覇気だけが全てを凌駕する世界で「斬れぬものなど、あんまり無い!」 作:麦らァのみょん
「まさか、こんなガキ共に足留めくってるとは……クロネコ海賊団も落ちたもんだな。えェ!? ジャンゴ!!」
懸賞金1600万べりーの元クロネコ海賊団船長、百計のクロが怒りの形相でジャンゴをつめる。
「だ……だがよ! あんた、あの時そいつらは放っといても問題ねェって……そう言ったじゃねェかよ!!」
「ああ、言ったな……言ったがどうした……! 問題はないはずだ。こいつがおれ達に立ち向かってくることくらい容易に予想できていた。ただてめェらの軟弱さは計算外だ。言い訳は聞く気はない」
そんな暴論を振りかざしながらクロは自身のつけている眼鏡をクイッと上げる。
「おれはもうお前らの船長じゃねェが計画の依頼人だ。実行できなきゃ殺すまで……! てめェら一人残らずおれの手で殺してやる」
「なっ!?」
クロがクロネコ海賊団の船員ごと、おれたちを始末しようとしたその時。
「クラハドール! もうやめて!!」
戦場で聞こえるには場違いな少女の声が響き渡る。
「カヤ! お前、何しに……!!」
「オイ、あれは計画の最終目標だぜ……!?」
「これは驚いた。お嬢様、なぜここへ……?」
驚くクロにカヤは取引を持ち掛ける。
財産が欲しいなら全てあげるから村から出て行ってくれ、と。
しかしクロの望みは金だけでなくこの村での平穏な暮らし。
そのためだけに三年間もの時間を費やした。
話し合いは平行線。
もうこの二人の思いが重なり合うことはない。
いや、クロからすればそんなことはただの一度だってなかったのかもしれない。
「共に苦しみ、共に喜び笑い……私はあなたに尽くしてきました! 夢見るお嬢様にさんざんつきあったのも、それに耐えたことも……すべては貴様を殺す、今日の日のためっ」
涙を流してうつむくカヤにクロは続ける。
「かつてはキャプテン・クロを名乗ったこのおれがハナったれの小娘相手にニコニコへりくだって、心ならずも御機嫌取ってきたわけだ……わかるか? この屈辱の日々が……!」
「クロォオオおーっ!!」
カヤを傷つけられ怒ったウソップがクロに向かって殴り掛かる。
「ウソップ君……そういえば君には殴られた恨みがあったな……!」
人間離れしたスピードでウソップの拳を避けるとクロは両手の武器、猫の手を振り下ろそうとする。
しかし、その刃が届くよりも早く顔面を殴られクロがぶっ飛ぶ。
「殴られんのがそんなに嫌ならあと百発ぶち込んでやる!」
どうやらルフィが目覚めたようだ。
クロを殴るために伸ばした腕を戻し拳をパキパキと鳴らす。
「今だァあああ―っ!」
カヤについてきていたのだろうか。
茂みから飛び出してきたウソップ海賊団の子供たちがフライパンやスコップ、バッドで倒れたクロを滅多打ちにする。
「……やっぱりだ、キャプテンは戦ってた!」
「なんで言ってくれなかったんですか、汗くさいじゃないですかっ!」
「違うよ! 水くさいじゃないですか!」
どれかと言うとウソップは噓くさいだと思うのだが。
「何くさくてもいいっ! とにかく、お前らこっから離れろ! 逃げるんだ!」
「いやです!」
「おれ達だって戦います!!」
「逃げるなんてウソップ海賊団の名おれです!」
そんなやり取りをしてたのも束の間。
起き上がったクロを見て子供たちが悲鳴を上げる。
「ぐわあっ!?」
