【悲報】自創作に転生したけど軒並み重い過去持たせたからめっちゃ詰められるんだが 作:あふふん
気が付いたらら自創作の世界に転生していた。
何を言っているのか分からないと思う。
だが安心してほしい、私も分からない。
ざっくりと流れを説明する。目を覚ましたら、知らない天井が広がっていた。
ここまではいい。いや普通に良くないけど。
——問題は。
「…………こいつは」
洗面所の鏡に映っている顔は、見慣れないものであった。
だが、知っていた。ものすごーく知っていた。
「織空村じゃん……」
——
あまりにも聞き覚えのある名前。
そりゃ当たり前だ、私が付けたんだから。
「…………」
古典的な方法だが、頬を抓ってみる。
「いった!」
痛覚、触覚共にあり。
どうやらこれは、夢ではないらしい。
「…………いや」
往生際が悪いと思いながらも、もう一度抓る。
「いって……」
やっぱり痛い。
痛覚、触覚共に問題無しの健康体だ。
「いや、いやいやいや……」
一歩下がると、鏡の中の織空村も一歩下がる。
「なんで!?」
あまりにもワケが分からなさ過ぎて、叫んだ。
近所迷惑だとかそういうことは何も考えずに、叫んでしまった。
「なんでよりによってお前!?」
別に嫌いなキャラクターではない。
というか、そもそも織空村葵音は——。
作者である私をモデルに作った、キャラクターだった。
性格。考え方。人との付き合い方。
自分でもちょっとどうなんだと思う部分まで、かなり自分から引っ張ってきた。
いわゆる、作者代理と言えるキャラクター。
——そして。
「没にしたよな!?」
私は鏡に問い詰めた。
鏡は当然、何も答えない。そりゃそうだ、童話ではないんだし。
「お前、没キャラだろ!?」
——そう。
織空村というキャラクターは、没にした。
名前を考えて、設定をちゃんと練った。
本編に絡む話の内容まで考えた。
その後になって思った。
――作者モデルのキャラを自分の作品に出すの、なんか痛々しくない?
と、急に恥ずかしくなった。だから没にした。
本編の主要人物からも外したし、設定資料集にだってその名前を記載していない。
気が向いたら、おまけで出すかもしれない。
そんな位置に追いやった。
——それが。
「なんで私がなってんだよ……」
鏡の前で頭を抱えた。
本当にワケが分からない。
そもそも、どうしてこうなったんだ。
昨日、何をしていた?
記憶が確かであれば普通に過ごして、自創作のことを考えて。
——それから。
「…………覚えてねえ」
何も無い。
神様にも会っていない。
転生特典を選ばされた記憶もない。
トラックも無い。
気付いたらここに居て、気付いたら——織空村葵音だった。
「雑だなぁ……」
誰に対してか分からない文句が出た。
とりあえず、部屋を調べる。
財布。スマートフォン。マイナンバーカード。通帳。
そして、その他諸々。
織空村葵音としての生活が、ちゃんと存在していた。
昨日まで誰かが暮らしていたかのように。
「……怖」
自分で言っておいて少し怖くなった。
マイナンバーカードを見る。
織空村葵音、と記されていた。
「…………マジかぁ」
何回見ても、その事実は変わらない。
スマートフォンを開いて、日付を確認する。
「…………」
そこに記されていた数字を見て、固まる。
もう一度見る。西暦は——。
「……2019年」
聞き覚えがある……というか、ありすぎた。
震える手でネットを開きニュースを検索する。
——能力犯罪。
——能力者への差別。
——半能力者。
見知った単語が次々に並ぶ。
そして。試しに、とある名前を検索した。
——畔雷光
「…………うわ」
その名前は、あっさりと出てきてしまった。
Wikiには写真だって載っている。
まだ若く、あどけない。
私のよく知っている彼女より、少し幼い。
「うっわ…………」
変な声が出る。本物の、畔雷光だ。
いや、何が本物なのか分からない。
私が考えた存在なのだから、原本は私の頭の中だったはずだ。
でも、写真の畔雷光は、私が書いていない表情で笑っていた。
「…………動いてる」
当たり前である。彼女——畔雷光は、この世界で生きている。
「…………えっ」
急にテンションが上がってきた。
「じゃあ、居るじゃん」
相馬瑞輝、加瀬凪、炎慈響生、闇佐影斗、無音希、風中翔、癒井未来翔、氷賀貴利奈。
「うわぁ…………!」
更にテンションが上がる。
これはアレでは? 夢の自創作転生では?
