〜38歳童貞のTS憑依転生。身体の主(9歳)の遺言が『結婚してくれ』だったんだが〜 作:楓舞星
【警告】ちょこーっとシリアスです【警告】
【警告】
とある、もう使われていないトンネルの入り口の前に、男女二人がいた。
「七海、今日の任務ではよろしく頼む」
「はい、先輩」
2級呪術師同士で組まされた今回の任務は、もうすでに一般人の死者が3名出ている。死因から、恐らく、呪霊、呪詛師は、何らかの術式を持っていると考えられている。
「それじゃあ、行こうか」
「はい、行きましょう」
コツコツと、空間に足音が響く。
「呪霊が敵だった場合、ただ祓えばいいが、人が敵だった時……七海、君は人を殺したことがあるかい?」
「……いいえ」
ゴクリを生唾を飲み込みながらも、冷静を装いながら七海はいう。
「覚悟はできています。これから呪術師として活動していくためには、絶対に、避けては通れない道だと思ってますから」
「そうか。ならいい。『もしかしたら』、『一応』、そんな言葉のために最悪の場合を想定しておくのが事件解決の『荒療治』だ」
「荒療治……ですか?」
七海には、それが荒療治には思えなかった。事件解決において、最悪を想定するというのはなによりも素晴らしいことなのではないのだろうか。そう思ってのことだった。返答は少し、ユーモラスに帰ってきた。
「ああ、だって、本当ならそんなことせず、クールに決めたいだろう?」
「なんですか、それ……」
七海は若干呆れて、無択は意地の悪い上司のように、
「冗談だ。だが、二つの意味がある。一つは、『最悪の状況のナナメ上』をいかれる可能性があること。ありていに言えば、荒療治が荒療治たる限界地点。二つは、『慎重さは、ときに臆病さと区別がつかない』ということ。臆病さが常について回る、事が全てエレガントに進まない、クールには終わらせられないという欠点」
七海はそれに対して、穿った見方をするんだなと思った。だがしかし、あくまでこのやり方が、『荒療治』と称するならば、
「それでは、『最適解の治療法』はなんですか?」
その言葉に対して、顎を撫でたのは無択だった。
「未来でも読めば良いんじゃない」
「……じゃあ、普通の人に出来る限界が荒療治なんですか?『理想が高すぎませんか?』」
「例えば君に大切な人がいるとしようか」
無択は仮定を語り出す。
「その人が、死んでしまうとする……未来を、事前に情報を知っていればその人は助かった。そんな事が起きた時、君は未来を読まなかったことを、読めなかったことを後悔せずにはいられるかい?」
今の七海に、『そういう人』はいなかった。だが、なんとなく朧げにだが考えは浮かんだ。
「それは……ですが、不可能なものは不可能でしょう。どんなものを喪うとしても、その考え自体が、目の前の、零れ落ちる命から目を背けるだけの愚行なのではーー」
「やるんだよ」
「……」
「やらなきゃ、人が死ぬんだ。現に、それができなかったから、もう3人死んでいる。勿論、私だって本当に、未来予知しろと言っている訳ではない。だが、精神的にはそのぐらいの重みをもって事にかかれ……とは思っている。勿論、無理はしない範囲でだが……さて、短いが、七海、ここまでで君は『不条理な運命に対する反骨心』を持てそうかい?」
「……やはり、先輩は理想が高すぎる。気合いだけで未来予知まで本気で試みるなんて、常人には到底ついていけないでしょう……そして、そんな誰もついていけない理想を掲げ続けるのなら……その先、先輩は、誰とも並んで歩けないことになる」
ーー先輩の理想は、先輩自身を孤独にするものではありませんか?ーー
七海のその言葉の意味をきっちりと、しっかり理解した上で、無択はふっと自嘲するように笑ってから、
「知ってるよ……私について来れる者なんて誰もいない……それでいいんだ……だから、せめて考えるんだよ。『1人でどうにか出来ないかって』」
ーー本当は1人じゃなんも出来ない事ぐらい俺だって理解してんだ……それでも、もう……ーー
「……先輩?」
……結局、最後まで、七海はその『不条理な運命に対する反骨心』という質問には答えられなかった。
コツコツ。暫く会話はない。だが、そうして、トンネルの中央にたどり着く。
そこにいたのは一人の人間だった。
「あ……なんだお前ら……暗くてよく見えねえが……」
膿んでいる声だった。常人のそれではない。
「最近、ここの近くの村で3人、死者が出てる。犯人は呪力の残穢からして、お前ってことでいい?」
「……あぁ、なるほど、渦巻のボタン……高専の連中か」
「七海、準備しようか」
「はい」
膿んだ男が使ってくるのは、髪を通常サイズよりも3倍ほど大きな蜂や虫の式神として使ってくる術式だった。
勿論、呪力がなければ見えないので、これを使って暗殺したのだろう。
群体である式神自体と七海の術式、十劃呪法は相性が悪い。
だから、
「七海は本体狙い。私は式神シバくから」
「了解です」
数の利を存分に生かして、無択たちは戦っていく。幸いにも、不意をつけたおかげか式神の数は少ない。
