メイ:久米郁葉(くめ・いくは)。女。20歳代後半。タクの彼女。小柄な手品師で、手品と同様、楽しむことに貪欲。
うらなり:成浦なすび(なりうら・なすび)。おっさん。ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課の課長。ドジ。
第1話[キャンプしてたらダイヤモンドを見つけちゃった]
第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]
第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
第4話[抱き合ってエッグ・プラントに潜入]
第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
第9話[うらなりのハッピーエンド]
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▼ 第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
タク「俺たちは、間違いなく殺されるだろうな」
うらなり「まさか。社長は許すと言っていたし、ギャングの会社というのは都市伝説だって」
メイ「おじさまは、おめでたい」
うらなり「お嬢さんは、さっきから、暗号のことや、いろいろと気付いたから、手品師か、詐欺師か?」
メイ「手品師よ」
うらなり「だったら、社長が嘘を言っていないって、わかるだろう」
メイ「やっぱり、おじさまは誤解している。手品師は、メンタリストじゃないよ。心理学を使っているのは共通しているけどさ」
メイは軽く、手品は楽しむために貪欲なこと、そのためには、心理学だけでなく、トポロジーや化学も利用することを話す。
トポロジーとは数学ジャンルのひとつ。例えば紐の結び目が「解ける結び目」と「解けない結び目」の区別で、手品では「解けない結び目」を、こっそり「解ける結び目」に変えたりする。
タク「俺たち三人の指紋を採取しただろう。そこで、ミスターなすびが社員であることは確認したが、俺とメイの正体も知られただろうな」
うらなり「東海林商事は、犯罪とは無関係の会社だろう。だったら安全じゃないのか? 仮に、エッグ・プラントがギャングの会社だとしても、競合他社にもならない」
タク「それが危ないんだ。東海林商事から疑われるのは避けたいものだ。ギャングの会社だと隠しているのが、バレてはいけない」
メイ「あたしたち三人がここにいた痕跡が少ないうちに殺すんでしょうね。血が出ない殺し方で簡単なのは毒殺。きっと、最初の食事に毒を入れてるんじゃないかな。さっさと殺して、死体は海に捨てれば見付からない」
うらなり「それは、お嬢さんの被害妄想だ。社長の、あの紳士的な物言いは、嘘ではない。飛行機を盗んだ僕たちに、温情的な対応を約束しただろう」
タクは少し考えてから言う。ここでうらなりを納得させることは必須ではない。口論よりも優先すべきことがある。
タク「ミスターなすび。もうすぐ助けが来る。そしたら、真実が明らかになるだろう」
タクとメイが、目配せする。撃墜された時に、タクは東海林商事にSOS発信をしていた。海の上を飛んでいた時にメイが現状報告をしていたこともあり、会社は適切に救助に来る。
タク「とにかく、機密文書を見付ければ、エッグ・プラントがギャングの会社だということを公表できる。これで、ミスターなすびの目的も達成できる」
タクとメイは、東海林商事の情報網から、エッグ・プラントがギャングの会社だと知っている。しかし、うらなりは、社長のウルトラ弁明術により、エッグ・プラントは普通の会社であるという期待を信じている。
確かに、エッグ・プラントの社員のうらなりにとっては、ブラック企業であることや、給料は上限付きの歩合制に不満はあるが、自分がしている仕事は違法な「密輸」ではなく、合法の「輸入」と信じるのも、無理はない。
「おじさまは、証拠が無い状態で判断しないのね。素敵な人」
手品師であるメイは、相手を操る手法として、「意外なことを考えさせる」を使った。このように、エッグ・プラントの話の時に褒めると、うらなりは考えが迷走する。
2機のヘリコプターの音がする。
タク「このヘリコプターの音が、助けに来た音だろうな」
社長の部屋。
社長「ヘリコプターの音が聞こえる。我が社の「特殊警察」の音だろう。随分と早く来たな。これで奴らも終わりだ。ウホホホ」
側近「少し、音が違うようですが」
島に到着したのは、東海林商事のヘリコプターと、本物の警察のヘリコプター。
