幽鬼59回目のゲームに参加する《アスレチックミート》 作:狼然零時
※六巻までのネタバレを含みます。
後、オリキャラいっぱいです。
過ちをどう覆すかは自分次第だ。
〈0/13〉
ドアノックの音で
〈1/13〉
いいベッドのおかげか、体が痛むことはなかった。
大きな本棚、作業机、クローゼット、など日常生活を送る上で最低限の家具が置かれていた。プレイヤーごとに与えられている個室、といったところだろう。飾り気はないが、落ち着いた雰囲気があった。ただ、窓が小さいので、
そして、
その上には黒い学ランが着せられていた。サラシの上に学ラン、モチーフは応援団だろうか。銀髪や色白な肌と、全体的に白っぽい
寝起きの頭を覚ますのと、周りを観察するのを兼ねて、頭を振っていたら、
「無い」
そこには、
すると、またもやドアノックの音が鳴った。
そうだ、
決して、忘れていたわけではない。少し夢中になっていただけだ。
扉の向こうにいるのは味方か敵か、あるいは運営の用意したNPCか。ともかく判断しかねるので警戒しつつ、
扉は外開きだった。扉にぶつからない程度離れたところに、ノックをした──
果たして、
俳優のように眉目秀麗で、圧倒的な存在感を持つプレイヤーが、そこには立っていた。
〈2/13〉
細部は違えど
「おはよう」スタイルの良さを際立たせるような首から、その姿に見合う低く色気のある声が出てきた。
百八十はあるタッパ。誰もが認めるであろう顔面。
美術館の大トリに飾られてる芸術品のような、その美貌で人間の精気を骨の髄まで喰らい尽くしてしまう化け物のような、玉藻と肩を並べるレベルで──と、そこまで考えたところで
今は──今から、ゲームが始まるんだ。余計なことを考えている暇は無い。
そろそろ本格的に[[emphasismark:見えなくなってきている > ﹅]]んだから。
「…おはよう、ございます」理解の追いつかない頭でなんとか挨拶を返す。
男性のようなプレイヤーは、顎に手を当てて
「どうも、俺は
「……知ってるの?」
「せや、幽霊じみたオッドアイのベテランプレイヤー。結構、噂やさかい、もしかしたらて思てん」
「そういうことか」
良かった。一瞬、本気でボケ始めたのかと焦った。
「なあ、ひとつ気になることがあるねんけど……聞いてええ?」
またしても質問が飛んできた。
気になることといえばこちらもある。
だが、これを聞くのが失礼ということくらいは、いくら鈍感な
「…まあ、答えられることなら」
答えられないことなら答えなければ良い。
すると、
切れ長の瞳が
そして、
「その右目、見えとるん?」
分からない。
──なんで、知ってるの?
だが、できなかった。
その瞬間、突如として
雑談をする余裕があったくらいだ。ゲームはまだ始まってないと思う。
だが、殺気を感じたとなれば話は別だ。
〈3/13〉
コンコンコンと三回、トイレノックではなく、ちゃんとドアノックだ。
ノックをしてから歩幅三歩分、
今回はリビングでゲームの説明が行われる。
なのだが、時間ギリギリになっても二人のプレイヤーが起きてこなかった。
人数が明確に分かったのは、リビングにあった説明用の大きなテレビのおかげだ。そこには《十時から説明が始まるよ〜ちゃんと八人集まって全員で聞いてね♪》と幼児が書いたような字で書いてあったのだ。
なので、
理由は、運営の趣味とかだろう。師範は学ランを着せられていたのだが、その美貌をもってして、そつなく着こなしていた。より肌を見せるチアを着せるのが勿体ないほどに。
そして、
セパレートタイプで、トップスもボトムスもギリギリまで肌を見せている。
年齢的にはまだ問題ないと思うが、普通に恥ずかしいし、気持ち悪い。こういう衣装には毎回嫌気がさす。衣装を製作している人の意図なんて考えたくもない。せめてもの幸いとしては、師範が似合っていると言ってくれたことだ。
あの人は天然のタラシなので、言葉に嘘がない。なので、他人ならともかく、普通に嬉しかった。
それに、味方という事実も心強い。
学ランとチアは両方とも、黒を基調としたものだった。そういった文化には明るくないが、黒の学ランはともかく、黒のチアは珍しいな、と思った。
味方であることを暗示しているのだろう、いかにも、な感じだ。
けれど、一つ不安もあった。
なぜ、同じゲームに参加しているのだろう、という疑念だ。
一体、なぜだろう?