呪力をぶっ放して式神を蹴散らした後、
「さて、ボコボコにさせてもらうか」
「何言ってんだ……ガキどもが……」
「お前何歳?」
「……41」
「じゃあ46の私の方が普通に上だな。敬え年下。私は昨今の優しい上司像から切り離された年功序列系、平気でパワハラモラハラするクソ上司だ。舐めんなよ?」
七海と交戦していた膿んだ男は無択にも標的を向ける。
2体1という状況下にされた男は、すぐさま髪を抜きとり式神を出そうと試みるが……
二人で対処したこともあり、七海が気を引いているうちに無択は膿んだ男のとある箇所をなんとか触れる。
「っ!」
「人間の弱点ってどこでしょーか」
「……」
「正解は手首でしたぁ」
今の無択には二つの武術がある。それは、警察学校時代に培った逮捕術と大学時代から公安時代にしていたキックボクシングだ。
無択が選んだのは逮捕術からのハンマーロック。即ち、拘束技である。相手が七海ほどの大きさなら身長差、腕の長さから通用しないが、元は女警官でも使える様にビルドアップされているのが現代の逮捕術。
男に、隙が生まれる。それだけで十分だと言わんばかりに、七海は、
「クリティカルヒット……」
男の顎を術式にて寸分、そこめがけて全力で撃ち放った。
そうして、無事に対処し終えた。
無択は持ってきた束縛布で男をぐるぐる巻きにして、それからは、窓からそのまま高専へ身柄を投げ渡す予定だ。今は窓のお迎えを待っている。
「さて、帰ろうか」
「……先輩」
「なんだ?」
「戦闘、強いんですね」
「まあ伊達に毎日、鍛錬をしてないからな」
そう言い、無択達はいつもの日常へと戻る。そのかたすがら、無択に向かって、七海は、
「……先輩は、『不条理な運命』にも、『それでも』と言えるのですか……?」
ずっと考え続けていた事を伝える。
「無理だね」
即答だった。そして、なのにも関わらず、どこか重い雰囲気とその速さ、言葉から、七海はつい唖然としてしまう。
「……」
「それはもう事実が証明しているから。最後の最後に『悪』に負けた過去があるから。変えられない。覆しようがない」
「……『悪』に負けた……?」
「まあ、簡単に言えば、私だって七海にくどくど言えるほど老成した人間でも、『不条理な運命に抗えた』人間でもないってことだ。なんとか逃げはしなかったが、負けはした……はっ、こんなのなんの自慢にもならない………………ほら、行くぞ」
途中、七海は無択の目をチラリと覗いた。そこには、深い諦観の様なものがある気がして……つい、目があった。
「なあ七海……さっき、私に理想が高いっていっただろ?」
「……はい」
「……私は、それを突き通せなかった。だから、負けた。朽ち果てた。それだけの『敗北者』だ。決して、間違っても尊敬できる相手だなんて思うな」
そこには、どこか拒絶感のようなものが含まれている気がして……
七海はあの質問について聞く。
「……そういえば、あの意味は一体?」
『ーー七海、ここまでで君は『不条理な運命に対する反骨心』を持てそうかい?』
いや、七海も内心気づいている。それは……
七海の言葉に対して、無択は、つまんなそうに、めんどくさそうに、……ああ、あれねと返してから、
「あれは……『ただの心理テスト』だよ。大切な人を喪って、そんな事があったのにも関わらず、どの様な方向性であれ、『それでも』と思えるのか、考えられるのか、もしも出来なかったらそれは呪術師としてペケ、バッテンである……ってだけ。私の予想だと……そうだな、ここ3年以内でこの業界から足を洗う事にーー致命的な挫折を、経験することになる」
その言葉に胸が早鐘を打つのは七海だった。
「……やっぱり、呪術師はクソだ。人として取り返しのつかないものを取り上げられていく」
「まだ、決断は遠いようだね?」
「……それは……まだ先延ばしにさせてもらいます」
「いつか決めればいい。決断の日までに間に合えば、それで」
拘束している男を車内に入れてから、無択達も入る。もう朝は近いようだった。山の奥から太陽が顔を覗かせる間際、
「私はめんどくさいだろう?」
「なんですか?急に……」
「いや、こんな奴と任務を組まされるなんて、嫌だろうと思って」
「……大丈夫です。先輩といると、いつも考えさせられる気持ちになりますから」
七海は気づいている。無択は会うたびに、自身に質問を問いかけていることに。
それらはきっと呪術師として生きるための心構えを説いている。
前回グラウンドで会った時は、呪術師としての、理想と現実を、今回は最悪が起こった時の受け止め方を。
それを通して思う。
(先輩、面倒見が良いタイプだな……)
だが、疑問に思う事もある。それは、どこか自身に対して、それどころか、他者を信用していない様な、そんな印象も、うっすら感じるのだ。
七海は更に深く思考する。
(先輩だから、年下だから……呪術師としての生き方を教えている?だが、他者をどこか信頼はしていない様子を感じた。それが、後輩、年下だからという理由以外だとしたら……
『なあ七海……さっき、私に理想が高いっていっただろ?
