硝煙に包まれし乙女の楽園   作:Lulan_810

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第1話です。正直に言って前書きに何を描けばいいのか分かりません。そして、改行の扱い方がいまいち分かっていないので読みにくかったら申し訳ございません。そして、本作にはChatGPTなどの無料AIを使用しています。


プロローグ

人生は選択の連続だ。

 

 

 

ゲームをするか、勉強をするか。

 

 

 

課金するか、我慢するか。

 

 

 

怒られたとき、素直に謝るか。それとも、苦し紛れの言い訳を並べるか。

 

 

 

そんな、誰もが一度は経験するような小さな選択の積み重ねが、やがて人生を形作っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんて、偉そうなことを言ってみたところで、僕の人生は大したものではなかった。

 

 

 

二十歳を目前にして、将来の展望はない。

 

 

 

これといって誇れるものもない。

 

 

 

勉強ができるわけでも、運動が得意なわけでもない。人付き合いが上手いわけでもなければ、何かに本気で打ち込んだ経験があるわけでもなかった。

 

 

 

あるのは、無駄に積み重ねたゲームのプレイ時間と、使った金額を思い出したくもない課金履歴。それから、やろうと思っていたのに結局やらなかったことの数々。

 

 

 

 

 

 

 

……まあ、今さら後悔したところで、何かが変わるわけでもないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちは、決して裕福な家庭ではなかった。

 

 

 

だからといって、毎日の食事にも困るような貧乏暮らしをしていたわけでもない。

 

 

 

父さんが働き、母さんが家のことをして、僕が学校に通う。特別なことなど何もない、ごく普通の家庭だったと思う。

 

 

 

小学生の頃は、それなりに楽しかった。

 

 

 

学校が終われば友達の家に遊びに行き、夕方になったら帰宅する。宿題を済ませて、夕飯を食べて、風呂に入って寝る。

 

 

 

少なくとも、当時の僕はそれで満足していた。

 

 

 

 

 

 

 

変わり始めたのは、小学三年生の頃だった。

 

 

 

友達の家で本格的にゲームに触れたのがきっかけだったと思う。

 

 

 

最初は、ただ面白かった。

 

 

 

敵を倒す。ステージをクリアする。新しい装備を手に入れる。少しずつ上達して、今まで勝てなかった相手に勝てるようになる。

 

 

 

現実では何をやっても人並みだった僕でも、ゲームの中なら努力した分だけ結果が返ってきた。

 

 

 

それが、たまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、ゲームをする時間は少しずつ長くなっていた。

 

 

 

夜遅くまで遊んで、翌朝に眠い目をこすりながら学校へ行く。

 

 

 

親に見つかって怒られても、「あと少しだけだった」「友達との約束があった」「セーブできなかった」などと、もっともらしい言い訳を並べた。

 

 

 

今思えば、どう考えても僕が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも当時の僕は、自分の非を認めるより、怒られずに済む方法を考えることを優先していた。

 

 

 

そして、そういう小さな逃げ道を見つけるたびに、自分はまだ大丈夫だと思い込んでいた。

 

 

 

いつかちゃんとすればいい。

 

 

 

いつか本気を出せばいい。

 

 

 

今はまだ、そのときじゃないだけだ。

 

 

 

そんな都合のいい言葉を、何度自分に言い聞かせたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、いつかはいつまで経ってもやってこなかった。

 

 

 

クレジットカードを勝手に使って課金したことが発覚した日のことは、今でも覚えている。

 

 

 

父さんは怒鳴った。

 

 

 

それはもう、今まで聞いたことがないくらいの大声だった。

 

 

 

何に使ったのか。いくら使ったのか。どうして相談しなかったのか。

 

 

 

当然の質問だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は答えに詰まり、最初は曖昧な返事をした。それから、ゲームの期間限定イベントがどうとか、欲しいキャラクターがどうとか、そんな話をした気がする。

 

 

 

今となっては、何を言ったのか、細かいところまでは覚えていない。

 

 

 

ただ、母さんが何も言わなかったことだけは、はっきりと覚えている。

 

 

 

怒鳴られることよりも、母さんが黙っていたことの方が、ずっときつかった。

 

 

 

怒られるのなら、まだよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反省しているふりでも、謝罪の言葉でも、何かを返せばいい。

 

 

 

でも、黙って見られると、何を言えばいいのか分からなくなる。

 

 

 

