メイ:久米郁葉(くめ・いくは)。女。20歳代後半。タクの彼女。小柄な手品師で、手品と同様、楽しむことに貪欲。
うらなり:成浦なすび(なりうら・なすび)。おっさん。ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課の課長。ドジ。
第1話[キャンプしてたらダイヤモンドを見つけちゃった]
第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]
第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
第9話[うらなりのハッピーエンド]
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▼ 第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
「ねえ、タクちゃん。このおじさま、一緒に行動して、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。ミスターなすびは、困難を乗り越えることが長所だが、心配事が多くて、上手くいかないだけだ。悪い人ではない」
「うーん。そう言われれば、そうみたい。滑稽にも見えるけど、精神的に追い詰められると、冷静に説明できないことをするって、よくあるし」
タクは、倒れているうらなりの近くに跪いて、優しく説得する。
「さっきも言ったが、ミスターなすび、交渉する度胸は無いだろう? 俺が東海林商事に招こうと考えたのは、靴を無くしてでも帽子集団から逃げ出すなど、困難を乗り越えて仕事をする姿勢を、高く評価したからだ」
うらなりは「8」の字のまま、うなる。
「ミスターなすび、相手はプロのギャングだ。交渉に失敗すれば、自分だけでなく、縁故者にも危険が及ぶだろう。ミスターなすびに必要なものは、脅しのための機密文書ではなく、堅実な仕事だ」
うらなりは、捕縛されたまま深呼吸して、少し落ち着いた。
「さっきは悪かった」
「まだまだ、ミスターなすびからは、聞けることがある。役に立つ」
気分を落ち着けて、三人は車に乗る。
「この機密文書は、ニセモノの可能性がある」
「どういうこと?」
「防犯ベルが鳴ったから、きちんと確認する時間は無かったが、合法を装って、あちこちの数字に不自然な箇所がある」
「そんなことがあるか! あそこが機密文書の保管場所だというのは、間違い無い!」
「だから、これからそれを確認するんだ」
エッグ・プラントの中は、騒ぎになっている。
タクは敷地の外から社屋を見渡し、怪しい動きのある部屋を見付けた。ライフルで窓に特殊な鏡を付着させた。再帰反射プリズムという、測量で使われるような特殊な鏡を、窓ガラスに接着。接着剤は硬化する。
この鏡はどの角度から光を当てても元の方向に反射する。ただし、盗聴目的なので、振動を感知できるように、わずかに角度を変えてある。
タクがレーザー光線を発射すると、反射してタクの場所の近くに戻って来た。
「ガラスに当たった衝撃で、接着剤が硬化する。室内の会話で特殊な鏡も振動する。レーザー光線を当てると、反射したレーザー光線も振動し、室内の会話が聞こえるんだ」
「これもトロール将軍の発明なの?」
「もちろん」
レーザー光を当てると、反射して、ここに戻って来る。室内の会話で、反射したレーザー光も揺れる。その揺れ具合を音声に変換することで、会話が聞き取れる。
ノイズが自動的に削除され、室内の会話がクリアに聞き取れた。
聞き取った会話「盗まれた機密文書はニセモノ」「本物の機密文書は別な所にある」「ニセモノの機密文書に暗号で書かれているが、暗号が解かれなければ、バレることはない」
タクは機密文書を持ち上げ、うらなりに向かって言う。
「だってさ。これの暗号は、どうやって解くんだ?」
機密文書は、普通の取引記録のようだが、最後のページに、古今東西の推理小説や暗号パズルのようなものが書かれている。
うらなりは暗号を解こうとするが、メイは不審だ。
「これって人為的な謎の雰囲気が無いよ。ねえ、タクちゃん、本当に暗号なのかな? 暗号のようでいて、暗号とは違うような……」
うらなりが解き始める。
「暗号ではなく検索コードだ。その番号で一覧表から倉庫を探す。倉庫の中に機密文書が保管されている」
「やっぱり、そうだよね。暗号として解くんじゃなく、検索するんだよね。おじさまは倉庫の一覧表を持ってるの?」
「ここにある」
タブレットを出す。うらなりは、このタブレットが、社員証の代わり。
