ワールドトリガー LOSTCOLARS   作:淫獣撲滅委員

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第八話 集まる才能

「すみません。少し、よろしいでしょうか?」

 少年が地面に額をつけ、職員が困り果てていたところに、穏やかな声が割って入った。

 職員が振り返る。

「ああ、君は……」

「ライです。いつもお世話になっています」

 ライは軽く頭を下げてから、地面に膝をついたままの少年へ視線を向けた。

「君、少しだけ話を聞かせてもらえないかな?」

「……あなたは?」

 少年がようやく顔を上げた。

 警戒心の強い目だった。年齢はライとそう変わらないように見えるが、その表情には年相応のあどけなさよりも、強い緊張と切迫感が浮かんでいた。

「僕はライ。ここで訓練を受けている者だよ。君がどうしてもボーダーに入りたいのなら、まずは中で話をしてみない?」

「でも……俺は、何度も頼んで……」

「うん。だからこそ、きちんと話を聞いてもらおう。ここで頭を下げ続けても、君の事情は伝わらないままだろうから」

 ライは少年の前にしゃがみ込んだ。そして、そっと少年の腕に手を添える。

「立てる?」

 少年は戸惑いながらも、その手を取った。

 ライは無理に引っ張ることなく、少年が自分の足で立ち上がるのを支えた。

「ありがとうございます……」

「どういたしまして。では、行こうか」

 ライは職員に目配せした。

「面談室をお借りしてもいいでしょうか?」

「ああ、分かった。こちらへ」

 職員は安堵したように頷き、二人を本部の建物へ案内した。

 少年は何度も周囲を見回していた。

 念願のボーダー本部に入れたというのに、その表情から緊張が消えることはなかった。

 ライは、そんな少年の様子を気に留めながら、隣を歩いた。

 

面談室に入ると、ライと少年は向かい合って座った。

 職員も同席し、机の上には記録用の書類が用意されている。

「それでは、改めて話を聞かせてもらおう。どうして、そこまでボーダーに入りたいんだ?」

職員の問いかけに、少年は膝の上で拳を握りしめた。

 しばらくの沈黙。

 やがて、少年はゆっくりと口を開いた。

「……大規模侵攻のとき、俺は姉と一緒にいました」

 その声は、先ほどまでの懇願するような声とは違っていた。

 抑え込もうとしている感情が、その奥ににじんでいる。

「姉は、俺よりずっと強くて、優しくて……俺にとって、誰よりも大切な人でした」

 少年は視線を落とした。

「侵攻が始まったときも、姉は俺を守ってくれました。逃げろって、何度も言って……」

あの日。

 街を襲った異形の存在。逃げ惑う人々の叫び声。そして、自分の手を引いて走っていた姉の姿。

少年の脳裏に、あの日の光景が蘇る。

 

