〜38歳童貞のTS憑依転生。身体の主(9歳)の遺言が『結婚してくれ』だったんだが〜 作:楓舞星
俺の名前は無択ナキ。女子高専生になりすましたおっさんである。なんでこんな独白をせにゃならんのか。
あ?あの自己紹介?
『自己紹介をさせてもらいます。私は無択ナキです。好きなものは寿司で、嫌いなものは特にないです。ゴキブリも素手でいけます。人生の目的は『世界で壱番の男と結婚すること』。よろしくお願いします』
ああ、あれね。
丁度、その話をしたかったんだ。聞いてくれよ、俺の悲惨な運命どもを。うっすい話だから手短にいくぜ?
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俺は、『とある世界』の『特命捜査官』だった。ほら、漫画とかアニメでも、よく公安って聞くだろ?そこさ。警察……国の犬、おまわりさんの中ではエリートってよく言われるな。
早稲田大学法学部を卒業し、国家公務員一種という資格に合格した俺は、警察学校を卒業して、公安『五課』に就いた。
そこでは、俺は結構な速さで……というか、異例の速さで出世した。同期は全員追い越した。自慢にもならないが、俺は『他人よりも底意地とか負けん気があった』。だから、誰よりも仕事をして、トラブルシューターとしての義務を完遂して、順当に出世の壁を乗り越えていった。でも、出世して楽しいなんて思う神経は最初だけで、それは時間が経つにつれてだんだん死んでいった。それは、結局、どこまでいっても最後に残ったしんどい面倒ごとを受けとめる受け皿に過ぎない事に気づいた時だったか。
んで、公安『五課』ってのは、まあ、簡単に言ってしまえば、四課以下に比べると、世界の『ヘンテコ』なもん……まあ、都市伝説とかってあるだろ?それが本当かどうかを確かめたりするような課だ。もちろん、それが本業ってわけじゃないが、そう言うこともしてる……そんな、普通に考えておかしな課って認識をしてもらえれば結構だ。けど実際、ガチもんの問題も山のように出る課だった。
俺の世界はほんの少しファンタジー気質な部分があってね。一般人には知られていないが、五課の連中や世界の重鎮だけが知っている、特別なモンスターが湧いたりする世界でもあった。亜人なんかもいたぞ。普通に日本だから、別に魔法が使えたり、気が使えたりしたわけじゃないんだが、都市伝説が具現化した様な……そう、人を害そうとするドラキュラもいたりした。みんなでフォーメーションを組んで拳銃で殺した。
だが、俺はそんな『ヘンテコ』なもんが好きだったから、仕事がしんどくても五課に入ったわけだ。元から、ラノベ脳って言うのかな。特に異世界系のもんとかが好きだったから。敢えて公安のどっかではなく、五課という特有のポジションに入ったのはそれが理由だ。
……だが、俺はそんな自分の欲求以外にも目的があった。それは、公安……警察として、中学からの幼馴染の、『悪』を捕まえることだ。
俺は、その幼馴染の『悪』と因縁があった。中学時代にそいつに少し反発したら、ボコボコにされて母の形見だったサイフをけちょんけちょんに踏まれたんだ。
だが、その『悪』……ヤクザは、街を支配するヤクザから、最終的に世界に混沌を齎した生粋の『悪』に成長した。してしまった。侵略に必要な時間は、20年程度だった。どうしてそんな破竹の勢いで世界は侵略されたと思う?わかりやすく説明すると……そうだな……ファンタジー系の作品を見たことはあるかい?
そう、それさ。奴が使えたのはそんなファンタジーな力。
だが、使えた魔法は火を吹けるとか、水を出すとか、空気洗浄とか、そういうチンケな技じゃなかった。
奴が使えたのは『無制限の洗脳魔法』だった。
『悪』は世界中の人たちを洗脳し、世界を扇動した。
それらは世界を恐怖のどん底へと陥れた。公安にも、世界と連携してそんな『悪』対策チームが立てられたりして、なんとか抗った。世界中の考えられないぐらい賢い奴らが俺らを手足の様に使い、やれ暗殺だの、洗脳への対処法などを考えた。
だが、世界は終わった。文字通り、跡形もなくなったんじゃないかな?
