覇気だけが全てを凌駕する世界で「斬れぬものなど、あんまり無い!」 作:麦らァのみょん
屋敷の執事クラハドール改め、海賊キャプテン・クロはジャンゴという男に計画の内容を確認する。
クロの狙いはカヤさんを殺すことで得られる遺産らしい。
クロの合図で手下たちと共にジャンゴが村へ攻め込む。
そうしてカヤさんを事故に見せかけて殺す前にジャンゴの催眠で執事クラハドールに全財産を譲るという遺書を書かせる、と。
クロはそんな遺書が残っていてもおかしくない状況を作り上げるために三年という長い月日を執事として過ごしてきたらしい。
それも全て、政府に追われることなく、平和に大金を手にするために。
「えらいことになっちまった……! カヤも殺される!! 村も襲われる……マジでやべェ……!!」
頭を抱え込んで震えるウソップとは対象に、スクッとルフィが立ち上がる。
「おいお前ら!! お嬢様を殺すな!!!」
「ばかやろう! 早く隠れろ殺されるぞ!!」
いきなり現れたおれたちに驚き汗を垂らしたクロだったがすぐに冷静さを取り戻す。
「……やあ、これは……ウソップ君じゃありませんか。なにか……聞こえたかね?」
ウソップが誤魔化そうとするもルフィは一切臆せずぜんぶ聞いたと言い放つ。
うちの船長はウソのつけない正直者なのだ。
「聞かれたなら仕方ねェ。おい貴様ら、この輪をよく見るんだ」
そう言ってジャンゴは振り子のようにゆらゆらとチャクラムを振る。
「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワン……ツー……」
そんな怪しいもの誰が正直に見るかよ、甘ちゃんがよぉ。
催眠術にかからないようにおれはぎゅっと目を瞑ったのだが……。
「ジャンゴ」
「ぐー」
隣にいたわ、正直なやつ。
眠らされたルフィはその場にフラッと倒れそうになると。
「あっ」
ドゴォン!! と音を立ててクロたちの前に頭から落下した。
「おい!! 大丈夫か!?」
「あーあー……殺すつもりはなかったんだがな……」
落下する前に支えられなかったのは申し訳ないが、まあルフィならこの程度の高さから落っこちても無事だろう。
この程度で死ぬならオレンジの町でとっくにバギーによって殺されてる。
「もう二匹はどうする。殺しとくか」
「必要ない。あいつがどう騒ごうと無駄なことだ」
落っこちたルフィには目もくれず、クロはウソップを見上げる。
「ジャンゴ、明日の朝、夜明けとともに村を襲え。村の民家も荒らしてあくまで事故を装いカヤお嬢様を殺すんだ」
「……!! 明日……」
「聞いた通りだウソップ君。君が何を聞こうと私の計画に何ら影響はない」
それを聞いたウソップは絶叫をあげながらどこかへと走り去っていく。
村の人たちにこのことを伝えるのだろうか。
「大丈夫なのか?」
「当然だ。おれの計画は狂わない」
「……なら、ここで私が貴方たちを倒したらその計画はどうなるんでしょうかね」
ふわりと眠りこけているルフィの側に着地する。
「見たところ剣士のようだが……お前一人でおれたちに勝てるとでも?」
海賊団の船長格が二人。
さすがに戦闘経験の浅いおれでは分が悪いか。
「やめておきましょう。私はそこで寝てる船長を回収できればそれでいいので」
「ウソップ君にも言ったが、君らが何を聞こうと私の計画に何ら影響はない。そこで転がっている男のように死にたくなければ大人しくこの村から出ていくことだな」
そう言うと、クロはジャンゴを連れてどこかへと去って行った。
さて、おれはここからどうするべきなのだろうか。
ひとまずルフィを起こしてから考えようと、おれはルフィの頬をぺちぺちと叩くのだった。
△▽△▽
なんとなくゴムの質感が面白かったので、起きた後もぺちぺちとルフィの頬を叩いてるとゾロたちがやって来た。
ウソップ海賊団の子供たちも一緒だ。
「カヤさんが殺される!?」
「村も襲われるって本当なの!! 麦わらの兄ちゃん!!」
「ああ、そう言ってた。間違いねェ」
「……それでなんで、お前はここで寝てたんだよ」
「それがなー、おれは崖の上にいたと思うんだよなー」
ゾロの指摘に不思議そうに首をかしげるルフィ。
「ルフィさんはクロと一緒に居た催眠術師に眠らされて落下したんですよ」
「なにしてんだおまえ」
話を聞いた子供たちは大事な物を整理して早く逃げねばと大急ぎで村へ走っていく。
ついでにルフィも食料を買いこまないと肉屋も逃げちまうと慌てて子供たちについて行った。
食料を買い込んでもきっと一瞬で全部なくなるんだろうなぁ。
村の方に向かっているとその途中でウソップと子供達が話している場面に遭遇した。
ウソップが腕から血を流しているが、一体何があったんだ?
