〜38歳童貞のTS憑依転生。身体の主(9歳)の遺言が『結婚してくれ』だったんだが〜 作:寺生まれののTさん
1989年9月1日、一般家庭から、とある子が日本に誕生した。その子は、無択ナキと名付けられた。
健全に、健やかに育って…………
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外から声が聞こえる。玄関の扉の前で話をしているようだ。俺はひっそりと玄関までいき、扉に耳を当てる。
「なあ、お前『犬』飼ってるんだよな。大丈夫か?家空けて」
「大丈夫。『エサ』は1週間分ぐらい用意してきたから。勝手に食べるよ」
「ならいいんだが」
その声たちは、だんだんと遠ざかっていった。
それを、聞いて、まずは部屋を見渡した。
「……きったね」
どう考えてもゴミの溜まり場としか思えない……二階がない、いわゆる1LDKの構造だが、全部の部屋がゴミだらけである。
完全にネグレクトだ。
俺は天を仰ぐ。
どうしてこんな家に『憑依転生』してしまったのかねぇ……
『憑依転生』……一言で言うと、一度死んでから、赤の他人に憑依するかの如く転生する現象を指す……
「もっとイージーに頼むよ。時代は楽して最強……そうだろ?」
そうして、部屋の探検をし終わったあと、お腹が空いたので『エサ』を食べに行こうとする。
が、
「は、廃棄のコンビニ弁当……しかもゴミ袋に捨てられている残飯じゃねえか……」
ちとハードな家庭すぎやせんかい?
そう思った時だった。
ふと、髪がすごく長いことに気づいた。いや、意識を得た時から気づかないフリをしていた。背中どころか、腰ぐらいまである。
web小説やアニメ、漫画を読んだり見るのが趣味だった。ほとんど感想は書かないし、評価はたまーにする。そして誤字報告とかして悦に浸る……少し変態気味の野郎だったと思う。
というか、憑依先が男じゃないってことは……
「ぉいおいおいおい……ちょっと待てよ……」
今まで鏡とかなかったからわからなかったけど……
俺は爆裂に冷や汗をかきながら股間をまさぐる…………ないな。小さいとか、短小とかじゃなくて、ない。
…………ショックだ……ヤバいな……どうせ転生するにしても、男に生まれたい人生だった。いや、別に女性が嫌という訳ではないんだが、性別という、現代の技術を持ってしても基本的に変えられない、当たり前の常識を覆されたという事で、かなりしんどい気分になる。
それに、俺はまだ童貞だ。童貞としての誇りを捨てた覚えは……
だが、男として生まれたのなら女を愛し、女として生まれたからには男を愛すのが生物学的に正しい、生産的な行動のはず……
……あーあ、もう現実を見たくなさすぎて、柄でもないことを考え始めちまうよ……
そうして、性別を確認すると、脳裏に流れてきたのは『記憶』。多分、この身体の元の持ち主……『無択ナキ』の記憶だ。
親は離婚済み。そして、子供に興味はなく、最初はコンビニのゴミ箱に捨ててやろうかと思ったが直前でみたニュースで同じようなことして捕まった女性がいたから断念。けれどまともに育てるようなことも忍耐力の問題でやめて、今は生活保護を受けながらそこら辺をほっつき歩き、遊んでいる……
終わってんな……
さて、これからどうしようか……まあ、体は多感な時期なんだから、外にでも行って遊びにいけば良い。単純だが、こんな部屋でぼーっとしてるよりかは幾分マシだろう。
そう言って、外に出ようとした時だった。
「おっと……これも持ち主の記憶かね……」
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『や、やめて……』
『勝手に外に出るなって言っただろ!!』
『……ごめんなさい……ごめんなさい……』
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「中々ルナティックな記憶だな……」
「太陽の光を浴びて、しっかりと運動をし、ちゃんと栄養を摂らないとこの時期ちゃんと成長しないぜ?」
とは言っても、散歩ぐらいはいいだろう。俺は『無択ナキ』の記憶を振り切って外に出た。
家に帰ってからすべきことを考えた所で、目撃することになる。