……はい
……私は、それを突き通せなかった。だから、負けた。朽ち果てた。それだけの『敗北者』だ。決して、間違っても尊敬できる相手だなんて思うな』
会話から察するに、先輩は多分、『自分すら信用できていない』のかもしれない。それでも、溢れ出る面倒見の良さは、きっと『優しさ』か……)
無択は車の窓に肘をつけ、外を見ながら話す。
「それが問題なんだ……もっと、捻くれた性格じゃなければ良かったんだが……」
「私は、それでもいいと思いますよ。先輩の良さだと思います」
「おっと、イエスマンになるにはまだ早い。それは社会に出た時の懐刀として残しておきなさい。社会にでたらおべっかをかく機会は沢山ある……」
「先輩、何歳でしたっけ?」
「来月、7月5日を迎えれば47だな。この歳になっても律儀にカウントしているんだ。偉いだろう?普通だったら見て見ぬふりをするところを、眼前に捉えている……これが『不条理な運命』への立ち向かい方だ。覚えておけ」
「……やっぱり捻くれてますよね、先輩。たまに言動がおかしくなる所を除けば素晴らしい人生の先達なのに……なんとも、玉に瑕というか……」
「私が捻くれているんじゃない。世界が捻くれているんだ。もっというと、捻くれていると映っている君の目が捻くれているから、そのフィルターを通してみる私が捻くれて見えるんだ」
「……はぁ……ほんと、めんどくさい人……」
無択と七海、任務を行なったペアは高専へと帰宅した。
朝ごはんを食べ、ちょっと仮眠しようかとする。
そして、寮に帰宅した無択は思う。
(なんであんな質問をしちまったのかねぇ……)
何故、自分が心理テストと評して、七海を、恐らく、いつかくるだろう挫折から救おうとしたのか……実の所、本人にすらよくはわかっていなかった。
(私に、本当の意味での『仲間』はいない……なのに、どうしてだろうな……もしかしたら、部下の……アイツらの優しさが移っちまったかね)
目を閉じると、そこには沢山の『仲間』がいた。無択はそっと微笑んだ。
だが、その直後に来るのは、ドス黒い想い。
ーーウラギッタクセニ。
(………………早く、一人で任務が出来るように強くならないとな……俺は『孤高』なんだ。どんな時でも。この世界では、一人で強くなれる……あんな『悪』どもから犯されないように、クソみたいな二択を押し付けられねえように、二度と負けねえように、世界守って……それで『孤高』であれるんだ……)
「さて、頑張るか!」
今日も、無択は自身の本心を見ない。二度と、仲間も部下も配下も作る夢を見ない。
無択は、自身が裏切られた理由を知っている。味方だったものにも、守りたかったものがあったから、捨てられた。
…………『それでも』、どうしようにも、心は納得してくれなくて……
「…………お前らは…………」
「……なんで、俺のことを……」
「…………見捨てたんだ……」
無択だって迷っていた。対策チームの存続、即ち、希望の未来の為に子供を犠牲にするべきか、対策チームの崩壊、即ち、絶望の今の為に子供を生かすか。
迷うに決まっている。
だが、結果はどちらとも選べなかった。
故にーー
「…………無択ナキ……無択ナキねぇ……」
『無』 い 選 『択』 肢。
「ははっ……ははははははは!」
まるで、タチの悪いアハ体験だ。
『どうして、自分じゃダメだったのか』そんなの、考える暇も与えられねえ。
……なあ、ナキ……捨てられたお前だったら、俺の気持ちがわかったか?