ルフィが生きていたことに驚くもウソップはクロが攻めてくるというのは自分のウソだと言い張り出した。
ウソップの言葉を信じた子供たちだったが、人を傷つけるような今回のウソップのウソが嫌だったらしく、ウソップを避けるようにして帰っていく。
ウソップはそんな彼らをどこか思い詰めるような表情で見つめていた。
子供たちと別れ、すっかり夜になった海岸におれたちは集まっていた。
「おれはウソつきだからよ。ハナっから信じてもらえるわけなかったんだ。おれが甘かった! みんな明日も、またいつも通り平和な一日が来ると思ってる……!!」
覚悟を決めた表情で立ち上がったウソップはおれたちに宣言する。
「だから、おれはこの海岸で海賊どもを迎え撃ち、この一件をウソにする! それがウソつきとしておれの通すべき筋ってもんだ!!」
ウソップの腕の怪我は村人たちに話しても信じてもらえず怒らせてしまった時にできたものらしい。
「銃弾ぶち込まれようともよ……ホウキ持って追いかけ回されようともよ……ここは、おれの育った村だ! 俺はこの村が大好きだ、みんなを守りたい……!!」
それは、今まで嘘をついてきた男の、どこまでも正直な、心からの言葉だった。
だからだろうか。
ウソップの力になってやりたいと、そう思えるのは。
それはルフィやゾロ、ナミも同じだったようでおれたちはウソップに力を貸すことに決めた。
最初はおれたちを止めようとしたウソップだったがゾロの「立派だと思うから手を貸す」と言う言葉とルフィの「同情なんかで命賭けるか!」という発言を聞いて感極まり、涙を流しながら共に戦おうと言ってくれた。
どれくらいの規模かは知らないが相手は名のある船長が率いていた海賊団。
きっと戦闘員の数も半端ではないだろう。
対してこちらの戦力は僅か五人。
勝利するにはちゃんとした作戦が必要だ。
昼にクロとジャンゴが密会をしていたこの海岸から村へ入るルートは、崖を削るように作られたこの坂道一本だけ。
ウソップが言うにはこの坂道を死守できれば村が襲われることはないらしい。
「そうか、簡単だな」
「口で言うのはな! あとは戦力次第……お前ら、何ができる?」
ウソップの確認にそれぞれが自分の武器を答える。
「斬る」
「のびる」
「盗む」
「1番目に同じ」
「隠れる」
「「「お前は戦えよ!!」
こんなんで本当に勝てんのか……?
△▽△▽
「よし、完璧だ! これでもう、奴らはこの坂道を登れない」
数分後、おれたちは坂道に大量の油を敷き詰めていた。
ウソップ曰く、敵がこの坂でツルツル滑ってもがいてるスキにブチのめす作戦らしい。
完璧な作戦っスねーっ、自分たちも滑り落ちたら終わりっていう点に目をつぶればよぉ~。
まあこっちには狙撃が得意なウソップと手足を伸ばして戦えるルフィがいるし大丈夫か。
勝ったな、ガハハ。
……大丈夫だよね?
後はここで夜明けと敵を待つだけだ。
「そういえば、この島って上陸地点が二つあるんですね。あいつらが攻めてくるここと、私たちが船をとめているとこと」
「ああ、北の方にも上陸地点があるがどうかしたか?」
「いえ、こんな時に気にすることではないのですがバギー一味から奪った海図やお宝が船と一緒に置いてあるのでちょっと心配になってきちゃいまして」
小さな村しかないし、バギー一味の海賊旗がついてるので盗まれる心配はないだろうが……。
「……もし連中が見つけたら宝を取られてしまうのでは?」
「「「あ」」」
同じ海賊ならあんな小舟から略奪するなんてどうってことないだろう。
だが……。
「ちょっと! もっと早く言いなさいよ! もし船が見つかったら私の宝が取られちゃうじゃない!」
だよねぇ、ナミは見過ごせないよね。
ナミはおれの肩を掴むとぐわんぐわんと揺らしながら。
「あんた責任取って回収してきてよ!」
「うぇ、私が行くんですか?」
「あんたなら空飛んですぐでしょ。その間に敵が来ても剣士ならゾロがいるし暫くは大丈夫よ」
いやまあ確かにゾロの方が優秀な剣士だけども。
パシられるなら馬鹿正直に思ったことを言うべきではなかったか。
「じゃあちょっと行ってきますね、ここは任せました」
空を飛んで北の海岸を目指す。
海岸までは飛んですぐだがその間に朝日が昇り始める。
夜明けの時だ。
すぐに戻って来るからどうか無事でいてくれ! なんてあいつら(ルフィとゾロ)に要らない心配をしつつ飛んでいると見えてくるのは船首が黒猫の巨大な海賊船。
うおおおーっ! と雄叫びをあげる男たち。
……なるほど。
どうやら奴らはあっちの海岸ではなくこっちの海岸から攻めてくる計画だったようだ。
「作戦失敗じゃないですかァ!!」