私が死ぬ場面には、三行しか使われていなかった。
『抵抗する。剣が胸を貫く。倒れる』
そのあとには、私を倒した人たちの会話が続いている。
傷の痛みよりなにより、それが気になった。
かといって、この本に書かれているように、胸に剣が刺さっているわけではない。五体満足に私は立っているし、指先も動く。ただ、目の前に開かれた本の中で、少し先の私が死んでいた。
どうして私の名前があるのだろう。
どうして、まだ言ってもいない言葉が書かれているのだろう。
そう思ってページを戻し、その思考すらも既に書かれていたことに気が付いた。
誰にも話していないことだった。当たり前だ、今思っただけなのだから。
しかし、事実、過去に話せなかったこと、今のように話すほどでもないと飲み込んだこと、そんなものまで、他人の言葉で説明されていた。
なんだ、これは。
私は本から手を離そうとしたが、手は鉛のように重く、意思は反映されない。
どうしてか、ひやりとする汗と、それとは相反して烈火のごとき熱さが目から零れる。
紙は濡れたというのに、文字は消えない。
それに恐ろしさを感じて、指を引っ込めた理由まで、次の行に書き足される。
いや、既に書かれていたから、そうしたのかもしれない。
「……やめて」
声にすると、その声ももうあった。私が声を上げるよりも前に、既にそこに載っていた。
恐ろしいという感情はもう離れなくなっていて、新しく感じたことは、『嫌だ』ということだ。
見られていることより、私より先に私を知っているものがあることが、どうしようもなく嫌だった。
これは、全知全能の書。
世界を記した本、世界を創った本。そう語られている。
その力の一端に触れれば、私が知らなかったことも分かるのだと聞いていた。
知りたかったのは、もっと小さなことだったのに。
まだ知らぬの危機から生き延びる方法だとか、『持っている』失くしたものの行方とか、誰かが私に向けた言葉の、本当の意味とか、ああ、なんだ、意味が分からない。
私は、別に、こんなものを見るつもりではなかったんだ。
人生が教科書通りにいかないことは知っているが、罰というものもここまで明確ではない方法でやってくるのなら、それは確かに恐ろしいはずだ。
縋るように見たページの上に、見慣れない文字が浮かんでいる。
作品名。
原作。
登場人物。
そして、二次創作。
その意味を理解するより早く、それらに付随する情報が頭の中に入ってくる。
仮面ライダーセイバー。
仮面ライダーセイバー外伝。
神山飛羽真。
トーカ。
主人公と、敵役。実に単純な構図だ。
私は、後者だった。
私があれほど憎んだものも、どうしようもなく欲しかったものも、私をここまで歩かせた出来事も、誰かが考えたものだったのだ、と。ああ、神よ、なんて慈悲深い御心だ、ここまでサポートするなんて親馬鹿だなあなた様は、と。
それだけなら、まだよかったのかもしれない。
誰にだって、自分では選べない、事の始まり、きっかけがある。
そういうものだと諦めることは、今までだってしてきた。人生は教科書通りではない。いつだって予想外の連続で、だからこそ生きる価値がある。そう、詩で読んだか、どうだったか。
けれど、ああ、私の始まりは、私の物語のために用意されたものですらなかったと?
