「デザインド………」
まさかキヴォトスにも強化人間のような技術があるとは。
やはり技術者は同じような思考回路をしているのだろうか?
「知ってるんですか?」
「………いや」
「似たようなものを知っているだけ」
「…そうですか」
イムが咳払いをし、続ける。
「コホン。元々はスポーツ科学の延長線上にこの研究が行われていて、トレーニング効果を伸ばしたりより効果的なトレーニングを編み出すことが目的だったんです」
「私が入部する5年前からその計画がありました」
「入部して三ヶ月後、この計画は実現可能というところまで進行し、私はその実験が危険な事を知ってからC&C………ミレニアムの治安維持組織に情報を流し始めました」
「結果、手術をする直前に現場を抑えられ、その場にいた全員が矯正局送りになりました」
「手術を受ける予定だった子はブラックマーケットから攫った子で、めでたくその子はミレニアムに保護されて新しい生徒になりました」
「私は捜査に協力していましたし、調査が入るまで手術を出来る限り引き伸ばしていたので矯正局行きではなく退学になった、という感じです」
………………。
沈黙が流れる。
「なんか………ごめん」
「別に良いんです、もう過去のことですから」
………私は、イムには恩がある。
傭兵として働けたのは彼女のおかげだろう。
私は前世、
返せる人には返すべきだ。
まだ、生きているのだから。
「まだミレニアムに戻りたいと思う?」
「ミレニアムとは言わず学校には行きたいです」
「まぁ、無理だとは思いますけど。前科があるし」
一つ疑問を覚えた。
「………そんなに行きたいか?」
「ええ」
イムが笑う。
「楽しかったので」
私は学校に行ったことがなかった。
ルビコンにも学校はあったが、傭兵と学生の両立は出来なかった。
"普通の人生"というものには欠かせない大切で素敵なものだったのだろう。
「………もし」
「もし……他の学校になら戻れると言ったら?」
イムは目を見開いた。
「出来るんですか!?」
「ああ」
「因みにどういう方法で?」
「ヴァルキューレ警察学校のサーバーに侵入して経歴を書き換える」
データのハッキング能力については問題ない。
エアやカーラには劣るが、教えて貰った技術がある。
今試しにカイザーのサーバーをハックしてみると驚くほど簡単に侵入出来た。
罠ではないかと疑うくらいには。
私の世界に比べてミレニアムと政府である連邦生徒会のサーバーを除けばこちらのセキュリティ技術はかなり低い。
データの改ざんくらいなら容易にできる。
「つまり、過去をなかったことにする」
「ただ、紙の情報はどうしても残るからそれは少し工夫が必要だけど」
イムが驚きの眼差しを向ける
「もちろん犯罪に抵抗があるなら───」
「ないです!」
「あぁそう…」
即答だった。
カツアゲしていたくらいには犯罪に抵抗がなかったので分かりきったことではあったが。
………未遂とはいえカツアゲした相手に普通頼むものだろうか。
無粋な考えを頭を振って追い返す。
「そうだ、モモトーク交換しません?」
イムが携帯を差し出した
そこにはQRコードが映し出されていた
「モモトーク………ああ連絡用アプリか」
カメラアイでスキャンし、脳内デバイスからイムにメッセージを送る
「………今どうやってメッセージを送ったんです?」
「企業秘密」
そんな訳で、イムのために傭兵稼業を続けることにした。
「じゃあ、私こっちだから」
「ああ」
イムが手を振る
「じゃあ、またね!」
「───ああ」
イムがスキップ混じりに歩いていく。
私は彼女が見えなくなるまでその背中を見つめていた。
………またね、か。
イムの言葉を反芻する。
さようなら、レイヴン
エアの言葉も思い出す
言い切る前に反撃したがこう言いたかったのだろう。
エアは私にさようならと言った。
また会うことはないから。
もう二度と会えないから。
イムはまた会えるからまたね、と言ったのだろう。
まったくもって当たり前のことだが、当たり前だからこそ大切なものだと思う。
イムと別れた後、コンビニで明日の朝ごはんを買った
ミールワームの蒸し焼きがなかったので適当なおにぎりを二つ買った。
しばらくぶらぶら歩いていると人気のない廃ビルを見つけた。
「誰かいるかー?」
返事はない
肩からリュックを降ろす
荷物から寝袋を取り出し、広げる
脳内デバイスのタイマーを6:00にセットした。
寝袋を広げ、もそもそと入り込む。
………背中が痛い。
エアーマットでも買った方が良かっただろうか。
『おやすみなさい レイヴン』
『621 今日は休め』
聞こえた方向に視線を向ける。
月明かりがリュックを照らし、付属していた反射板が光を受けキラキラと輝いている。
人の気配はなかった。
…また幻聴か
この幻聴が消える日は来るのだろうか
それとも これは罰なのだろうか
数十億もの人々を焼き払ったことへの。
そんなことを考えながら 私は眠りに落ちた。
イムの行く学校
-
アビドス
-
ゲヘナ
-
トリニティ