母さんは、僕に何を期待していたのだろう。

 

 

 

失望したのだろうか。

 

 

 

それとも、怒ることすら馬鹿らしくなってしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

本当のところは、今でも分からない。

 

 

 

その日の僕は、謝った。

 

 

 

もう二度としないと約束した。

 

 

 

そして、しばらくは本当に大人しくしていた。

 

 

 

けれど、時間が経つにつれて、少しずつ元の生活に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別に、反省していなかったわけではない。

 

 

 

……いや、反省していたつもりになっていただけなのかもしれない。

 

 

 

反省したという事実に満足して、肝心の行動を変えることを怠っていた。

 

 

 

そんなことを繰り返しているうちに、僕はいつの間にか、自分に期待することをやめていた。

 

 

 

どうせ続かない。

 

 

 

どうせまた失敗する。

 

 

 

どうせ僕なんかが本気を出したところで、大した結果にはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって、何かを始める前から諦めることを覚えてしまった。

 

 

 

失敗して傷つくくらいなら、最初から期待しない方が楽だ。

 

 

 

努力して結果が出なければ、自分の無能さを認めることになる。

 

 

 

なら、努力しなければいい。

 

 

 

そうすれば、結果が出なくても仕方がないと言い訳できる。

 

 

 

……我ながら、ひどい理屈だと思う。

 

 

 

けれど、そのひどい理屈にすがりついていなければ、自分が本当に何もできない人間だと認めることになりそうで、怖かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな僕は今、アルバイト先の休憩室で、一冊の漫画を読み終えたところだった。

 

 

 

タイトルは『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』。

 

 

 

通称、モブせか。

 

 

 

もともとは妹に押し付けられた作品だった。

 

 

 

「これ、絶対面白いから。お兄ちゃんも読みなよ」

 

 

 

そんなことを言われて渡されたのが始まりだったと思う。

 

 

 

最初は、乙女ゲームを題材にした作品なんて自分には関係ないだろうと思っていた。

 

 

 

ところが、読み始めると意外にも面白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乙女ゲームの世界に転生した主人公、リオン。

 

 

 

女性が強く、男性が理不尽な扱いを受ける世界で、彼は前世の知識を武器に、さまざまな問題に巻き込まれていく。

 

 

 

しかも、単純に知識で無双するだけの話ではない。

 

 

 

原作の展開が崩れ、登場人物たちの関係が変わり、それぞれが自分の立場や過去と向き合っていく。

 

 

 

最初は敵対していた相手と理解し合うこともあれば、自分の間違いを認め、以前とは違う道を選ぶこともある。

 

 

 

もちろん、綺麗事だけで片付くような世界ではない。

 

 

 

思いどおりにならないこともあるし、どうしようもない理不尽に振り回されることもある。

 

 

 

それでも、登場人物たちは悩みながら、少しずつ変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リオンも。

 

 

 

マリエも。

 

 

 

オリヴィアも。

 

 

 

アンジェリカも。

 

 

 

彼らは決して、最初から完璧な人間だったわけではない。

 

 

 

間違えることもあった。

 

 

 

自分勝手なことをしたり、誰かを傷つけたり、取り返しのつかない失敗をしたりもした。

 

 

 

それでも、自分の弱さや過ちと向き合いながら、前へ進もうとしていた。

 

 

 

僕は、そういうところが好きだった。

 

 

 

ただ強いだけの主人公よりも、失敗して、悩んで、それでも立ち上がる人間の方が、ずっと格好いいと思えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それに比べて、僕はどうだろう。

 

 

 

二十歳近くになっても、ろくに自立できていない。

 

 

 

実家暮らしで、免許も持っていない。

 

 

 

学校を卒業してからはアルバイトを続けているが、特別な目標があるわけでもない。

 

 

 

稼いだ金は、生活費として家に入れる分を除けば、かなりの割合が趣味に消えていく。

 

 

 

その趣味が悪いと言いたいわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きなものがあるのは、悪いことじゃないと思う。

 

 

 

問題は、僕が好きなものを楽しむために、何も考えずに金や時間を使い、その結果について真剣に考えてこなかったことだ。

 

 

 

漫画の中の彼らは、失敗しても変わろうとしていた。

 

 

 

では、僕は?

