旧ボーダーに向かう前-
ライが玄関を出ていく。
「それでは、行ってきます」
「気をつけてな。帰りが遅くなるようなら、連絡を入れなさい」
「はい、分かりました」
ライは一礼すると、門を出て歩き始めた。
その背中が遠ざかっていくのを、叔父は玄関先から静かに見送っていた。
やがて少年の姿が角を曲がり、見えなくなる。
「……時が経つのは早いものだ」
独り言のように呟き、叔父は目を細めた。
ライの母である椿が初めて日本を離れ、海外で暮らすことになったときのことを、今でも覚えている。慣れない環境に戸惑いながらも、周囲の人間に気を遣い、決して弱音を吐こうとしなかったことも。そして、まさか自分が、その息子をボーダーという組織に送り出すことになるとは思ってもいなかった。
いや。正確には、ボーダーという組織が生まれるよりも前から、自分はその存在に関わっていたのだ。
その始まりは、十五年前に遡る。
15年前
日本の政財界において、その男の名前を知らない者は少ない。
桐原泰三。
皇族に連なる一族の出身であり、幾世代にもわたって日本の経済界に影響力を及ぼしてきた家の当主。表舞台に立って政治を動かす人間ではない。
しかし、政府の要人、財界の重鎮、各省庁の官僚たち。そうした人々の中には、何か大きな決断を下す前に、桐原泰三の意見を聞こうとする者が少なからず存在した。
彼は政治家ではない。官僚でもない。
それでも、彼の一言が人の動きを変え、企業の方針を変え、時には国の進む方向にまで影響を及ぼすことがあった。
表から見える権力とは別の場所で、人と人とのつながりを積み重ね、長年にわたって築き上げてきた影響力。
それこそが、桐原泰三という男の力だった。
子供には恵まれなかった。
そのため、姪である椿や、その家族のことを実の家族同然に気にかけてきた。
そして、彼にはもう一人、家族同然に思っている男がいた。
「……宗一。お前、本気で言っているのか?」
泰三は執務室の机に両手を置き、目の前に立つ青年を厳かな面持ちで見据えていた。
最上宗一。年齢を重ねてもなお、まっすぐな眼差しを失わない男だった。
その表情には、泰三の前に立つことへの遠慮よりも、自らの考えを理解してほしいという強い意志が表れている。
「はい。仲間たちと話し合い、準備を進めています」
「仲間たちと?」
「ええ。まだ小さな集まりですが、いずれは組織として形にしたいと思っています」
「何をする組織だ」
「人々を守るための組織です」
「……人々を守る?」
泰三の眉がわずかに動いた。
宗一は臆することなく続ける。
「この国を守る。そして、いずれは世界を守る。そのための力を持った組織を作りたいんです」
「世界を守るだと?」
泰三の声が低くなった。
「宗一。お前は一体、誰に何を吹き込まれた?」
「誰にも吹き込まれていません。自分で考えたことです」
「自分で考えただと?」
泰三は椅子から立ち上がり、宗一との距離を詰めた。
「お前が言っていることはあまりにも曖昧だ。世界を守る? そのための組織? 具体的に何から守るというのだ。誰と戦うというのだ。そもそも、そんな組織を作る必要がどこにある?」
「それは……」
「答えられんのか!」
執務室に怒声が響いた。
宗一は一瞬、言葉を止めた。
だが、すぐに泰三の目を見返した。
「今は、まだ全てを説明できる段階ではありません」
「ならば、説明できるようになってから話を持ってこい!」
「ですが、準備を始めるには今しかないんです」
「何が今しかないだ!」
泰三は激しく息を吐いた。
彼は宗一をよく知っていた。
幼い頃から見てきた。
宗一の父親は、かつて泰三の腹心として仕えていた男だった。
泰三がある事件に巻き込まれた際、その父親は自らの身を盾にして泰三を庇い、命を落とした。
残された幼い宗一を、泰三は放っておくことができなかった。
後見人として面倒を見るだけではない。
学ぶ機会を与え、必要なものを用意し、失敗すれば叱り、時には父親のように接してきた。
