覇気だけが全てを凌駕する世界で「斬れぬものなど、あんまり無い!」 作:麦らァのみょん
「あー腹へったー」
ルフィ達についていくことにして早数時間。
おれが増えたことで乗組員が三人になった小舟は波に揺られて海を行く。
ルフィ達は偉大なる航路を目指しているらしく、そのためにも早いとこ航海士を見つけなければならないようだ。
ルフィもゾロもおれも航海術なんて持っていないので適当に海を行くしかないのだ。
これが漂流というやつか。
初めての経験に感動を覚える。
「おれはもう漂流すんの慣れたぞ」
そう言って笑うルフィ。
さすがに慣れちゃダメだろうそれは。
ルフィが海賊王でなく漂流王になってしまう前に一刻も早く航海士を仲間にしなくては。
「適当に漕いでりゃいつか島につくさ。最悪いつかは赤い大地にぶつかるだろ」
行きつくころには全員餓死してミイラの船になってますよゾロさん。
元の男の頃ならともかく今の姿でそんな死に方するのは御免こうむりたい。
半人半霊になったばかりなのにこんなすぐに完全全霊になりたくない。
海の日差しが腹をすかしたおれ達を燦燦と照らす。
まだ干からびたくないんじゃあ。
「マリモって枯れたら緑から茶色になって中身スカスカになるらしいですよ」
「……なんでおれを見ながら言うんだお前」
た、たまたま目があっただけだヨ……。
「お、鳥だ」
船の上にごろんと転がり空を見上げるとそこそこ大きな鳥が見えた。
「なあ妖夢。あの鳥調理できるか?」
「調理スペースがあればできると思います」
「よし、あの鳥食おう!」
「この小舟じゃできても丸焼きくらいですよ? 生肉の保存もできませんし」
「そういうのは捕まえてから考えよう。行ってくる!」
そう言うとルフィは小舟のマストを伸ばした手で掴み、ゴムの伸縮を利用して勢いよく飛び出していった。
バシュンとゴムゴムのロケットで空を飛んだルフィはパクッと鳥に咥えられ。
「は?」
「え?」
予想外の展開に驚きおれもゾロも思わず固まり目を見開く。
その間に、ルフィを咥えた巨大カモメはさっさとどこかへと飛んでいく。
「ぎゃ――――っ!!!」
「あほ――――っ!!!」
助けてーっと叫びながら遠ざかるルフィの声が段々と低くなっていく。
「おお、これがドップラー効果というやつですか」
「感心してる場合か!」
カモメに捕まりさあ大変。
もし途中で海にでも放り出されたら能力者のルフィでは絶体絶命。
早く船を漕いでルフィを回収しなければ。
「おい妖夢、お前飛んであのあほと鳥追いかけれるか?」
ああ、そういえば今のおれは空を飛べるのだった。
ゾロが全力で漕いでいる船からふわりと飛び立つ。
「ルフィなら陸でも見えりゃ自力で降りるだろうが、見失わないように頼む」
「では陸を見つけたらそこに着地するので、そこで合流しましょう」
さて、なんだかんだ初めての飛行による移動である。
ルフィを助けるためにものんびり満喫はできないが全速力の空の旅の始まり始まり。
△▽△▽
ビューンとルフィを追って飛んでいるとやがて町が見えてきたのだが……。
何やら町の中央がドゴンドゴンと騒がしい。
まるで大砲でもぶっ放してるかのような喧騒に包まれている。
たしか今この町はバギー一味に襲われているんだったっけ。
「大丈夫ですか、ルフィさん」
「妖夢! 助けにきてくれたのかァ」
巨大なカモメに咥えられながら笑顔で話すルフィ。
なんだかシュールな状況だ。
「こいつでっかくて食いごたえありそうだろ?」
「あんまりカモメが美味しいなんて話聞いたことありませんが、たしかにでっかいですね」
ルフィよりも小さいおれではパクッと丸呑みされてしまうのではなかろうか。
町の上空でそんな馬鹿なことを話していると。
ヒューンッとなにかの飛来音。
「? 一体何の音で……!?」
視線を音の方に向けるとどこからか放たれた丸い鉄の塊。
ほ、砲弾!?
