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国名:美空国
詳細:別名は「Micon」(マイコン)であり、陸海空及び航空宇宙軍や戦略軍、電子軍(サイバー軍)、海兵隊などの7軍体制であり、準軍事組織として武装警察や海上保全省などがあるが、陸上国家ではないので国境警備隊が無い。
主に外貨はサブカルや工業製品などで稼いでおり、魔法を「現象」として科学の延長線上のように扱い、その一例として「魔弾や魔道具には工業用レーザーの触媒に魔石を使って完成品に特定の魔法陣を刻み込み、王国や公国などとは違って『魔道具の大量生産』に成功している」が、それらは一点モノの職人製や古代の発掘品と比べると質は下となっているので、「まあまあな質のものを大量に作る」という現在の形に落ち着いている。
そして、宗教には「空道」という神道のようなものがあるが国教ではなく「無数にある宗教の内の1つ」であり、そもそも国教自体が決まっていないので現代日本のような宗教観に育っている。
また、7軍体制の内の1つである海兵隊は、島嶼防衛の容量で海上に浮かぶ普通の島だけでなく浮島の防衛も担当し、上陸の際は「普通は船乗り、上陸時は一番槍」として使われる「海軍陸戦隊」が橋頭保を築き、次に海兵隊が橋頭保を拡張し、最後に陸軍と航空宇宙軍が制圧するという流れとなっている。
国旗:
【挿絵表示】
(※MMA(Micon Aerospace Force)ではなくMMA(Medium Maneuver Armor)でした。大変失礼いたしました。)
「申し上げます! レッドグレイブ家より、ファンオース分離戦争時代に我が国へ供与されたレンドリース品が、同家の領内で発見されたとの報告が届きました! 現在、発見された物品については、同家の管理下に組み込むための要請及び、藍衛と修理や補給などに関する契約を結ぶ為の申請が同時並行で行われております!」
玉座の間に、伝令兵の張り詰めた声が響き渡った。
その報告を聞いたローランド国王は、手元の書類から顔を上げる。
「そうか……。内容を詳しく読み上げてくれ」
「はっ!」
伝令兵は一礼すると、手に持った報告書へ視線を落とした。
「発見された物品は二点。いずれもファンオース分離戦争当時に製造された兵器であり、一点目は、当時の美空国の主力鎧『MMA-01A HellDiver』の輸出版、『MMA-01-1α Feige』。二点目は、宇宙戦艦『MAFSBS-05-2 紀伊』とのことです」
「……ほう」
ローランドは、興味深そうに顎へ手を添えた。
旧式兵器の発見自体は、決して珍しい話ではない。
古代の遺跡から失われた魔導具が見つかることもあれば、過去の戦争で使用された兵器が発掘されることもある。中には現在の技術では再現できないロストアイテムさえ存在する。
しかし、今回発見されたのは美空国の兵器だった。
その名を聞いただけで、ローランドの脳裏には厄介な問題がいくつも浮かび上がる。
「して、性能は如何に?」
「報告書によれば、ファイグには腕部及び胸部機関砲、背部バックパックの左側にミサイルランチャー、中央部にドローンランチャーが備わっているそうです。
また、左腕には近接戦闘用の鉈型高周波ブレードが装備されているとのこと。また、ファイグとは古代語の一種で『臆病者』や『卑怯者』を意味し、ヘルダイヴァーとは古代語の一種で『地獄へ飛び込む者』を意味すると報告書に記されておりました。」
「……」
「紀伊については、主武装が51cm連装砲および汎用ミサイル。さらに、艦体各所には針鼠のように多数の遠隔操作型対空機関砲と機関銃が配置されているそうです」
ローランドの表情が、ほんの一瞬だけ凍りついた。
51cm連装砲。
その口径が意味する威力を考えれば、並の宇宙艦艇にとっては悪夢のような兵装だろう。加えて、対地対空すべてこなせる汎用ミサイルと無数の対空火器まで備えているという。