子供のいない泰三にとって、宗一は血こそつながっていなくとも、実の息子のような存在だった。
だからこそ、許せなかった。
まだ世間に知られてもいない何かに夢中になり、正体も分からない組織を作ろうとしていることが。自分の知らない誰かに、宗一が利用されているのではないか。
そんな疑念が、泰三の中にはあった。
「宗一。お前は賢い男だ。だが、賢いからこそ、自分が信じたいものを信じてしまうこともある」
「……」
「誰かに利用されているのなら、今のうちに目を覚ませ。お前が何を聞かされているのかは知らんが、世の中には、善意を利用して人を動かす者もいる」
「俺は、誰かに利用されているわけではありません」
宗一の声にも、わずかに苛立ちが滲んだ。
「俺は、自分の意志でやろうとしているんです」
「ならば、なおさら考え直せ!」
「泰三叔父さん!」
宗一が初めて声を荒らげた。
「俺の話を聞いてください!」
「聞いたうえで言っている!」
「あなたは、最初から俺の話を信じようとしていない!」
その言葉に、泰三は口を閉ざした。
宗一の目には、怒りと失望が浮かんでいた。
「俺は、あなたに認めてもらいたかった。だから、最初に相談したんです」
「……」
「それなのに、あなたは俺の話を聞く前から、騙されていると決めつけた」
「宗一、それは――」
「もう結構です」
宗一は頭を下げた。礼儀としての一礼。しかし、そこには以前のような親しみがなかった。
「今まで、ありがとうございました」
「待て、宗一!」
泰三が呼び止めたときには、宗一はすでに扉へ向かっていた。
「お前はまだ――」
扉が閉まった。
残された泰三は、その場に立ち尽くしていた。
しばらくして、机の上に置かれた書類を見下ろす。
何も書かれていない、真っ白な紙だった。
「……馬鹿者が」
そう吐き捨てた声には、怒りだけでなく、やり場のない不安が混じっていた。
その日を境に、宗一との関係は途絶えた。
その後、何度か宗一の所在を確かめようとしたことはあった。
しかし、返事はなかった。
直接会うこともできず、連絡を取ることもできない。
泰三は仕事に追われる日々の中で、次第に宗一のことを考えないようになっていった。
いや、考えないようにしていたのかもしれない。自分の判断は間違っていない。
あれほど曖昧な話にのめり込むべきではなかった。
いずれ宗一も、自分が何をしようとしていたのかを理解するだろう。そう考えることで、胸の奥に残ったものを押し込めていた。
そして、大規模侵攻の半年前。
「……宗一が、亡くなった?」
泰三の執務室を、一人の男が訪れた。
城戸正宗。宗一とともに行動していた人間だった。
「はい」
「いつだ」
「詳しいことは、今は話せません」
「ふざけるな!」
泰三は立ち上がった。
「お前は宗一と一緒にいたんだろう! 何があった! なぜ死んだ!」
城戸は動じなかった。
ただ、泰三の怒りを真正面から受け止めていた。
「……すいません」
「謝罪など求めていない! 説明しろと言っているんだ!」
「今、話せることには限りがあります。しかし、最上が我々が何をしようとしているのかはいずれわかります。」
「いずれだと……?」
泰三の声が震えた。
「わしは、あいつの話を信じなかった」
城戸は黙っていた。
「十五年前だ。あいつが、何かを守るための組織を作りたいと言ってきた。わしはそれを、世迷言だと切り捨てた」
泰三は拳を握った。
「騙されていると思った。誰かに利用されていると思った。だから、怒鳴りつけて追い返した」
彼は、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「……なぜ、あのとき、最後まで話を聞いてやらなかった」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
宗一にか。
それとも、自分自身にか。
城戸はしばらく沈黙したあと、静かに口を開いた。