「おあーっ!?」
「ル、ルフィさん―――ッ!?」
ドォォン‼ と豪快な音を立ててそれはルフィに命中。
ルフィはそのまま街中へと落下していった。
「今助けまっ!?」
すぐにルフィを助けにいこうとするもおれに目掛けてまた砲弾が放たれてくる。
運よく避けれたものの砲撃は止まず、ルフィの後を追うのが難しい。
……ル、ルフィならこの高さから落下しても無事だろうし大丈夫だろ、多分。
「後でちゃんと迎えにきますからね―――!」
仕方なくおれは離れた位置に着地することに決めた。
許せルフィ。おのれ許さんぞ道化のバギー! 覚えてろ!
町の喧騒から少し離れた場所に無事着陸。
さてここからどうやって動くべきか。
原作なんてうろ覚えだし、おれがいる時点で原作通りに事を運ぶなんてできなくなってしまったので考えるだけ無駄だと思考放棄していたが。
もしおれがなにかやらかしてナミがここで仲間にならないなんてことになったら困るってもんじゃない。
海上において漂流するしか能のない我々ではナミが仲間にならないとろくに旅もできないのだ。
ナミを仲間にするためにおれは今からどうするべきか。
どうしようかとうんうん悩んでいると。
「何者じゃ、そこの娘」
現れたのは真っ白な髪の防具を纏ったおじいさん。
背中には槍を背負っている。
「初めまして。私は魂魄妖夢といいます。実はこの近くではぐれた仲間を探しておりまして」
「わしはブードル。この町の長、さながらの町長じゃ。悪いことは言わん、すぐにこの町から出て行った方がいい」
ブードルさんが言うにはこの町にバギーという海賊の一味が攻めてきており酒場を拠点にして暴れているそうだ。
それ自体は知っていたがわざわざ知ってますなんて言うのも変だし普通に原作を忘れている部分もあるので有難く話を聞かせてもらおう。
町民は皆避難所にいるのだが、シュシュという犬が死んだ主人の形見であるペットフード屋から離れないので様子を見に来たそうな。
ブードルさんと話しながらペットフード屋に向かうと。
「この犬ゥ!! 今のエサじゃねェぞ吐き出せェ!」
檻に閉じ込められたルフィが顔の白い犬……おそらくシュシュの首を絞めていた。
そんなルフィの隣には腹部から血を流しながらへたりこむゾロ。
一緒にいる呆然とした表情をしたオレンジ髪の女の子はナミだろうか。
「くらっ! 小童ども、シュシュをいじめるんじゃねェっ!」
ゴーンとルフィ達に怒鳴るブードルさん。
「シュシュ? あっ、妖夢ー!!」
どうやら向こうもこっちに気づいたらしい。
「お前どこ行ってたんだ? ダメだぞ、あちこちふらふら飛んでいったら!」
「カモメに咥えられて飛んでったお前が言うな!」
負傷しながらもルフィに突っ込んでくれるゾロ。
いや、うん……見捨てかけたなんてとてもじゃないけど言えねぇよ。
ごめんなさいでした。
△▽△▽
ルフィ達にもシュシュの話をした後ブードルさんが隣の自宅でゾロを休ませてきてくれた。
避難所に行けば医者がいるらしいのだがゾロは寝れば治ると言って聞かなかった。
結構な量の出血だったと思うのだがあんな包帯巻いただけで寝れば治ると言うのだから恐ろしい。
この世界の人間はどんな回復力してるんだ。
たしかゾロって作中でも凄い傷を負う展開が多かったような。
それで麦わらの一味のナンバーツーとか化け物すぎる。
ドがつくMの人でもきっとゾロの真似だけはしないだろ。
「なに考え込んでんだ妖夢?」
「ゾロさんって生粋のマゾヒストなのではと心配になりまして」
「まぞひ……?」
おっとこういう話はルフィにはまだ早かったか。
そのままの、純粋なルフィのままで海賊王まで向かって行ってほしいものである。
「ところでこちらのオレンジ髪の方は?」
そう言ってナミのことを尋ねる。
自己紹介がまだなのだ。
「そいつは、ウチの航海士だ!」
「ならないって言ってんでしょ!!」
流れるようなツッコミでルフィの航海士発言を否定するナミ。
あれ、おれが変なことしなければすぐ仲間になるもんだと思ったのだが。
原作の記憶がほとんど抜けてるせいでわからないがこの時点ではまだ仲間にはならないんだっけ?