 

 

 

僕だって、何度も変わろうと思った。

 

 

 

勉強を頑張ろうと思ったこともある。

 

 

 

アルバイトで稼いだ金を貯めようと思ったこともある。

 

 

 

無駄な課金をやめようと決意したこともある。

 

 

 

でも、長くは続かなかった。

 

 

 

何かを我慢すれば、その反動で別のものに手を出した。

 

 

 

一度失敗すると、もういいやと投げ出した。

 

 

 

そして、また同じことを繰り返した。

 

 

 

僕には、リオンたちのような覚悟がなかった。

 

 

 

……いや。

 

 

 

本当は、覚悟がないという言葉すら、言い訳なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わりたいと言いながら、変わるために必要な苦労はしたくなかった。

 

 

 

今までどおりの生活を続けながら、いつか自然と何かが変わることを期待していた。

 

 

 

そんな都合のいい話があるわけないのに。

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

思わず、ため息が漏れた。

 

 

 

読み終えた漫画を閉じ、表紙を眺める。

 

 

 

物語の中の登場人物たちは、ページをめくるたびに変わっていく。

 

 

 

一方で、僕は漫画を読み終えても、昨日と何も変わっていない。

 

 

 

それが、少しだけ情けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、そろそろ戻ってこーい」

 

 

 

バックヤードの向こうから、先輩の声が飛んできた。

 

 

 

「あ、はい! 今戻りまーす!」

 

 

 

慌てて返事をする。

 

 

 

休憩時間は終わりだ。

 

 

 

僕は漫画を鞄にしまい、立ち上がった。

 

 

 

いつまでも考え込んでいたところで、何かが変わるわけでもない。

 

 

 

とりあえず、今は働こう。

 

 

 

来月のガチャに使う金も必要だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ほら、結局これだ。

 

 

 

さっきまで自分の人生について考えていたくせに、頭に浮かんでくるのは次のガチャのこと。

 

 

 

我ながら、呆れてしまう。

 

 

 

それでも僕は、いつもどおり仕事に戻った。

 

 

 

いつもどおり働いて、いつもどおり時間が過ぎて、いつもどおり一日が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日もきっと、同じような一日になる。

 

 

 

そのときの僕は、本気でそう思っていた。

 

 

 

まさか、その日のうちに人生が終わるなんて、想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

アルバイトを終え、店の外に出た。

 

 

 

夜の空気が肌に触れ、思わず肩をすくめる。

 

 

 

「……寒い」

 

 

 

秋だというのに、今日は妙に冷え込んでいた。

 

 

 

空を見上げると、街灯に照らされた雲が薄く流れている。

 

 

 

天気予報では、そこまで気温が下がるとは言っていなかった気がするのだが。

 

 

 

それとも、単に僕が薄着なだけだろうか。

 

 

 

……いや、服装に無頓着なせいかもしれない。

 

 

 

そういえば、去年買った上着はどこへやっただろう。

 

 

 

確か、部屋のどこかにしまったはずだ。

 

 

 

明日、探してみるか。

 

 

 

そんなことを考えながら、僕は家へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田舎の実家暮らし。

 

 

 

移動手段は、徒歩か自転車。

 

 

 

免許は持っていない。

 

 

 

別に、車が嫌いなわけではない。あれば便利だとも思う。

 

 

 

ただ、免許を取るための金も、車を買うための金も、今の僕には簡単に用意できるものではなかった。

 

 

 

もちろん、計画的に貯金をしていれば、今ごろは違ったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……またこの話だ。

 

 

 

自分の過去を振り返ると、結局いつも同じところに行き着く。

 

 

 

あのとき、こうしていれば。

 

 

 

あのとき、我慢していれば。

 

 

 

あのとき、ちゃんと考えていれば。

 

 

 

そう思うことはいくらでもある。

 

 

 

でも、過去に戻れるわけじゃない。

 

 

 

だからといって、未来のために今から何かを始めるほどの気力もない。

 

 

 

我ながら、どうしようもない。

 

 

 

「……どうにか、したいものなのだがな」

 

 

 

誰に聞かせるでもなく、そんな言葉が口からこぼれた。

 

 

 

変わりたい。

 

 

 

本当は、ずっとそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、何をすればいいのか分からない。

 

 

 

いや、正確には分かっているのだろう。

 

 

 

少しずつでも貯金をする。

 

 

 

無駄遣いを減らす。

 

 

 

何か役に立つことを勉強する。

 

 

 

将来について考える。

 

 

 

言葉にしてしまえば、どれも特別なことではない。

 

 

 