一言で言えば、最後に自爆されたわけだ。目の前がピカッと光ってね。俺の体は消し飛んだよ。
こう見ると、意外と、本当にファンタジーな世界出身……と言えるかもしれないが、決してそんなことはない。ファンタジーな能力を使えたのはその『悪』だけだったからな。俺たちは拳銃をバコンバコン撃ってテロリストどもを殺したりするぐらいの、何というか、無機質って感じだった。亜人がいると言っても、慣れたらただのコスプレしている人間にしか見えないぐらいで、なんというかか、しょっぱい感じだった。
でも、今と変わらないのは『一般人と五課』、『一般人と呪術師』のように完全な棲み分けがされているところだな。
……どうして『悪』が自爆したのか、その理由は未だわからない……けど、一つだけ学んだことがある。
もう俺は、二度と負けたくないってこと。
俺が鍛える理由なんて、そんなもんさ。
……あと、男なら誰しもが一度は成ってみたいだろ?最強って奴に。
最強になったあと……?そんなの知らんよ。山があるなら登ってみるだけ……最強になりたいっていうのは、自分のただの欲求さ。
前世、『悪』をとっ捕まえるだけなら公安の他の課でも良かったのに、興味本位で公安五課に入ってトラブルシューターになったように、今世では興味本位で呪術界最強を……世界最強を掻っ攫う。
え?『世界で1番の男と結婚すること』はどうするかって?
それは……うん。
考えてみてほしいんだが、俺って童貞なわけだ。んでさ、童貞は理想が高いだとかよく言われるわけ。
でも、俺は違う……違うはずなんだ。
前世でも、決して高身長ではないものの、身長は172cmはあった。公安でバリバリ働いていたこともあって給料は良かった。ついでに早稲田卒だ。学歴に文句を言ってくる姑もよっぽど酷くなければ黙らせられると思う。だから、世の中の基準的に、結婚相談所にいけば、高学歴高収入の部類には入る有料物件……なはず。つまり、本当にある程度理想が高くても結婚できるはずなんだ。
なのに、俺は童貞だった。
その結果、出来たのはエリート童貞。それが俺の称号。別に、童貞ってのは恥ずかしいものでは元来ない。それは俺も承知している。
だが、流石に38歳になって童貞は……流石に性格に問題があるだろ……うん……
だが、俺は自分の性格が破綻しているとは全く思っていない。多少、恋愛観がおかしいのは承知している。
俺の恋愛観は……なんというか、エレクトリックでグレートで、安らかなチルタイムなんだ……
意味わからないって?俺もよく分かってねえからお互い様だ。
ただーー
ーー俺は恋をした事がない。それが事実だ。
愛したことはある。仲間であった『悪』対策チームの奴らは愛していたと思う。それは自覚できていたーー
ーーま、あっけなく裏切られたんだけどな。ははは。
『悪』は……中学の幼馴染はこう言った。
『
俺は『悪』対策チームのメンバーに呼ばれた。
「なんだ?用っていうのは?」
「リーダー……今までよく頑張ってくれた。だから、ありがとう、そして、すまない……リーダー……」
『悪』対策チームの副リーダーである、後藤はそう言った。
「あ?どういうこと?」
「リーダーも、ニュースはもう見たよな?あいつが……『悪』が、リーダーを差し向ければバグスペシャル32の放出を止めてくれる……らしい」
「ああ、そのことね......俺は、あれに行く気はない。俺が行ったところで蝉原がバグスペシャル32を止める可能性なんて皆無だ。それに、俺が居なくなったらこの部隊はどうなる?」
「ああ、リーダーがいるから、この部隊は今も形骸を保っている。それは、ここにいるみんながわかっていることだ。だけどっ!バグスペシャル32が放出されない可能性があるというのなら、僕は行くべきだと思う!もう、病人を見るのは散々だ!」
「......リーダー命令だ。俺は行かねえ」
俺が非情に見えるかい?実際非情だろうな。だが、『目の前の子供たちが苦しまないためにただ一人犬死にしに行く』か『子供以外の世界の人々を守る礎になる為に、これからも生き続ける限り地獄を見続けるか』を考えたら、ただのトロッコ問題だった。