「桐原さん。あなたに頼みたいことがあります」
泰三は顔を上げた。
「これから、組織を作る。最上が目指していたものを、俺たちで形にしたい」
「……」
「だが、私たちだけでは足りない。資金も、人材も、社会的な信用も必要だ」
城戸は深く頭を下げた。
「協力してください」
長年、政財界の人間と接してきた泰三は、頭を下げることの意味を知っていた。
特に、城戸のようなプライドの高そうな男が、自分から頭を下げることの意味を。
それは単なる頼みではない。
自分たちだけでは成し遂げられないことを認め、それでも実現したいと願っているということだった。
「……少し、考える時間をくれ」
泰三はそう答えるのが精一杯だった。
城戸は顔を上げ、短く頷いた。
「わかりました」
それだけ言い残して、彼は帰っていった。
執務室に一人残された泰三は、窓の外を見つめていた。
十五年前の宗一の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
――人々を守るための組織を作りたいんです。
「……宗一」
その名を呼んでも、返事はない。
もう、何を伝えることもできなかった。
それからしばらく、泰三は何も決められずにいた。
普段なら、いくつもの案件を同時に処理し、必要な人物に連絡を取り、物事を進めるための道筋をすぐに見つけることができた。
しかし、今回は違った。自分が協力するべきなのか。そもそも、宗一が目指していた組織とは何だったのか。城戸たちは、何を見て、何を知り、何を守ろうとしているのか。分からないことばかりだった。そんな折、姪の椿から連絡が入った。
『おじさん、少し相談があるのだけれど』
「どうした、椿」
『ライを、そろそろそっちにいくわよという連絡」
「……ああ、そうだったな」
『ええ。本人にとっても、いい経験になると思うの。しばらくの間、お願いしますネイバー』
泰三は椅子の背に体を預けた。
かわいい姪の息子ライ。
まだ若く、これからいくらでも未来を選べる子供。
ライがこちらに来れば、自分の目の届くところで成長を見守ることができる。
それは、単純に嬉しいことだった。だが同時に、泰三は考えた。
自分に残されたものは何なのか。自分がこれから守るべきものは何なのか。
長年かけて築いてきた人脈も、企業とのつながりも、政府への影響力も、いつかは自分の手を離れる。
自分はいつまでも第一線に立ち続けられるわけではない。
そして、宗一が目指していたものを、自分は最後まで理解しようとしなかった。
その結果、彼はもういない。
「……分かっている。任せなさい」
『ありがとう、おじさん』
椿の声には安堵が混じっていた。
通話を終えた泰三は、しばらく携帯電話を見つめていた。
ライを受け入れること。そして、宗一が目指した組織を支えること。
二つの選択は、彼の中で不思議なほど自然につながっていた。
自分は、もう若くない。
自ら前線に立ち、何かを切り開くような立場でもない。
ならば、自分が今まで積み上げてきたものを、次の世代のために使うべきではないか。
宗一が命を懸けてまで守ろうとしたもの。
これから成長していくライの未来。
その両方を、今度こそ見失いたくなかった。
泰三は携帯電話を取り、城戸へ連絡を入れた。
「……城戸か。先日の件だが、協力しよう」
電話の向こうから、短い沈黙が返ってきた。
『本当ですか!?』
「ああ。ただし、条件がある」
『お聞きします』
「わしは、お前たちの組織をどうこうするつもりはない。わしができるのは、道を整えることだ。組織そのものをどうするかは、お前たち自身で決めろ」
『分かりました』
「それと……宗一が目指していたものを、決して忘れるな」
『……ああ』
通話が終わった。
泰三は目を閉じ、深く息を吐いた。
ようやく、一歩を踏み出すことができた。
それから泰三は、長年築き上げてきた人脈を使い、ボーダーが活動できる環境を整え始めた。
