異世界立志伝〜チュートリアルで滅ぼされる悪役貴族に転生した俺、ゲーム知識と固有スキル『改造』を駆使して、最強領主に成り上がる〜 作:未来人A
「ちょっといいか?」
リンカに近づいて話しかけてみた。
「……」
一切こちらを見ず、リンカはお茶を飲んでいる。
その後、ケーキをゆっくりと食べる。
ガン無視だ。
これはリンカが態度の悪いやつだからというわけではない。
この世界は、治安が悪いから声をかけただけだと無視されることが多い。
キャラの好きなものをプレゼントしたりしないと、会話もできない。
この時のために市場で物を買って来ていた。
俺は袋から取り出す。
可愛い猫のぬいぐるみである。
「……!!」
俺がぬいぐるみを取り出すと、こちらを見てきた。
明らかに食いついている。
大剣を使って戦うリンカではあるが、趣味は普通の女の子と一緒だった。
可愛い物好きだったり、甘い物好きである。
「話を聞いてほしいんだ。そしたらこのぬいぐるみをプレゼントするよ」
「……そこの席に座って」
リンカはそこで初めて口を開いた。
可愛らしい声である。
言われた通り、向かいの席に座った。
「それで? アタシに何のよう?」
「交易をしようとしている。君にしばらくの間護衛を頼みたい」
単刀直入に頼みを言った。
「ふーん、アタシに頼むなんて人の見る目はあるようね」
まあ、ステータスを知っているからな。
「報酬は?」
「一月で4500ミア」
「悪くないね」
相場よりちょっと高めの金額を俺は言った。
「受けたいところだけど、今すぐは受けられないわ。実はちょっと面倒な依頼を受けていて、それを終わらせてからでいい?」
「面倒な依頼?」
ゲームの知識があるので、彼女が現在受けている依頼については知っていたが、ここは知らないふりをして尋ねた。
初対面なのに知っていたら、君が悪いからな。
「魔物退治の依頼を受けたんだ。エメラルドタートルっていう亀の魔物よ。甲羅が欲しいらしいわ。受けたはいいけど、見たことも聞いたことのない魔物だし、結構困ってたのよ」
「エメラルドタートルなら居場所を知ってるぞ。協力しようか?」
俺はそう申し出た。
「え? 知ってるの?」
頷く。
「協力してくれるならして欲しいけど……良いの?」
「早く交易を始めたいからな」
「そ、そう。じゃあ、頼もうかしら」
リンカはそう言った。
「私はリンカ・ハナリア。でアンタの名前は?」
「ハリス・アンサルだ」
「アンサル……? どっかで聞いたことがある気が……」
アンサル家は貴族の家である。知っている人は知っている。
「ああ。この国地方貴族と名字が被っているんだ。全くの別人だから、気にしなくていいぞ」
俺の評判はこの世界ではめちゃくちゃ悪い。
別人であると咄嗟に誤魔化した。
「そうなのね。これからよろしくね。ハリス」
「ああ」
リンカと握手を交わした。
「と、ところでそのぬいぐるみだけど……」
「ん? ああ。あげるよ」
物欲しそうな目で見てきた。ぬいぐるみを渡す。
「あ、ありがとう」
頬を赤く染めながら、ぬいぐるみを眺めている。
どうやら気に入ったようだ。
「い、一応行っておくけど、アタシは別にこういうぬいぐるみが好きなわけじゃないから。知人に欲しがっている人がいるから、欲しかっただけだからね」
慌ててリンカは否定した。ぬいぐるみ好きと思われるのは、恥ずかしいようだ。
自分のバックにぬいぐるみをしまう。
「それじゃあ案内してもらうわ。エメラルドタートルの居場所に」
「ああ」
カフェの代金を支払い、店を出た。
○
エメラルドタートルは、ミゼラル近くの洞窟に潜んでいる。
分かりづらい場所にある。
魔物もそれなりに存在する危険地帯だ。
ただ、それほど強力な魔物は出てこない。
リンカと一緒ならば、危険な目に遭うことはないだろう。
街を出て洞窟に向かって歩く。
リンカは大剣を担いで歩いていた。