既にある世界に、あとから付け足した人物。蛇足だ。
誰かを引き立てるための敵。自分本位には生きられないと。
その役割が終われば、三行で片づけられる命。ああ、もう、こんなに思考にページを割いたから、あと数ページで私は死んでしまう。
「...そう、そうなんだ」
頷いてみる。形から入るタイプなんだ、いつものようにしてみた。声は、思っていたより普通だったように思う。まあ、この本にもそう書いてあるし。自分としては、もっと叫ぶものだと思っていた、床に膝をついて、泣いて、何もかも壊したくなるものだと。慟哭とでもいうのかな。
実際には、立っているのが少し疲れただけだった。なんてことはない。視界も良好。だから椅子を探して、近くにあったものに座る。硬い椅子だな、もうすぐで死んでしまうんだからいい椅子がいいのに。
...それも書いてあるのだろうか。
もう、確かめる勇気など私にはかけらもなかった。椅子に座って、腰が抜けたのかな。
開いたままの本を、遠くから見る。これが、もし神様か何かで肉体があれば、恨んで殴れたのに。それもままならない。
私が死んだあとも、素知らぬ顔して物語は続く。
誰かが悲しんでくれるかもしれない、覚えていてくれる人もいるかもしれない。
でも、その人たちの記憶に残る私は、やっぱり敵役のトーカだ。
神山飛羽真とか言ったやつの、引き立て役で死ぬんだ。嫌だ、そんなの。
私だって、主人公がいいよ。昔読んだ詩には、人は誰もが自分の人生の主人公だと書いてあったじゃないか。でも、それもこの本に書いてある戯言? .そうだとしても。
「これも、本なら...? 主人公なら」
口にしてから、顔を上げる。
神山飛羽真の物語は、まだ終わらない。それは、この本の主人公だから。
傷ついても、間違えても、その先を書いてもらえる。それは、この本の主人公だから。
あの人には、続きを与えられる。それは、この本の主人公だから。
「主人公に、なれば……」
ひどく幼い考えだと思った。けれど、同時に世界で一番賢い方法だとも。
主人公になったところで、創られた人間であることに変わりはない。それでも、借りものの世界に付け足された名前ではなく、その世界を始める名前になれたら。
私の存在が、誰かのついでではなくなったら。
そのとき、私はホンモノになれるのではないだろうか。
机の端に置いていた黒い本を、手元に引き寄せる。
不死鳥の物語と、歌う幻獣の物語、それらを参考にして組み上げた、まだ名前のないワンダーライドブック。ここに訪れて、私の詩が変化したものだ。嫌なものを想像した。そんなはずはないので見ないでおこう。
私は表紙に触れる。冷たいが、なめらかで、触っても本とは分からない。
全知全能の書が見せてしまった、世界の継ぎ目。そこから流れ込んだ力が、指先を通して本に染みていく。
既に書かれたものを、正しい筋道へ戻す力。
既に書かれたものを、別の筋道へ変えてしまう力。
似ているのに、互いを許さない二つが、小さな背表紙の中で軋んでいた。
私はそれを、両手で押さえる。痛くても離さなかった。
やがて表紙に、黒い太陽が浮かぶ。
その前を横切る、薄い月の輪郭。
君は、そんな名前だったのか。
エクリプスモルガーナ...!
黒い本が開く。
『それは、太陽をも蝕む、悲しき魔女の物語...』
誰かに読み聞かせるような声だった。
私の書いた、私だけの話なのに。
やっぱり、私の物ではないのだなと思った。
*
朝、目を覚ますと、知らない天井があった。
正確には、知らないはずなのに、知っている天井だった。
ここで何度も目を覚ました記憶がある。覚えはないが。
夜遅くまで原稿を書いて、机に伏せたまま眠ってしまったことも、締め切りを気にしながら階段を下りたことも。
思い出せる。
ただ、そのどれも、私が経験したものではなかった。
枕元の時計が鳴っている。手を伸ばして止めると、部屋が静かになる。
しばらく、そのまま座っていた。
昨日までの私なら、こんな部屋には住んでいない。こんな寝間着も持っていないし、窓辺に花を飾る習慣もない。壁に掛けられた服を見て、胸の奥が少し冷える。
あの人らしい服だった。私は立ち上がって、鏡の前に行く。
そこにいるのは、私だ。私、トーカの顔。
けれど、机に置かれた原稿用紙には、違う名前が書いてある。
神山飛羽花。
ペンにも、名刺にも、同じ名前が刻まれていた。
出版社から届いた封筒も、読みかけの手紙も、その名前を疑っていない。
「飛羽花」
口の中で転がしてみるが、どうも呼びなれないし、少し恥ずかしい。
自分の名前なのに、誰かに呼びかけているようだった。
何かないかと引き出しを開けると、赤い本が入っていた。
ブレイブドラゴンワンダーライドブックだ!?
