異世界立志伝〜チュートリアルで滅ぼされる悪役貴族に転生した俺、ゲーム知識と固有スキル『改造』を駆使して、最強領主に成り上がる〜 作:未来人A
「嘘だろ!?」
夕食を終えた後、俺は叫んだ。
空の食器を片付けているメイドが、いきなりの叫び声に驚いている。
とんでもない記憶を思い出してしまった。
俺、ハリス・アンサルはオープンワールドシミュレーションゲーム、『ロードオブエンペラー』のキャラクターだ。
ルタという領地を治める、領主である。
十六歳になる今まで完全に忘れていた。
そして、俺は前世でそのゲームをやり込んでいた。
なので、ハリスがどんなキャラかもわかっていた。
どんなキャラかというと……
チュートリアルで死ぬ悪役貴族である。
「や、やばいな……」
俺の呟きに、メイドが不思議そうな表情を浮かべている。
「えーと……メイドさん。今は神暦965年の8月9日で合ってますよね」
「は、はい」
「あ、ありがとう」
「ハリス様がお礼!?」
やっぱりか……何かの間違いであって欲しかったが……
俺は立ち上がり自分の部屋に戻る。
自室の扉を開け、中に入る。そして、扉を閉めた。
「ど、どうすんだこれ!?!? なんでハリスなんかに転生してるの!?!?」
頭を抱えて俺は叫んだ。
ロードオブエンペラーはオープンワールドのゲームである。
明確な悪役は少なく、選択肢によって変わっていく。
全キャラが味方にもなれば、敵にもなる。
ただ、チュートリアルだけは、展開が一緒だ。
ゲームの主人公が反乱を起こし、ハリスという悪役貴族を倒して、領主になる。
そこから自由に領地運営をすることができる、という展開からスタートする。
故にハリスだけは、絶対に死ぬし、仲間にはならない。
これ以上ない不遇なキャラだった。
もっとも、性格は最悪で民を弾圧している、最悪の貴族なので、ゲームプレイ中同情したことはなかった。
ハリス本人に転生したとなると、話は別である。
「そして、今は神暦965年の8月9日。反乱が起こるのは……神暦965年の8月10日。つまり明日だ!!」
ゲーム知識がある俺は、いつ何が起こるのかしっかりと把握していた。
明日に反乱がおこる。
そこで、ハリスはあっさりと殺されてしまう。
どうする……?
今から反乱軍と戦って勝つことは可能か?
俺はロードオブエンペラーをかなりやりこんだ。知識も相当ある。
しかし、ハリスと反乱軍の差は絶望的だ。
チュートリアルなので、絶対に主人公側が負けないように設定されている。
数日用意してくれればなんとなるが、明日は流石に……
今は夕方だ。
反乱は明日の朝に起こる。
準備する時間は少ない。
ハリスは、すぐ死ぬキャラだが、とある有能な『固有《ユニーク》スキル』を持っている。
ただ、そのスキルは戦闘には直接は使えない。
……こうなったら。
「逃げるしかない」
そう結論を出した。
この屋敷を脱出する。
その後は貴族の身分を捨て、浪人となってしまうが、死ぬよりはマシだ。
ロードオブエンペラーの知識もあるし、ハリスには使える知識もある。
何とかなるだろう。
俺はそう決めた。
部屋にある金目のも物を持つ。
金があれば、やれることも多い。貴族だし、金目のもものは部屋にあった。
あまり持ちすぎると、重すぎて動きが遅くなるので、部屋にあった金のネックレスと指輪の二つだけにしておいた。
その後、食糧庫に行き、保存食を持ち出す。
乾いたパン。
それから水を持った。
数日はこれで持つだろう。
この屋敷には非常用の隠し通路がある。
そこから脱出することにした。
ちなみに、ゲームのチュートリアルでは、隠し通路から出ようとしたハリスを、主人公が追いかけ、最終的に追いついて倒す、という流れで終わる。
今なら安全に抜け出せるはずだ。
「……一応書き置きをしておこう」
ただ逃げると、追手を出される可能性もある。
この領地の権利は全て譲ると書いてしまえば、追いかけられなくなるかもしれない。