「なんだ……この化け物……」
外に出て、散歩をしていると、見つけたのは薄気味悪い多眼の、青の化け物だった。
「ぎ、ぎ、ぎ、ぎょぎ、ぎ」
なんだ……これ……気持ち悪い……
「こういう、『元の世界と同じ』、異形がいる世界なのか……?だが……こんなガチで異形!って感じでも、世間さまに隠れた位置にいつもはいたもんだが……」
襲ってはこないようだ……
まさか、妖怪の仕業というやつだろうか。
「あり得ない……とは言えないんだよな。だって、もう転生という現象は起きているんだから」
そう、転生という道理に敵わないことが起きている時点で、前提は崩壊しているのだ。
「TS憑依転生……どう行動しようかね……」
どうせ考えることも、もうほとんどないのだ。妄想に浸るというのもいいだろう。
ご近所さんに見つかれば、どうなるかわかったもんじゃないから、スニーキング気分の散歩になった。
そうして、30分程度の散歩を終えて、散歩していた最中に考えていた、今すべきこと……家の中を再度探し回る。
保険証とカレンダーと、手紙を発見した。これが目的だ。
「えーっと……俺の生年月日は1989年9月1日と……あー、なんか嫌な予想だけど、クリスマスにできちゃった感じかね……」
身長も、確認するが……105cmないぐらいだな……
「今日が1998年の7月4日らしいから……俺は大体9歳前後ってところか……」
遺伝……の可能性もあるが、やっぱり健康的な生活ではないところとか、ストレス、そもそも早産による発達障害か……
まあとにかく、そこまで良い状態ではないと……
そんな中で、確定しているネグレクトとかの情報の渦を持ってこないでくれ。反応に困る。
「手紙も見てみるか……」
『おねがいします。私の力が通じますように。自分がのこせる、きゅうきょくのかのうせいを……わたしの体をこれから使う人へ。私の力は負の力を集めて、体にあるきこうに入れて、発動します』
「……ほう……体に……こう、負の力を集める感覚で……」
……何も起きない……
「……ん?」
よくわからないが、負の力よ!集まれ!としていたら、体に何かが刻まれているような感覚がした。元の体ではなかった感覚だ。
「……なにこれ?」
「……出来ることは無限にあり……そう?」
……おそらく、これが『機構』なのだろう……
俺は、裁縫のピンに糸を通すような気持ちで、そこに負の力と言われているものを通す。
何度も失敗して、2時間ぐらい格闘した。俺に才能はないようだ。でも、ようやくできた……これの使い方は、脳が感覚として理解しているのか、最低限はわかっている……
それにしても、使ったらなんかヤバそうな気配もする……
でも、いざというときの為に、機構の使い方は学んだ方がいいかもしれない。
それに、実験として、一回ぐらいだったら使ってみてもいいんじゃないだろうか。だから……機構に負の力を通して……
「『俺に負の力が自由に扱えないという可能性を否定しろ』」
世界が変わる。因果が変化する。可能性を否定する。世界が変わる。因果が変化する。可能性を否定する。
変化は顕著だった。
「うお……なんかすげえ変な感覚がする……無理矢理、力を使えているみたいな……」
自分の体に負の力が纏われたのを感じる。
「まあ、とにかく、実験は成功……俺の能力……というか無択ナキの能力は『自分の可能性を否定する能力』ってのが言葉にしたら正しいのかな」
『自分の可能性を否定する能力』……
「名前はなんてつけよう?このままじゃ名前長いよな……『神の存在否定』にでもするか?これでもまだ長いけど……」
『自分の可能性を否定する術式』or『神の存在否定』。
「まあ、なんでもいいか……とりあえず、『力』は手に入れた。あとは、普通の日常生活が出来る様な体制をだな……」
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1週間ぶりに家に帰ったら、児童相談所に『犬』が相談していやがった。私は冷や汗を流しながらも、反発する。
「こちらは児童相談所の職員です」
「えっ、ちょっ、なにお前ら……」
「お宅の児童さまが私達に連絡を入れてきましてね。家庭内調査をさせてもらおうかとお伺いにきました」
「拒否権ってありますよね?それ使います」
