※お知らせ:作品の雰囲気を整えるため、第1話〜第11話における主人公の口調を「タメ口」から「敬語」へ一括修正いたしました。ストーリー展開自体に変更はありません。
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12歳になった。
たったそれだけのことだが、僕にとっては大きな変化だった。
この世界では、年齢を重ねることで少しずつ行動の自由が認められる。もちろん、12歳になったからといって何でも好き勝手にできるわけではない。貴族の子供である以上、買い物一つを取っても制限があるし、何に金を使ったのかという購入履歴だって確認される。
それでも、以前と比べれば自由度は格段に上がった。
父上からは僕個人が管理する浮島まで割り当てられた。これまでの生活環境を考えれば、破格の待遇と言っていいだろう。
おかげで、以前から欲しかった物や、今後のために必要だと思っていた物をいくつか購入することができた。
ただし、僕が本当に気にしていたのは買い物の自由などではない。
自分という存在が、この世界の原作にどれほどの影響を与えているのか。
それが、ずっと気になっていた。
僕は「モブせか」の原作知識を持っている。少なくとも、前世の記憶にある物語の大筋については理解しているつもりだ。
しかし、僕自身は原作に登場しない人間である。
しかも、レッドグレイブ家の末っ子という、決して無視できない立場に生まれてしまった。
僕が何かをすれば、それだけで本来の歴史が変化する可能性がある。僕が誰かに話しかけるだけでも、相手の行動が変わるかもしれない。
ましてや、これから先の展開を知っている人間が、何もせずに原作通りの未来を迎えようとすること自体、危険なのではないだろうか。
今までは年齢が低かったこともあり、行動に制限があった。知識があっても実行できることには限界があり、まずは自分自身を成長させることを優先してきた。
ファイグの操縦訓練もそうだし、将来に備えた勉強もそうだ。
だが、12歳になった今なら、少しずつでも動き始められる。
もちろん、僕1人で何もかも解決できるとは思っていない。むしろ、自分の知識だけを過信することの方が危険だろう。
原作の展開を知っているからといって、その通りに事態が進む保証などないのだから。
「……よし」
僕は机の上に広げていた資料を整理し、白紙の計画書を一枚取り出した。
これまで、僕は原作から外れないことを一つの基準として考えてきた。
しかし、それでは駄目だ。
原作通りに進んだ結果、最悪の結末が待っているのなら、原作を守る意味などない。
必要なのは、原作を絶対視することではなく、展開が変わった場合でも被害を抑えられるように準備しておくことだ。
予定外の出来事が起きることを前提に、最悪の事態だけは避ける。
それが、これからの僕の基本方針となる。
つまり、原作から外れないことではなく、原作から外れても最悪の結末に向かわないようにすること。
その為には、5馬鹿とマリエ、後に加わるカイルを「成長」させつつ「失脚」させない事が重要だ。
根拠があるわけではない。
これまでの観察から導き出した仮説にすぎず、実際にうまくいくかどうかも分からない。
それでも、何もしないよりはずっとましだ。
僕は新しい計画に名前を付けることにした。
空賊戦への備え、2度にわたる公国との戦争への対策、エルフの里での立ち回り。そして、聖女親衛隊に選ばれるまでの経緯。
さらに、2度目の公国戦で本来なら魔笛との契約によって命を落とすはずのヘルトラウダを救う方法、共和国編での行動方針まで含めた長期計画。
どれも、今から考えておかなければ手遅れになりかねない問題ばかりだ。
特に、戦争に関しては準備を始める時期が早すぎるということはない。いざという時になってから戦力を整えようとしても、間に合わない可能性が高いからだ。
そのためにも、新規艦艇の建造を始める必要がある。
資金、資材、人員、運用方法。考えなければならないことは山ほどあるが、一つずつ整理していけばいい。
僕は計画書の上部に、数字を書き込んだ。
「914計画」
名前に深い意味があるわけではない。自分が管理しやすいように付けた識別名だ。
重要なのは名前ではなく、中身である。
「よし、次は……ルイナ」
僕は傍らにいる相棒へと声をかけた。
「悪いけど、今のユリウスとジルク、ブラッド、グレッグ、クリスの5人について、目立った行動や現在の状態を教えてもらってもいい?」
計画を立てるうえで、原作とのズレを把握することは欠かせない。
自分の成長やファイグの操縦訓練、受験勉強に集中するあまり、肝心の観測をすっかり後回しにしていた。
これでは本末転倒だ。
もちろん、ルイナがどこまで情報を集められるのかは分からない。ルクシオンのように透明化して、誰にも気付かれずに偵察できるのかどうかも知らない。
それでも、頼んでみる価値はある。
<分かりました>
ルイナは、いつもと変わらない落ち着いた声で答えた。
<あなたがこの情報を必要とするだろうと考え、マスターが私を捕まえた5歳の頃から偵察を続けておりました>
「……え?」
思わず聞き返した。
今、さらっととんでもないことを言わなかったか?