東海林商事は、メイからの状況説明を受けて警察と共に準備しておき、タクからのSOSで速やかに駆け付けた。東海林商事は、各地の警察と仲が良い。
社長はヘリポートで出迎えるが、自社の特殊警察ではないことに驚いた。しかし、冷静さを忘れずに警察に対応した。
「実は、うちの社員が会社のことを「ギャングの会社」と勘違いして、内部告発の方法が、いくらか過激になりまして……」
警察からの詰問に、社長はウルトラ弁明術で答えている。
「ヘリコプターを盗むという過激な方法でしたので、念のために、ホテルの一室にいてもらうよう、お願いしました。監禁だなんて、とんでもない」
社長は、ホテルのロビーに、警察と東海林商事の救援者を招いた。そこに、タクたち三人を連れて来た。全員が椅子でくつろぐようになる。全員に紅茶が出された。
「お連れしました。お三人に危害は加えていません。ただし、過激な方法をされたので、テロ集団の可能性もありますから、超小型の通信機で他の仲間を呼ばれないように、着替えはしていただきました」
そして、テロなのか、社員の行き過ぎた行為なのかの確認を、警察に委ねた。
警察は、筋が通っている社長の言葉に、粗探しもできない。社長は口八丁、ウルトラ弁明術で、エッグ・プラントをここまで大きくしたのだ。
その口の巧さは、社員を安い賃金で働かせることに同意させることにも使っていた。だから、うらなりだけでなく、社員のほとんどが、「いつの間にか社畜にされていた」と、不満を持っている。
しかし、今の社長は困っている。というのは、タクたち三人に与える食事で毒殺する予定が狂ったから。警察と、東海林商事の救援者がいれば、こっそり毒殺もできない。
そうだ、即効性の毒ではなく、遅効性ならどうだろう。ゆっくりと効果が出る毒なら、このまま三人を引き渡せるか。いや、死ぬ前に、あれこれと警察に話されては、やはりまずい。
社長が迷っているところに、メイが話し掛ける。やや色っぽい口調と仕草。
「社長様、こうして警察の方々がいらしましたし、私たち三人は、警察と一緒に島を出ても良いですか?」
「まあ、いいだろう」
メイは、タクと並んで座っていたが、尻を少し浮かせてタクとの隙間を広くするように座り位置をずらした。タクに向けていた膝の向きを、社長側になるように、反対向きにした。
「その前に、私たち、お腹が空きましたわ。お食事をしたいです。できれば、素敵な社長様と、二人っきりで」
メイのこの提案、二人きりでの食事には、意味が無い。社長を混乱させるのが目的。
というのは、警察が来たせいで、三人を殺せなくなったため、善後策に迷っている社長を慌てさせると、ボロが出るだろう。
「では、今から食事を用意させよう。警察の皆さん、東海林商事の皆さんも、我がエッグ・プラントの誇る極上の料理をどうぞ」
社長は嬉しさを隠しもせず、メイの隣にいるタクに、勝ち誇った笑顔を見せる。まるで、「御曹司よりも、社長の方が勝ちだ」とでも言っているようだ。
メイが立ち上がると、社長も立ち上がり、腕を組むことを促すように肘を曲げる。メイは小走りに社長のそばに行き、腕を組む。
「社長様、わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの。でも困ったわ、警察に行くのに、アルコールは……」
社長とメイは談笑して去って行く。
タクがうらなりに聞く。
「ミスターなすび。機密文書は、どこにある?」
「ホテルの2階の書庫だ。ホテルは、ここが1階の受付ロビー、2階がスタッフルームと書庫とホテル備品倉庫、客室は3階から上だ」
タクは続けて、警察に言う。
「2階の書庫に、密輸の証拠となる機密書類があります。それを以って、エッグ・プラントの違法性が明らかになります」
「しかし、我々警察としても、令状も無いのに書庫を開けさせることはできない」
「あなた方、カクー国のダイヤモンドが、日本を含め各国に密輸されているのですよ」
タクならば、書庫に侵入することはできる。しかし、侵入は犯罪。警察がいる状態で侵入すれば、違法行為を見せることになる。
メイは今、食事が来るまでの間、社長を説得しているだろう。しかし、書庫を開けさせることは難しい。
タクが迷っていると、テーブルの紅茶カップが小刻みに揺れた。
地震だ!
どうやら、近くの海底火山が噴火したらしい。
次回は …… 第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
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