驚きはそのままに、その下に、黒い本を隠す。指が表紙から離れかけ、躊躇して、引き出しを閉じた。
できることなら、ずっと持っていたかったけれど。だって、この部屋で、本当に私のものだと言えるものは、それしかなかったから。
けれど、主人公はそんな本を持っていないから。
少なくとも、今はまだ。
「……大丈夫」
鏡に向かって笑ってみる。口角が上がりすぎたので、少し戻す。
もう一度。まだぎこちないが.これなら、たぶん。
「おはよう」
知らない私が、私に挨拶をした。
*
階段を下りると、まず、木と紙の匂いがした。次いで、インクの香りもかすかにする。
ここは、ファンタジック本屋かみやま、という場所だ。
看板の文字を確かめるまでもなく、私はその名前を知っている。棚の並びも、レジの扱いも、どこに何を置いているかも。
誰かの人生を、そのままなぞらえているようだった。
体の覚えているままに開店の支度をしていると、戸口から子供が顔を出した。小学生になりたてくらいの、ガキンチョだ。
「とーかせんせい、いる?」
はて、誰だ...と、私は振り向く。私のことだった。
呼ばれた名前に反応するまで、ほんの少し間があった。
子供は気づいていないのか、はたまたそんなことはどうでもいいのか、そのまま店に入ってきて、一冊の絵本を両手で差し出した。見覚えはない。
「おはよう。今日は、それを読んでほしいの?」
「うん、昨日の続き」
昨日の続き? ああ.
この子は窓際に座った、私が本を読んであげたが、途中で母親が迎えに来た。最後まで読めなかった。また明日と指切りげんまんをして、帰っていった。
そういうことになっている。
「……そうだったね」
絵本を受け取り、椅子を引く。
座った子供の靴が、床に届かず揺れていた。ぼうっと、その様子を眺めていたが、肘で突かれて慌てて絵本を開いた。
「えっと、どこまで読んだっけ」
「お月さまが、いなくなるところ!」
ページを開く。月がないところを、そんなに楽しそうに言うかね。
夜空の絵。私はゴッホのが好きだが、なかなかこの本のも悪くない。
月を探して歩く、小さな動物。私は文字を追って、声にする。中々の美声ではなかろうかと、子供に目線をやるが、本に夢中のようで早く読めとすげない。
しかし、思っていたより、うまく読めている。子供が続きを待っているので、あまり止まることもできなかった。
物語の最後で、月は帰ってくる。どことなく、祭りがないだけの天岩戸だなと思った。
みんなが喜んで、夜道は明るくなる。対価に何か差し出しすのかと思ったが、みんなが心配しているとだけ告げると、謝って小さな動物君についていくだけだった。教育の要素はそこだけだ。
「お月様もどってきて、よかったね!」
子供が言う。まあ、子供にはハッピーエンドでも見せておけば、丸く収まるか。お月様だけに。
今のはないな。
「……うん」
私は本を閉じる。読むのも、なかなかに面白い。声に出すとなおさらだ。それだけに、悔しいし、憤慨したくなる。
「帰ってこられて、よかった」
「先生、お月さま好き?」
「──」
少し考えてから、頷いた。
「たぶん」
「たぶん?」
「まだ、考え中なんだ。太陽よりは好きだと思う」
子供は不思議そうにしたあと、それ以上は聞かなかった。興味が薄れたらしい。次はねー、と本を選んでいるが、頑なに太陽関連の本は手に取っても思い出したようにしまっている。
その気遣いが、少し痛かった。
しばらく遊んでやっていると、店の外に母親が来て、子供が弾かれたように椅子から下りる。
「いつもありがとうございます、飛羽花先生」
小さな手が振られる。反対には、ふくよかで優しそうな手が握られていた。
私は、笑って振り返す。子供は角を曲がるまで笑顔で手を振っていた。
見えなくなってからも、私はしばらく手を下ろせなかった。
あの子は私を知っている。
昨日のあの子だけでなく、今日過ごしたあの子も。
この店で本を読んでくれた人間として、私を覚えている。
そうなるように、書き換えたから。
感謝されたのは、私だった。
けど、感謝されることをしたのは、一体誰だったのだろう。
そう思うと、練習したはずの笑顔も、うまくできなかった。
*
異変が起きたのは、昼前だった。
先ほどの子供が忘れ物をしていたので、それを届けるついでに出版社に寄ろうとしていた。
その途中、近くで誰かが叫んだ。
「なんだよ、あれ!」
その人が指さす方向を向け、見上げた空が、ありえない色をしている。建物の輪郭がほどけ、巨大な本のページみたいに、街の一部がめくれ上がっていた。
始まった!