でも、その当たり前のことが、僕にはひどく難しく感じられた。

 

 

 

何かを始めるには、今までの自分を否定しなければならない気がした。

 

 

 

今までの自分が間違っていたと認めなければならない気がした。

 

 

 

そして、そんな自分を認めたところで、本当に変われる保証などどこにもない。

 

 

 

そう考えると、結局、何もできなくなってしまう。

 

 

 

……本当に、面倒くさい人間だ。

 

 

 

自分で自分のことをそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、いつかは。

 

 

 

いつかは何とかなるかもしれない。

 

 

 

そんな淡い期待だけを抱えながら、僕は歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家へ帰るには、大きな道路を一本渡らなければならない。

 

 

 

普段から何度も通っている横断歩道だ。

 

 

 

周囲には住宅や小さな店舗が並んでいて、夜になると人通りは少なくなる。

 

 

 

その日も、車の往来はまばらだった。

 

 

 

信号が青になったのを確認し、僕は横断歩道へ足を踏み入れた。

 

 

 

そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゴオオオオッ!

 

 

 

遠くから、低いエンジン音が聞こえてきた。

 

 

 

顔を上げる。

 

 

 

白いトラックが一台、こちらへ向かってきていた。

 

 

 

荷台には貨物が積まれている。

 

 

 

側面に、どこか鉄道会社を思わせるロゴが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何を運んでいるんだろう。

 

 

 

そんな、どうでもいいことを考えた。

 

 

 

トラックは、かなりの速度で走っていた。

 

 

 

だが、道路を走る車など珍しくもない。

 

 

 

 

 

僕は特に気に留めず、横断歩道を渡り続けようとした。

 

 

 

そのとき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っと待ってよ! まだ話は終わってないの!」

 

 

 

女性の声が聞こえた。

 

 

 

反射的に、そちらを見る。

 

 

 

横断歩道の反対側から、一人の女性が歩いてきていた。

 

 

 

片手にはスマートフォン。

 

 

 

耳に当てたまま、何やら電話の相手に向かって声を張り上げている。

 

 

 

「――ねえ! ちょっと、聞いてるの!?」

 

 

 

ずいぶんと感情的な話し方だった。

 

 

 

電話越しに誰かと喧嘩をしているのだろうか。

 

 

 

声は聞こえても、相手の言葉までは分からない。

 

 

 

女性はスマートフォンに意識を向けていて、周囲をほとんど見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その背後から。

 

 

 

トラックが迫っていた。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

最初は、何かがおかしいという程度だった。

 

 

 

女性とトラック。

 

 

 

その位置関係。

 

 

 

トラックの速度。

 

 

 

横断歩道を渡る彼女の歩幅。

 

 

 

頭の中で、それらがばらばらの情報として浮かんだ。

 

 

 

そして、次の瞬間。

 

 

 

「――え?」

 

 

 

理解した。

 

 

 

このままでは、ぶつかる。

 

 

 

女性は気づいていない。

 

 

 

トラックは止まりそうにない。

 

 

 

距離が、思っていたよりもずっと近い。

 

 

 

クラクションが鳴った。

 

 

 

けたたましい音が、夜の道路に響き渡る。

 

 

 

それでも女性は、まだ電話の相手に何かを訴えていた。

 

 

 

「ねえ! だから、私は――」

 

 

 

そこまで聞いて、僕はようやく、自分が何を目撃しているのかを理解した。

 

 

 

危ない。

 

 

 

助けなければ。

 

 

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも。

 

 

 

僕が助けに行ったところで、どうなる?

 

 

 

間に合う保証なんてない。

 

 

 

下手をすれば、僕まで巻き込まれる。

 

 

 

そもそも、僕は運動が得意なわけでもない。

 

 

 

反射神経が優れているわけでもない。

 

 

 

こんなときに冷静な判断ができるほど、頭がいいわけでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だったら、警察に連絡する?

