一つの戦いは終わった。 だが、この奇跡の邂逅と交わされた魂の誓いは、やがて巡り来る新たな時代の胎動へと、確かに受け継がれていくことになる。
ケープ・カナベラルの水平線に夕日が沈み、群青色の夜の帳が静かに下りてくる中、遠方からは事態の収拾と負傷者の救助にあたるスピードワゴン財団のヘリコプターのプロペラ音が、低く響き始めていた。
満身創痍の承太郎や徐倫たちが手当てを受ける喧騒から少し離れた海辺で、フォルゴレは煤で汚れたシャツを静かに払い、海原を見つめていた。その横顔には、相棒を見送った後の寂寥と、すべてをやり遂げた男の清々しさが同居している。
その隣へ、ジョルノがゆっくりと歩み寄った。
「あの子たちの光……君の言う『黄金の精神』というやつは、どうやら本当に実在したようだね」
フォルゴレは潮風に髪をなびかせながら、穏やかな声音で呟いた。かつて路地裏で荒れ狂っていた凶暴なライオンの面影はどこにもない。そこにあるのは、弱者を包み込む大河のようなカバの温もりだった。
「ええ。そしてその光は、僕たちだけのものではない。あなたが荒んだ過去を乗り越え、誰かを笑顔にしようと歩んできたその道程にも、ずっと輝き続けていたものです」
ジョルノの言葉に、フォルゴレは自嘲するように小さく肩を揺らした。
「昔の私には、あまりに眩しすぎる言葉さ。……だが、今日あの子と肩を並べて戦えた今の私なら、少しは胸を張っていいのかもしれないね」
フォルゴレは向き直り、若き首領の澄み切った双眸を真っ直ぐに見つめた。
「ありがとう、ジョルノ。君が立派に自分の信じる正義を貫いている姿を、この目で見届けることができて本当によかった。君は私の誇りだよ」
「……光栄です」
ジョルノは胸元に右手を当て、静かに、しかし深く頭を下げた。
「幼いあの日、暗闇の底にいた僕に手を差し伸べてくれたのはあなたでした。そして今日、滅びの淵にあった僕たちの運命を救い上げてくれたのも、またあなたです。僕の人生において、あなたは生涯色褪せることのない本物の英雄です、パルコ・フォルゴレさん」
ジョルノが顔を上げると、フォルゴレはいつもの白い歯をきらりと輝かせ、キザな笑みを唇に浮かべてみせた。
「アッハッハッハ! ギャング・スターの男にそう言われてしまっては、イタリアの英雄の看板を下ろすわけにはいかないね。……次に会う時は、もっと平和な場所で、私の新作映画のプレミア試写会にでも来てくれたまえよ。勿論、あの歌の最新バージョンも用意しておくからね」
「楽しみにしています。……その日が訪れるまで、どうかご無事で」
二人はしっかりと、互いの右手を握り交わした。 その手のひらから伝わる熱は、言葉以上に雄弁に、2つの魂が深く結びついたことを証明していた。
財団の医療班によって応急処置が施される中、撤収作業が進む滑走路の傍らで、ジョルノはもう一人の立役者である青年のもとへと歩み寄った。
高嶺清麿は肩の包帯を抑えながら、アンサートーカーの鋭さを潜めた静かな瞳でジョルノを迎えた。
「ジョルノ・ジョバァーナ。君のその『生命を生み出す力』……そして、あの極限状況でも決して揺らがなかった判断力には驚かされたよ。承太郎さんが君の存在を意識していた理由が、よく分かった」
「買い被りです、高嶺清麿さん。あなたのずば抜けた知性と的確な指示がなければ、僕たちは奴の超加速を捉えることすら叶わなかった。科学の枠を越え、魂の結びつきを信じ抜くあなたの強さに、心から敬意を表します」
若きボスと若き天才教授は、言葉少なくも互いの卓越した知性と精神の気高さを認め合い、短く硬い握手を交わした。