私は何度も使ってきたそれを使おうとする。今までも何度も児相の連中は来ていたのだ。だが、それで全てを追い返してきた。
「確かにありますが、既に書類は纏められています。つまり、ここからは法律に基づく立ち入り調査ということです」
「ど、どういうこと!?」
「つまり、あなたに拒否権は存在しません。妨害をするなら罰則の対象になります」
「な、なんで……なんでそんな……」
書類が纏められている?ど、どうして……
そうして、私の家は中を見られた。食料があるかどうか、衣服の類はあるか、慎重に全てを見られて、私は罰則の対象となった。
青ざめていると、視界に『犬』が映った。
「お前の……お前のせいか?」
私の声に、『犬』は知らない風な顔をして、
「……さあどうでしょう?」
「お前のせいだろぉ!このバカ犬がぁ!」
そのわざとらしい演技に私はいつもの様に怒鳴りつけた。そうすれば、全てが解決する。はずなのに……
「今27の若造に凄まれてもなにも思わんわ。俺の年齢知ってる?38だぞ?舐めんなよ10個下のクソガキが」
「……は?」
「自己紹介をしようか。改めて年齢は38。出身は、早稲田大学法学部。所属していたのは、警視庁公安部公安第『五課』。役職は課長。職業を正確に言うなら、『異界事件』特別対策係の『特命捜査官』にして、対策チームのリーダー。名前は
「……な、何を言っているの?」
「つまり、お前とは縁を切るってことだよ。二度と子供なんて産むんじゃねえよ。クソガキ」
私は意味不明な『犬』の現象に頭が追いつかないまま、児相の連中に連れて行かれた。
そうして、私の手から『犬』はいなくなった。児相は私と『犬』を離して、隔離した。
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「……これで満足か?」
俺はナキにそう問いかける。それは、この世界にナキがいた思念。
『ありが……とう……』
「……別にお前のためじゃねえ。あんな毒親は、俺だって御免被る……そんだけだ」
俺はこの1週間で、ナキが過ごした9年間の記憶を大体みた。そして気づいた。どうしてここに俺が憑依転生したのかを。
ナキは、知ってか知らずか、この能力で『禁忌』を犯したのだ。その結果出てきたのが俺だというのだから運命というのはほとほと酷すぎる。
「……ナキ……お前は……」
だが、ここで思念と会えたのは、どういうことなのだろう。地縛霊の如く、この家に引っ付いていた……ということか。
『……そんなことは……どうでもいい』
思念は様々な意図をその言葉に含めていて、そういうものだから、俺もそれ以上は言えない。
「お前は、俺に何を求める?なぜ俺を求めた?」
『せかいで1番の、すっごくつよいみらい。きゅうきょくのかのうせい……だからよび出した……よび出せた……』
「きゅ、究極の可能性って……過大評価がすぎる……んで、俺に何をさせたい?ご生憎様だが、お前はもう死んでいる……テンプレじゃないぜ?……だからよ。お前の、人生の目的ってのを俺が果たしてやるよ」
『いいの……?』
「ああ、俺に果たせないことは大体なんにもない!だから、なんでもどんとこい!」
俺は、憑依転生をしてしまった者の義務として元の体の意思はある程度は継ぐ必要があると考えていたし、そもそも、相手は殆ど人生に嫌気がさして自殺を図ったような少女だ。そんな子の望みを無碍にはできなかった。
例え宇宙飛行士になりたいでも、魔法使いになりたいでも、全力で叶えてやるつもりだった。
『けっこんしてほしい……』
「ん?」
き、聞き間違いか?そう若干の逃避行動をとっているうちに、思念は……
『りこんなんてしないで、せかいで1番の人と結婚して欲しい……』
懇々とそんなことを言われ続ける。
「いや、ちょ、まて……俺、まだ38にして童貞のクソ陰キャだぞ?クラスでも陽キャにボコられていた生粋の……」
「それがTSして急に結婚とか……へ?」
『たくした……よ』
「え、いやちょ、まて、おい、まてぇぇぇぇーーー!!!」
センエースこと、無択ナキは人生の遺言を受けてしまった。
その遺言は、『世界で1番の人と結婚すること』。
「マジで無理なんだが!?」
そうして、ナキの人生が始まった。