 

 

 

いや、今から電話をかけたところで間に合うはずがない。

 

 

 

誰か、ほかの人は。

 

 

 

周囲を見回す。

 

 

 

誰もいない。

 

 

 

いや、いたとしても、僕と同じように突然の出来事に戸惑っているだけかもしれない。

 

 

 

どうする。

 

 

 

どうすればいい。

 

 

 

頭の中で、いくつもの考えが浮かんでは消えていく。

 

 

 

怖かった。

 

 

 

自分が死ぬかもしれないと思った。

 

 

 

当たり前だ。

 

 

 

死にたくなんてない。

 

 

 

まだ二十歳にもなっていない。

 

 

 

大したことを成し遂げていないとしても、これから何かが変わる可能性くらいはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや。

 

 

 

そんなことを言えるほど、今まで何かをしてきただろうか。

 

 

 

将来のことを考えるのが嫌で、面倒なことから逃げ続けてきた。

 

 

 

変わりたいと言いながら、変わるための努力をしなかった。

 

 

 

そんな僕が、こんなところで命を懸けてまで、他人を助ける必要なんてあるのだろうか。

 

 

 

助けたところで、感謝されるとは限らない。

 

 

 

むしろ、余計なお世話だと怒られるかもしれない。

 

 

 

僕は自分の顔に自信がない。

 

 

 

性格だって、褒められたものじゃない。

 

 

 

人を助けるような立派な人間ではない。

 

 

 

そもそも、僕は――。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

女性が、こちらを向いた。

 

 

 

目が合った。

 

 

 

驚いたような顔。

 

 

 

何が起きているのか、まだ理解できていないような表情。

 

 

 

その背後には、白いトラック。

 

 

 

クラクションが、もう一度鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――間に合わない。

 

 

 

その瞬間、頭の中の言い訳が、すべて吹き飛んだ。

 

 

 

考えるよりも先に、足が動いていた。

 

 

 

走る。

 

 

 

全力で。

 

 

 

普段なら、少し走っただけで息が上がる。

 

 

 

運動不足の身体は重い。

 

 

 

それでも、今だけは止まるわけにはいかなかった。

 

 

 

「危ないっ!」

 

 

 

声を張り上げる。

 

 

 

女性が何かを言った気がした。

 

 

 

けれど、聞き取る余裕はなかった。

 

 

 

僕は彼女の肩に手をかけ、そのまま横へ押し出した。

 

 

 

「きゃっ――!?」

 

 

 

女性の身体が、横断歩道の端へとよろめく。

 

 

 

スマートフォンが手から離れ、アスファルトの上を滑った。

 

 

 

彼女が転ぶのが見えた。

 

 

 

けれど、トラックはもう目の前だった。

 

 

 

……よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬、そんなことを思った。

 

 

 

彼女は助かった。

 

 

 

少なくとも、トラックの進路からは外れた。

 

 

 

それだけで、十分だった。

 

 

 

僕は逃げようとした。

 

 

 

当然だ。

 

 

 

ここで立ち止まっていたら、自分まで轢かれてしまう。

 

 

 

身体をひねり、足を動かそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、遅かった。

 

 

 

目の前いっぱいに、白い車体が迫っていた。

 

 

 

ブレーキの音。

 

 

 

タイヤが路面を擦る音。

 

 

 

運転手の顔が、一瞬だけ見えた気がした。

 

 

 

ああ。

 

 

 

これ、駄目なやつだ。

 

 

 

そう思ったときには、もうどうしようもなかった。

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

衝撃。

 

 

 

身体が宙に浮いた。

 

 

 

何が起きたのか、すぐには分からなかった。

 

 

 

痛みがあったのかどうかさえ、曖昧だった。

 

 

 

ただ、世界がひっくり返ったような感覚だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が見えた。

 

 

 

街灯が見えた。

 

 

 

暗い夜空に浮かぶ雲が見えた。

 

 

 

そして、アスファルトが近づいてきた。

 

 

 

鈍い音がした。

 

 

 

身体が地面に叩きつけられる。

 

 

 

息が、うまくできない。

 

 

 

何かが壊れたような感覚があった。

 

 

 

手足を動かそうとしても、思うように動かなかった。

 

 

 

……ああ。

 

 

 

そっか。

 

 

 

僕、轢かれたんだ。

 

 

 

妙に冷静な自分が、頭の片隅にいた。

 

 

 

どうやら、これが僕の最期らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、やりたいことがあっただろうか。

 

 

 

いや、どうだろう。

 

 

 

ゲームはもっと遊びたかった。

 

 

 

読みかけの漫画も、まだ残っていたはずだ。

 

 

 

来月のガチャだって、引くつもりだった。

 

 

 

……本当に、そんなことばかりだな。

 

 

 

死ぬ間際になってまで、考えることがそれなのか。

 

 

 

自分でも、少し笑えてきた。

 

 

 