自分が作ったキャラクターが実在する世界。
いわゆる推しが生きていて、推し同士が普通に会話する。
書いてない日にも生活している。
「ヤバ……」
めちゃくちゃ見たい。もう全員見たい。
干渉は絶対にせず、遠くから眺めたい。
相馬と加瀬が並んで歩いているとことか、絶対見たい。
畔雷光がテレビに映る度に録画したい。
炎慈響生がそのうち戦闘狂お嬢様になるところも生で見たい。
「最高じゃん……」
そこまで考えて、もう一人。
脳裏にある人物が、浮かんだ。
「…………」
その存在を思い出した途端、テンションが急降下した。
「青木居るじゃん」
——青木舞。
2019年に、25歳。
能力者で、何故か彼女にだけ設定してある能力名はイデアサイト。
いや、理由は単純。そもそもこの能パロというなの自創作、元は二次創作だったのだから。
だから能パロ(厳密に言うとパロではないが)。
で、二次創作時代から出ているキャラクターで、その時は主要キャラが少なかったから能力名を付けたのだ。
話を戻して……彼女は、守護陣営を立ち上げ、能力者と無能力者、そして半能力者が共存できる社会を目指して動き始める女。
——そして、この物語における。
「人の人生に入り込むのが上手すぎる女……」
嫌過ぎる。会いたくない。
大好きだけど会いたくない。
「青木だけは絶対無理」
私は真顔で呟いた。
キャラクターとして見る分にはいい。
むしろ好き、大好きだ。
でも自分が対面するとなると話が違う。
あの女は、どこまでも人を見る。
それはもう、めっちゃくちゃ見る。
相手が何を抱えているか。
何を欲しがっているか。
何を恐れているか。
本人すら上手く言葉に出来ていない部分を勝手に見付ける。
それを可能にしているのが、イデアサイトという『本質を見抜く能力』なのだ。
「無理だって」
こっちは秘密しかない。
私はこの世界の人間ではありません。
あなたたちを作りました。
あなたの過去を知っています。
あなたがこれから誰とどんな出会いをするかも知っています。
何を言って、何に傷つくかも。
どういう結末へ辿り着くかも。
全部、ぜーんぶ。
「こんなん青木の前に出せるか!」
私は、強く決意した。
——青木舞には、絶対に会わない。
そもそも会う必要が無いし。
本編に関わらなければいい。
そして、何度も言うが織空村葵音は——。
「……没キャラだしな」
そこ重要。本来なら存在しない。
少なくとも、物語の中心人物ではない。
だが、ここで織空村の能力を思い出す。
「空間補強……」
自分の右手を見る。
織空村葵音の能力——それは、空間そのものを補強する。
戦闘で敵を吹き飛ばしたりするものではない。
炎を出すでも、雷を落とすでもない。
身体能力を馬鹿みたいに上げるでもない。
あまりにも、地味な能力。
元々考えていた役割だって、前線ではない。
大分時が経った後に、技術に能力を応用する。
「勝ったな」
私は静かに勝ちを確信した。
戦闘能力、無し。
本編への関与、無し。
そもそも没キャラ。
三拍子揃っている。
「これなら安全圏から見られる」
原作には触らない。余計なこともしない。
だって能力犯罪とか怖過ぎるし。
それに、何か変わったら嫌だ。
私は、この物語を知っている。
最終的に、誰がどこへどんな経緯で辿り着くのかも知っている。
——だから。
その流れを遠くから眺める。
「完璧だぁ……」
我ながら素晴らしい計画だ。
自分は自分で生活する。
原作キャラを見掛けたら心の中で限界オタクになる。
もし畔雷光を街中で見掛けても話し掛けない。
相馬瑞輝と加瀬凪が二人で歩いていても、少し離れたところから拝むだけ。
氷賀貴利奈なんて遭遇した日には、その日は記念日にする。
「うん」
何も問題ない。
だが、最大の危険人物。
青木舞だけには——。
「絶対、近付かない」
そう、決意する。
で、その日の午後。
「おぉ……!」
何となく、外に出た。
部屋に籠もっていても仕方がないし、何より、この世界を見てみたかった。
知っているようで知らない世界。
自分で設定した街並み。
でも当然、私は建物一軒一軒まで設定していた訳ではない。
「……知らん店ばっか」
当たり前だ。世界を作ったなんて言っても、私が決めたのは、そのごく一部。
道行く人の顔なんて知らない。
店員の名前も知らない。
今日の天気だって設定していない。
なのに、全部ある。
「すげぇな……」
なんだか、少し感動した。
自創作の世界だと、そう思っていた。
でも目の前に広がっているのは、そんな言葉で片付けられないほど大きい。
知らない人が笑っている。
知らない人が怒っている。
知らない店が営業している。
車が走って、信号が変わる。
風が吹き、日が煌々と世界を照らしている。
私はこんなもの、書いていない。
「…………」
ふと、さっき見た畔雷光の写真を思い出した。
私の知らない表情。
私の書いていない一日。
「……まあ」
考えるのはやめた。
せっかく来たんだから、楽しもう。
そう思いながら歩く。
——しばらくして。
ある交差点で、信号待ちをしていた時だった。
「――すみません」
「…………」
声を掛けられた。
知らない人だと思ったから普通に振り向いた。
「はい?」
身なりの整えられた女性が立っていた。
整えられた茶髪に、落ち着いた立ち姿。
少し柔らかい表情。
「…………」
私はこの女を、知っている。知りすぎている。
脳が理解するより先に、足が一歩下がった。
「…………なんで?」
思わず声が出て、女性が僅かに眉を上げる。
「何がでしょうか」
いや。いやいやいやいや。
待って、嘘だろ。
なんで! こんな広い街で! 初日に!