「あった。エッグ・プラントが所有している孤島だ」
「どんな孤島なの?」
「ホテル、ヘリポート、飛行場もある、ちょっとしたリゾート地だ。ギャングの大物を招くためだから、一般客は来ない。リゾート地の、ホテルの書庫に機密文書があるとは、気付かれにくい。そこに、紙で機密文書が保管されている」
「コンピュータの中には無いのか?」
「無い。社長はコンピュータが嫌いでな、災害でコンピュータがつぶれても、紙さえ残っていれば何とかなるってな」
「もうっ、非効率な社長ね」
「非効率ではあるが、社長として正しいのかもな。どちらが良いかは、一長一短だ」
ということで、機密文書を保管している書庫に行くことになった。しかし、それはエッグ・プラントが所有している孤島だ。一般向けの定期航路は無い。結局、飛行機で行くことになる。
「海底火山があるからな。今も時々、噴火する」
「えーっ、噴火した時に孤島にいたら、津波が来るんじゃない? そもそも、カクー国って、地震が無いと思ってた」
「実は、大噴火は、ほとんど無いんだ」
「僕は、その孤島に行ったことがある。せいぜい震度2程度で、津波も軽微。本土でまでは揺れも届かないから、カクー国の人は、地震の経験が少ないんだ」
「とはいえ、俺たち日本人は、地震を軽視はできないよな」
「うん、わかった」
うらなりが提案する。
「飛行機なら、ここから盗めばいい。さっき、飛行場があっただろう。孤島まで飛べる飛行機もある」
「おじさまの提案によると、エッグ・プラントがカクー国からダイヤモンドを盗み、あたしたちがエッグ・プラントから飛行機を盗む。おかしな関係」
本社の敷地内の飛行場には、整備済み、給油済みの小型飛行機がある。こっそり乗れば、いつでも飛び立てる。
「誰が操縦する?」
「俺だ。東海林商事の御曹司を、なめるなよ」
三人が搭乗した。飛び立つと、飛行機が盗まれたと気付いたのだろう、エッグ・プラントの社員が滑走路で追い掛けようとしている。
タクが操縦し、メイは無線で現在状況を東海林商事に報告する。エッグ・プラントの孤島という敵地に行くので、危険な状況だ。
海の上を飛ぶ。目的の孤島に近付くと、島に向かっている船があった。見下ろすと、エッグ・プラントのマークが見える。
「おい、ミスターなすび。あの船は何だ?」
「あれは社長の船だ。年に何度か、リゾート気分で滞在するんだ」
ここから、メイとうらなりの掛け合いが続く。うらなりにとっては「優位に立ちたい」という気持ちを実現するチャンスなのだろう。
メイ「ははーん、そうなのね。ということは、あの船には、人数分の食糧が積んであるのね」
うらなり「それだけではない」
メイ「掃除道具、洗剤などの消耗品も」
うらなり「それだけではない」
などという掛け合いが続く。
メイが「寝具が損傷していることに備えて、交換の寝具も」「家屋の修理道具」「インフラ設備の保守用の道具や資材」「各種燃料」「修繕が無ければ資材などは不要。点検要員。料理人。気象予報士」と挙げる。
その度に、うらなりが「それだけではない」と言う。うらなりの「優位に立ちたい」の気持ちが暴走している。
タクはこのような「全部を挙げなければ不完全な回答」というのが、好みではない。
「要するに、孤島でのリゾートは、大変だってことだろう? 往復は大変だから、頻繁にはできないけれど、とんでもないほどのコストでもないから、リゾートに先だって点検もあるだろう」
「うーむ」
「それに、書庫だからほったらかしではない。仕事で来る人もいるだろう。ということは、その時にリゾート用の保守も兼ねている」
ちょっと心配になったメイが言う。
「それより、こっちから船を見付けたってことは、こっちも船に見付かったんじゃない?」
「言い忘れていたが、この飛行機には、下から見上げれば、エッグ・プラントのマークが見える」
「あの船に社長が乗っているってことは、この飛行機が盗まれたものだってのも、知られているだろう」
うらなり「ということは……」
メイ「撃墜されるーーー!!」
タク「あはは。まさかな。ギャングの会社だが、いきなり銃撃はしないだろう」
船から銃がこちらに向けられた。
時が止まったように、三人が目を合わせた。
「おいおいおいおい……!」
けたたましい音がする。なんてこった、船から銃撃されたじゃないか。慌てて逃げる。
タクはとっさに、東海林商事に向けてSOS信号を発信する。
次回は …… 第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
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