もちろん、旧式である以上、現代の兵器と比較すれば劣る部分もあるはずだ。だが、旧式であることと、脅威ではないことは別問題である。
ましてや、相手はあの美空国だ。
規格統一と量産を重視し、個々の兵器の性能だけでなく、運用体系そのものを磨き上げてきた国家。その技術力を考えれば、単なる骨董品として扱うわけにはいかない。
「……して、発見者は誰だ?」
声の調子こそ平静だったが、ローランドの目には明らかな警戒が浮かんでいた。
伝令兵は唾を飲み込んだ。
「それが……レッドグレイブ公爵家の次男、アルフォンス殿と、彼を現地へ連れていった美空国からの来訪者である少女2名とのことです」
「…………何?」
玉座の間に、奇妙な沈黙が落ちた。
「確認するが、発見したのはレッドグレイブ家の人間なのだな?」
「はっ。アルフォンス殿は、まだ5歳であるとの報告です」
「5歳……」
ローランドは額に手を当てた。
公爵家の末子とはいえ、まだ5歳の子供である。その子供が、外国から訪れた少女たちと一緒に、戦争時代の鎧と宇宙戦艦を発見した。
しかも、ただ見つけただけではない。レッドグレイブ家は速やかに管理下へ置くための手続きを進めているという。
偶然の発見で片づけるには、あまりにも規模が大きすぎた。
「……ひとまず、レッドグレイブ家には正式な報告を求めよ。発見場所、兵器の状態、そして美空国の来訪者がどこまで関与しているのか、可能な限り詳細を確認するのだ」
「承知いたしました!」
伝令兵が退出すると、ローランドは深々と息を吐いた。
「まったく……。あの家は、今度は何を掘り当てたのだ」
その呟きに答える者はいなかった。
そして、この報告をきっかけに王宮が大騒ぎになっていることなど、当のアルフォンスは知る由もなかった。
そもそも彼は、王宮の騒動よりも、もっと身近で切実な問題に頭を悩ませていたのだから。
ファイグと紀伊を発見してから、1週間が経過した。
その間に、僕を取り巻く環境はいくらか変化していた。
まず、父上から美空国について詳しい説明を受けた。
もちろん、僕も本などを通じてある程度の知識は得ていた。しかし、5歳になったことで、父上は僕にも多少なりとも複雑な話が理解できるだろうと考えたらしい。
おかげで、食事の時間や空いた時間を利用して、美空国についての講義を受けることになった。
まず、美空国は王国のような封建国家ではない。
民主制を採用しつつ、象徴君主制を維持している国家であり、「依代」と呼ばれる存在が君主の地位に就いている。
ただし、その依代には政治的な権限がほとんどない。その一方で、制度上、廃位することもできないらしい。
……なんというか、ずいぶんと独特な制度である。
宗教についても特徴的だった。
国教をあえて定めず、宗教そのものよりも文化や慣習として信仰に関わるものが根付いているという。感覚としては、前世の日本に近いのだろう。
そして、僕が特に興味を持ったのが軍事思想だった。
美空国が重視しているのは、規格統一と量産。
他国が一撃必殺を狙った高性能の宇宙戦艦を建造する中、美空国は大量生産と統一された規格による運用効率を重視している。
それだけでも十分に厄介なのだが、さらに驚くべき話があった。
美空国は、陸・海・空・宇宙に加え、地下や海中に至るまで、あらゆる領域に核兵器を配備しているらしい。
その数、およそ1万発。
……1万発って何だよ。
いくらなんでも多すぎるだろ。
前世の知識がある僕としては、その数字を聞いただけで頭が痛くなった。
もちろん、単純な保有数だけで軍事力が決まるわけではない。それでも、これほどの数を維持し、あらゆる領域へ配備するという発想そのものが恐ろしい。
そして、美空国を語るうえで欠かせないのが、魔法を統制するシステムだった。
