メイ:久米郁葉(くめ・いくは)。女。20歳代後半。タクの彼女。小柄な手品師で、手品と同様、楽しむことに貪欲。
うらなり:成浦なすび(なりうら・なすび)。おっさん。ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課の課長。ドジ。
第1話[キャンプしてたらダイヤモンドを見つけちゃった]
第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]
第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
第9話[うらなりのハッピーエンド]
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▼ 第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
タクとメイは、カクー国に行くため、国際線の空港に来た。
東海林商事は世界展開しているので、カクー国にも支社はある。そのため、必要な物は支社の協力で調達できるので、手荷物は少ない。
タクにだけ聞こえる小さな声で、メイが喜ぶ。
「海だー! 山だー! かーわだー! たーまやー! スキーだー!」
「キャンプの日に、そのまま外国旅行だが、疲れないか?」
「あたしは大丈夫だけど、それより、あの人、怪しくない?」
黒ずくめのスーツ姿のおっさんが、タブレット(少し大きなスマホ)を凝視しながら近付いて来る。
「エッグ・プラントの奴だろうな」
「きっとそうだよ。キャンプ場でキョロキョロしてた、見るからに怪しいおっさんだもん」
タクの鞄に入れているダイヤモンドの袋に、発信機が仕込まれていて、タブレットに表示された位置情報を追っているらしい。
「発信機は、そのままにしてたの?」
タクは返事をする代わりに、笑顔で眉毛を上げた。何か面白い企み(たくらみ)があるらしい。
うらなりが近付いて来るので、メイはタクと距離をとった。
うらなりは、周囲の状況がわかっていない。タクの旅行鞄にぶつかった。慌てて周囲を見回す。
「ああ、失礼」
「どうなされました? 大丈夫ですか?」
うらなりの後ろからメイが言う。
メイ「おじさま、どうなされました? ぶつかって、大丈夫ですか?」
タク「スマホを見ながら歩くのは、危険ですよ」
メイ「おじさまったら、ドジですねぇ」
タク「黒のスーツが泣きますよ」
メイ「ホント、着こなしが素敵。黒スーツ紳士ですね」
二人から交互に話し掛けられて、うらなりは首を、タクの方向、メイの方向と、向きを変えるので忙しい。
うらなり「ああ、失礼。私は、通りすがりの、うらなりなすびです」
タクは名刺を出して、挨拶を返す。名刺には「大谷主水介」と書いてある。これは、オンライン会議の時に、トロール将軍が洒落で作ったもの。
「おおたに……、しゅ……。何とお読みするのですか?」
「だいや・もんどのすけ」
それを聞いて、うらなりは、またもや、かつらが浮き上がる程、怒った。しかし、目的はダイヤモンドを取り返すことだ。
ここは誤魔化さなければ。相手の裏をかき、素早く手荷物を奪って逃げ出そう。
うらなりは、タクの後方を指して、大声を出す。
「ああーっ、アシラ発見!」
そして、強引にタクの旅行鞄を奪い、走り出す。
しかし、一歩だけ進んだところで、倒れた。両腕と両脚が、床に見事な「8」の字を描いて倒れた。
メイはさっき、タクと距離をとった時に、後ろからうらなりの足首を紐で結んでいた。
「さすがメイ、さすが手品師」
ウインクして、メイは親指を立てた「Good」の仕草。
タクがうらなりを仰向けにする。
うらなりが背広の内ポケットに手を入れると、タクが背広の上から、うらなりの手首を殴る。ポッと、内ポケットから火が出る。
「なんだ? 拳銃型のライターで、脅そうとしたのか? ミスターなすび」
うらなりは内ポケットの燻り(くすぶり)を、手で叩いて消す。
「仕方ないだろう。日本では拳銃の調達が難しいから、会社が支給してくれないんだ」
その言葉を聞きもせず、タクとメイは走り出す。逃げて行く後ろ姿に気付いたうらなりは、足首の紐をほどいて、後を追う。
タクとメイが走っていると、床に特徴的な帽子が落ちている。パーティで使うような派手な三角帽子。
「タクちゃん、あそこに落ちている帽子」
「同じ帽子の集団がいる」
どうやら、団体旅行のメンバーの目印らしい。
メイが帽子を持ち、素早く、内側に両面テープを付ける。そして、両腕を広げて、うらなりを待ち受ける。
「おじさまー、こっちよー!」
急に止まれないうらなりが、よろけたので、メイは帽子をうらなりの頭に載せる。
タクは、帽子の集団の一人に話し掛け、帽子を被せられたうらなりを指す。
集団は嬌声をあげて、うらなりを取り囲む。そして、一緒にどこかに行こうとする。
「僕は違う、この帽子は違う!」
自分で帽子をはずしたら、かつらも取れる。何より、集団にもみくちゃにされて、抜け出せない。
安堵して、タクとメイは飛行機に搭乗する。
全力疾走したので、座って息を整えた。
程なくして出発。
「さすがメイ。とっさの判断がすごいな」
「そうよ。だって手品師は、お客様からの無理難題が……」
何者かが近付いて来た。ふと見ると、うらなりだ。
半泣きのうらなりは、黒ずくめのスーツがボロボロで、帽子と一緒に投げ捨てたのか、かつらが無いヘアスタイル。ズボンの裾は破れて、片方の足は靴も靴下も無い裸足だ。
疲れ果てた様子で、タクの隣の席に身を投げる。
しばらく俯いていたうらなりは、会社の愚痴を話し始める。
エッグ・プラントは普通の会社だろうと思って就職した。給料がいいので、結婚して、高級車もローンで買えて、マイホームもローンで購入した。給料が高いといっても、「やや高い」程度なので、軽率にローンにしたことを悔やんでいる。
普通の会社だと思っていたが、実態はギャングの会社だった。輸入課という部署の課長にされて、密輸をやらされている。
気付いたら、社長の口車に乗せられて、給料は上限付きの歩合制になり、密輸を続ける立場になっていた。
課長とは名ばかりで偉くない。部下は僕より間抜けな二人だけ。自分が犯罪者にされたので、警察にも行けない。無理難題を命令され、ボロボロになるまで働かされる。ブラック企業だが、住宅ローンのせいで、退職できない。
いつしか、俯いたうらなりの目からは、涙がボトボトと落ちて、ズボンの股間を濡らしていた。
「だったら、ウチの会社、東海林商事に転職しないか?」
「そんなことが、できるのか?」
「このダイヤモンドを、カクー国に返す。それに協力してくれたら、東海林商事か、関連会社への再就職を応援する」
うらなりは顔を上げる。喜びの笑顔は美しいというのは、うらなりには当てはまらない。涙と鼻水でぐちゃぐちゃな笑顔は、触れてはいけない不気味な謎生物のようだ。
「よし、エッグ・プラントの社員として、エッグ・プラントを裏切ることに、協力しよう」
国際線の飛行機の中で、タクとメイとうらなりの、奇妙なトリオが結成された。目的は、ダイヤモンドの原石をカクー国に返すことと、エッグ・プラントの悪事を暴くこと。
そして、タクのもうひとつの目的を、うらなりは知らない。
注釈:
飛行機への駆け込み乗車は危険です。搭乗券が無い飛行機に乗ることはできません。
飛行機は、全席が指定席です。搭乗券が無いのに、勝手に座ることはできません。
次回は …… 第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
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