三輪秀次・回想

 姉の手は、強く自分の手を握っていた。

「秀次、こっち!」

 姉の声に従い、俺は必死に走った。

 何が起きているのか、最初はよく分からなかった。

 街が壊され、人々が逃げ惑い、見たこともない化け物が暴れている。

 テレビで見た災害なんかとは違う。

 これは、自分たちが暮らしていた街で起きている、本当のことだった。

「姉ちゃん、あれ……!」

「見ちゃ駄目! 走って!」

 姉は俺をかばうように前へ出た。

 その直後だった。

 化け物が、俺たちの目の前に現れた。姉が俺を押しのける。

そして――。

 気がついたとき、俺は地面に倒れていた。

 目の前に姉がいた。

 いつも自分を守ってくれた姉が。

 呼びかけても、返事はなかった。

 何度も名前を呼んだ。肩を揺すった。起きてくれと、頼んだ。

 それでも、姉は目を覚まさなかった。

「姉ちゃん……?」

 声が震えた。

 何が起きたのか、理解したくなかった。理解できなかった。

 そのとき、化け物の動きが止まった。

 駆けつけたボーダーの隊員が、それを倒したのだ。助かった、そう思った。

 この人たちは化け物と戦っている。

 この人たちなら、姉を助けてくれる。

 俺は必死に叫んだ。

「お願いします! 姉ちゃんを助けてください!」

 隊員がこちらを向いた。俺は姉のそばから動けなかった。

「姉ちゃんが……姉ちゃんが……!」

 助けてほしかった。何でもよかった。

 どうすれば助かるのか、教えてほしかった。

 けれど、隊員は姉を一瞥すると、冷たい目で言った。

「残念だけど、もうお姉さんは助からないよ」

 それだけだった。

 俺の知っている世界が、音を立てて崩れた気がした。

 姉は、もう戻ってこない。その事実を、知らない誰かに告げられた。

 化け物を倒せるほど強い人たちが、目の前にいるのに。俺には何もできなかった。

 姉を守ることも。助けを求めることも。何一つ、間に合わなかった。

三輪回想終了

 

「……だから、俺はボーダーに入りたいんです」

 三輪は顔を上げた。

 その目には、強い意志が宿っていた。

「ネイバーを、一体残らず倒す。そのための力がほしい」

 拳が、さらに強く握りしめられる。

「それと……」

 一度言葉を切り、迷いながら三輪は続けた。

「俺は、あのときのボーダー隊員みたいにはなりたくありません」

 職員がわずかに表情を変えた。

「姉が助からなかったことは、分かっています。俺にだって、どうしようもなかったのかもしれない。それでも……あの人は、俺たちを見て、もう助からないと言っただけだった」