しかしクロはそんなものを見ようともせずに傍にいたウソップを斬りつけるとルフィへ向き直る。
「少々効いた。妙なことをする……貴様、悪魔の実の能力者だな」
「そうだ。ゴムゴムの実を食ったゴム人間だ!」
悪魔の実というワードに残った下っ端たちがビビり出す。
一方で一切の動揺を見せないクロは元海賊船の船長なこともあり相当肝が据わっているように見える。
「ジャンゴ! その小僧はおれが殺す。お前にはカヤお嬢様とこのアリ三匹を任せる。遺書を書かせて……消せ」
「引き受けた」
クロの命令を受け、ジャンゴがカヤと子供たちを始末しようと坂を上り出す。
「通しませんよ」
刀を向けてジャンゴを止める。
「いーや、通るね。ブゥーチ!!」
ジャンゴが叫ぶと先ほどゾロにやられたはずのブチが襲い掛かって来る。
催眠で強化されたのだろう、おれが回避したブチの攻撃はそのまま地面を割り崖を抉る。
その隙にジャンゴはカヤさんたちに近づいていく。
「ウソップ海賊団! カヤを守れ!」
クロに斬られ血を流し地面に倒れ伏しながらウソップが叫ぶ。
「最も重要な仕事をお前たちに任せる、カヤを連れてここを無事に離れろ! これはキャプテン命令だ!」
「は、はいキャプテン!」
ウソップの船長命令を受けて子供たちがカヤさんを連れて林へと入っていく。
「逃がすか!」
それを追ってジャンゴも林へと向かう。
「おい妖夢! そいつの相手代われ!」
おれの元に走ってきたゾロがブチを斬り飛ばす。
「ウソでもお前、一度ウソップ海賊団に入ったんだろ? ならあいつらのこと守ってやれ」
なにがおかしいのか、にやりと笑ってゾロはブチを抑えに行く。
ならお言葉に甘えてこの場はゾロとルフィに任せよう。
「悪ィな、妖夢……どうか助けてやってくれ! おれも動けるようになったらすぐ追いつくから!」
「わかりましたよ、キャプテン・ウソップ」
カヤさんはただでさえ病弱なんだ。
そう上手く逃げられるとは思えない。
なにかが起きる前にすぐジャンゴを止めなくては。
林の中に入ってすぐ、鋭利な刃物で切断された木々が倒れていた。
おそらくジャンゴがあのチャクラムで斬り倒したのだろう。
このままだとカヤさんたちを殺すためだけにこの林が丸坊主にされるかもしれない。
慌てて進むとすぐに人影が見えて来た。
やはりまだそんな遠くまでは逃げられていなかったらしい。
これはどういう状況だ?
座り込んでいるカヤさんの前でジャンゴがチャクラムをゆらゆら揺らしている。
その後ろに子供たちが倒れているが寝息を立てているあたり催眠術で眠らされたというところか。
「目を開けねェか小娘! 開けねェなら力ずくで目ん玉開かせてやる!!」
「きゃああ!」
「女性に手をあげるなんて最低ですね」
「ぐおっ!?」
掴みかかったジャンゴに向けて楼観剣を振るいカヤさんから離れさせる。
「クソっ! 最初からずっとおれたちの邪魔しやがって、女剣士……!」
「決着をつけましょうか」
「てめェらガキの海賊ごっこが少々立ち入りすぎたな。本物の海賊の喧嘩に出しゃばった愚かさをあの世でよォく反省するがいい!」
ギュインッとチャクラムがおれに向かって飛んでくる。
木々を斬り倒すほどの鋭い切れ味だ。食らったらひとたまりもないだろう。
楼観剣で弾いて接近する。
チャクラムを投擲して攻撃してくるジャンゴに遠距離戦を挑むのは悪手だろう。
カヤさんや子供たちがいる以上、下手に弾幕を飛ばすこともできない。
接近戦で一気に蹴りをつける!