「5歳の頃から?」
<はい>
「ずっと?」
<はい。必要な範囲で観察と情報収集を行っております>
僕が忘れていたことまで、ルイナはきちんと覚えていたらしい。
ありがたい話ではある。あるのだが、こちらとしては、もう少し早く報告してほしかったという気持ちもある。
いや、僕が聞かなかったのだから、ルイナを責めるのは筋違いか。
僕は小さく息を吐き、報告を促した。
「それで、今はどうなっている?」
<まず、ユリウス殿下はマリエという子爵令嬢に惚れ込んでおります。クリス様は剣聖の息子という立場に恥じない実力を身に付けるため、また、マリエ嬢を守るために鍛錬を続けております>
……うん。
その辺りは、おおむね予想通りだ。
<グレッグ様もマリエ嬢を守るために肉体を鍛えております。ジルク様は、主君であるユリウス殿下と、自らが愛するマリエ嬢を守るために訓練を続けております>
「そうかぁ…」
これも原作通りと言っていい。
5人の行動原理を考えれば、今の段階で大きな違いがないこと自体は不思議ではなかった。
問題は、最後の一人だ。
<ブラッド様についてですが、マスターが3歳の頃、つまりブラッド様が5歳の頃から、藍衛にて通常の軍事訓練プランではなく、貴族向けの訓練プランである『プランM』を受けております>
「……プランM?」
<はい。銃火器の扱いよりも、剣術や魔法を中心とした訓練です。結果として、精神面と魔法技術には一定の向上が見られます。ただし、ナルシストな性格と精神面の脆さについては、依然として改善されておりません>
「なるほど……」
ブラッドに関しては、原作とのズレが生じている可能性があるわけか。
もちろん、訓練を受けたからといって、すぐに性格まで変わるわけではない。能力が向上しても、実際の戦闘でどこまで成果を出せるかは別問題だ。
それでも、何も変化がないと決めつけるのは危険だろう。
「ありがとう、ルイナ。参考になったよ」
<お役に立てたのであれば幸いです>
僕は報告内容を計画書の余白に書き込んだ。
現状、ブラッド以外はおおむね原作通り。ブラッドについては、藍衛での訓練がどこまで影響しているのかを、学園に入学してから確認する必要がある。
そして、アンジェリカの問題だ。
正直に言えば、ユリウスがアンジェリカを冷遇することには、個人的に思うところがある。
しかし、相手は王族だ。
僕はレッドグレイブ家の人間ではあるが、だからといって王族の行動に自由に口を出せるわけではない。下手に介入すれば、かえって事態を悪化させる可能性だってある。
今は、然るべき時まで様子を見るしかない。
そう考えていたところ、ルイナが再び口を開いた。
<マスター。実は、今日まで報告を控えていた情報がございます>
「何?」
<ユリウス殿下がマリエ嬢に惚れ込み始めたのは、殿下が12歳の頃です。つまり、マスターが10歳の頃に当たります>
「……へえ」
<そして、アンジェリカ様への冷遇が始まったのは本日です。本来であれば殿下とのお茶会に招かれるはずだったアンジェリカ様が、一方的に断られたことが、その始まりとなりました>
「…………なるほど」
知識としては知っていた。
原作では、ユリウスはマリエに夢中になり、アンジェリカを冷遇するようになる。
その後の展開も、おおむね把握しているつもりだ。
だが、具体的にいつから始まったのか。何が最初のきっかけになったのか。そういった細かな部分までは、さすがに描かれていなかった。
ともかく、今日という日が、その始まりだったわけだ。
僕は机に視線を落とした。
12歳の王子が、一人の少女に惚れ込む。
それ自体は、珍しいことでもないのだろう。
しかし、そのために婚約者を一方的に蔑ろにするとなれば話は別だ。
しかも、アンジェリカは王族の婚約者として、これまで相応の教育を受けてきたはずだ。本人の意思とは関係なく、幼い頃から将来を決められ、その立場に見合う努力を重ねてきたのだろう。
それを、こんな形で切り捨てるのか。
「……とりあえず、少し気持ちを整理するかぁ…」
僕は計画書を脇へ寄せ、受験勉強用のワークを机の上に置いた。
考えることは多い。
だからこそ、今やるべきことを一つずつ片付けるしかない。
まずは勉強だ。
原作のことを気にしているだけでは、何も進まないのだから。
<マスター。あなたが保有する浮島から、複数の艦艇が発見されました>
しばらくして、ルイナが報告してきた。
「艦艇?」
<はい。輸送艦が8隻、フリゲートが12隻、空母が1隻、武装病院船が10隻です>
「…………は?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
輸送艦が8隻。
フリゲートが12隻。
空母が1隻。
武装病院船が10隻。
……合計31隻?
