殺したはずの親友は、次の日笑顔で挨拶してきた。 作:建築物の漬物
◇ ◇ ◇
どうやって殺すか。
じっくり考えたけれど、私は眞矢ほど頭がよくないから。
結局、安直な方法に頼ることにした。
眞矢だったらもっと綿密に計画を立てて。
誰にもバレないようにしっかりと準備して。
なんてやるんだろうけれど。
私には、そんなことはできない。
「ここも、久しぶりに来る気がするねー」
「そうだね。最近は、あんまり家族喧嘩もしてなかったから」
ここは眞矢のお気に入りの場所。
山の中でも少し開けていて、崖上から町を一望できるスポット。
夜になると、町がぽつぽつ明るくて、星明りのように見える。
もう少し山奥に行けば、今度は空に星が見えるから、二度おいしいスポットだ。
きっと、私たちしか知らない秘密の場所。
眞矢と約束したからね。他の人には教えないって。
……だから、約束を破ったことになるね。ごめんね、眞矢。
でも、きっと許してくれるよね。眞矢は、優しいから。
「家族仲、良くなったんだ」
「うん、お母さんとお父さんが仲直りしたの」
「そうなんだ、良かったね」
眞矢はお母さんと折り合いが悪かったから、この知らせは嬉しい。
でも、どうして?
どうして、家族仲が良くなったのに、殺してくれなんて言ったの?
「いつ頃良くなったの?」
「……かなり最近。ちょっと、色々あってね」
「へぇー」
最近なら、家族仲が良くなったことは死にたくなった原因じゃないってことだ。
だって、かなり前から眞矢は殺してほしがっていたから。
……やっぱり本物の眞矢は今目の前にいる方で、私が殺した方が偽物だったんじゃ?
なんて思いたくなるけれど、そんなことはない。
私が、眞矢を間違えるはずがない。
この眞矢は、間違いなく偽物だ。
許せない。あれだけの苦悩を抱えていたのに。
私にも打ち明けられないぐらい、重要な悩みを抱えていたのに。
こいつは、何気ない顔をして眞矢の尊厳を踏みにじっている。
眞矢が死にたくなかったわけがないだろ。生きたくなかったはずがないだろ。
それなのに死を選んだからこそ、私は受け入れたんだ。殺したんだ。
本当に、心の底から、許せない。
こいつがここにいること自体が、眞矢の覚悟を踏みにじる行為でしかない。
怒りを心の奥底に沈めて、表向きは笑顔のまま。
隙を伺うため、私は会話を続ける。
「……眞矢はまだこの町を出ていきたいって思ってる?」
「出て行きたく、ないよ」
苦しそうな声だ。
眞矢の姿をしたナニカは崖の向こう、町の方を見ながら喋っている。
「この町は、まだそんなに好きじゃない。けれど、鶫の事は好きだから」
「眞矢……」
「鶫と離れたくないから、町を出て行きたくない」
怒りが沸き起こる。
眞矢じゃないのに、眞矢のようなことを言わないでほしい。
その怒りのまんま、用意しておいた手ごろなサイズの石を両手で持ち上げる。
ナニカは、まだ町の方を見ている。
後頭部へ向けて、私は石を持ちあげて――。
「ごめんね」
一言呟いてから――振り下ろす。
「えっ――」
鈍い音が響いた。
手には頭蓋骨が砕ける嫌な感触が残る。
バタリと、ナニカがその場に倒れた。
後頭部から、赤い血が滲み出て地面へ伝い落ちていく。
「つ、ぐみ……?」
「ごめんね」
まだ意識がある。
もう一度石を振り上げて――その頭蓋を叩き潰すつもりで、強く、強く叩きつけた。
地面に血の水たまりが出来上がる。広がっていく、血がダラダラと流れ、地面を赤黒く染めていく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
思わずその場で
吐き気がする。眩暈がする。
眞矢じゃないと分かっていても、二度も眞矢を殺したという感覚が。
たまらなく、自己嫌悪を誘発する。
ちらりとナニカの方を見る。
ピクリとも動いていない。頭からはダラダラと血が止まらず流れ出ている。
周囲には鉄の臭いが蔓延して、これ以上なく血が存在を主張している。
間違いなく、死んでいる。
手に持っていた石にもびっしゃりと血がこびりついている。
服にも返り血が点々としている。
「うっ、うえぇぇぇぇ」
戻してしまった。
目の前の光景が、あまりにもグロテスクだったから。
手が震える。頭蓋を砕いた感触が、生々しく残っている。
人を殺したという実感が、じわりじわりと精神を
二度目だ。二度も殺した。
眞矢を、二度も殺した。大好きな親友を、二度も、殺した。
いや、これは眞矢じゃない。頭ではわかっているけれど、脳が現実を拒否している。
「……気持ち悪い」
一通り胃の内容物を出し切って、それでもと胃液すら吐き切った感覚がある。
口の中に酸っぱい後味が残っていて、大変気分が悪い。
「でも、殺した」
きちんと、殺した。確実に殺した。
これで眞矢の尊厳は守られる。
「……捨てよう」
この場所を選んだのは、死体を崖下に捨てられるからだ。
滅多に人も来ないし、きっと野生動物が食べて痕跡を消してくれると思う。
死体を持ちあげると、頭の傷からこぽりと血がこぼれ落ちていく。
気持ち悪さに耐えながら、死体を動かし――崖下に放り投げた。
崖下の枝が折れたのか、ばきりという音が微かに聞こえた。
でも、これで発見される可能性は低くなったと思う。
「べったりついちゃったな」
返り血を受けることは想定してたから、着替えは持ってきてる。
また処分しないといけない服が増えちゃったな。
着替えて帰ろう。
「……ばいばい」
眞矢じゃないナニカ。
なんで現れたのかはわからないけれど、これでもう会うことはないと思う。
……そう思っていたのに。
「おはよう、鶫」
次の日の学校で、何事もなかったかのように、そいつは再び姿を現した。
私は、あまりにも予想外の光景に、ぎこちなく応対することしかできなかった。
「おは、よう。眞矢」
どうして? 確実に殺した。死亡確認もした。
なんでいるの。
頭の中が混乱でいっぱいになる。
眞矢の姿をしたナニカは、ぎこちない私に対してそれでも笑顔で、近づいてきて。
「……次は、できれば殺さないでね」
そう、耳打ちしてきた。