まずは政府への働きかけだった。未知の技術を扱い、一般には知られていない脅威に対抗する組織。それを公然と活動させるには、政府の理解と協力が欠かせない。
泰三は関係者との面会を重ね、必要な説明を行い、組織が活動するための制度や枠組みについて調整を進めた。
もちろん、すべてが思い通りに進んだわけではない。
未知の脅威を信じられない者もいた。得体の知れない組織に権限を与えることを危険視する者もいた。それでも泰三は、彼らの懸念を一つずつ聞き、必要な情報を整理し、ボーダーが活動するための道筋をつけていった。
やがて、ボーダーは表向きにも活動できる組織として形を整え始める。
そして大規模侵攻が発生した。
実際に街が襲われ、人々が危険にさらされる様子を目の当たりにしたことで、それまで懐疑的だった人間たちの中にも、事態の深刻さを認識する者が増えていった。
泰三は、その機を逃さなかった。
各企業。各省庁。大学や研究機関。報道関係者。
それぞれの分野で実績を持ち、必要な能力を備えた人材を、ボーダーへとつないでいく。
資金を用意できる者には、組織の将来性と必要性を説明した。
研究者には、未知の技術を研究する場としての可能性を示した。
広報に関わる人間には、社会との信頼関係を築く重要性を説いた。
企業との交渉に長けた者には、組織の活動を支えるための仕組みづくりを任せる道を探った。
一人の人間が全てを担う必要はない。
それぞれが得意とする分野で力を発揮できるようにすればいい。
その考えのもと、泰三は人材の確保を進めていった。
後に研究部門を率いる鬼怒田本吉。
広報を担う根付栄蔵。
営業部門を率いる唐沢克己。
彼らをはじめとする人材がボーダーに集まるための下地には、泰三が長年にわたって築いてきた人脈と、裏側からの働きかけがあった。
だが、泰三自身が組織の前面に立つことはなかった。
ボーダーを作るのは、あくまで若い者たちだ。自分は、そのための道を整える。
それが、今の自分にできる役割なのだと考えていた。
そして現在。
ライが旧ボーダーへ向かったあと、泰三は自室にてある男と対面していた。
執務机の上には、いくつもの書類が積み重なっている。
その中から数枚を取り出し、泰三は向かいに座る男へ差し出した。
唐沢克己。
泰三の組織に所属する、優秀な部下の一人だった。
「まず、こちらを確認してくれ」
「承知しました」
唐沢は書類を受け取り、目を通し始めた。
そこには、ボーダーの運営に関する今後の計画や、企業との交渉状況、政府関係者との調整事項などがまとめられている。
「有力企業数社から、投資について具体的な打診が来ています。先方は、資金提供だけでなく、研究開発への協力にも関心を示しています」
「そうか。だが、資金を受け入れる際は条件をよく確認しろ。資金を出したからといって、組織の方針に口を出せると思われては困る」
「分かっています。支援を受けることと、経営の主導権を渡すことは別ですから」
「その通りだ」
泰三は頷いた。
「それから、海外の人材についても動き始めている」
「以前、お話しされていた件ですね」
「ああ。国内だけで必要な人材を揃えられるとは限らん。研究者にしても、技術者にしても、優秀な人間がいるのなら、国境にこだわらず声をかけるべきだ」
「候補者の選定と、受け入れに必要な条件の確認を進めます」
「頼む。ただし、誰でも受け入れればいいという話ではない。本人の意思と適性、それに組織の安全を十分に考慮しろ」
「承知しました」
唐沢は書類に目を落とし、必要な事項を確認していく。
その姿を見ながら、泰三は次の書類を取り出した。
「もう一つ。亡命者の受け入れについてだ」
唐沢の表情がわずかに引き締まった。
「身元の確認や、こちらで暮らすための手続きが必要になりますね」
「そうだ。身分の保護についても考えなければならん。だが、今はまだ制度も整っていない。誰をどのように受け入れるのか、どこまで身元を秘匿する必要があるのか。それぞれの事情に応じて、慎重に進める必要がある」