その名も「C&C」。
簡単に言えば、ホワイトリスト制の結界型魔法統制システムである。
あらかじめ許可された魔法以外は発動できない仕組みになっているらしい。
つまり、魔法を使いたいと思っても、許可がなければ使えない。
おまけに、魔法を使うにはまず資格を取得してC&Cに登録し、発動するにしても研究や最高級の医療、軍事演習、兵器開発など道は限られている。
本来なら、この世界では、怪我をすれば回復魔法で治療するというのが一般的だ。しかし、美空国では事情が違う。魔法が制限されている以上、怪我をしたからといって気軽に回復魔法を使うわけにはいかない。
そのため、絆創膏を貼ったり、薬を塗ったり、科学技術による治療を行ったりするのが基本なのだという。
……魔法がある世界なのに、わざわざ薬を使うのか。
いや、考えてみれば、魔法が使えない状況を想定して医療技術を発達させるのは合理的なのかもしれない。
魔法という便利なものに依存しすぎれば、それが封じられた瞬間に何もできなくなる。
そう考えると、美空国の方針は徹底している。
ちなみに、ファイグと紀伊は僕個人の所有物ではなく、レッドグレイブ家の管理下に置かれることになった。
当然といえば当然だろう。
5歳児が宇宙戦艦を個人所有しているなど、どう考えてもおかしい。
そして、発見された兵器について調べたり、父上から美空国について教えてもらったりしている理由は、単なる知的好奇心だけではなかった。
現在、僕はそのファイグを使って、遠隔操縦の訓練を受けているのである。
「あっ!」
ガシャンッ!
演習場に、金属がぶつかり合う鈍い音が響いた。
ファイグの機体が訓練用の障害物に接触し、体勢を崩したのである。
操縦席の外にいる僕は、手元のコントローラーを握りしめたまま、画面に表示された機体の状態を確認した。
……またやってしまった。
「おいおい、またかよ……」
演習場の隅から、藍衛の整備兵の声が聞こえてきた。
「あのクソガキ、また俺たちの仕事を増やしやがって……!」
「まあ、そう言うな。俺たちは相場の10倍もらってるんだ。これくらい大したことはないだろ」
「10倍もらってても、仕事が増えるのは別問題だろうが!」
「それはそう」
……聞こえてるぞ、あんたたち。
いや、聞こえるように言っているのかもしれない。
僕は整備兵たちの愚痴を聞き流しながら、コントローラーを握り直した。
因みに、これはただの市販のコントローラーだ。
そもそも、僕は最初から機体を自在に操縦できると思っていたわけではない。
前世では某アーマードなコアなどのゲームを遊んでいたし、ロボットを操作するゲームにも触れたことがある。だが、ゲームと現実では、当然ながら勝手が違う。
ゲームなら、ボタンを押せばキャラクターは思い通りに動いてくれる。
しかし、ファイグは違う。
機体の重量、関節の動き、動作の慣性、姿勢制御。さらには、遠隔操作特有の入力と反応のずれまで考慮しなければならない。
動かそうと思ったときには、すでに動きすぎている。
止めようと思ったときには、まだ止まらない。
そんなことの繰り返しだった。
「くそっ……! ゲームと現実じゃ訳が違うってのは分かってたけど、まさかここまでとは……!」
思わず愚痴が漏れる。
5歳児の体でコントローラーを操作するのも、なかなか大変だ。指の長さが足りず、複数の操作を同時に行うだけでも苦労する。
それでも、ここで投げ出すわけにはいかない。
僕がファイグを使えるようになれば、今後の行動の選択肢が広がるし、学園内での「決闘」への"最後の"対策も、少なくとも、せっかく発見した兵器をただの置物にしてしまうよりは、よほど有意義だろう。
……まあ、現状は置物どころか、整備兵たちにとっての仕事増加装置になっているわけだが。
そうして朝から悪戦苦闘しているうちに、時刻は午後1時を回っていた。
そのときだった。
ガコンッ!