俺は手紙を書いた。
反乱軍のリーダーにルタの権利を譲ると書く。
リーダーの名前、つまりロードオブエンペラーの主人公の名前だが……これは分からない。
名前も性別も全て設定できるからだ。
デフォルトネームみたいなのもない。
この世界での名前は不明だ。
まあ、あとでルタの新領主の情報が入ってくれば、分かるだろうが。
手紙を書き終えて、自室のテーブルの上に置く。
その後、自分の部屋にある本棚をずらす。
通路が出てきた。これが隠し通路である。
そこを通り、俺は屋敷から脱出した。
○
「さて……これからどうするか……」
屋敷から無事に脱出に成功した。
隠し通路は屋敷から少し離れた森につながっていた。
ここなら反乱軍にも見つからないだろう。
この森には危険な生物も確かいない。安全な場所だったはずだ。
今は夜なので下手に動かず、ここで夜明けを待った方がいいだろう。
木陰に隠れ、持ってきた食事を食べながら、これからどうするか考えていた。
これから先どうするかを考える。
ロードオブエンペラーというゲームは、かなりシビアな世界観のゲームである。
アールマディアという、八つの国が争い続けている世界を舞台にしている。
戦は日常茶飯事。
治安も最悪だ。
野盗や人狩りが跋扈しており、ちょっと油断したらすぐに奴隷にされてしまう。
今の俺は屋敷から脱出した身。
味方もいない。
悪役貴族で性格最悪のやつだったので、頼れる人もゼロである。
最悪の状況と言えた。
ゲームをしていた時は、奴隷になろうが、死んでゲームオーバーになろうが、やり直せば済む話だが、今は現実である。やり直しは効かない。
絶対にそんな目には遭いたくない。
この世界で安全に生きる方法はただ一つ。
力を持つことである。
「成り上がるしかないか……!」
ロードオブエンペラーの知識なら豊富にある。
こういう状況から成り上がるというプレイも可能なゲームである。
というのも、ロードオブエンペラーは通常は領主ルートと言って、領主からスタートするのだが、領主プレイをクリアした後は、浪人ルートというモードが解放される。
何も持たない状態からスタートするシビアなモードだ。
ゲーム知識がなければ、一瞬で奴隷にされる。
もちろん俺はロードオブエンペラーをやり込んでいるので、浪人ルートも何度もクリアしていた。
それを思い出しながら生きれば、何とかなるはずだ。
てか、何とかしなければまずい!
死ぬのも嫌だし、奴隷になるのももちろん嫌だ!
「絶対に成り上がってやる……!」
俺はそう心に誓った。
〇
翌日。
俺は目覚める。
草の上で眠っていた。最悪に近い目覚めである。
体のあちこちが痛いが泣き言は言ってられない。
早速行動しなくては。
浪人ルートはまずは金を稼ぐところから始める。
金がなければ何もできないからな。
指輪とネックレスを持ち出せたので、最低限の金は用意できるが、これでは全然足りない。
ただ、元手があると増やしやすい。持ってきて良かった。
それと同時に、仲間集めも並行して行う。
ロードオブエンペラーでは、大量に仲間に出来るキャラが存在する。
400人は超えていたはずだ。
それぞれのキャラに固定のステータスがある。育成要素もあるが、初期ステータスから大きく成長はしないので、優秀なキャラを仲間にしていく必要がある。
ちなみにロードオブエンペラーのステータスは、信〇の野望みたいに、統率、武力、知略、政治という感じになっている。
基本能力に加えて、適性、さらにスキルがある。
俺は全キャラのステータスをほぼ暗記していた。
誰を仲間にすべきか、そしてそいつがどこにいるかも分かっている。
「まずは……ミゼラルに向かおう」
俺は結論を出した。
ミゼラルはこのゲームに存在する都市の名前だ。
俺の治めていたルタより、はるかに規模の大きな町である。
