覇気だけが全てを凌駕する世界で「斬れぬものなど、あんまり無い!」 作:麦らァのみょん
魂魄妖夢は冥界にある白玉楼に住む剣術指南役兼庭師の幽霊と人間のハーフ、半人半霊の少女である。
白玉楼の主、西行寺幽々子に仕える彼女は長刀「楼観剣」と短刀「白楼剣」を扱う剣士。
そして今のおれの元ネタといえる存在だ。
改めて今の自分の身体を観察してみる。
身長はやや低め。
半袖の白シャツに左胸に霊魂のようなマークのついた青緑色のベスト、この世界の住人としてはまったくと言っていいほど主張がない平らな胸元には黒い蝶ネクタイ。
ベストと同じ色、同じマークのついたスカートは動きやすそうな膝丈。初めて履いたはずなのにどこかスースーするこの感覚に慣れてる自分がいる。
鏡がないのではっきりと確認できないが髪型は銀色のボブカットで黒いリボンのついたカチューシャをつけている。
中身がおれという点を除けば記憶のままの魂魄妖夢そのものである。
「おれはルフィ、海賊やってる。こっちは仲間のゾロ」
「初めまして……私は魂魄妖夢です」
一瞬、なんて名乗るべきか迷ったがこの姿で前世の名前を名乗るのもおかしな気がするので大人しく魂魄妖夢と名乗ることにした。
言葉使いもこの外見で男口調というのも変なのでとりあえず丁寧に話しておこう。
「妖夢、お前こんな島でなにやってんだ?」
「それが気が付いたらこの島にいたんです。なんなら目が覚めたのもついさっきでして」
「どっかの船から落っこちたとか?」
「いやァ、どうなんでしょう?」
いくらワンピースの世界といえど転生してきました! なんて言えるわけがない。
ワンピースあんまり知らないけどさすがに作中に転生してきたキャラなんていないだろうし。
「あれか、お前記憶喪失ってやつか」
おれ自身、うまくこの状況を説明できないのでそういうことにした。
いや、別に嘘じゃないよ?
上手く説明できないのだが、多分おれにはこの世界で生きてきた過去がある……ような気がする。
なぜか初めて履くスカートの感覚に慣れていたり、なぜか楼観剣、白楼剣の使い方を知っていたり。
転生特典と言われたらそうなのかもしれないが、現代日本で暮らしてきたおれが刀の扱い方を知っているというのはどうにも変だ。
それになにか大切なことを忘れているような、胸にぽっかりと穴が開いているような感覚が目が覚めてからずっとしている。
魂魄妖夢として転生したはずなのに、さっきから一度も半霊らしき存在が見当たらないのと関係あるのだろうか。
「いやーキオクソーシツだなんて大変だなァお前。キオクソーシツかァ。まァなんとかなるって元気だせよ」
そう言っておれの肩をバシバシ叩くルフィ。
ルフィは記憶喪失ってなにかわかって言ってるのだろうか。
いや、さすがにルフィのことを舐めすぎか。
「おれ達今航海士とコックと音楽家を探してんだけどよォ……」
音楽家より先に船医を探そうよそこは。
「こんな無人島にそんな奴らいるわけねェだろルフィ。コイツも見るからに剣士だしな」
今のルフィたちはおそらく冒険が始まったばかり、ゾロを仲間にした直後なのだろう。
残念ながらおれは航海士でもコックでも音楽家でもないのだ。
強いてあげるならやはり庭師なのだろうか。
と言っても今のおれは魂魄妖夢なので料理ならきっとある程度こなせるのだろうけれど。
「おお! じゃあお前うちの海賊船のコックになってくれよ!」
「海賊船……その小舟に調理スペースがあるようにはとても見えないのですが」
ワンピースにわかだが、さすがにあれがメリー号やサニー号でないことくらいわかるぞ、おれ。
それにおれが麦わらの一味のコックになるのは無理だろう。
いくら料理ができると言っても航海中の栄養管理とかできる自信ないし、そもそもそれはサンジの役目であり居場所。
おれが奪うわけにはいかない。
あれ、魂魄妖夢になったというのにもしかしておれって何もできない無能なのでは……?
いやいや、そんなわけがない。
我魂魄妖夢ぞ?
試しに近くにあった木を楼観剣で斬ってみる。
ズドォンという音を立てながら木は倒れ、両断することに成功した。
「おお」
パチパチとルフィが拍手してくれる。
ゾロも「へェ……」と興味深げにニヤリと笑っていた。
魂魄妖夢、というか東方キャラといえば弾幕ごっこだ。
宙に舞い華麗な弾幕を打ち合うそれは東方projectの醍醐味だろう。
おれが半人半霊になったからだろうか。
どういう原理か自分でもわからないが、飛んでみようと思った次の瞬間俺は空に浮かび上がっていた。
「おお! お前空飛べんのか!?」
空中に浮いているおれをみてルフィが驚きの声をあげる。
おれもびっくりしているが驚愕するのはまだはやい。
空が飛べるならきっとこれもできるだろう。
手を前にかざしてみると掌が淡く輝きだした。
それを放つように少し力を込めてみると光は青い弾幕となって前方に飛んでいく。
そのまま刀を振るってみると斬撃のような形で弾幕が放たれていく。
「うおおお!! すっげェ!! ビームは? ビームは出ねェのか?」
おれの弾幕を見て大はしゃぎするルフィ。
はっはっは、どうだおれの弾幕は。
この世界の住人なら似たような芸当ができるやつもいそうだが、楽しんでもらえたのなら良しとしよう。
宴会芸とかにも使えそうだな、コレ。
「一体どういう原理だこりゃあ。普通の人間にこんな芸当ができんのか?」
ルフィが無邪気に騒いでいる一方でゾロは信じられない物でも見たかのような顔をしている。
「お前もルフィと同じ悪魔の実の能力者なのか?」
違います、単に半分人外なだけなのです。
半人半霊の半人前なのです。
半霊どっか行っちゃってるっぽいけど。
さすがに半霊がいないこの状態を放置するわけにはいかないだろう。半霊もおれの一部なのだから今のこの状況は体の部位が欠けてしまっているようなものだ、非常にまずい。
自分が半人半霊であることをルフィ達に説明すると。
「面白れェなお前! おれ達と一緒に海賊やろう、妖夢!」
なんと、たまたま無人島にスポーンしただけなのに麦わらの一味に勧誘されてしまった。
無人島からの勧誘ってガイモンさんだけの特権じゃなかったのか!?
「おれもお前の剣に興味が湧いた。入るなら歓迎するぜ」
ゾロまで勧誘に乗り気である。
「おれ達と冒険してたら記憶が戻って、半霊ってやつも見つかるかもしれねェ。いや見つかる!」
海賊……海賊かぁ。
たしかに半霊は見つけなきゃだしおれとしてもこの記憶喪失? をなんとかしたいと思ってるから悪い話じゃない。
「わかりました。それではとりあえず暫くの間お世話になります、船長さん」
「よーし、これで仲間二人目だ!」
おれに海賊なんて勤まるかわかんないけど、せっかく誘ってくれたのだから。
たまにはぼんやりと船にでも揺られてみよう。