「痛ッ!?」
後頭部に、何か硬いものがぶつかった。
反射的に振り返ると、そこには飲み物とハンバーガーのセットが入った袋を持つ少女が立っていた。
「……なんだ、乃蒼ですか…。」
「なに、その反応は?」
乃蒼は眉をひそめた。
「せっかくアタシがわざわざ持ってきてやったのに、第一声がそれ? もうちょっと感謝とかないわけ?」
「いえ、普通に痛かったですよ」
「ペットボトルを投げただけじゃない。大げさね」
「頭に当たれば痛いはずです……」
まったく、この人は。
僕は小さく息を吐き、差し出された袋を受け取った。
「……まあ、とりあえずありがとうございます。それで、輸送費込みでいくら払えばいいですか?」
「はぁ!?」
乃蒼の声が演習場に響いた。
「アタシのことナメてんの!? 言っとくけど、それはただの友情の証だから! アタシがそんなに貧乏に見えるわけ!?」
「いや、そういう意味では……」
「だったら黙って食べなさい!」
……理不尽だ。
だが、いつものことなので、いちいち反論するのも面倒だった。
「…では、お言葉に甘えて」
僕はコントローラーをいったん置き、袋からハンバーガーを取り出した。
空腹を自覚した途端、急に腹が減ってきた。朝から機体の操縦に集中していたせいで、食事のことなどすっかり忘れていたらしい。
一口かじると、肉とソースの味が口いっぱいに広がる。
うん、美味い。
「……ったく、相変わらず小動物みたいな食べ方をするわね」
乃蒼が呆れたように呟いた。
「そうですか?」
「そうよ。ほら、口元にソースついてるし」
「えっ、…あ、本当ですね?」
慌てて口元を拭うと、乃蒼は小さく笑った。
「ふふっ……。まあ、悪くはないけど」
最後の言葉は、ずいぶんと小さかった。
聞こえてはいたが、僕はあえて何も言わなかった。
ここで反応すれば、面倒なことになるのは目に見えている。
「それより、アタシが見ててあげるから、さっさと食べなさい。あんたに倒れられたら、こっちまで面倒なんだから」
「はいはい、分かりましたよ…。」
そう返事をしながら、僕はハンバーガーを食べ続けた。
……本当に、素直じゃない人だ。
それから5年が経過した。
僕は10歳になり、乃蒼と麻璃は12歳になった。
ファイグの遠隔操縦にも、ようやく慣れてきた。
最初の頃は障害物にぶつかるだけで大騒ぎだったが、今では基本的な歩行や姿勢制御、武装の切り替え程度なら問題なくこなせる。
もちろん、実戦で通用するかと問われれば、まだまだ課題は多い。
しかし、少なくとも整備兵たちから露骨に嫌な顔をされることは減った。
「……まあ、最初の頃に比べれば、ずいぶんマシになったな」
ある日の訓練後、整備兵の一人がそう言った。
「機体の扱いも分かってきたみたいだし、無茶な入力も減った。これなら、こっちも安心して見ていられる」
「それ、褒めてるんですか?」
「褒めてるんだよ。最初の頃を思い出してみろ」
「……やめてください。僕だって忘れたいんですから」
整備兵は豪快に笑った。
そんなやり取りを交わしながら、僕は5年間の訓練が無駄ではなかったことを実感していた。
もちろん、定期的な操縦訓練は今後も続けるつもりだ。だが、藍衛による本格的な基礎訓練は、ひとまず終了となった。
そして、訓練が一段落した僕を待っていたのは、別の問題だった。
「ねぇ麻璃。この平方根ってやつ、分かる?」
「……そんなことより、甘いものが食べたい...」
「現実逃避しないでよ!」
乃蒼と麻璃の声が、通信端末越しに飛んできた。
そう。僕たちは現在、学園への入学試験に向けて受験勉強の真っ最中なのである。
ファイグの操縦なら、練習すれば少しずつ上達する。
しかし、勉強はそう簡単にはいかなかった。
いや、正確には、勉強そのものが嫌いというわけではない。
ただ、問題集を開いても、知らない公式や見慣れない用語が次々と出てくるのだ。しかも、それらを覚えたところで、今度は応用問題が待ち構えている。
「だから、平方根は二乗すると元の数になる数のことだってば」
「いや、それは分かってる。分かってるけど、問題が分からないんだよ……!」
「それ、分かってないって言うんじゃない?」
「そーゆーことー」
「そこは否定しなさいよ!」
画面の向こうの麻璃は机に突っ伏した。
10歳児と12歳児に何を求めているんだ、まったく。
まあ、中学の数学程度ならまだ分かるけど...。まあ、高校の数学はアレだったけど...
