場におらず、むしろ反社会活動に手を出していると考えた方が辻褄が合うと、要らぬ邪推すらされる始末。行動の是非はともかく、やはり見た目がヤンキー過ぎて第一印象がすこぶる悪くなっているようだ。

そうして会議が無駄に緊張感を孕んだものへ進展する中、遅れて登場したのはトゥルーフォームのオールマイトだった。

 

「すまない。少々、生徒間でトラブルがあって対処に時間が掛かってしまいました」

「何か問題でもあったのかい?」

「あぁ、いえ。どうにも理想のヒーロー像を語っていたらしいのですが、一人が良くない事例をお手本にしたいようで…」

「珍しいですね、オールマイトが参考にして欲しくないと思うヒーローがいるなんて」

「相澤先生…私も良くないとは思っているんだが、どうにも彼は反面教師なところが多くてね……」

 

今にも死にそうな顔で深く溜息を吐き、自分の席に着く。そして配布されていたタブレットを開いて、議題に上がっている謎のヒーロー、通称赤マスクの画像を見て……吐血した。

 

「オールマイト!?」

「す、すまない。いきなり知人というか、サンレッドが画面に出て驚いただけだよ」

「…え?」

「行動が過激すぎるけど、決して悪い人間では無いんだけどね。真っ当に活動してくれていたら良いライバル関係になれたかもしれないヒーローだよ。…いやぁ、世の中ままならないものだねぇ、って。あれ、どうかしたのかい?」

 

まさかの繋がりに唖然とする面々。

知りたかった情報が次から次へと出てきて、地上に高いIQの持ち主である学園長ですら唖然としている。

 

「赤マスクを…サンレッドとやらを知っているのさ!?」

「あっはい。正確には天体戦士サンレッドで…あぁ、資料が古いですね。最初期は3人組の気象戦隊ウェザースリーのウェザーレッドで活動していたので、混同でもしましたか?」

「いや、そういう問題じゃないんですよ」

「??」

 

まだ議題について知らないオールマイトを他所に、知りたかった事の半分以上が判明した会議の場に弛緩の空気が流れる。

イレイザーヘッドから説明を受け、何事かを理解するとサンレッドの人となりを語って心配は無いと太鼓判を押す。

 

例えどんなに落ちぶれたとしても、彼がヴィランに堕ちるなんて事態は絶対に起こらない、と。

 

「なるほど! 懸念が晴れてサッパリしたさ。正式名称さえ分かれば後でいくらでも調べようがあるから、この議題については終わりとしよう! そして、次こそが本題さ」

 

教師陣のタブレットに追加で表示されたのは雄英学園に勤める用務員がかなり不足しているという客観的データだった。

 

言うまでもなくこの学園は若い芽を育成する為に優秀なヒーロー達が教鞭を振るっているが、それだけでこの広い敷地内全てを管理しているわけではない。

日々の清掃や最新設備のメンテナンスなど多岐に渡る業務をこなすのは、もっぱら一般用務員の仕事である。

その中でも学園長が頭を悩ませているのはセキュリティの根幹を担う警備担当の人員不足だ。

こればかりは身元がしっかりした人物かつ、自衛出来るだけ身体能力が無ければ務まらないため、募集をかけても条件を満たす者が現れないらしい。

 

「そうなると採用基準を少し下げるか、コチラからオファーするしかないですね」

「もちろんそれは考えたさ! だけど安全面から考えると基準を下げるのは心配が勝るし、勧誘に関しても痛くもない腹を探られて癒着やコネを疑われるのは避けたいところなんだ」

 

何より、一番怖いのは獅子心中の虫…とまではいかないが雄英学園内に何かしらの内通者が紛れ込む危険だけは、絶対に排除せねばならないという点。

いざという時、将来有望な若き芽を守るには、絶対的な安全圏として信頼される実績が必要不可欠となる。

 

「ヒーローの資質を持ったヒーローではない人物…そう考えると、中々に狭き門ですね」

 

イレイザーヘッドもまた、辛気臭いと呼ばれる顔を更に顰めて頭を悩ませる。そんな都合の良い人材が在野にどれだけ眠っているのか、未知数過ぎたからだ。

 

次代のヒーローを育成する機関だからこそ、今を守る大人が必要。

足元を掬われる気持ちで教師陣が議論を重ねていく中、オールマイトだけは明確に誰かを思い浮かべているようだった…。

 

 

 

 

 

 




「もしもし〜。私、悪の秘密組織フロシャイムの川崎支部を担当しておりますヴァ…はい、はい。そうです、悪の秘密組織で間違いありませんよ〜。あっ、それでですね。お伺いしたいのですがソチラの警備員募集ってヴィランでもお受けする事って可能ですかね? いえね、雄英学園の空気だけでも味わいっていう部下がいまして、ご縁があれば面接だけでもと…えっ、悪戯電話? いえいえ滅相もありません! ただ、ヴィラン禁止とは書かれてなかったもので…はい、はい……なるほど…。真面目で根はいい子なんですけどねぇ、そういう事なら仕方ありませんよ。お手数お掛けして申し訳ありませんでした〜。はい、それでは失礼致します。……う〜ん、この話を聞いて落ち込むのも可哀想だから、今日の献立は唐揚げにしようかな…冷凍庫にまだ鶏胸肉があったはず…」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。