一番会いたくない奴と……エンカウントしてるんだよ。
「青木……」
名前が漏れそうになって、ギリギリで止めた。
「……なんでしょう」
どうにか平静を装うが、青木舞は——私のことを、じっと見ていた。
「…………」
やめて、見ないで。
お前のその目、マジで嫌なんだって。
作った側だから知ってるんだよ。
「何か?」
こちらから聞く。少し声が上擦った。
青木はしばらく私を見た後。
「失礼しました」
軽く頭を下げた。
「少し、気になったものですから」
「…………何がですか」
「あなたです」
嫌な言葉だ。
青木舞に「あなたが気になる」と言われることほど嫌なものはない。
「人違いじゃないですか」
「いえ」
「じゃあ気のせいです」
「まだ何も言っていませんが」
「…………」
やっちまったぜ。しくじりました。
青木が少しだけ目を細める。
「何故、私が声を掛けた理由を否定しようと?」
「…………知らない人に急に声掛けられたらそうなりますよ」
「それもそうですね」
納得するな。いや、納得したなら帰れ。
お願いだから帰ってくれ。
そんな私の願いが届いたのか、タイミング良く信号が青になった。
「じゃあ」
これ幸いと歩き出す。
「あ」
声が聞こえた。
無視無視、聞こえてなーい聞こえてなーい。
私は、何も聞いていません!!
「少し待ってください」
はい、無視。
「織空村さん」
思わず、立ち止まった。
「…………」
しまった、止まってしまった。
いやいやいや、待てよ。
今、何て。
ぎこちなく振り返った。
「…………なんで名前知ってるんですか」
「やはり織空村葵音さんで合っていますね」
「質問に答えてください」
いや怖。平静を装っているけど、普通に怖い。
私、青木に名前教えてないぞ。
「少し調べました」
「何をですか?」
「あなたを」
「なんで!?」
声がひっくり返った。
こちらとら初日やぞ。この世界に来て初日。
私はまだ何もしていない。
まだ原作キャラを遠くから眺めることすら出来ていない。
——なのに、何故。
青木が私を調べている。
「正確には、先程あなたを見掛けて気になり、少し確認しただけですが」
「先程?」
「数分前です」
数分で個人情報まで辿り着くな。
我ながらチートみてぇなキャラ作ったな。
「…………何が気になったんですか」
嫌な予感しかしない。
でも聞かない方が怖い。
青木は少し考えるように私を見る。
そして、言った。
「異質なのです」
「…………」
「あなたからは、少し異質なオーラを感じます」
「…………オーラ」
「便宜上、そう表現しているだけですが」
青木は続ける。
「私は、他人の本質を見ることが出来ます」
知ってる、私が決めたから。
「能力の有無も、ある程度は」
それも知ってる。お前の製作者、俺だもん。
「織空村さんは能力者ですね」
「…………まあ」
「《空間補強》」
「…………」
え、そこまで知られてるの?
あれ、能力者の情報がどこかに登録されている設定だったっけ。
あ、設定資料欲しい! そうだ、こいつ畔雷の能力まで見抜いてたわ!
オッケーオッケー。いや何もオッケーじゃないが?
