〜38歳童貞のTS憑依転生。身体の主(9歳)の遺言が『結婚してくれ』だったんだが〜 作:楓舞星
「おいチビ、お前七海と付き合ったらしいな!もう事には及んだか?」
五条は完全にバカにした勢いで言っている。
「さあな。答える義理がない」
無択は凛とした姿勢でそう言い、夏油も加勢する。
「悟、人に恋愛事情を聞くのはまだしも、公の場でそういうことまで聞くのはやめたまえ。下品だ」
「んなこと言って、傑も気になってんだろ?」
「……まあ、気にならないと言ったら……嘘になるな」
「そうだろ!さあ吐きなチビ!」
「知らないね。というか、どっから情報漏れたんだ……?」
「実の所……私も高専の先生から噂は聞いていたよ」
「教師が何言ってんねん……夜蛾ー!出てこい!」
椅子に立ち、なんとか机に足をかけて言った所だった。
「呼び通り、出てきてやったぞ」
「うわ、でた」
「人を幽霊を見るかのような視線で見るんじゃ無い。そして机から足を下せ」
「はいぃ……」
「今日のホームルームを始める」
夜蛾は無択に注意しつつも、無事に無択が馴染めていることに安堵する。
(最初に会った時が懐かしい……)
夜蛾は、ある日、窓から通報を受けたことを思い出す。
____________
窓からの通報があったのは1年前のことだった。
「……逃してしまったか」
「はい……申し訳がございません……」
「いや、謝ることではない。術師の隠れ方が上手いのだ」
東京のとある路地裏で、2人の男性が話している。しがない窓と、夜蛾である。
「ここら一帯をみている窓には大体接触しているようだが……何が目的なんだ?」
違和感は、その街の呪霊被害の少なさだった。そして、窓からの最初の報告では、呪霊を認識し、祓っている少女がいるという話。だが、窓がその少女を発見しても、捕まえられないとのこと。
驚くことに、純一級呪術師が捜索任務についても達成できなかったというのだ。だから、一級呪術師たる夜蛾正道が今宵、捜索任務についた……というわけだ。
傀儡操術によって、広げられる情報網で、そこまでの時間をおかずして、夜蛾は彼女を見つけた。
そうして、勝負になるかと思ったが、意外にも彼女はうさぎのぬいぐるみに大人しく連行されていった。そして、対面したその少女は、まだ中学生にも見えなかった。だが、連行された割に、その少女は丁寧に、
「初めまして。こんばんは。このうさぎの人形はあなたの能力?」
「……ああ、そうだ。君の名前は?私は夜蛾正道だ」
「私の名前は無択ナキ。一応、追われていたことは理解してたけど、妖怪退治って別に悪いことをしていたわけでもないし、いいかなぁって思っていた者」
無択は言い訳をするように言う。
「君の年齢を聞いてもいいか?」
「年齢は16歳。こう見えて高校生です」
「なるほど、私は東京都立呪術高等専門学校で教鞭をとっている者だ。早速だが、君には二つの道がある。この高専に入り、学生と共に学ぶか、それとも野良の呪術師として活動していくか……だ」
「1人で、野良で活動させてもらおうかと思います。それでは……」
頭をぺこっと下げてから、スタターと走っていきそうなのを夜蛾は寸前で止める。
「待ちなさい。君が言う妖怪……それは呪霊と呼ばれているモノだ。察するに、君には正しい呪術知識がないのではないか?」
「呪術……?ああ、この負の力のことですか。そうですね……確かに、体系化された学びを得られるのなら……行く価値はあるか……」
夜蛾は、無択をスカウトする気満々だった。適切な呪術知識がないままの状態で、呪霊や、準一級呪術師から逃げおうせる程の逸材なのだ。スカウトしない手はない。
翌日、里親を説得させた無択は来賓室に赴き、そこで話を受ける。
「それでは、編入手続きを行う」
「はい。よろしくお願いします」
夜蛾は、気になっていたことがあった、
「それにしても、何故、今は真夏であると言うのにジャージはともかく長袖なんだ?」
「ああ、まあ、それは……見せるのが手っ取り早いでしょうか。妖怪……呪霊退治の専門家には日常茶飯でしょうし」
無択は袖を捲った。そこには、どこまでもぐるぐると巻かれた包帯があった。
少女の体に、その包帯はとても不相応で、滲んだ血がとても痛々しく見えた。
「なるほど、申し訳ない」
「いいですよ、別に」
「君は何故そこまでして呪霊を祓う?」
「人に害なす存在を殺すのが私の役割……とカッコよく言いたいところですが、実際の所は、ただ暇だからじゃないでしょうかね?」
無択は適当そうにそう言って、
「大義がなければ呪霊を討伐しなくて良いという理由にはなりませんから……それに、普通の人に呪霊は見えないようです。なら、誰かが掃除をしないといけない」
「君は、本当にそれだけの理由で呪霊を祓っているのか?それは君がやらなければならない仕事だったのか?」
「そうですね。簡単に言えば、『大人の仕事』をしているだけです。誰かが嫌がることを率先して行わなければならない、そんな仕事。それをやる義務が私にはあったから。それだけです」
「君はまだ学生だろう?成人までには後4年ある。この4年の差は大きいぞ」
「何言ってるんですか?私は45です。還暦間近……とはさすがに言えませんが、流石に人生に対して諦観が出てくる時期です。それでもなんとか大人としての持ちようを保っているところに男らしさがありますね」
色々ツッコミどころのある言葉に、夜蛾は少し辟易しながら、
「……君はまだ16だろう?それより女性だ」
「心は45なんですよ。それに男です。ついてないだけで。昨今はこういうのうるさいですよ……と言いたいですが、まだそんな時期でもないですね」
「……冗談にしてもどうしてそこまで、46という微妙な数字なんだ?」