 三輪の声が、わずかに震えた。

「俺は、そんな人間にはなりたくない。誰かが助けを求めているなら、最後まで助ける方法を探したい。自分の目の前で、大切な人を失う人を、これ以上増やしたくないんです」

 それは、復讐心だけでは説明できない願いだった。姉を奪ったネイバーへの憎しみ。

 力がなかった自分への怒り。

 そして、自分と同じ思いをする人間を、もう生み出したくないという気持ち。

 それらが複雑に絡み合い、三輪を突き動かしていた。

 職員はしばらく考え込んでから、慎重に口を開いた。

「君の事情は分かった。だが、ボーダーが本格的に稼働し、正式に隊員募集を始めるのは、次の四月からだ。それまで待つことはできないだろうか?」

 三輪は即座に首を横に振った。

「待てません」

「……三輪君」

「一日でも早く、力がほしいんです。一分でも、一秒でも早く」

 三輪は机に手をつき、身を乗り出した。

「時間が経てば経つほど、俺は何もできないままです。次に誰かが襲われたとき、また同じことになるかもしれない。そんなのは、もう嫌なんです」

 職員は言葉を失った。

 正規の募集開始まで待たせる。

 それは組織の手続きとしては当然の判断だった。

 だが、目の前の少年にとって、その数ヶ月はあまりにも長い。

 ライは、ここまで黙って話を聞いていた。

 そして、静かに椅子から立ち上がった。

「……三輪君」

「え?」

「少しだけ、聞いてほしいことがあるんだ」

 ライは三輪の前に立つと、深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

 三輪は目を丸くした。

「な……何を?」

 ライは顔を上げなかった。

「僕も、あの日は救助活動をしていました」

 三輪の表情が変わる。

「大規模侵攻の現場で、怪我をした人や、逃げ遅れた人を探していました。できる限り多くの人を助けようと、必死に動いていたつもりです」

 ライの声は落ち着いていた。

けれど、その言葉には、確かな重みがあった。

「それでも、君たち姉弟を見つけることができなかった。君のお姉さんを救うことも、君が助けを求めていることに気づくこともできなかった」

「ち、違います! あなたのせいじゃありません!」

 三輪は慌てて立ち上がった。

 自分が責めたかったのは、あの日の隊員だった。

 目の前の少年が、何をしていたのかは知らない。

 そもそも、彼が自分たちの存在を知っていたわけでもないだろう。

 それなのに、どうして謝るのか。

「あなたが謝る必要なんてありません! あのとき、俺たちのことを知らなかったんでしょう?」

「そうだね。知らなかった」

 ライは静かに頷いた。

「だから、君の言うとおり、僕だけの責任ではないと思う」

「だったら……!」

「でも」

 ライは三輪の目を見た。

「それでも、あの日、僕には一人でも多くの命を救う機会があったんだ」

 三輪は言葉を止めた。

「僕がもっと早く動けていたら。もっと広い範囲を確認できていたら。誰かの助けを求める声に気づけていたら。そう考えることは、今でもある」

 ライは拳を軽く握った。

「もちろん、すべての人を救えるわけではない。僕一人にできることにも限界がある。それは分かっているつもりだよ」

 そこで一度、息をつく。

「それでも、救えたかもしれない命があったのなら、僕はその可能性を忘れたくないんだ」

 三輪は、何も言えなかった。

 目の前にいる少年は、自分の憎しみを否定しているわけではなかった。

 ボーダーを正当化しようとしているわけでもない。

 ただ、自分が果たせなかったことを、真剣に受け止めている。

「……だから、君の話を聞けてよかった」

 ライはもう一度、頭を下げた。

「話してくれて、ありがとう」

 三輪は、握りしめた拳を少しだけ緩めた。

 胸の中に渦巻いていた感情は、消えたわけではない。

 姉を失った悲しみも、ネイバーへの憎しみも、今すぐ消えるはずがなかった。

 それでも、この人は自分の話を最後まで聞いてくれた。

 そのことだけは、確かだった。

 

「……ひとまず、ここまでにしようか」

二人の様子を見守っていた職員が、静かに口を開いた。

「三輪君。君の事情は理解した。だが、入隊させる以上、本人の意思だけで決めるわけにはいかない」

「……はい」

「まずはトリオン量を測定する。そのうえで、戦闘員として活動できるだけの適性があるかを確認する必要がある」

 職員は机の上の書類をまとめた。

「本来なら、正式な採用試験で実施する内容だが、今回はそれに準じた試験を行おう」

 三輪が顔を上げる。

「試験……?」

「トリオン量の測定と、戦闘試験だ。戦闘試験では、トリオン兵を一体相手にしてもらう。制限時間内に撃破できれば合格とする」

 それは、ボーダー隊員として活動するための基礎的な適性を確かめる試験だった。

「結果次第では、入隊を認めることも検討しよう」

「……本当ですか?」

「もちろん、必ず合格できるとは限らない。それでも受けるか?」

 三輪は迷わなかった。

「受けます!」

 その声には、先ほどまでの懇願とは違う力強さがあった。

「お願いします。どんな試験でも、受けます!」

 職員は頷いた。

「分かった。それでは、準備を始めよう」

 ライも三輪に向かって微笑んだ。

「頑張って」

「……はい!」

 三輪は強く頷いた。

 

 最初の試験は、トリオン量の測定だった。

 専用の測定器を前に、三輪は緊張した面持ちで説明を聞いていた。

 測定が始まる。

 装置の数値が変化し、職員が記録を確認する。

「……問題ないな」

 職員は結果を見て頷いた。

「隊員として活動するうえで、トリオン量に大きな問題はない」

「本当ですか?」

「ああ。次は戦闘試験だ」

 三輪は息を呑んだ。

 ここからが本番だった。

 戦闘訓練用の施設に移動すると、そこには一体のトリオン兵が待ち構えていた。

 試験用に調整された個体とはいえ、実際に動くトリオン兵を前にすれば、緊張しないはずがない。

 職員がルールを説明する。

「制限時間内に撃破できれば合格だ。無理だと判断した場合は、こちらから試験を中止することもある。いいね?」

「はい」

 三輪はトリガーを起動した。トリオン体へと切り替わる。

 構えを取った三輪の顔から、迷いが消えた。

 開始の合図。トリオン兵が動き出す。

 三輪は一歩後退し、相手の動きを見極めた。

 正面からぶつかるのは危険だ。

 相手の攻撃を避け、隙を見つけて反撃する。

 頭では分かっていても、実際に動くとなれば話は別だった。

 何度か攻撃をかわし損ね、体勢を崩す。

 それでも、三輪は諦めなかった。

 距離を取り直し、相手の動きを観察する。

 一度目の攻撃。二度目の攻撃。そして三度目。

 ようやく相手の動きに合わせて攻撃を仕掛けることができた。

 構えを取った三輪の顔から、迷いが消えた。

 戦闘は決して鮮やかなものではなかった。経験不足は明らかだったし、判断にも粗さがあった。

 それでも、三輪は最後まで戦い続けた。

 そして――。制限時間内に、トリオン兵を撃破した。

「……終了!」

 職員の声が響いた。

 三輪は肩で息をしながら、その場に立ち尽くしていた。

 やがて、試験が終わったことを理解すると、ゆっくりと息を吐いた。

「合格だ」

 その言葉を聞いた瞬間、三輪の目が大きく見開かれた。

「……合格?」

「ああ。細かな課題はあるが、今回の基準は満たしている」

 三輪はしばらく動けなかった。

 そして、震える息を吐き出した。

「……ありがとうございます」

 その声は、かすれていた。

 

