メイ:久米郁葉(くめ・いくは)。女。20歳代後半。タクの彼女。小柄な手品師で、手品と同様、楽しむことに貪欲。
うらなり:成浦なすび(なりうら・なすび)。おっさん。ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課の課長。ドジ。
第1話[キャンプしてたらダイヤモンドを見つけちゃった]
第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]
第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
第9話[うらなりのハッピーエンド]
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▼ 第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
カクー国に到着。
空港は海に面していて、水平線が丸みを帯びて見える。
こんな時なのに、メイは横並びにタクを抱き寄せ、「うーみだー!」と喜ぶ。
タクとメイとうらなりの三人は、迎えに来ている自動車で移動。
広大な敷地には、昭和のSFで見たような建築物が並んでいる。ここは東海林商事カクー国支部科学先端研究所。
三人は、館内の「秘密情報特別捜査グレートなんとか室」に入る。人だかりができて、賞賛の拍手をする人もいる。研究の大発見でもあったのか。
タクが人だかりに入ると、快挙を喜ぶように、低い口笛を吹いた。メイが近付く。
タク「親が、国士無双をリーチ一発で決めたんだ。しかも、裏ドラ2だ」
メイ「何か、研究の大発見だと思ったら、麻雀(マージャン)で遊んでたの? ポーカーに似ているのは知ってるけど、高い点数の、すごい揃い方ができたのね?」
タク「ああ。昼休み中の自由時間に、気分が良くなると、研究にも良い影響になる」
午後になり、東海林商事の精鋭で会議。メイとうらなりも参加する。
持参したダイヤモンドは、このままカクー国に返却するとして、それだけではうらなりの気が済まない。
「あんな会社、辞めてやる。どうせ辞めるんなら、エッグ・プラントの悪事を、白日の下(もと)にさらす。この僕が、密輸の実行犯だ。ブラック企業の命令で働かされていた、被害者だ」
エッグ・プラントの本社には、カクー国のダイヤモンドに関する機密文書などがあるはず。それを盗み、公表するという話になった。
会議が終わり、三人で廊下を歩くと、うらなりは礼を言った。
「いろいろ協力してくれて、ありがとう」
「おじさま。昨日の敵は、今日の味方ですよ」
「俺たち東海林商事は、日本の大企業として、日本の汚名は雪ぎたい(そそぎたい)」
「もうひとつ、僕の個人的なことだが、協力してほしいことがある。最優先で」
「いくらでも協力するぞ」
うらなりは立ち止まり、足元を見る。
「実は、靴が欲しい」
うらなりは、飛行機で出発する前に、帽子の集団から逃げた時から靴を履いていない。黒ずくめのスーツがボロボロで、ズボンの裾は破れている。会議の出席者の全員が気付いていながら、誰も指摘しない。
「ついでに、おじさまには、お洒落なスーツもプレゼントしたら?」
メイの案で着替えたうらなりは、白ずくめのスーツになった。胸に赤いバラがある。
東海林商事の社員が説明する。
「この靴とスーツは、当社のトロール将軍が発明いたしました」
うらなりは礼を言う。
「ありがとう。履き心地は最高の靴だ。若返ったように、全力疾走もできる。しかし、デザインが悪い」
「そのデザインは必要です。歩くだけで発電でき、電力はマイクロ波で外部のバッテリーに転送されます。それらを実現するためです」
科学に疎いうらなりなので、どこにバッテリーがあるのかを不審に思ったが、指摘できなかった。
タク、メイ、うらなりの三人は、早速エッグ・プラントの本社に行った。目立たぬよう、カクー国のありふれた地味な庶民の自動車を使った。
敷地の近くに車を停めて、車内から本社の正門を見ながら、三人で打ち合わせ。
「社員である僕が、情報を出そう。機密文書は、別館の4階にある。北側の部屋だ」
すまし顔で、タクがタブレットで確認する。うらなりの情報は正しい。
再び一般道を車で走り、別館の近くに行く。敷地は広大で、飛行場まである。ギャングの会社は、儲かるのか?