彼女の身長は140cm台である。剣も自分と変わらないくらいの大きさだ。
剣を持った上で、大きめのバッグパックを背負っている。
腕も太くはないし、体も細身である。
どこにこんな力があるか疑問である。
「ハリス。あんた武器とか持ってないの?」
「ないな」
頷いた。
屋敷を抜け出すとき、武器は所持していなかった。
あまり武器の扱いは得意ではない。
持っていても、それほど強くはならない。
剣は重いので機動力が削がれるので、逆に持たない方が敵に捕まる可能性は低くなると思い、持ってこなかった。
「一応なんか持ってた方がいいかも。ちょっと待って」
リンカはバッグパックを下ろた。
中から短い剣を取り出す。
「これ使って」
「あ、ありがとう」
剣を受け取った。
軽めの良い素材でできている剣である。
「まあ、アンタに敵が行くようにはしないけど、一応持っていおいて」
「分かった」
正直、持たない方がいいかもと思っていたが、せっかくの好意だし無下にするのも気が引ける。
持っておくことにしよう。
そのまま歩き続けて、目的の洞窟に到着した。
「この洞窟内にいるのね?」
「ああ」
「こんなところに洞窟があるなんて、この街には長く住んでいたけど知らなかったわ。ハリスは地理に詳しいのね」
「まあな」
ロードオブエンペラーは相当やりこんでいる。
どこに何があるかは完全に覚えていた。
「じゃあ、早速行きましょうか」
俺はリンカと一緒に洞窟に入った。
○
俺たちは洞窟に入った。
薄暗い洞窟だった。
光を放つ苔がはいていたので、真っ暗ではなかった。
前に進むことはできる。
「ぐぎゃ~~!!」
洞窟を歩いていると、魔物の声が聞こえてきた。
先に進むと10体ほど魔物が出現してきた。
ファンタジーではよくいる魔物、ゴブリンである。
普通のゴブリンにしては体格が大きい。
これはホブゴブリンだ。ゴブリンの上位種である。
それなりに強い魔物だ。
一対一でも俺一人なら勝てない。
もちろん10対1など勝てるわけもない。
袋叩きされて殺されるだろう。
「ちょっと下がってて」
「あ、ああ」
リンカに言われ、俺は後ろに下がる。
「はああああ!」
雄たけびを上げながら、ホブゴブリンたちにリンカは突撃する。
大剣を横に薙いだ。
十体のホブゴブリンが、一斬りで全員真っ二つになった。
ホブゴブリンの死体が地面に散らばる。
「雑魚ね」
「流石だな」
リンカの強さを知っているので、この程度のことでは驚かない。
先に進む。
ほかの魔物も出てきた。
しかし、リンカは一切苦戦せず倒して行った。
さすがは武勇95もあるだけはある。
「お、こいつは」
「どうしたの?」
地面に小さな蜘蛛がいるのを発見した。
こいつはエメラルドタートルの討伐に必要になるものだ。
その蜘蛛を短剣で殺し、その後、拾った。
「何してるの行くわよ」
「ああ」
俺は頷いた。
そのまま先へと進む。
洞窟の最奥まで進んだ。
「この辺りに出るはずだが……」
「本当?」
リンカはキョロキョロと周辺を確認する。
「あ! いた!」
リンカは指をさす。
緑に光り輝く甲羅を持った亀がいた。
間違いない。あれがエメラルドタートルだ。
「よし、早速……」
「待て」
エメラルドタートルを倒しに行こうとするリンカを止める。
「何よ!」
「倒しに行ったら、やつは首を引っ込めて甲羅に籠る。そうなったら面倒だ」
「その時は甲羅ごと粉砕すればいいのよ」
「依頼は甲羅の納品だろ。粉砕してどうする」
「ぐ……」
リンカは強いが頭があんまり良くないという弱点はあった。
「首を引っ込めたら、甲羅ごと持っていけばいいでしょ」
「生きてる状態で依頼人に渡すのはまずいだろ。依頼人は素人なんだろ? 殺されるかもしれないぞ」
「う……それはそうね……」
「それにだ。やつは追い詰めると、自爆するという厄介極まりない特性を持っている。そうなると甲羅は木っ端微塵になる。甲羅を入手するには、一瞬でやつの首を切り取るしかない」