「私は魂魄妖夢です。これからよろしくお願いしますね、航海士さん」
「よろしくしないわよっ!!」
笑顔で握手を求めたけどパシンと小気味いい音を立てて手を振り払われた。
悲しい。
そんなくだらないやりとりをしている時だった。
「グオオオオォォォォォォォ!!」
空気がビリッと震えるような猛獣の雄叫びが聞こえてきた。
「な……何この雄叫び!?」
「こりゃあいつじゃ! 猛獣使いのモージじゃ!!」
モージ? 誰じゃそいつは。
『逃げろォ――――――!!』
おれがぽかんとしている内にナミとブードルさんはだだだだだと走って逃げて行った。
ルフィ? ルフィならシュシュに鍵返せって交渉してるよ。
「見つけたぜェ。そっちの女も仲間か?」
そう言って現れたのは巨大なライオンに乗った白い着ぐるみを来たケモミミのおっさん。
「この変態さんがモージとやらですか?」
「誰が変態だこのガキ!」
「あーあ、なんか来ちまったよ」
お前のせいだからな、とシュシュに向かってため息をつくルフィ。
敵が来たというのに呑気なものである。
「なんだお前へんな着ぐるみかぶって」
「失敬だぞ貴様ァ!! これはおれの地毛だ!」
「じゃあなおさら変だ」
着ぐるみではなく地毛でケモミミをつくったおっさんだった。
ルフィには同意の意を込めて全力で頷いておこう。
「言っとくがこの世におれに操れない動物はいないんだぜ」
そう言ってモージはシュシュにお手を要求した。
「ガウ」
シュシュはガブリとモージの手に噛み付いた。
哀れモージの腕からたらんと血が垂れる。
「お前は所詮名もないコソ泥だ」
「犬は」
誤魔化そうとしたモージだったがルフィに容赦なく突っ込まれる。
「シュシュ、お手」
「ガウ」
ためしにおれもお手を要求してみるとシュシュはポスンとお手を返してくれた。
「おかわり」
「ガウ」
さっきとは反対の足をおれの手にポスンと乗せるシュシュ。
「私も猛獣使いになれますかね」
麦わらの一味猛獣使い魂魄妖夢。
うーん、違和感。
「貴様らの命に興味はない。ロロノア・ゾロの居場所を言え」
「いやだ」
おれのお手をなかったことにしたモージはルフィにゾロのことを尋ねるも拒否されてしまう。
「やれ!! リッチー!!」
次の瞬間、リッチーと呼ばれたライオンがルフィの閉じ込められていた鉄の檻を破壊する。
そしてそのまま檻から出てきたルフィをドゴオオン!! と音を立てて吹き飛ばす。
「即死だ! おれに歯向かうからそうなるのだ」
家を突き破って裏の路地まで飛んで行ったルフィの方を見てモージが言う。
さすが海賊、不意打ちなんて卑怯だぞ!
さっきまでおれ達の命には興味がないとか言ってたくせに!
まあ大砲で撃ち落とされても平気なルフィがこの程度で死ぬわけがないのだが。
ルフィの心配をしているとリッチーが今度はおれとシュシュに牙を剥く。
「ガルルルルルルルル……」
「ペットフードショップか……食事は早めに終わらせろよ」
いや、今あきらかにおれの方みてたろこのライオン。
無視すんじゃねぇ変態。
「ワン!! ワンワン!!」
リッチーに向かって吠えるシュシュ。
「なんだこの犬。おれ達を店にいれない気か? 番犬気取りなのか?」
リッチーに睨まれてもなお吠えたてるシュシュ。
そんなシュシュにイラついたのか、リッチーがシュシュに向かって腕を振り下ろす。
「さすがに犬に手を出すのは見過ごせませんよ」
が、楼観剣を構えたおれに阻まれる。
どうせルフィが吹っ飛ばしてくれるだろうとは思ったがそれを待ってシュシュとシュシュの宝であるこのお店が荒らされるのは見過ごせない。
「お前もおれ達の邪魔をするってのか。なら容赦しねェ、やれェリッチー!!」
さあ、この世界での初めての戦いだ。
おれがこの世界でどれだけやれるのか試してみよう。
戦うなんて初めてのことだがきっとなんとかなるだろう。
だってこの楼観剣に斬れないものなど、あんまり無いのだから。
オリ主の妖夢くんちゃんはワンピースをうろ覚えのにわかという設定なので自分の意思で原作改変とかは多分そんなできない。