ダイヤモンドを取り返せ!   作:不定音高ふたつ

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タク:水野拓(みずの・たく)。男。30歳代前半。東海林商事のアクティブな御曹司で、重役。

メイ:久米郁葉(くめ・いくは)。女。20歳代後半。タクの彼女。小柄な手品師で、手品と同様、楽しむことに貪欲。

うらなり:成浦なすび(なりうら・なすび)。おっさん。ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課の課長。ドジ。


第1話[キャンプしてたらダイヤモンドを見つけちゃった]
第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]
第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
第9話[うらなりのハッピーエンド]

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第2話 東海林商事の笑って死ねる拷問

▼ 第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]

 

ダイヤモンドの原石が入った袋は、うらなりが、キャンプ場の木のウロで受け取ることになっている。密輸という違法行為なので、直接の手渡しを避けて、「両者は会ったことが無い」の状態にするのが目的。

 

しかし、約束の場所にダイヤモンドの袋が無い。周囲を見渡すと、キャンプ場から出て行こうとするワゴン車の、助手席にいる女が持っているではないか。

 

素早く双眼鏡でナンバーを確認し、会社に連絡する。

 

ワゴン車を運転しているタクは、キャンプ場から出るところで、秘密のレバーを下げた。偽造ナンバープレートが格納され、本物のナンバープレートに戻った。

 

「なあに? 今のレバーは」

 

「偽造ナンバープレートに変更するレバーだ。今、元に戻した」

 

「偽造? もし、本当にその番号の車があったら、持ち主が困るでしょう」

 

「大丈夫。テレビで見た、どっかの政治家の公用車だからな。あいつが偽造のナンバーを見て、俺たちを探したら、政治家の高級車にたどり着く」

 

うらなりから連絡を受けた部下Aは、早速ナンバーを調査。

 

「課長。判明しました。あの有名な政治家の、高級公用車で登録されています」

 

「馬鹿な。僕が見たのはワゴン車だ」

 

その会話を聞いていた部下Bが、横入りする。

 

「袋に仕掛けた、位置情報を知らせる発信機では、東海林商事に向かっています」

 

「ということは、あのナンバープレートは、偽造だろう。僕たちを騙したなぁ!」

 

うらなりは、かつらが浮き上がる程、怒った。

 

「おい、部下A、部下B。東海林商事に行って、ダイヤモンドを取り返せ! 正面から行っても無駄だろう。忍び込め!」

 

ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課は、うらなりを課長として、部下Aと部下Bの、三人だけの部署。

 

かなりきつい、ヤバい仕事が多いことに、三人とも不満だ。

 

部下Aと部下Bは、朝の通勤電車にエッグ・プラントの制服の黒ずくめで乗り、東海林商事に到着した。

 

部下Aと部下Bは、東海林商事の敷地を囲む塀を、ぐるりと歩いて周り、人通りの少ない道路から、塀に上がった。

 

まずは部下Aが飛び降り、続けて部下Bが飛び降りようとしたところで、1メートルもあろうかという、巨大な蜘蛛(クモ)の大群が、わしゃわしゃと集まって来た。

 

「うわああ。おーい、部下A、大丈夫かー?」

 

あっという間に、部下Aは巨大な蜘蛛の集団に襲われ、見えなくなった。

 

「あばばば……、許せ、部下A」

 

部下Bは、その場から逃げ出した。

 

電車で帰社した部下Bは、早速うらなりに報告した。

 

「部下Aは、東海林商事の敷地内で、巨大な蛛蜘に囲まれて、食べられてしまいました」

 

「デタラメを言うな!」

 

「本当です」

 

「嘘を言うな! 「蛛蜘」ではなく「蜘蛛」だろう、読者が気付かないと思ったか?」

 

部下Aは、東海林商事の敷地内で、蜘蛛の着ぐるみを着たドーベルマンに囲まれ、じゃれつかれた。

 

その後、警備員に捕まったが、「トイレに行く」と嘘を言い、部下Aはトイレの窓から脱出。犬は来なかった。

 

慎重に歩いていると、「拾得物置き場は、こっち」の看板を発見。

 

部下Aは帰社する気持ちを替え、再度の忍び込みをする。このまま帰社すると、うらなりから叱られる。

 

再び、窓から社屋に忍び込む。窓は外から開いた。施錠していないわざとらしさで誘われているのだが、部下Aは気付かない。

 

「拾得物置き場」の看板の部屋に入る。部屋は、コンビニエンスストア程度の広さで、何も無い。しかし、ドアがたくさんある。

 

どのドアだろうと思ったら、ドアは壁に描かれたトリックアート。

 

「なんだ、これは。ふざけているのか?」

 

突然、天井、床、壁に切り込みができて、鉄格子が迫って来る。

 

「おいおいおいおい! 何だ何だぁ!」

 

鉄格子かと思えば、太いゴム棒だった。ここは、巨大な鳥カゴの内側に厚紙を貼ったような部屋で、鳥カゴがゴム棒でできているようなもの。

 

逃げることもできず、あっという間に壁に押し付けられた。

 

タクとメイが入室。トロール将軍も入室。

 