「バカめ! 今お前が弾いたチャクラムは糸で繋がってんだ、弾かれても操作できる!」
ジャンゴは放ったチャクラムを今度はそのまま眠っている子供たちに向ける。
「くっ!」
とっさに子供たちの前に入り攻撃を受ける。
……クソ痛ぇ。
思えばこの世界に来て戦闘での始めての負傷か。
刃物で斬られるなんて前世も含めて初めての経験だ。
料理中に誤って指を切った時とかとは全然比べ物にもならない痛みに、一瞬足が竦む。
ルフィやゾロはこんなの食らっても一切臆せず戦っていたのか。
やっぱすごいなぁ……あの二人は。
「ガキと女庇いながらどうやっておれに勝つ気なんだ!? おい!」
再びチャクラムを飛ばそうとするジャンゴだが、そうはいかない。
「もうその攻撃はさせませんよ」
ジャンゴが攻撃するよりも早く接近し白楼剣で斬りつける。
「ぐっ! バカが、近接ならおれに勝てるとでも!?」
ジャンゴが手に持ったチャクラムで直接おれに斬りかかる。
それをおれは後ろに避けてあえてジャンゴから少しの距離を取る。
「この距離ならカヤさんたちに当たる心配もないですね」
ジャンゴに手のひらを向けて弾丸を放つ。
「ぐおわっ!!」
もろに受けたジャンゴは弾丸に吹き飛ばされて倒れこんだ。
チャンス!
この隙に一気に決着を付けてしまおうと飛ばされたジャンゴに近づき剣を振り下ろそうとして。
「ワン・ツー・ジャンゴでお前は眠くなる! ワン・ツー・ジャンゴ!」
「くっ!」
とっさに目を閉じて催眠を回避する。
その隙に動いたのか、まっすぐ振り下ろした刀は空を切る。
「はァはァ……あぶねェ! だがこれでてめェはもう催眠を警戒して目を開けられねェ!」
考えたなコイツ。
確かに催眠術をかけられたら一発でゲームオーバー。
チャクラムで距離を保ちながら催眠を狙われると剣士であるおれでは手も足も出せない。
だが……。
「なら見なければいいだけでしょう」
「は!?」
楼観剣を思いっきり振り回して攻撃を仕掛ける。
「なんなんだおまえ! もしあの女やガキに当たったらどうするつもりだ!?」
「先ほどあなたを弾丸で飛ばしたのでカヤさんたちとは十分距離を取れたはずです。なのでなんの問題もありません」
「問題しかねェよ!!」
うるせー!
おれだって本当は格好良く気配を察して華麗に戦いたいっての!
だが悲しいことにまだ正確に目を閉じて相手の位置を探るなどはできないのだ、とほほ……。
「そこ!」
「だあっ!?」
チラリと薄目を開けると刀はジャンゴの真横に降ろされていた。
「くっ、おしい!」
「おしいじゃねェよ!」
なんだかふざけた戦闘になってきてる気がするが、この状況をなんとかしないことにはどうしようもない。
今一度しっかり気配を探るんだ。
……こんなこともできないとあの方にまた半人前と言われてしまう。
かつてお師匠様に言われた言葉を思い出す。
真実は目で見えない、耳では聞こえない。
真実は斬って知るものだと。
「なんだ……? こいつ急に雰囲気が……」
ザザッと催眠術師の足運びの音が聞こえる。
視覚を捨て聴覚などのそれ以外に集中しているからか、普段より鮮明に音が、空気が感じ取れる。
一歩、二歩、三歩。
「ッ! そこだ!」
一気に踏み込んで白楼剣を振り下ろす。
ズバンッ! と音を立てながら”私”は自身の前にあったそれを斬り落とす。
「はっはっは、残念だったな! 今お前が斬ったのはおれじゃなくてただの木の枝だ」
私は目を閉じたまま、催眠術師に返事をする。
「ええ、狙い通りです」
「は?」
「ああ、その枝が邪魔だったんだ!」
僅かに離れた所、カヤさん達を置いてきた場所からそんな声が聞こえてくる。
「くらえ催眠術師! 必殺……火薬星!!」
「ブバア!!!」
ウソップの狙いすました狙撃を受けてジャンゴはその場に沈んでいった。
「流石ですね、キャプテン・ウソップ」
この戦い、おれたちの勝ちだ。
夜にもう一話投稿します。
次話でシロップ村編は終了です。