「真実はいつも微妙な数字と共にあるものです。キリ良く行くなんてまあないですよ」
「……言えてるな。それでは、編入手続きを終了する」
____________
『献身』と言う言葉が似合う子だった。
何年間も街を傷つきながらも守り続けるその姿は、言い方が悪いかもしれないが、どこか神聖感すらあった。
「さて、今日の授業は終わりだ。それで、五条、夏油は残れ」
「げっ、なんかやらかしたか?」
「心当たりはあるのかい?私はないが」
「バカ。俺もねえよ」
「んじゃ、私は用事があるから」
そう言って、無択はスタターと帰って行った。向かっていたのは……
____________
とある部屋にて、
「えーっと、こうしながら、このセリフを言って」
「……なんでですか」
「安心しろ。私のセンスがそう言っている。大丈夫だ」
一般的には大男に分類される者が、中学生か、下手したら小学生にしか見えない少女の側に、ドンと壁をついて、
「結婚したのか?私以外の奴と……」
それに対して、少女は……
「……意味なさそー」
「ええ、よくこんなので恋心が云々とか抜かせましたね。吐き気がしますよ」
大男……七海はそう言いながらも、指示に従ったことを後悔する。
「いや、私のセンス的には間違いではないアプローチなはずなんだ。うん。ピクリとも私のハートが動かないだけで」
「もう二度とあなたの恋愛関係の指示には従いません」
「時代が古いのか……?いや、逆に最先端をいっているだろ……」
少女、無択はそう言うものの、七海にはよく伝わっていない様子だった。
____________
それからも様々なことをしたが……
「男に恋心は持てない!」
「……今更ですか。いや、こう言うのもおかしいですけど」
「だってよく考えてみろ!あんなに数多くの技法を試してダメだったんだぞ!」
「全部意味不明なのばっかだったじゃないですか」
「今代の最先端をいく壁ドンや顎クイと言った数多くの女性を落としてきたであろう必殺技だったのに……ぐぬぬ」
「……本気で勝算があると思ってたんですか……」
「ああ!?そうだが!?なんか文句ありますかぁぁ!??」
「……」
七海の声に無択は普通に当たり散らす。そして、しっかりと頭をフル回転させて……
「ちっ、作戦変更だ。大和撫子作戦を決行する。後に続け、ナナミー」
「……はぁ」
「なんだその、『またですか』みたいに言っているような目は!私はまだ諦めておらんぞ!」
「……今度はなんなんです?」
「私自身が大和撫子になることだ……」
「だから意味わかりませんって」
「だから、これから大和撫子風味の無択ナキになるってことだよ」
「はぁ……?」
「すなわち!形から入れと言うことだ!」
「なるほど……?」
「ごほん!……それでは……これからよろしくお願いします。七海さん……」
「……気色悪い……」
「私の演技力が評価F+だからと言って甘く見るなよ。ギャフンと言わせてやる。あの地球人のように」
「……安易な漫画のセリフの使用は躊躇う方が大和撫子の様ですよ」
「だが、それを使わない私は私じゃない!」
「今は大和撫子なんですから自分である必要はないじゃないですか」
「ぐぬぬ……はぁ……どうしよ」
「どうするもこうするも、なんも進展がないですからね……」
「一応、七海の前では昔に戻れたような気分になる……というか、頭がチャージされる様にはなったから、恋愛的な意味で、成長といえば成長なんだろうが…………成長だよな?」
「私に聞かないでください。面倒臭い。というか、頭がチャージされることが恋愛的な成長なら、もっと世の中すごいことになってますって」
七海は顔を全力で顰めさせながら、そう言い放った。
「……先輩。一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「私たちは付き合っているんですよね?」
「そうだな」
「では、なぜ付き合っているんですか?」
「恋心を理解するためだろ?お互いの被害の一致の上とは言え……」
その七海からの問いに、無択は少し考え込んだ顔をして……
「ああ、なるほど」
「……それは付き合う理由ではなく、付き合う目的でしょう」
「こりゃ、ー本取られたな……付き合う理由……理由ね……」
無択は深く考え込む。そして、
「そもそも、先輩は私を好きになりたいんですか?」
「それは……」
「それとも、男を好きになれるようになりたいだけですか?」
「……」
「そこをもっとはっきりさせないと、進むものも進みませんって」
「……うーん、やっぱり、後輩にそういうのを求めるのがお門違いだったか……?」
「まあ、つまりそういうことですよね。先輩は、本当の意味で、私を恋人として扱っているつもりなんですか?」
「……扱っているつもりだが」
「では、私自身に興味はありますか?」
「……」
「ないんですね」
「いや、あるぞ。お前の……うん、顔はイケメンだと思う。顔面偏差値はかなり上位だ」
「それは恋愛感情とは関係ありません……いや、顔の良さは……あるのか……?」
恋愛バカ二人は今日も試し続ける。
「それじゃあとりあえず、恋愛として成り立たせる前に、相手を知る事が必要だな」
「ええ、それがいいと思います」
「よし、殴り合うぞ」
「どうしてそうなるんですか」
「殴り合い、殴り愛だ。つまり、そう言うことだ」
「どういうことですか……先輩って実は、五条さんなんかよりよっぽど歪んでませんか?」
「アイツより歪んでたらこの世のお終いだよ。ほら、さっさといくぞ」
そう言って、七海を連れてグラウンドに出ていった。
そうして、今日も無択は色んな意味で鍛えていく。様々な技術を養っていく。