ここより少し遠い。ルタから近すぎる場所に行くと、危険そうである。書置きはしていったので、探し出して殺されるということはないかもしれないが、それでも反乱軍の人間とばったり出会ったら、殺される危険性がある。
少し離れた町なら、ばったり出くわす心配もないだろう。
ただ、あまり離れていると、食料が切れてしまう。
ミゼラルはちょうどいい距離にある街でもあった。
さらに、ミゼラルには優秀なキャラがいる。そいつを仲間にもしたい。
「よし、行くか」
俺は森を出て、ミゼラルへと向かった。
○
それから無事、ミゼラルに到着した。
道中、人狩りなどに見つかりづらいルートを歩いてきたので、何とか何事もなくたどり着けた。
ミゼラルは事前に知っている通り、大きな町だった。
肌の色が違う、様々な人種の人たちが歩いている。
ロードオブエンペラーには、亜人みたいな存在は少ない。
エルフのような種族もいるが、基本は現実世界の人間と一緒である。
白人種、黄色人種、褐色人種という感じで肌の色が違っている。
ちなみに俺は白人である。
早速、持ってきた指輪と首輪を売ろう。
俺は市場に向かう。
貴金属を買い取ってくれる店に入り、販売した。
2万ミアを手に入れた。
ミアとはアールマディアで使われている、通貨の単位だ。
2万ミアは結構な額である。
これだけあれば、一人で生きるなら半年は生きれる。
あとは……服を変えたいな。
俺は貴族が着る高級な衣装身に着けている。
こんな服をこのまま着続けていたら、野盗に狙われやすくなる。
もっと安めの一般市民が着るような服に変えた方が良さそうだ。
服屋に寄って、平民が着ているような地味なデザインの布の服とズボンを買った。
そして、着替える。
着替えた後、元着ていた服はそのまま服屋に売った。
上質な素材を使っていたため、それなりの値段が付いた。
布の服とズボンは合わせて50ミアで、元着ていた服は5000ミアで売れたので、4950ミア儲かった。
中古の服だが、素材が高級だったのでかなり高値で売れた。
現在、2万4950ミア持っている。
初期でこれだけ金があれば、色々やれそうだな。
盗賊に襲われて盗まれたりだけはしたくない。
大事に持っておこう。
平民の服を着たが、この服のまま行動はしない。
俺の持ってる固有《ユニーク》スキルを試してみる。
ハリスというキャラはチュートリアルで死ぬくせに、なぜか強い固有《ユニーク》スキルを持っている。
ゲーム内では一切生かされない設定なので、持っている理由は不明である。設定ミス、製作者の遊び心という説がある。
スキルの名前は『改造』である。
所持している素材を消費して、装備や道具をさらに強いものに改造できるスキルである。
素材さえ持っていれば、スキルを使って一瞬で改造できる。
ロードオブエンペラーのキャラで、このスキルを持っているのはハリスだけだ。
ただ、主人公は全スキルを習得できるので、改造も習得可能である。
俺もゲームで使った経験はある。
どの装備にどの素材を使えば、どのアイテムが出来るかは決まっている。
知識がなければ使い辛いスキルではあるが、俺は全て記憶していた。
俺の着ている布の服は、市場にある安い素材を使って、結構強い服に改造できる。
早速買いに行こう。
ちなみに、前に来ていた貴族服は、レアな素材使わないと改造できない。
市場では入手不可能な素材だ。
今は改造不可能で、持っておくのも荷物になるので、すぐに売った。
俺は素材屋に行った。
目当ての素材がないか探す。
発見。
コボルドの毛皮を二つ購入した。
値段は100ミアだった。
早速これを使って改造してみよう。
「改造!!」
俺はスキルを唱える。
服が光り始めた。
無地だった服に民族衣装のような模様が刻まれた。
そして、少しだけ軽くなった。
軽くなったが、丈夫さは上がっているはずだ。
コボルドの服が完成した。
この世界では経験を積んだ旅人が、よくこの服を装備している。
値段で言うと150ミアくらいする代物である。