いや、待て。
僕の浮島って、そんな物騒なものを保管する場所だったか?
<いずれも、ファンオース分離戦争中に美空が王国へ供与した、レンドリース品であると確認されました>
「……流石に冗談だよね?」
<私が嘘をついたところで、何の得にもなりません>
「ですよねー……」
思わず遠い目になった。
いや、確かに自分の浮島なのだから、何が見つかってもおかしくないと言えばおかしくない。
だが、限度というものがあるだろう。
しかも、ただの古い輸送艦やフリゲートならまだしも、空母まである。
武装病院船に至っては10隻だ。
いったい、誰が何のために、これだけの艦艇をまとめて保管していたのだろうか。
分離戦争中のレンドリース品ということは、王国が借り受けたものの、返却されずに残っていたということなのだろうか。
いや、詳しい事情は調べなければ分からない。
だが、少なくとも僕が今、独断で処分していい代物ではないことだけは確かだ。
これだけの艦艇が見つかったとなれば、管理責任だって発生する。
下手をすれば、僕が勝手に軍備を増強していると疑われかねない。
そんなつもりはなくても、外から見ればそう判断される可能性がある。
「……ルイナ。発見場所や艦艇の状態が分かる資料をまとめて、証拠付きで父上に送っておいて」
<了解しました>
まずは報告だ。
隠していたと思われるより、発見した時点で速やかに報告した方がいい。
そのうえで、今後どうするかを決める。
僕は椅子から立ち上がり、深く息を吐いた。
「はぁ……何でこう、次から次へと出てくるんだよ……」
原作とのズレを調べていたはずなのに、今度は戦争時代の遺物が大量に発見された。
これが僕のせいなのか、単なる偶然なのかすら分からない。
ただ一つ確かなのは、放置しておけば面倒なことになるということだった。
僕は自室を出て、父上の執務室へ向かうことにした。
「……それで、要求は何だ?」
執務室に入るなり、父上は僕を見据えてそう尋ねた。
まるで、店に押し入った強盗を前にしても一歩も引かない熟練店長のような態度だった。
いや、実際に僕が強盗というわけではないのだが。
父上の表情を見る限り、少なくとも気軽な雑談をするつもりはなさそうだ。
「要求というほど大げさなものではありません。今回発見された艦艇について、我が家の管轄下で管理し、スクラップにはせず、ドックに保管していただきたいんです」
「それで?」
「僕の個人的な趣味として、ルイナによる大規模改修を許可していただきたいと思っています」
父上は黙って僕を見つめた。
その視線には、こちらの真意を探ろうとするような鋭さがある。
当然だろう。
いくら息子からの申し出とはいえ、30隻を超える艦艇の扱いを決める話なのだ。簡単に許可を出せるはずがない。
「……改修の内容は?」
「現状では、まず状態を確認したうえで、運用できるように整備することを考えています。具体的な改修内容については、調査が終わってから計画書を提出します」
今ここで、曖昧な説明のまま許可を得ようとするのは危険だ。
何より、僕自身も艦艇の状態を把握できていない。
まずは調べる。
そのうえで、必要な改修と運用方法を明確にする。
それが一番確実なはずだ。
父上はしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「……分かった。その程度なら許可しよう。ただし、私直属の監視を付ける。修繕や整備は構わんが、妙な改造だけはするな」
「分かりました。気を付けます」
即座に了承した。
監視が付くのは当然だろう。
むしろ、これだけの艦艇を扱うのに監視が付かない方がおかしい。
父上の立場からすれば、息子が勝手に軍備を増強してレッドグレイブ家の立場が揺らぐような事態を引き起こしかねない事をしているのではないかと疑うのも無理はないのだ。
僕だって、立場が逆なら同じ判断をすると思う。
「では、失礼します」