一方、グイード・ミスタは常人では起き上がれない程の重傷にも関わらず、自ら専用機へと乗り込み、そのタラップの上から、財団の車列に乗り込もうとするフォルゴレの背中を、熱に浮かされたような目で見つめ続けていた。
「おいジョルノ、俺は今でも信じられねぇよ……! 本物のフォルゴレさんが戦う姿を間近で拝めたんだぜ! あんな凄まじい衝撃を食らって平然と立ち上がるなんて、俺のスタンド人生でもお目にかかったことがねえタフガイだ! 帰ったらサイン入りのレコードを額縁に飾って、毎日拝まなきゃバチが当たるってもんだ!」
自らの生命力を棚に上げ、興奮冷めやらぬ護衛の言葉に、ジョルノは微かに口元を緩めた。
「ええ。僕にとっても……あの方は昔と何1つ変わらない、誇らしい人でしたよ」
ネアポリスへと針路を取るジェット機の窓から、フロリダの夜景が小さく遠ざかっていく。
世界の破滅を辛うじて退けた彼らは、再びそれぞれの守るべき日常へと戻っていった。
だが、運命の歯車が完全に静止することはなかった。
平穏な歳月が静かに過ぎ去り、数年の時が経った頃――パッショーネが張り巡らせた世界規模の諜報網に、奇怪極まりない不吉な報告が次々と舞い込み始めたのである。
ネアポリスの街並みを眼下に見下ろすパッショーネの本部。
重厚な大理石の執務室で、机に向かうジョルノ・ジョバァーナの前に、深刻な面持ちを崩さないミスタが数冊の分厚い調査ファイルを音もなく置いた。
「ボス、例の件だ。世界中の情報屋と、スピードワゴン財団の協力で集めた裏付けが揃ったぜ。……信じ難い話だが、ただのスタンド使い同士の抗争や、テロリズムなんかじゃあ断じてねえ」
ミスタの声には、歴戦の暗殺者特有の冷たい緊張感が張り詰めていた。ジョルノは静かに手袋を外し、差し出された写真資料の数々に目を落とした。
そこに写し出されていたのは、凄惨極まりない光景だった。
エジプトの広大な砂漠地帯、そして中東や東欧の古びた遺跡の周辺で、まるで未知の破壊兵器が暴れ回ったかのように大地が抉り取られている。
「最初の報告はエジプトの調査隊からだ。『魔物』と呼ばれる子供のような存在が、正体不明の襲撃者たちに追われ、一方的に嬲り殺しにされかけていたという。それだけじゃねえ……襲撃者どもは、奇妙な容器を使って『魔物』の術を行使しているらしい」
ジョルノの鋭利な金色の瞳が、一枚の不鮮明な現場写真に釘付けになった。
砂塵の中に倒れ伏す、異界の衣服をまとった小さな少女の姿。
かつてケープ・カナベラルの空の下で、自らの命を救ってくれたあの金髪の少年――ガッシュの姿と鮮烈に重なった。
「財団の見解も一致している。数年前、ケープ・カナベラルで奇跡を起こしたあの『異界の魔物たち』の世界で、壊滅的な規模の異変が起きている。……彼らの国が何者かの侵略を受け、生き残った者たちが、かつて魂を通わせた人間のパートナーを頼ってこの人間界へ逃げ延びてきているんだ」
ミスタは唾を飲み込み、最後の報告書を指先で叩いた。
「そして……つい数時間前、イタリア国内の通信網が傍受した情報だ。ミラノの郊外で、あの奇怪な侵略者らしき影が目撃された。奴らの標的は――」
「パルコ・フォルゴレさんですね」
ジョルノは静かに言葉を継いだ。その声は氷のように冷徹でありながら、胸の奥底で燃え盛る熱い焔を孕んでいた。
「ああ。フォルゴレさんの周囲に、すでに危険な追っ手の網が迫っている。……あの人のことだ。かつての相棒が現れれば、どれだけ絶望的な状況だろうと、その身を盾にして立ち向かうに決まってる」