「ですが」
考えている間にも青木は話を続ける。
「気になるのは能力ではありません」
「…………はい」
「あなた自身です」
「帰っていいですか?」
「何故です?」
「怖いので」
「…………」
青木が少し驚いた。そりゃそうだろう。
初対面で真正面から「怖い」と言われるとは思わなかったはずだ。
「私、何か怖いことをしましたか?」
「しました」
「ふむ、何をでしょう?」
「初対面の人間を数分で調べてフルネームと能力把握しているところ」
「……言われてみれば、そうですね」
「言われなくても気付いてください……」
作者の想像以上に怖いぞこいつ。
文章で読むのと、自分が対象になるのとで違いすぎる。
「申し訳ありません」
あまりにも素直に謝られた。
そういうところも青木舞だ。
「ですが」
「ですが要らないです」
「どうしても気になるのです」
「だから何で……!」
青木は、真っ直ぐとこちらを見た。
「私の能力で人を見る時、大抵は何かしら掴めます」
「…………」
「性質。感情。能力。上手く言葉にすることは難しいですが、その人がどういう人なのか」
一拍置いて、青木は言葉を紡ぐ。
「でも」
青木の怖すぎる視線が、私を射抜いた。
「あなたは、妙なのです」
ドキッと、心臓が跳ねた。
待ってくれ、やめてくれ。
「この世界に存在しているのに」
嫌だ。
「どこか」
やめろ、それ以上言うな。
「この世界の人間ではないような」
「――っ」
息が止まった。
青木の眉が僅かに動く。
しまった、今の反応……絶対に駄目だ。
「…………」
「…………」
こちらが黙り込むと、青木も黙る。
両者の沈黙は、数秒だった。
だが私にとっては、最悪の数秒だった。
「…………今の」
「違います」
「まだ何も」
「違います」
徹底的に否定するしか、方法を知らなかった。
我ながら誤魔化し方が雑だなと思いながらも、青木には通用しないと知りながらも、そうすることしか出来なかった。
「織空村さん」
「人違いです」
「名前は合っていると先程」
「じゃあ織空村違いです」
「その理屈は無理があるのでは?」
「ありますね!」
仕方ないので、認めた。もう駄目だ。
青木が、じっとこちらを見ている。
そして、少しだけ笑った。
「やはり、面白い方ですね」
「最悪だぁ……」
「何がです?」
「それ言われたら終わりなんですよ……」
「?」
青木が首を傾げる。
そう、青木からすれば意味不明な発言だ。
でも私は知っている。
この女が人に興味を持った後、どうなるのか。
炎慈響生も、相馬瑞輝も、加瀬凪も、闇佐影斗も、畔雷光も、誰も彼もだつ——青木に見つけられて。
青木に声を掛けられて、人生が動き出した。
——だから。
「帰ります」
逃げるんだょぉぉぉぉぉぉ!!!!
戦略的撤退、これしかない。
「あの」
「聞こえません」
「まだ何も」
「聞こえない!」
速足で歩く。めっちゃ恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしいけど仕方がない。
ここで関わったら駄目だ。
私は没キャラで、原作には存在しない。
そして仮に本編に登場していたとしても、本来青木舞とこんな時期に出会わない。
織空村葵音というキャラクターをおまけで使うとしたら。
青木と出会うのは、ずっと後。
シルトが出来て、皆が集まって、クラリッヒが運用されて、空間補強能力の応用を考える段階。
それまでに、青木舞と織空村葵音に接点なんてない。
——なのに。
「織空村さん」
後ろから、凛と研ぎ澄まされた声。
「…………」
聞こえないフリをする。
「お時間、少しいただけませんか?」
聞こえないフリをする。
「お茶でも」
「嫌です!」
振り返った。
青木舞が普通について来ていた。
「即答ですね」
「あなたとお茶したら人生変わりそうなので嫌です!」
言った、言ってしまった。
青木の目が、僅かに見開かれる。
「…………」
「あ」
馬鹿野郎。いや野郎ではないけど、馬鹿野郎。
こんなところで作者知識を出すな。
「何故」
青木が口を開く。
「私と話すと、人生が変わると思うのです?」
「…………」
はい、終わった。
私は名前にもある通り、空を見る。
青くて綺麗な空だ、雲一つ無い。あ、あった。
今日、私は自創作の世界に来た。
没にした作者代理キャラクター、織空村葵音として。
原作には干渉せず、キャラクターたちを遠くから見守る。
そう決めた——決めたはずなのに。
「織空村さん?」
この物語を始める女に、初日で見つかった。
「…………最悪だ」
「先ほどから何が最悪なのです?」
「あなたです」
「私?」
「そうです」
「初対面ですよね?」
「そうですね」
「では何故」
「…………」
答えられる訳がない。
だって。
あなたを作ったのは私だから、なんて。
そんなこと、言える訳がない。
「…………五分」
「はい?」
「五分だけです」
もう、諦めた。この女からは逃げ切れない。
そして、少なくとも今の青木舞は、完全に私に興味を持っている。
ここで逃げれば、余計に追ってくる。
青木とはそういう女だ。
知っている。だぅて私がそう書いたんだから。
「五分だけ話します」
「ありがとうございます」
「それ以上は絶対嫌です」
「分かりました」
「勧誘もなし」
「……何への?」
「…………」
やっちまったぜ☆
まだ守護陣営の話すらされていない。
「何でもないです」
「やはり」
青木、面白そうに私を見ていた。
「あなた、私のことを知っていますね?」
「…………」
五分。一日の中の、たったの五分。
この時の私は、そう思っていた。
まさか、この五分が。本来なら物語の端にすら存在しなかった没キャラを物語のど真ん中へ引き摺り込むことになるなんて。
――そんなことは。
作者である私にも。
まだ、分かっていなかった。