別館の近くで停車。三人は車から降りる。
タクが周囲を見渡す。
「さて、どこから、どうやって侵入しようか」
「あの門は、別館のためのものだ。まさか、門から堂々と入るのは無理だろう」
メイがタクに抱き付く。
「堂々と入るために、こんな方法は、どう?」
うらなりが呆れる。
「色仕掛けか?」
「おじさまは、黙って見ているだけよ」
わざとらしく、メイがウインクする。
メイは軽くジャンプして、タクに抱き付き、脚を上げた。
車内に用意していた衣服でタクとメイの全体を包むと、一人のデブのおっさんになった。変装術で作った顔は、見るからにドジでマヌケ。どことなく、うらなりに似ている。
別館側の門から、メイを抱いてデブになったタクが中に入る。
ロビーで周囲を見渡しながら、小走りで右往左往する。「トイレ」の看板を見付けて走る。
守衛室から係員が出て来たが、タクは息も絶え絶えに日本語で言う。
「便所! トイレ! 厠(かわや)! ご不浄! せっちーーん!!」
鬼気迫るジタバタで、係員もひるむ。
「今すぐに脱糞することもできるんだぞ」
変装術で作った、見るからにドジでマヌケな顔で睨むので、係員も笑ってしまう。
その隙にトイレに駆け込んだ。個室で、タクとメイが二人に分かれた。メイが腹部に風船を仕込み、デブのおっさんになり、ドジでマヌケな満面の笑顔で外に出る。
タクだけがトイレに残った。トイレの天井の点検口から空調ダクトを通り、4階の資料室に到着。
顔だけ天井から出して、ざっと見渡す。いくつかの防犯カメラを見ると、稼働中のランプが消えている。おそらく、赤外線センサーで稼動するのだろう。
これは想定外だ。赤外線センサーなら、誤魔化す方法はあるが、その用意を忘れていた。カメラを覆い隠す道具も無い。
ロッカーのドアの整理札を見ても、天井から出した顔の位置からは目的のものが見付からない。やはり、床を歩いて探すしかないか。
実は、「想定外で困った」というより、「想定外を利用できなかった」という程度。ずっと監視されていると想定していた。赤外線を感知されない方法を用意していれば、もっと楽だった。
当初の予定通り、床を歩いて目的のロッカーを探した。カメラが赤外線の動きを感知したのだろう、防犯ベルが鳴り響く。
ロッカーの整理札から、目的の機密文書を見付けた。さっと目を通すと、違法性は確認できないが、正確な確認は後でゆっくりしよう。
窓を割って、矢を放つ。矢には翼があり、飛行機のように遠くまで飛ぶ。矢にはロープが付いていて、敷地外の街路樹まで飛ぶ。飛行機の翼が街路樹に当たって回転して、ロープが巻き付く。
タクはロープにぶら下がり、敷地を囲む塀の向こうで地面に着地。
そこには、メイが運転する車が待っていた。メイは、服装は元に戻ったが、顔だけはドジでマヌケなおっさんの顔のまま。
タクがロープから着地した瞬間に、うらなりが襲い掛かった。ナイフを持っている。
「その機密文書をよこせ」
「ミスターなすび、血迷ったか」
タクは落ち着いた様子。
「僕は、エッグ・プラントに仕返しがしたいんだ。機密文書があれば、公表しないことと引き換えに、金を取れる。東海林商事に再就職しなくても、住宅ローンも返済し、女房と子供、親も呼んで、幸せに暮らすんだ」
憐願の涙声になっている。
「そんな度胸なんて無いだろう。交渉に慣れていないのに、そんなことをしても、逆に脅されるだけだ」
「うるさいっ! うるさいうるさいうるさいっ!」
錯乱したような、うらなりの泣き叫び。
「どうせ、お前のような御曹司には、僕のような庶民の気持ちは、わからないだろう」
メイが後ろから近付き、うらなりの耳元にささやく。
「おじさまぁん。経験の種類は違うけど、御曹司は欲しいものを手に入れるために、努力しているのよ。現在進行形で、努力してるのよ」
「何が努力だ。どうせ、ダイヤモンドを返すことも、御曹司の気まぐれな遊びだろう」
「いいえ、おじさま。御曹司であり、重役ですから、現在進行形で会社のために働いているんですよ、きっと」
正気を失っているうらなりの、白ずくめの服の背中を、メイがつまんだ。途端に、衣服は変形し、うらなりの体勢を強制的に変えた。
こんなこともあろうかと、東海林商事からは、トロール将軍が発明した特殊な仕掛けの服をプレゼントしておいた。
うらなりは、今度も見事な「8」の字を描いて倒れた。
数々の困難を、うらなりの協力で乗り越えたが、早くも奇妙なトリオは、解散するのだろうか?
次回は …… 第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
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