「そ、そうなんだ。詳しいのね」
感心したような表情をリンカは浮かべる。
エメラルドタートルは倒すこと自体は簡単だが、甲羅を入手するのは結構難しい魔物だった。
そのため甲羅の希少価値はかなり高い。
「じゃあアタシが素早く動いて、やつの首を斬るわ」
「待て待て、いくらお前が素早いからって、高確率で気づかれる」
解決方法が脳筋すぎる。
「じゃあ、どうすればいいのよ!」
「こっちに誘き寄せる」
「どうやって?」
「これを使う」
俺はさっき手に入れた、蜘蛛の死体を出す。
「何それキモい」
「これは美蜘蛛っといって、食える蜘蛛だ。味も割と美味しいらしい」
「え? そ、それ食べるの!?」
「食べるか! これはエメラルドタートルの大好物だ。こいつで奴を誘き寄せることができる」
「そ、そうなの」
初耳と言った表情をリンカは浮かべる。
「作戦を説明するぞ。俺たちは物陰に隠れる。美蜘蛛を近くに配置して、エメラルドタートルが寄ってくるのを待つ。寄ってきたらリンカが素早く一撃で首を切り落とす。こうすれば気づかれることなくエメラルドタートルを仕留められる」
「な、なるほど」
感心したようにリンカは言った。
味方が近接しかいない場合の攻略法だ。
弓とか魔法使いとかがいれば、もっと楽に出来るだろうが、今はいないのでこれでやるしかないだろう。
作戦通り実行する。
物陰に隠れ、近くに美蜘蛛を配置した。
息を潜めてエメラルドタートルが来るのを待つ。
「タイミング来たら俺が右腕をあげるから、そこでエメラルドタートルに斬りかかってくれ」
「わかったわ」
のっそりのっそりとエメラルドタートルが歩いてきた。
「も、もう行っていい……?」
「まだだ……焦るな。その時が来たら右腕をあげる」
小声で俺たちは言い合う。
動きの遅いエメラルドタートルに、焦らされているようである。
すぐ近くまで接近してきた。
いまだ。
俺は右腕を上げた。
その瞬間、待ってましたと言わんばかりにリンカが大剣をエメラルドタートルの首に振り下ろした。
攻撃を察知することはできず、エメラルドタートルの首はあっさりと斬れた。
頭がコロコロと地面に転がる。
「やったー倒せた!!」
「よし」
綺麗に首を落とせて安心した。
「あとはこの甲羅を持って帰るだけね」
「そうだな」
リンカは甲羅を持つ。
「ハリスがいて助かったわ。私一人じゃ絶対に倒せてなかった。ありがとう」
「役に立てたようで何よりだ」
リンカは心から感謝しているようだった。
「ちょっと待った。こっちに行っていいか?」
「ん? どうしたの?」
「寄りたい場所があるんだ」
この洞窟には分かりづらい通路がある。
そこに宝箱があるのだが、中にレアな素材が入っている。
ぜひ回収しておきたい。
「わかった。行きましょう」
「ありがとう」
俺は記憶を頼りに隠し通路の位置を探る。
発見。
「へーこんなところに道が。この先になんかあるの?」
「宝箱があるかもしれない」
「そ、そうなの? てかなんでそんなこと知ってんの?」
「……野生の勘だ」
ゲーム知識があると言ってもおかしなやつ扱いされそうだ。
俺はそう言って誤魔化した。
先に進むと、宝箱があった。
「ちょっと待って。罠かもしれないわ」
開けようとするとリンカが止める。
ロードオブエンペラーというゲームには、宝箱に罠が仕掛けられていることが多い。
リンカの警戒ももっともである。
ただし、この宝箱に罠は仕掛けられていない。
何度も攻略したので知っている。
「これは大丈夫だ」
躊躇なく開ける。
罠は仕掛けられていなかった。
中には赤いツノが入っていた。
「これ何?」
「レッドミノタウロスの角だ。結構レアな素材だぞ」
「ふーん」
素材を回収した。
「それじゃあ帰るか」
「そうね」
洞窟を出入り口まで向かって歩き始めた。