トロール将軍は、身長2メートルの大男。ジャージ姿で、小股で歩く。髭は閻魔大王のようだが、後頭部には逆さハートマークのハゲ。この形なので「ケツハゲ」と呼ばれている。「マッドサイエンティスト」ならぬ「マッド発明家」で、気が小さい。

 

「うん、上手く罠にかかってくれたね、嬉しいね」

 

「さすがです、トロール将軍」

 

「物理的に無理だと思っても、実現できるんですね。手品の種と似てる」

 

「トロール将軍は、「何かを実現するために発明する」こともするし、「何に使えるかわからないけど発明する」こともあるんだ」

 

「それも、手品の種に似てる。蜘蛛の着ぐるみのドーベルマンなんて、「何に使えるかわからないけど」なのね」

 

「これからも、意外な発明品が役立つぞ」

 

タクは、トロール将軍のことを、大いに認めている。

 

「それで、この後は何をするんですか?」

 

「うん、僕が拷問をするから、準備を手伝ってくれたら、嬉しいな」

 

タクが、リモコンを操作すると、天井から巨大なモニター画面が降下した。

 

「ねえ、タクちゃん。拷問って言った? トロール将軍って、顔が怖いけど、本当に怖い人なの?」

 

「死ぬかも知れない」

 

トロール将軍が、部下Aに言う。

 

「君は、どこの組織の人なの? 僕はね、それが知りたいの。でもね、もしも、君がね、プロの犯罪組織の人ならね、秘密を守るためにね、自殺する可能性があるよね」

 

メイは、タクにしがみついている。拷問を間近で見るのが恐ろしい。タクの会社だから、大丈夫だと信じたい。

 

「だからね、自殺防止のために、これを見てね」

 

モニター画面には、いかにも怪しい色っぽさで、男女が会話している。

 

会話の内容は、大人の駄洒落のように、スケベな話だと思えば、脱力するようなオチ。

 

女「あたしの体の、ビンカンなところを、見せてあげる。でも、触っちゃダメよ」

 

男「いつもは隠している、あの、柔らかいところだな。見せてくれ」

 

女「はい、ここよ」

 

女は口を開けて見せる。

 

女「口の中。ここには、髪の毛が1本あるだけで、違和感がたっぷり……」

 

などという会話ネタが、いくつも続く。

 

「ねえ、何? これ。男の人って、こんなのが好きなの?」

 

「まあ、続きを見よう」

 

会話は段々と、スケベっぽいのが強くなるが、必ず快く裏切る脱力するようなオチ。

 

「面白い? 笑っているね、嬉しいね。ただのエロ動画なら、耐えられて自殺することもあるけど、人間は謎解きしたい性質があるよね。この、スケベっぽい会話のオチが知りたくて、自殺はできないでしょ」

 

「トロール将軍、嬉しそうだね。でも、さっきは拷問するって言ってたけど、残酷なことは、嫌い」

 

「大丈夫だ。笑えるから」

 

トロール将軍が、部下Aをくすぐる。

 

「どう? くすぐったいの? くすぐったいよね? 自分の笑い声が邪魔で、エッチな話が聞こえないよ。もっと続けたら、笑い死にするよ」

 

部下Aは、笑い過ぎていて、まともに話せない。

 

「ホラ、ホーラ、ちゃんと教えてね。君は、どこの所属の人なの?」

 

部下Aは、笑いながら、「エッグ・プラント」の名前を言う。

 

「エッグ・プラント? あたし、聞いたことがある。世界的に有名だよね。何の会社か知らないけど」

 

「そう、何の会社か知らないってことにしておこう」

 

「僕、知ってるよ。エッグ・プラントはギャングの会社で、ダイヤモンドをカクー国から密輸入しているよ」

 

ダイヤモンドの原石は、カクー国(架空の国)からの密輸入。カクー国では、ダイヤモンドが大きな産業だから、このように密輸されることで、国際的に困っている。

 

「そんなに、悪い会社なの?」

 

メイの問いに、タクは笑顔を返すだけ。

 

トロール将軍が言う。

 

「こうしてさ、エッグ・プラントの社員が来たんだから、きっと袋に、位置情報を知らせる発信機が付いているんだろうね」

 

「そうだろうな。ギャングをしていなければ、きっと優秀な会社なんだろう。社員はみんな、困難を乗り越えて仕事をする。この社員も、塀から侵入してまで、ダイヤモンドを取り返そうとしたんだから」

 

タクは不敵な笑い。そして、重役室に入り、オンライン会議。

 

会議は5分間程度で終了。その間、メイは手品道具の手入れをしていた。

 

重役室から出て来たタクは、やはり笑顔で言う。

 

「よし、ダイヤモンドを、カクー国に返しに行こう」

 

いきなりのタクの決断に、メイは驚く。

 

「タクちゃん、喜んでる? なんで?」

 

「日本が悪い国ではないことを、カクー国に知らせるチャンスだ。それだけではないが」

 

タクの笑顔を見て、メイは、ダイヤモンドを返すことに積極的なのは、別な理由もあるのだろうと思った。それはきっと……。

 

これからのタクが、まるでスパイ映画のようなことを嬉々として行うのは、このオンライン会議が理由なのだ。

 

 

 

注釈:

 

私有地でも、本物に似た紛らわしい偽造ナンバープレートは違法です。

 

 

 

 

 

 





次回は …… 第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]

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