そう思ったのと、走り出したのは、ほとんど同時だった。腰のあたりからブレイブドラゴンを掴む。明確にどこかは私にも分からない。
どうしても持ってきてしまっていた黒い本は、服の内側へ押し込んだ。
現場周辺では、人々が逃げ惑っていた。慌てて転び、叫びながら人にぶつかり、子供は泣いていたり、不思議と笑っている子もいる。
私はそんな流れに逆らって走る。
どうなるかは知っている。ここで''あの''炎の剣に出会うことも、『私』がそれを抜くことも、この異変を止めることも。
知っているから、走れる。そう思っていた。
路地から子供の泣き声と母親の叫びが聞こえるまでは。
振り向くと、朝の子が倒れていた。探してもいなかったが、ここに居たか。足元の地面が割れ、片方の靴が、その隙間に落ちている。母親は少し離れた場所にいたが、こちらへ戻ろうとして、逃げる人とぶつかっている。自己中どもめ。
「あぁっ...!」
私の足が止まる。
はたして、こんな場面が、あっただろうか。知らされた物語の筋道を、頭の中でめくる。
子供、街の異変、炎の剣。
どこまでが同じで、どこからが違う。
「あっ、と、飛羽花先生……! こ、子供がッ! うちの子がぁッ!」
分からない。
分からないまま、どうしてか、私は走った。頭は働かないが、体だけが熱くなる。
転びそうになりながらがむしゃらに走り、子供の腕を掴んで引き寄せると、さっきまでその子がいた場所が、音を立てて崩れた。
抱えた体は軽くて、けれど、文章越しに見たものとはまるで違っていた。暖かくて、小さい。
服を掴む指が痛いし、耳元で泣かれると、何を考えていたのかも分からなくなる。
けれど、口は勝手に言葉を紡いでいた。
「大丈夫っ...!」
私は、この子に届くように言った。
だって、主人公なら、そう言うから。
「大丈夫、私はここにいる」
もう一度言ったのは、服を掴む手が、まだ震えていたからだった。
子供は泣きだしてしまったが、手の震えは弱まっていた。人混みを抜け出した母親に子供を渡す。
頭を下げられても、泣いて感謝されても、うまく言葉が出てこない。早くここから逃げて、とだけ伝えて、お辞儀をして去っていく背中を見送る。
痛い、と頬に手を当てると、傷ができていた。それに、何故か口角があがっていた。これで痛みを感じたようだ。
恐る恐る触れると、血がつく。
私はそれをまじまじと見た。
私の...私の、血だ。
筋書きを知っていても、痛いものは痛かった。また、頭が真っ白になる。
「そこのあなた!」
鋭い声に、はっとして、そちらを振り向く。
そこにいた青い装いの剣士が、こちらへ駆けてくる。
彼女は.『新堂黎』、というのか。名前を思い浮かべると、別の名前が、その下から透けて見えた。
新堂倫太郎。仮面ライダーブレイズ。私は瞬きをして、目の前の姿だけを見る。
「ここは危険です、すぐに離れてください」
丁寧な声、強張った表情。腰の剣に添えられた手には、迷いがない。それでも視線は、私の頬の傷に一度だけ止まった。
「……あら、怪我をしていますね」
「かすっただけ。それより、まだ人が」
「それは分かっています。ですが、あなたまで残る必要はありません。僕が対処します」
厳しい言い方だった。ただ、厳しくしようとしているのが、分かる言い方でもあった。
この人も、書き換わっている存在だ。
私が触れた物語の中で、姿を変え、名前を変え、それでも、誰かを守ろうとしている。
組織しか頼れない人。その組織のために、自分が頼ることはできなくなった人。頭に入ってきた情報を、私は一つずつ追い払う。
目の前にいる相手を、説明文で片づけたくなかった。例え、憎くて羨ましい主人公の仲間だとしても。
「でも、あなたは?」
「……はい?」
「私を逃がしたら、あなたは残るんでしょう」
「僕は剣士です。それが役目ですから。メギドなどには負けません」
当然のことを説明する声だった。私は、その当然が嫌いだった。
敵だから。剣士だから。主人公だから。
そんなものを、何の疑いもなく受け入れられるのが。
「私も、私にできることをする」
赤い本を見せる。途端、黎の表情が変わった。
「あなた、それを、一体どこで……」
その問いに答える前に、轟音がした。崩れた街の向こうに、異形の姿がある。怪物は、メギドは、街も人もおかまいなしに攻撃を続けている。
人々の悲鳴。建築物が崩れ、地鳴りが響く。
そして、炎が燃える音。その中に、剣が見えた。
火炎剣烈火!