 試験の様子は、途中から別の場所でも確認されていた。

 モニターの前に立つ二人の男。城戸正宗と忍田真史だった。

 城戸は無表情のまま、試験結果を確認していた。

「トリオン量は問題なし。戦闘は未熟だが、制限時間内に撃破しているか」

「ええ。動きそのものは荒削りですが、相手の攻撃を観察して対応しようとする姿勢は見られました」

 忍田が答えた。

「それに、彼がボーダーを志願した理由も、聞いています」

 城戸は腕を組んだ。

「……復讐心が強いな」

「そうですね。ただ、それだけではないようです」

 忍田はモニターの中の三輪を見つめた。

「彼は、自分と同じような思いをする人を増やしたくないとも言っていたそうです」

「理想を語ることは誰にでもできる」

「ええ。だからこそ、これからを見ていく必要があるのでしょう」

 短い沈黙が落ちた。

 やがて、城戸が口を開いた。

「ライと同様、特例として入隊を認める」

 忍田は小さく頷いた。

「私も異論はありません。正式な募集開始を待たせるより、ここで受け入れた方がよいでしょう」

「ただし、本人の意思だけで何でも決められるわけではない。訓練も規則も、ほかの隊員と同様に受けさせる」

「もちろんです」

 二人の判断は一致していた。

こうして、三輪秀次は正式な募集開始を待たず、特例としてボーダーへの入隊を認められたのだった。

 

試験が終わり、三輪はライのもとへ戻ってきた。

「ライさん」

「お疲れさま。合格、おめでとう」

 ライが微笑むと、三輪は姿勢を正した。

 そして、深々と頭を下げた。

「ありがとうございました!」

「え?」

「ライさんが声をかけてくれなかったら、俺は今も外で頭を下げていたと思います。話を聞いてもらうことも、試験を受けることもできなかったかもしれません」

 三輪は顔を上げた。

「本当に、ありがとうございます!」

 ライは少し困ったように笑った。

「そんなに大げさなことじゃないよ。僕は、君の話を聞いただけだから」

「それでもです!」

「……そう言ってもらえるなら、よかった」

 ライは頷いた。

「ただ、忘れないでほしいことがあるんだ」

 三輪の表情が引き締まる。

「今日の合格は、ゴールじゃない。ここからがスタートラインだよ」

「……はい」

「これから訓練を積んで、覚えなければいけないこともたくさんある。思いどおりにいかないこともあると思う」

 ライは三輪の目を見た。

「それでも、君が本当に力を求めているのなら、これから少しずつ身につけていけばいい。焦らず、着実にね」

 三輪は一瞬だけ視線を落とした。

 姉を失ったあの日から、ずっと求めていた力。

 今すぐ手に入るわけではない。

 それでも今日、そのための一歩を踏み出すことはできた。

「……はい!」

 三輪は力強く返事をした。

「必ず、強くなります!」

「うん。期待しているよ」

 ライは穏やかに笑った。

 その日から、三輪の訓練が始まった。

 

四月までの数ヶ月間、ライは積極的に三輪の訓練に付き合った。

 最初は基本動作からだった。

 トリオン体の扱い方。トリガーの操作。攻撃と防御の切り替え。

 そして、相手の動きを観察すること。三輪は決して器用な方ではなかった。

 思い切りがよい反面、攻撃を急ぎすぎることがある。

 一つのことに集中すると、周囲への注意が薄くなることもあった。

「三輪君、今の攻撃はどうして外れたと思う?」

「相手の動きを読み違えました」

「そうだね。じゃあ、次はどうする?」

「……攻撃する前に、相手の足運びを確認します」

「うん。試してみよう」

 ライは、答えをすぐに教えることはしなかった。

 まず三輪自身に考えさせ、実際に試させる。

 そして、うまくいかなかったところを一緒に振り返る。

 三輪も、悔しさを顔に出しながら、何度でも挑戦した。

「もう一回、お願いします!」

「分かった。次は少し条件を変えよう」

 訓練を重ねるにつれ、三輪は少しずつ成長していった。

 もちろん、数ヶ月で熟練の隊員になれるわけではない。

 それでも、最初の頃に比べれば、攻撃の組み立て方も、防御の判断も確実に変わっていた。

 