必要な許可を得た僕は、執務室を後にした。
……ひとまず、最悪の事態は避けられたらしい。
少なくとも、見つかった艦艇を即座に処分されることはなくなった。
あとは調査と整備を進め、将来の戦争に備えた戦力として活用できるかどうかを判断するだけだ。
問題は山積みだが、一歩前進したと考えよう。
「……死ぬかと思った……」
執務室から離れたところで、僕はようやく肩の力を抜いた。
父上の視線は、何度経験しても慣れない。
こちらが何か隠しているのではないかと、心の奥まで見透かされているような気分になる。
実際には、隠していることよりも、僕自身が把握していないことの方が多いのだが。
どうやら父上は、僕が退室した後すぐに王宮へ報告書を送り、艦艇の登録手続きや管理上の問題について、代筆係を含めた関係者に対応を指示したらしい。
当然だろう。
これほどの数の艦艇が発見されたのだから、簡単な書類仕事で済むはずがない。
……悪いことをしたかな。
いや、僕が意図して隠していたわけではないし、発見した以上は報告するしかなかったのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
そう自分に言い聞かせながら廊下を歩いていると、不意に耳慣れない音が聞こえてきた。
ガシャンッ!
何かが割れる音だった。
続いて、押し殺したような怒声が響く。
「────ッ! そんなことが……許されてたまるか!!」
「……?」
声の主は、姉上のようだった。
気になって足を止める。
普段の姉上は、僕に対していつも優しい。
僕が眠気に負けて倒れそうになった時には部屋まで送ってくれたし、何度か意見が食い違って喧嘩になった時も、最後にはきちんと話し合って和解してきた。
だからこそ、今の声が信じられなかった。
僕は周囲に誰もいないことを確認し、そっと姉上の部屋の近くへ歩み寄った。
「何が『真実の愛』だ! 私は殿下のためだけに育ってきたんだ! それに、今でも……ッ!」
思わず息を呑んだ。
姉上が、あんな声を出すところを見たことがない。
普段は凛としていて、「一線を越えなければ」感情を露わにすることも少ない人だ。
そんな姉上が、物に当たり散らすほど怒っている。
話の内容から考えて、原因はユリウスとマリエだろう。
そして、おそらくジルクも関係している。
主君であるユリウスが誤った方向へ進もうとしているのなら、本来、側近であるジルクが諫めるべきだ。
しかし、現状では彼もマリエに惹かれ、ユリウスと同じ方向を向いてしまっている。
……何をやっているんだ、あの3人は。
胸の奥に、冷たい感情が湧き上がってきた。
憎悪というほど激しいものではない。
むしろ、軽蔑に近かった。
自分たちの行動がどれほど周囲に影響を与えるのか、少しでも考えたことがあるのだろうか。
王族であるユリウスには立場がある。彼の婚約者である姉上にも、王国の貴族社会における立場がある。
それらを理解したうえで、何を選ぶべきか考える責任があるはずだ。
それなのに、目先の感情だけで突き進もうとしている。
……いや。
僕は、そこで思考を止めた。
彼らを責めるのは簡単だ。
正義を掲げて、間違っている相手を叩くのは気分がいいだろう。自分が正しい側に立っていると思えば、相手を非難するための大義名分はいくらでも見つかる。
だが、僕は自分を正当化したくなかった。
自分が正しいと思い込んだ瞬間、相手の事情を考えなくなる可能性があるからだ。
僕には原作知識がある。
だからこそ、彼らの行動が今後どのような結果を招くのか、ある程度は予想できる。
しかし、それは彼らを一方的に裁く権利を僕に与えるものではない。
そもそも、僕自身だって立派な人間ではないのだ。
前世では、何の努力もせず、周囲に甘え続けた人間だった。
自他ともに認めるクズだったという自覚はある。
だからといって、今世で少しばかり努力を始めたからといって、他人を見下していい理由にはならない。