布の服25ミアと、毛皮50ミアで、原価は75ミアだ。売れば75ミア儲かる計算だ。
まあ、これは売らずに自分で着るけどな。
貴族服に比べるとだいぶ安いが、性能的にはコボルドの服の方が上である。
ズボンも同じように改造した。
上下軽くなって、動きやすくなった。
これでいて、防御力もそれなりにある。
やっぱり改造スキルはかなり便利なスキルだな。
金策にも使えるし、相当美味しいスキルと言えるだろう。
スキルの使用には、体力を消費する。
無限にはできない。一日十回くらいが限度か。
使いすぎると倒れてしまうので、気をつけて使っていこう。
さて、装備を整えた。
結構な金を手に入れたがまだまだ稼ぎたい。
俺の目標は成り上がり、強い勢力を築くことだ。
領地を手に入れる必要がある。
方法はいくつかある。
名声を得て、どこかの王様の家臣になって、そこで活躍して領地を貰う。
家臣を増やし、兵隊を雇いまくって、どこかの領地を襲って手に入れる、という荒っぽいやり方もある。
一番手っ取り早いのは、金を払って領地を買うことだ。
とある領地を収めていた貴族が断絶して、金で帰るようになっている。
金さえ出せばどんな人間でも領主になれる。
値段は100万ミアである。決して安い金ではない。
この世界の知識がある俺なら、すぐに稼ぎ切れるはずだ。
改造スキルもあるしな。まあ、使用回数に限度があるので、それだけでは大金を稼ぐことは難しいが。
最初に行う金策だが、『交易』を行うのが一番良い。
この町で特産品を買い、別の場所に運んで高値で売る。
別の街に行って、仲間の勧誘もしやすい。
いい方法だった。
交易をするには俺だけでは無理である。
一人で行っても道中にいる人狩りに捕まって、奴隷にされるのが落ちだ。
早速仲間集めをしよう。
ミゼラルには、とある超強力な仲間になるキャラクターがいる。
そいつを仲間にしたい。
どこにいるかも大体わかっている。
そのキャラが好きなものも分かっていた。
俺は『とある物』を市場で購入した。
500ミアしたが、こいつをプレゼントすることで、仲間にできる可能性が上がる。
必要経費だろう。
市場から離れ、住宅街に向かう。
人の家が立ち並ぶ場所に、一軒だけカフェがあった。
そのカフェに入る。
窓際の席にピンク色の髪の少女がいた。短めの髪、アホ毛がぴょこんと出ている。
童顔。顔立ちや肌の色は、黄色人種系である。
かなり小柄で見た目は十歳前半くらいだ。
軽鎧を身につけており、壁に巨大な剣が立てかけられていた。これが彼女の武器だ。
この子が探し求めていた人物だ。
名前はリンカ・ハナリア。
年齢は十五歳。
ステータスは、
統率 85/95
武力 95/105
知力 35/45
政治 30/40
とういう感じだったはずだ。
それぞれの数値だが、50が平均くらいと考えていい。
70を超えたら優秀。
90を超えたら超優秀。
100越えは化け物。という感じだ。
リンカの統率と武力は全キャラの中でもトップクラスである。
特に武勇は全体でもトップ5には入ったはずだ。
ステータスには現在値と限界値が存在している。
一部キャラを除いて、現在値は限界値より10小さく設定されている。
これに加えて、適性もある。
武術 弓術 建築 礼儀 医学 騎馬 軍学 開墾 弁舌 計算 水軍 発掘 魔法 茶会 芸術
この十五個だ。低い適性は0、最高で4まで上がる。
リンカは武術4騎馬4を所持していた。
戦いにおいては無類の強さを誇る。
見た目は少女だが、中身は怪物並みの強さを誇る。
それがリンカ・ハナリアという娘だった。
この世界はならず者が多く危険が多い。
今のところは何とか襲われずに済んでいるが、時間が経てばそうもいかないだろう。
彼女のように腕っ節の強い人間を仲間にできれば、危険は減る。
一緒に旅をするには最適な人材である。
早速彼女を仲間にしよう。
そう決めて、俺はリンカの座っている席に近づいた。