私を、待っている。私ではない誰かを、待っている。私は赤い本を握り直す。けど、今は私がその『誰か』だ。
服の内側で、黒い表紙が胸に当たった。冷たい感触が、私に現実を見せてくる。
ここで抜けば、いよいよ始まる。
神山飛羽花の物語が。私が主人公のお話が!
「待ってください、何をするつもりです!」
黎の声を背中に受けながら、私は炎へ手を伸ばす。後ろから、黎の制止する声が聞こえた。
「あなたには無理です! いくらあのライドブックがあっても、普通のホモ・サピエンスには.!」
大丈夫、抜ける。そう、怖くないはずだった。主人公には抜けるから。
そういう場面なのだから。それなのに、やはり指先が震える。もし、剣が私を拒んだら。もし、この世界が、まだ私をトーカと呼んだら。
そう考えると止まらなくて、腕を伸ばした姿勢のまま、動けなくなった。
「飛羽花先生!」
さっき、助けた子の声だ。母親に抱かれたまま、遠くから私を見ていた。
「──―がんばって!」
私は、息を吸う。肺がはち切れんばかりに。
あの子が呼んだのは、私の名前じゃない。私が与えた記憶の中の、違う私の名前。
それでも、さっきあの子を抱き上げた腕は、間違いなく私のものだった。
確かに、怖かった。でも、離さなかった。
それまでもを嘘だったことには、したくなかった。
決心して、勢いよく柄を掴む。熱が掌に集まる。熱いッ!このままでは焼ける! と思ったのに、剣は、私の手を傷つけなかった。
そのことが一番悲しかったのは、なぜなのか。
「……物語の結末は」
知っている言葉を、口にする。
私の言葉ではない。
今は、まだ。
「──―私が決める!」
剣を抜く。勢いあまって転びそうになるが、何とか耐える。
周囲の炎が、火炎剣烈火に集まっていく。
聖剣ソードライバー!
手に剣を収めた瞬間、腰に現れたもの。その使い方も、もう知っていた。そうして知っていることが、今だけはありがたかった。
片手でブレイブドラゴンワンダーライドブックを開く。
ブレイブドラゴン!
かつて、全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣が居た...
ブックを閉じ、ドライバーに装填する。
手順を一つ終えるたびに、逃げ道がなくなっていくのを感じる。
この先へ行けば、もう、知らなかったとは言えない。
それでも、他人の場所だと分かっていても、私はそこに立ちたい。
そのために、私はここにいるんだ。
「...変身!」
烈火抜刀!
ブレーイブドラゴーン!!
読み上げられるその題名とともに、炎が体を包んだ。
烈火一冊!
猛火と感じられるその炎は、私には熱くはなかった。心の炉に薪をくべられているような、そんな眩しさをしている。
剣から伝わるままに、炎を巻きながら舞う。赤い装甲が手を覆い、視界が変わっていく。
剣を握る力が、さっきまでとはまるで違っている。どこを握ればいいのか、分かる。
勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の
仮面ライダーセイバー。
その名前が、私の名の上に重なった。
火炎剣烈火!
「火炎剣烈火、か...これからよろしく、ねっ!」
これから長い付き合いになる相棒(相剣?)に挨拶をしながら、私は目の前にいるメギドに切り掛かった。