室内に、張り詰めた静寂が落ちる。 窓の外には、かつて暴力と麻薬の闇から解き放たれ、今や穏やかな陽光の下で人々が笑い合う美しいネアポリスの街が広がっていた。
ジョルノはゆっくりと立ち上がった。 かつて路地裏の草むらで血を流し、死の淵にいながらも自らの魂に光を与えてくれた男。
そして超加速の絶望が迫ったあの時、命を懸けて奇跡を呼び起こし、自分たちの未来を守り抜いてくれた男。
ジョルノの心に迷いは微塵もなかった。
「ミスタ、ただちに組織の最高戦力を少数精鋭で招集してください。ミラノへ向かいます。――フーゴも呼びましょう」
「了解だ、ボス。……恩人に仇をなす奴らは、パッショーネが総力を上げて再起不能にしてやるぜ」
意気揚々と部屋を飛び出していくミスタの背中を見送り、ジョルノは壁に掛けられた上着へと手を伸ばす。
上質な漆黒のスーツに袖を通すと、ジョルノは鏡の前に立ち、襟元を静かに正した。
その胸元には、二つの象徴的なブローチが並んで留められていた。
一つは、死線を共にした仲間たちとの絆であり、過酷な運命を乗り越えてきた自らの幸運の象徴たる、鮮やかな『てんとう虫』の意匠。
そしてそのすぐ隣、心臓に最も近い位置には、不格好だが、鈍い黄金の輝きを放つ、精緻に象られた『カバ』のブローチが静かに添えられていた。
小鳥すら止まらない凶暴な牙を誇示する『ライオン』ではなく、大切な者を守る時はそのライオンすら凌駕する、不格好でも泥臭く、誇り高い『カバ』。
暴力に塗れていたかつての自らを捨て、誰かを笑顔にするために生きることを選んだ男――パルコ・フォルゴレという一人の人間に敬意を払った、『少年の英雄』の証だった。
かつて、絶望の泥濘に沈もうとしていた幼い自分に、言葉ではなく背中で生きる尊さを教えてくれた。
かつて、滅びの加速が世界を覆い尽くそうとした時、自らの身を盾にして奇跡を呼び起こし、自分たちの未来を救ってくれた。
二度までも自らの命を、そして世界を救ってくれたあの男が、今再び理不尽な理の前に立たされようとしている。
「待っていてください、フォルゴレさん」
ジョルノは窓辺へと歩み寄り、地中海に燦々と降り注ぐ陽光をその双眸に受け止めた。 彼が纏う空気には、いかなる闇をも切り裂く絶対的な覚悟が満ちていた。
裏社会を統べる若きボスの瞳の奥には、あの日、路地裏の草むらで光を見出した時と寸分違わぬ、澄み切った『黄金の精神』が静かに揺らめいている。
「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある。……そして今、命を懸けて果たさなければならない恩義がある!」
かつて少年に希望を与えた男を救うため。 そして、この世界に再び灯ろうとする優しき光を守り抜くため。
パッショーネの若き首領は、自らの胸元に輝く二つの誇りをそっと指先で撫でると迷うことなく扉を開き、新たな戦場へと力強く歩み出した。
AIチャットにドハマりし、推しキャラ同士でTRPGだの人狼大会だの麻雀大会だのEXVS大会だの色々させたり、
本来はADV型テキストエロゲーなのに主人公を無人のHi-νガンダムにしてヒロインの極悪狐娘を無理矢理乗り込ませて宇宙世紀のシャアの反乱の戦場ド真ん中に放り込ませてなんだかんだあって世界に人の心の光を見せたり――
そんなアホな事をやってたら「最近何も書いてねえ!」という事に気付き、以前Xで呟いて(予想外に)ウケたネタを真面目に書いてみました。
真面目に書きすぎて当初1万字程度の予定が2万5000文字も書いてしまって三話に分ける事に。