……いや、僕自身が10歳であることを言い訳にできるほど、今回の試験は甘くない。
乃蒼と麻璃は、15歳になったタイミングで留学生という形で王国の学園へ入学する予定だ。
そして僕もまた、レッドグレイブ家をはじめとする各家の利害関係などを踏まえ、13歳で入学することが決まっている。
問題は、その入学試験だった。
王国の学園は、前世の日本にあった一般的な高校とは比較にならないほど、求められる知識の幅が広い。
数学や語学といった基礎科目だけではない。
冒険者として活動する際に必要な知識、王国の歴史、貴族社会における礼儀作法なども筆記の試験範囲に含まれている。
しかも、学園側が求める礼儀作法は、あくまでも貴族として最低限のものらしい。
……最低限の基準が高すぎるんだよ。
前世で高校受験を経験した僕だが、当時はろくに勉強していなかった。
結果として、成績は中の下。それでも何とか合格できたのだから、今思えば運がよかったのだろう。
だが、今度はそうはいかない。
この世界では、学園への入学が将来の立場や人間関係に大きく影響する。特に貴族社会においては、学歴や家柄が軽視されることはない。
さらに厄介なのは、男女で試験内容に違いがあるという点だ。
王国は女尊男卑の傾向が強いが故に、女子生徒の試験は男子生徒に比べて比較的易しいらしい。
もっとも、簡単だからといって油断できるわけでもないのだが。
一方、平民の特待生枠では、貴族の礼儀作法など、平民が知らなくても当然とされる知識は試験範囲から除外される。
しかし、入学した後には別の問題が待っている。
貴族の子女たちによる平民への差別や嫌がらせだ。
乃蒼と麻璃は、そのような面倒事を避けるため、平民特待生枠ではなく留学生枠で入学するつもりらしい。
2人は美空国の出身であり、王国とは文化も常識も異なる。
だからこそ、王国側の制度に合わせて受験する必要があるのだろう。
「……まあ、文化が違うからって、いきなり嫌がらせをするのもどうかと思いますが...」
僕がそう呟くと、乃蒼と麻璃が頷いた。
「それはそうね。でも、こっちの常識を向こうが理解してくれるとは限らないし、逆も同じでしょ?」
「……まあね~...」
傲慢な貴族の女子生徒からすれば、自分たちと異なる文化や常識を持つ相手に、無意識のうちに自分たちの慣習を押しつけてしまうこともあるのだろう。
もちろん、全員がそうだとは限らない。
それでも、事前に備えておくに越したことはない。
「とにかく、今は勉強するしかないね~……」
「そうそう。ほら、次の問題!」
「乃蒼の鬼...悪魔...!」
こうして、画面の向こうの乃蒼と麻璃を見ながら、僕の受験勉強は続いていくのだった。
「ふぅ……やっと終わった……」
端末の電源を切り、僕は大きく息を吐いた。
気がつけば、時刻は午後3時を回っている。
机の上には、使い終わった問題集とノートが積み重なっていた。
隣に目を向けると、昼食として用意されていたスープが置かれている。
すっかり冷めてしまっていたが、今さら温め直す気力もなかった。
「……まあ、いいか」
僕はスプーンを手に取り、冷えたスープを口に運んだ。
温かければもっと美味しかっただろうが、空腹を満たすには十分だ。
飲み終えると、僕は再び問題集を開いた。
まだ終わっていない範囲が残っている。
少し休みたい気持ちはあったが、明日に持ち越せば、その分だけ後が苦しくなる。
だから、もう少しだけ頑張ることにした。
休日。