……とはいえ、嫌いなものは嫌いなのだが。
姉上を冷遇するユリウス。
それを止めるどころか、マリエに惹かれて主君を諫める役割を放棄しているジルク。
そして、彼らを取り巻く状況を悪化させていくマリエ。
正直、好意的に見ることは難しい。
だが、だからといって、彼らを見限るわけにもいかないのだ。
僕には、彼らを失脚させるだけの権限もなければ、そんなことをして得られるものもない。
何より、今の段階で彼らを切り捨てれば、原作の展開そのものが大きく変わってしまう可能性がある。
もちろん、原作から外れること自体が悪いわけではない。
むしろ、最悪の結末を避けるためには必要な場合もあるだろう。
しかし、変化には責任が伴う。
ジルクとユリウス含めた5馬鹿の行動を封じれば、それで世界が平和になるというほど単純な話ではないのだ。
彼らが本来担うはずの役割を失えば、その穴を埋める別の誰かが必要になる。
その結果、さらに悪い展開へ進んでしまう可能性だってある。
だから、今は見守るしかない。
ただし、何もせずに見ているつもりもない。
彼らがまだ若く、これから変わる余地があるのなら、可能な限りその道を残しておきたい。
前世で知った少年法という概念が、僕の判断に影響しているのかもしれない。
あるいは、単純に僕が彼らの将来に期待しているだけなのかもしれない。
それとも、レッドグレイブ家の人間として、姉上を含めた周囲の人々に情が湧いてしまったのだろうか。
自分でも、まだ答えは出せなかった。
ただ、一つだけ確かなことがある。
僕は原作の登場人物たちを、物語の中だけの存在として割り切れなくなっている。
実際に顔を合わせ、言葉を交わし、同じ時間を過ごしてきた。
姉上が怒りに震えている声を聞いて、何も感じずにいられるほど、僕はこの世界から距離を置けなくなっていた。
知識として知っていることと、実際に目の前で起きていることは違う。
頭では理解していたつもりだった。
けれど、こうして現実を目の当たりにすると、理屈だけでは割り切れないものがある。
……まったく、面倒な話だ。
僕は小さく息を吐き、姉上の部屋から離れた。
今は、声をかけない方がいいだろう。
あれほど感情を露わにしているところへ、事情も分からないまま踏み込むのは得策ではない。
落ち着いた頃に、改めて話を聞けばいい。
その時、自分にできることがあるのなら、手を貸せばいいのだ。
少なくとも、今の僕にできるのはそれくらいだった。
廊下を歩きながら、僕は改めて考える。
現段階では、マリエと5馬鹿、そして後に加わるカイルのことが好きになれない。
彼らの行動に腹が立つこともあるし、軽蔑することだってある。
それでも、彼らを完全に切り捨てるつもりはない。
彼らには、まだ変わる余地がある。
そして、この世界を最悪のルートへ突入させないためには、彼らにも本来果たすべき役割を担ってもらう必要がある。
ならば、僕がやるべきことは、彼らをただ非難することではない。
状況を観察し、必要な準備を整え、取り返しのつかない事態になる前に対処することだ。
それが、僕の立て始めた914計画の根本にある考え方でもある。
原作を守るためではなく、最悪の結末を防ぐために。
そのために必要なら、原作から外れることも恐れない。
もっとも、実際にどこまでやれるのかは、これから次第だろう。
僕はまだ12歳で、できることには限界がある。
それでも、以前のように何もせず、ただ未来を待つつもりはなかった。
……さて。
まずは艦艇の調査と、受験勉強の続きだ。
原作のことも、姉上のことも、ユリウスたちのことも、今すぐ答えが出る問題ではない。
だからこそ、焦らず一つずつ片付けていこう。
僕はそう自分に言い聞かせ、再び歩き始めた。
本当に、何度も引き伸ばしてしまって申し訳ありません。最初は勢いで書いたものが後から綻びがいくつも発見され、それを後付けで修正しているが故に少々テンポが速くなったり遅くなったりしております。