俺は出来る限りの生命が生きる道を選んだ。そして、同時に自分が最も地獄を見る道も選んだ。
……本当はどっちも救えたら良かった……だけど、結局、全ては俺の力不足だった。それこそ、魔法の様な力がなければ、どうしようも出来ない。そう内心、そう悔やんでいた時のことだった。
「リーダー……私も行くべきだと思います!」
「私も!」
「俺もだ!」
「「「「「「リーダー!お願いします!」」」」」」
「……おいおい、これはどういう事だよ……」
「……リーダーが、恐怖でその選択を選んだ訳ではないということは僕もわかっています。だから、残念だ……」
「……何言ってんーーー……」
俺は鉄パイプで後頭部を強打され、そうして、ゆったりと気絶した。
そして、次に目を覚ました時には、『悪』が目の前にいた。幼馴染として少しの会話をした後、俺は最も気になっていたことを聞いた。
「質問をしていいか?」
「いいよ、どうぞ」
『悪』のその言葉に、俺は呼吸を小さくしてから、言った。
「あいつらが、お前に操られていたのかどうかだけ教えてくれ」
「あいつら?ああ、俺対策チームのメンバー? 操っていないよ。これだけはマジ。だって、そんな事したら、いろいろと台なしじゃん。俺が洗脳の力を持っている……その上で洗脳をせずに君はチームに売られた……その構図がなんとも美しいんじゃないか!」
「そうか……」
俺の中で駆け巡るのは様々な同僚の姿だった。時には、一緒に出かけたりもした。同じ釜の飯を食った。この地獄のような世界で、唯一、味方だと思えた。
「そうかで終わらないでよ。感想をちょうだいよ。どう?どんな気持ち? 普通に裏切られた気分はどう?」
俺の心に纏っていた心意が途絶えた。迸っていた感情が。勇気も底意地も。全て。
「...もし、あいつらが操られていただけなら、もう少しあがいてみようと思ったが……」
「ん?思ったけど、なに?」
「もう、やめだ」
「……え?」
「お前の能力はチートすぎる。何をしても無駄だ」
「……おやおや」
「お前が相手じゃ、俺一人ではどうにも出来ない。せめて、何人か味方がいれば、闘おうと言う気にもなったかもしれない……もし、あいつらが操られているだけなら、どうにか解除方法を探そうとしたかもしれない、が……」
「……けれど?なに?最後まで、ちゃんと言葉にしてほしいね」
俺は言っちまった。
「『諦めた』。もう無理だ。この世界は終わった。お前は完全なサイコパスだから、説得も無意味。抵抗も無意味。この世界は、お前に穢されて、狂って、終わる」
……まあ、ちと、ノイズもあったと思うが、一言で言えば俺は負けたんだ。肉体的にも、精神的にも、ボコボコにされて。心から信じて、愛していた仲間さえも俺を裏切った。
ははは。裏切られた事とか、そんなこと、別にもう気にしてねえよ……だが、どうせこの世界……個が群を制せる世界に来たんだ。
特級呪術師の存在と定義はもう学んでいる。俺は今度こそ、そんな『悪』が来ても、どんな『悪』が来てもぶっ飛ばせるぐらい強くなってやる。
だが、もう、心の底からは仲間に頼らない。裏切られるのは……もう散々だ。心が虚脱感に塗れるあの感覚は、もう二度と味わいたくない。
でも、そんな情けない俺を憑依転生という形で救ってくれた、命の恩人にして、哀れな少女がいた。俺は無択ナキの想い……『世界で1番の男と結婚すること』も受け継いで、動き出す。
魂はぶっ壊れている。心は生まれた時から捻くれている。精神は仲間に裏切られ腐っている。
ぶっ壊れて、捻くれて、腐っても。
『それでも』、俺は、立ち向かう。今度こそ、諦めてやらねえ。
捻くれ童貞。無択ナキ。ただ、それだけの者。
しおりやお気に入り登録をしてもらえたら作者が泣いて喜びます。次回からは普通の回です。今回はナキの中の人の回想だったので、読者様が楽しんでくれるかどうか心配ですm(_ _)m