ある日の訓練後。

 床に座り込んで息を整えていた三輪が、ふと口を開いた。

「ライさんは、どうしてそこまで俺に付き合ってくれるんですか?」

「どうしてって?」

「忙しいはずなのに。訓練だけじゃなくて、勉強もしているんでしょう?」

 ライは少し考えた。

「そうだね。確かに、暇というわけではないかな」

「だったら……」

「でも、僕も最初は何も分からなかったから」

 三輪は顔を上げた。

「トリガーのことも、ボーダーのことも。入隊したばかりの頃は、知らないことばかりだったよ」

 ライは苦笑した。

「だから、誰かに教えてもらえることがどれだけありがたいか、少しは分かっているつもりなんだ」

「……」

「それに、三輪君はちゃんと努力している。だったら、僕にできることがあるうちは、手伝いたいと思うよ」

 三輪は黙ってライを見つめていた。

 やがて、ゆっくりと頭を下げる。

「……ありがとうございます」

「うん。じゃあ、今日はここまでにしよう。明日もあるからね」

「はい!」

 三輪の返事は、入隊を懇願していた頃よりも、ずっと力強くなっていた。

 

そして、季節は巡り四月

 ライは進学校として知られる六頴館高等学校に入学していた。

 新しい制服。新しい教室。新しい人間関係。

 環境が変わっても、彼の生活の中心には、相変わらず勉強とボーダーでの活動があった。

 学校で授業を受け、帰宅後に課題を片づけ、時間があれば訓練に向かう。

 忙しい日々ではあったが、ライはそれを苦にしていなかった。

 そして、ボーダーにとっても、この四月は特別な月だった。

 本格稼働に向けた準備が進み、正式な入隊式が執り行われることになったのだ。

 会場には、新たにボーダーへ加わる隊員たちが集まっていた。

 大学生から中学生まで、年齢はさまざま。

 その数、およそ三十名。

 それぞれが異なる理由でボーダーを志し、それぞれの思いを胸に、この日を迎えていた。

 ライは会場を見渡した。

 見覚えのある顔もあれば、初めて見る顔もある。

 その中には、これからボーダーを支える重要な存在となっていく者たちもいた。

太刀川慶。

風間蒼也。

冬島慎次。

東春秋。

嵐山准。

柿崎国治。

 今はまだ、互いの実力も、これから歩む道も、十分には分からない。

 だが、彼らはそれぞれの場所で才能を磨き、やがてボーダーの中心を担うことになる。

 太刀川は周囲を気にする様子もなく、どこか落ち着かないように立っていた。

 風間は静かに会場を観察している。

 冬島は少し離れた場所で、周囲の様子を眺めていた。

 東はほかの隊員たちと会話を交わし、嵐山と柿崎もまた、新しい環境に目を向けている。

 そして、ライ自身もまた、この場に立つ一人だった。

 三ヶ月前、ボーダー本部の前で土下座していた少年を見つけた。

 彼の話を聞き、試験に立ち会い、訓練に付き合った。

 その少年も、今では正式な隊員として、この場にいる。

 三輪秀次。

 彼は少し緊張した面持ちで前を向いていた。

 ライと目が合うと、ほんのわずかに背筋を伸ばした。

 ライは小さく頷いた。三輪も、力強く頷き返した。

 やがて、会場が静まり返る。

 これから、ボーダーの新たな歴史が始まる。

 集まった三十名ほどの隊員たちは、まだ知らない。

 この場にいる者たちが、いずれ組織の中核を担い、互いに影響を与え合い、ボーダーという組織を大きく変えていくことを。

 そして、ライ・アッシュフォード自身もまた、この日集まった才能たちとともに、まだ誰も知らない未来へ歩み始めるのだった。

 

胎動編終了→始動編へ

 

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