ジョジョのノリを基準として、そこにガッシュ特有のギャグを捩じ込むのは苦労しました。
補足。
・『シン』を超える『アーク』について。
ゲッターロボネタです。(真ゲッターロボ→ゲッターロボアーク)
『アーク放電』という単語もあるし、個人的にはハマってるんじゃないかなぁと思います。
本来、バオウ・ザケルガ系列の魔法には『対象の悪の心を喰らい尽くす』という設定があるのですが、
プッチ神父が浄化されてもそれまでの罪が大きすぎるのと『悪を悪だと思っていない』という理論で普通にダメージが通る流れにしました。(キャンチョメの幻惑魔法→ガッシュとジョルノの合体技→空条親子のフィニッシュブローで完全決着の流れは絶対に外したくなかったので……)
オリジナル魔法を作った切っ掛けも、アニメ版アークの『俺(視聴者)の知らないゲッター』ネタです。真ゲッターロボタラクのパイロット、一文字號の中の人が清麿と同じ櫻井孝宏さんから思いつきました。
他にも色々声優ネタをちょいちょい入れてます。気になる人は探……さなくてもいいです、ハイ。
……えーっと、何の話だったっけこれ? 話を戻しましょう。
本来、ケープ・カナベラルの戦いにはジョルノ単体で向かわせる予定だったんですがミスタも連れて行く事に。
出オチでしたが、最終的にはそれなりに良い見せ場は作れたと思ってます。
ミスタの禁断のタブーを一つ破ってますがどうしても書きたかったんです。許して……
・メインタイトルの没案
当初、このSSのタイトルは『少年の英雄』という名前でした。
元ネタは機動戦士ガンダム0080(が参戦したEXVSの称号ネタ)です。
主人公に嘘をついていた青年が本物の英雄になるという流れがピッタリだったので採用したのですが、パッと見どういう内容なのか分からな過ぎるのでもう少し分かりやすく、それっぽいタイトルにしました。
没になったタイトルネタは本編にちょこっとだけ入れてます。
ちなみに0080の主人公アルの声優は浪川大輔さんで、かつてジョジョASB~EOFまでジョルノの声を担当した事もあります。
それ繋がりで別作品の浪川さんの名台詞をジョルノに言わせてみたり……(また声優ネタか)
・没展開とか色々
金色のガッシュ最終盤の展開よろしくそれまで散っていった6部の仲間達(フー・ファイターズやウェザー)、5部の仲間達(ナランチャ、ブチャラティ、アバッキオ)、果ては3部の花京院、アブドゥル、イギーまで参戦させようと考えましたが、もはやリンチを超えた何かにしかならないので没に。
ちなみにジョジョの登場キャラクター達からのフォルゴレへの評価はこんな感じです。
ジョルノ:崇拝し過ぎて作者(フォルゴレ)の考えてない所まで考察しちゃうアレ。
ミスタ:熱狂的ファン(単純に彼の歌と映画が大好き)
ナランチャ:同上
(他メンバーも基本的にフォルゴレのファンです。イタリアの英雄で世界的大スターだからね。しょうがないね)
承太郎:知らない(フリをしているが陰の大ファン)
徐倫:一応、有名人だという事は知っていて、出演映画も見た事はあるが、ファンにまでは至らない程度。
エルメェス:熱狂的ファン(初恋相手)
アナスイ:知らない(囚人だし)
エンポリオ:名前だけなら知ってる(同上)
プッチ神父をもっと喋らせたかったり、カバとライオンのエピソードをもっと掘り下げたかったり、アンサートーカーの能力をキング・クリムゾン&エピタフとこじつけて説明するシーンを入れたかったり等色々ありますがとりあえずはこんな感じで。
お楽しみ頂けたのなら幸いです。