「分かりました。必要な手続きと、関係機関との調整について整理しておきます」
「頼む」
泰三は一度、言葉を切った。
「なお、戸籍などの具体的な処理については、必要性と法的な問題を十分に確認してから判断しろ。まだ何も決まっていない段階で、先走って進めることは許さん」
「承知しました。まずは制度の整理から始めます」
唐沢の返答に、泰三は満足そうに頷いた。
彼は単に命令を受けて動くだけの男ではない。
何をすべきかを理解し、必要な準備を整え、時には自分で判断して動ける。
だからこそ、これからのことを任せるに足ると考えていた。
「唐沢」
「はい」
「これから先、ワシが直接動く場面は少なくなるだろう」
唐沢は顔を上げた。
「……それは、第一線から退かれるということでしょうか」
「完全に手を引くつもりはない。必要なときには助言もするし、俺にしかできない調整があれば動く。だが、いつまでも俺が前に出ていては、若い連中が育たん」
泰三は窓の外へ視線を向けた。
「ボーダーは、これからの時代を生きる人間たちが作っていく組織だ。城戸も、これから集まる者たちも、それぞれの考えを持っている。時には衝突することもあるだろう」
「ええ」
「だが、それでいい。最初から全員が同じ考えである必要はない。大切なのは、何を守るために組織を作るのかを見失わないことだ」
宗一の顔が脳裏に浮かぶ。
あの男もまた、自分なりの答えを探していた。
もっと早く理解していれば。もっと早く話を聞いていれば。そんな後悔は、今も消えていない。
だからこそ、同じことを繰り返すわけにはいかなかった。
「唐沢。これから先のことは、お前たちに任せる」
「……私たちに、ですか」
「ああ。俺は少し離れたところから見守り、必要なときに相談に乗る。それで十分だろう」
唐沢はしばらく黙っていたが、やがて深く頭を下げた。
「承知しました。お任せください」
「頼んだぞ」
泰三は小さく笑った。
これからは、自分が全てを動かすのではない。自分が築いたものを、次の世代へ渡していく。
それが、自分に残された仕事だった。
今日、ライは初めて旧ボーダーの拠点を訪れた。
そこで何を見て、何を知り、何を感じたのだろう。
近界という未知の世界。
自分たちとは異なる事情を抱えた人々。
そして、これから自分が身を置くことになる組織。
ライは、きっと簡単には答えを出さないだろう。
疑問を持ち、考え、時には迷いながら、自分なりの答えを探していくはずだ。
それでいい。いや、そうであってほしい。
誰かの考えをそのまま受け入れるのではなく、自分の目で確かめ、自分の頭で考え、自分の意志で進む道を選んでほしい。
十五年前、自分は宗一を信じることができなかった。
その結果、二度と話すことのできない相手になってしまった。
だからこそ、今度は見守ろう。
若者たちが、自分たちの意志で未来を切り開いていく姿を。
ライが自室へ向かう足音が、廊下の奥へと遠ざかっていく。
泰三は、その背中を見送るように扉の方を見つめた。
そして、誰もいない部屋で、義息子の名を呟いた。
「……宗一」
口元には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
「これでよかったか?」
返事はない。
それでも泰三は、しばらくその場に立っていた。
これから先、ライがどのように成長していくのか。
ボーダーがどのような組織になっていくのか。
まだ、何も分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
今度こそ、自分は若い者たちが進む道を、後ろから支えていく。
それが、あの日、宗一の言葉を信じられなかった自分にできるせめてもの償いであり、たった一つの願いなのだから。
泰三はもう一度、窓の外へ視線を向けた。
その眼差しには、かつての後悔と、これからの時代への確かな期待が同居していた。
カッコいい爺さんが好き