もっと、何かあるだろう。

 

 

 

家族に伝えたいこととか。

 

 

 

後悔していることとか。

 

 

 

これまでの人生を振り返って、最後に思い出すような、大切なこととか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、すぐには何も浮かばなかった。

 

 

 

僕は、何をしてきたんだろう。

 

 

 

何を残せたんだろう。

 

 

 

誰かの役に立てたことなんて、あっただろうか。

 

 

 

……いや。

 

 

 

さっき、一人の女性を助けた。

 

 

 

それだけは、間違いない。

 

 

 

理由なんて、うまく説明できない。

 

 

 

自分が立派な人間だからでもない。

 

 

 

死ぬことが怖くなかったからでもない。

 

 

 

むしろ、怖かった。

 

 

 

逃げたかった。

 

 

 

助けなくてもいい理由を、いくつも考えた。

 

 

 

それでも、僕は走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてだろう。

 

 

 

どうして、あのとき。

 

 

 

考えても、答えは出なかった。

 

 

 

けれど、ひとつだけ分かったことがある。

 

 

 

僕は、自分のことをどうしようもない人間だと思っていた。

 

 

 

実際、そうだったのかもしれない。

 

 

 

何度も失敗した。

 

 

 

何度も逃げた。

 

 

 

自分に甘くて、面倒なことを後回しにして、変わろうと決意しても長続きしなかった。

 

 

 

それは、今さら否定できない。

 

 

 

でも。

 

 

 

それでも、あの瞬間。

 

 

 

僕は、目の前の人を見捨てなかった。

 

 

 

それだけは、嘘じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか」

 

 

 

声になったのかどうかも分からない。

 

 

 

視界がぼやけていく。

 

 

 

身体の感覚が、少しずつ遠ざかっていく。

 

 

 

痛みも、音も、夜の冷たさも。

 

 

 

まるで、自分という存在が、世界から切り離されていくようだった。

 

 

 

そのとき。

 

 

 

視界の端で、何かが光った。

 

 

 

一瞬だった。

 

 

 

街灯の明かりとは違う。

 

 

 

車のライトとも違う。

 

 

 

もっと奇妙な、説明のつかない光。

 

 

 

後ろの方から差し込んできたようにも見えたが、もう振り返ることすらできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんだ、あれ。

 

 

 

走馬灯、というやつだろうか。

 

 

 

いや、走馬灯というには、あまりにも短い。

 

 

 

結局、何も分からないまま、意識が遠のいていく。

 

 

 

最後に思い浮かんだのは、父さんと母さんの顔だった。

 

 

 

母さんは、今ごろ何をしているだろう。

 

 

 

父さんは、明日も仕事だろうか。

 

 

 

僕が帰らなかったら、心配するだろうか。

 

 

 

怒るだろうか。

 

 

 

悲しむだろうか。

 

 

 

……ごめん。

 

 

 

今まで、心配ばかりかけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も約束を破って。

 

 

 

何度も、期待を裏切って。

 

 

 

結局、最後まで何も変われなかった。

 

 

 

それでも。

 

 

 

もし、もう一度やり直せるのなら。

 

 

 

今度こそ。

 

 

 

今度こそ、ちゃんと――。

 

 

 

その先を考えることはできなかった。

 

 

 

意識が、完全に途切れた。

 

 

 

二十歳を目前にして、将来の展望もなく、誇れるものもない。

 

 

 

そんな僕の人生は、あまりにもあっけなく幕を閉じた。

 

 

 

白いトラックに轢かれ、宙を舞い、アスファルトに叩きつけられた青年――森本裕太は、その夜、命を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど。

 

 

 

それが、彼の人生の終わりだったのか。

 

 

 

それとも、新しい人生の始まりだったのか。

 

 

 

このときの僕には、知る由もなかった。




皆様初めまして。ルーラン810という者です。いつもは頭の中で「もし自分が介入していたなら」などの様々なifを妄想できる一方で文字にする事はとても難しく、それ故に他の方が「自分の書きたいもの」を文字にしているのに、私はAIという小説家から見て邪道とも言えるものを使いました。

何分経験不足なので、かなり粗削りな場所もあり、かなり不安でいっぱいです。指摘や感想などを書いていただけるのであればもっと嬉しいです。
それでは次の話でお会いしましょう
 

少なくとも、僕はそうやって考えることで、これまで自分の人生と向き合うことから逃げてきた。
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