今日は珍しく、勉強机ではなく、別室に設置されたゲーミング環境の前に座っていた。
もちろん、乃蒼と麻璃も一緒だ。
通話アプリをつなぎ、3人でオンラインゲームを楽しんでいる。
明日は普通に勉強する予定なので、今日は息抜きの日というわけだ。
前世では、僕はゲームに依存していた。
勉強を後回しにし、時間を忘れて遊び続け、気がつけば1日が終わっている。そんな生活を繰り返していた。
だが、今世では今のところ、そこまでのめり込まずに済んでいる。
遊ぶ時間と勉強する時間を分け、必要なことを済ませてからゲームを楽しむ。
当たり前といえば当たり前のことだが、僕にとってはなかなか大きな違いだった。
もっとも、ゲームの腕前まで劇的に向上したわけではない。
「くそっ、何でそこで当たるんですか!」
画面の中で、僕のキャラクターが炎に包まれた。
「ぷっ、いいザマね! まさかトドメが一番弱い火球だなんて、思ってなかったでしょ!」
乃蒼が腹を抱えて笑う。
「ふふふ……私たちの勝ち、だね……♪」
麻璃も楽しそうに笑っていた。
「クソが……!」
僕は歯ぎしりした。
敗因は分かっている。
魔法の選択欄で、何も考えずに土属性を選んでしまったことだ。
相手の攻撃を受け流すつもりが、逆に行動を制限され、その隙を火球で突かれた。
よりにもよって、一番弱い火球である。
「あーあ...今日もまたボロ負けですか...」
「ふふっ……アル、次は頑張ってね……?」
麻璃の励ましの言葉が、まるで追い打ちのように聞こえる。
くそっ、2人とも調子に乗りやがって……!
僕は悔しさをこらえながら、次の対戦へ進むためのボタンにカーソルを合わせた。
そのとき、背後から声が聞こえた。
「おい、アル。そろそろ飯だぞ」
兄上だった。
「……もうそんな時間?」
時計を見ると、確かに夕食の時間が近づいている。
仕方がない。ここは一度切り上げるしかないだろう。
僕は二人に別れを告げようと、切断ボタンへカーソルを動かした。
「じゃあね、負け犬。また来週もボコボコにしてあげるから!」
「来週のカフェ巡り、楽しみにしてるね……♪」
「……え?」
思わず手が止まった。
今、何と言った?
来週のカフェ巡り?
そんな予定、僕は聞いていないのだが。
「え、ちょっと待ってください! いつ決まりましたか?!」
「今よ!」
「今なんですか!?」
「ふふっ……決まり、だね……♪」
麻璃の楽しそうな声が響く。
乃蒼は勝ち誇ったように笑い、麻璃は相変わらず穏やかな声で予定を確認していた。
……いや、確認じゃない。完全に決定事項として扱われている。
「……!」
抗議しようとしたものの、背後から兄上の声が飛んできた。
「アル、飯が冷めるぞ」
「……はいはい、今行きますよ」
これ以上遅れると、本当に兄上まで面倒なことになりそうだ。
僕は渋々切断ボタンを押し、ヘッドセットを外した。
「もういいです。来週の件は2人で決めておいてください…。」
「はいはい、楽しみにしてるわ!」
「またね、アル……♪」
最後まで楽しそうな二人の声を聞きながら、僕は諦めて通信を切った。
そして、食事の席へ向かうため、部屋の扉を開ける。
……まったく。
勉強に訓練に、今度はカフェ巡りか。
どうやら、僕の休日は僕一人では決められないらしい。
そんなことを考えながら、僕は廊下を歩いていった。
色々と待たせて申し訳ございません。やる気が起きたり起きなかったりしますが、どうにか自分の気持ちと向き合って書いていく所存です。