ああ、でも、
「お前みたいな子供を見捨てる選択を、しようとしていたのは、俺か……」
あのクソ親も、俺も、本質ではなんら変わらないんじゃーー
ーーそれどころか、俺の方が……
「七海にも、今日、最悪の現実と向き合う可能性を教えた……」
それは、多分、心のどこかで七海のことを気にしていたから……それは認めてやるよ……
だが、1番現実見えてないのって、俺の方なんじゃーー
//
世界を支配しようとした『悪』に負けた。
逃げなかった。最後の最後まで、逃げたつもりはなかった。最後まで戦った。それでも敗北した。そして、仲間に裏切られ、敗北した自分にはもう何も成し遂げられないと、結論づけてしまった。
無択が守ろうとしたものは失われた。
抗ったという事実だけでは、失われたものは戻ってこない。
それを無択は知っている。
その現実を知っている。
自分の努力が無意味に、水泡に帰し、守りたかったものを守れなかったことを知っている。
それは、これから無敵になろうが負けなかろうが、変わらないことを知っている。
当然だ。過去は変えられない。己が諦めてしまったという過去は、変えられない。
それはある種、『自身の可能性を否定してしまっている』と言える。だが、そもそも無択は、自身の可能性に期待しない。
だって、負けてしまったのだから。
だけど、その自己否定は他者の可能性までには及んでいない。
だから、たくさずにはいられない。
自分じゃできなかった何かを成し遂げられる人を。
本当は誰にも経験してほしくない。自身の体験を。
『敗北者』が、身勝手なのは承知の上。だけど、その上で、『不条理な運命』にも、『それでも』と言える者を。問うているんだ。
その問いの答えを出す者をーー見つけ出すまで
//
【『諦めた』。もう無理だ。この世界は終わった。お前は完全なサイコパスだから、説得も無意味。抵抗も無意味。この世界は、お前に穢されて、狂って、終わる】
ーー流石に、もう、諦めていいよな……?もうこんなに、クソッタレな世界で頑張ってきたんだから……なあ、良いんだよな……?本当に……?なあ、くれよ。俺に、その『諦めていい』という免罪符をーー
いつまでも、いつまでも、彼女は縛られ続ける。『悪』に敗れた自分をみて、敗北者であることを悟った彼女は、『不条理な運命』に対し、『それでも』とは、口が裂けても言えない。
【……先輩は、『不条理な運命』にも、『それでも』と言えるのですか……?ーー
ーー無理だね】
ーーだって、俺は世界を守れなかった、『敗北者』なんだからーー
無択は、選択肢がなかったから敗北したのか。それとも、選択肢がなかったと思い込むことで、自身の敗北を己の中で確定させてしまったのか……
本当に、選択肢が無かったのか、選択肢……可能性があることを否定しているのか。もしも、後者だったら、それは現実への逃避と言えるのではないだろうか……
これは、ただの思考実験のようなもの。無択が、無択の中で過去をどのように処理しようが、無択の未来の可能性までは変化しない。だが、『無択の可能性』は大きく変動する。
『自身が、未来に何を成し遂げられると思えるか』。その一点に『無択の可能性』は関わってくる。
【一度『悪』に負けても、本当の意味で『それでも』といえる無択なのか】
【一度『悪』に負けて、過去に目を背け、未来を考え続ける無択なのか】
どちらも、未来を考え続け、向き合い続けるという点では一致している。それは、無択という人間が通常、どれだけ強靭かを示している証拠。
だがーー
『私は才能を言い訳にやめることはしない。だが、かと言って努力が万能とでも、根性論が無敵だとも思っちゃいない。ただ、『それでも』、目の前の向き合わなければならない現実を前に、真摯に見続ける為にそれらが必要なだけだ』
本来、この思想はとても強い人間のすることだ。『目の前の向き合わなければならない現実を前に、真摯に見続ける』……しかし、未来を考え続け、向き合うことは、必ずしも未来を信じていることを意味しない。
無択は自身の可能性を、次こそは『悪』に勝てると信じれているのだろうか……そして、自分には出来なかった、『不条理な運命』に打ち勝てる誰かを、今無意識にやろうとしている、誰かに希望をたくすことが、無択にとって希望になり得るのか……
『酷く後ろ向きな希望』、『現実を見れない現実主義』、『過去に忠実な臆病者』、『自分にだけ不条理な人間』、『自分の敗北を普遍的な真理にしたがる人間』………………
『自分の可能性を否定する』術式を持った彼女は、今日も、過去の後悔と共に沈む。
悩む。悩んで、悩み疲れて、そして、寝ること。これこそが、今の彼女に出来る『荒療治』たりうる。
サブタイトル:荒療治
このリンクはこの話の筆者の解釈が綴られています。筆者の解釈が必ずしも正しいとは言えないとはいえ、ここから先、『もう既に無択ナキの人物像が固まっている方』にはノイズになるので【閲覧注意】です。
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