だが、その行為は──思考はすぐに打ち切った。当て推量は良くないし、思考に耽りすぎるのは自分の悪い癖だ。今回で終われるかもしれないというのに、気を抜きすぎている。
それなりに時間は経ったので、一際強く、四度目のノックを加えた。
三十秒待って起きてこなかったら、部屋に入ろう。時間は有限なのだ。
十秒経った。
──扉は開かない。
二十秒経った。
──扉はまだ、開かない。
そして、三十秒たった。
──扉は開かなかった。
仕方ない、入るか。
嫌な予感しかしないので、扉を全開にしておいて、部屋に侵入した。
「あのー…起きてますか?」
一歩、二歩と侵入していった。
そして、部屋の全貌が見えた。
その時、
殺気だ。
〈4/13〉
「ああああ‼︎」
自分と似た格好をした、青髪のプレイヤーが襲いかかってきた。
右手には、先の尖ったハサミを握りしめている。
かなり距離は近かったが、事前に警戒していたので回避は難なく成功した。
先ほど
追撃だ。
右から左へ、左から右へ、明確な殺意を持って、振り回している。
ただ、半狂乱なのか、大振りの攻撃が多かったので、
そして、一際大きく振りかぶったのを見て、
廊下の行き着く先は、行き止まりかリビングか、
大きく距離を取り、
青髪のプレイヤーはハサミを両手に握り締め、突進してきていた。
かかったな、と思った。
ここが正念場だ。
近づいた。
人間は、予備動作なしに急に方向転換することはできないのだ。
そして、相手も例外ではなかった。
そのまま更に数歩進み、
大きすぎる隙だ。
「がっ…‼︎」相手は短い悲鳴と共に、ハサミを落とし、体勢を崩した。
「……っ‼︎」
やがてその娘は胸を床に打ち付け、声にならない悲鳴を漏らした。
なので、あくまで脅しだ。
立場が逆転した。
その意味を理解したのだろう。抵抗は無くなった。
〈5/13〉
一つ扉を通り過ぎて、角を二回曲がると、開け放たれた扉が現れた。
扉を出るとそこは広いリビングだった。
テレビやキッチン、ソファが大きめで、家具の数も一般的な家庭よりも多いように見えた。
また一つ扉を過ぎて、一番奥の扉へ入ると殺気のした場所についた。
そこには
そのうち、少し離れたところにいるチアを着た二人が揉めていたのだろう。
片方の娘が馬乗りになって、先の尖ったハサミを首筋に近づけていた。
それを
何があったんだろうか?
「
こちらにいる六人を代表して、
すると、馬乗りになっている方が反応した。こちらの娘が
「その……何度ノックをしても起きなかったので、部屋に入ったのですが、突然襲いかかってきまして、……動きを封じました…」
そして、なぜか惨事が起こったということか。
ややあって、
「俺がこの娘なだめるから、君ら五人はリビングに戻っといてくれへん?大人数おったら萎縮させてしまうやろうし。」
「……できるんですか?」
声色からして、挑発ではなく純粋な疑問のようだ。
「うん、何か勘違いしているだけやろうから、いけるよ」
それに《勘違い》という見解には
多分、初めての娘なのだろう。そういう娘に勘違いはつきものだ。
「分かりました。なら、お願いします。」
さっきと同じ娘が言った。そのまま、軽く頭を下げて、リビングに戻って行った。他の娘もそれに続いていったので、同意見ということだろう。
それに、もし
〈6/13〉
[rb:凪銀 > ナギ]]と
既に起きていたであろう四人のプレイヤーは、ソファに腰を下ろした。
ソファはテレビを囲むようにして、三方向に置かれていた。テレビに向かって、右側に三人、左側に一人。正面には誰も座っていなかった。
見た感じ知り合いはいなさそうだったので、
「どうも、
「私は、
「あの、どういった状況なんですか?」
現状、ゲームに関しての情報を全く持たないので、
時計の方は九時五十四分を指していて、テレビの画面には《十時から説明が始まるよ〜ちゃんと八人集まって全員で聞いてね♪》と書かれていた。
「十時から説明が始まるらしいのですが、時間間際になっても二人のプレイヤーが起きてこなかったので起こしに行ったんです。」
片方は
「衣装が二つに分かれていたので、
右は学ラン、左側はチア。真ん中は何かしらの設備がある部屋だとして、左右は衣装で分かれているということだろう。
「なので、ここで待機していた私たちには、
「いや、だからってあんなんになるっすか?」
向かいのソファに寝っ転がっていた娘が突っ込んだ。
水色の髪に黄色いメッシュ、衣装は学ランの方を着ていた──その娘は前髪で両目を隠しているのだが、前が見えているのかが気になった。
「詳しいお話は後で聞きましょう。憶測でものを語っていても、真相はわかりませんので。」
「了解っす〜」
〈7/13〉
説明が始まる一分程前、
うつ伏せになっていた娘は、
三人はテレビの正面にあるソファに座った。イケメンの
これで、この建物にいるプレイヤーは全員揃った。
いつもなら自己紹介をするところだが、「もうすぐ、ゲームの説明が始まるから、自己紹介は後にしよか」と、
そして、十時になり、ゲームの説明が始まった。
〈8/13〉
「みんな、おっはよう!今日は待ちに待ったアスレチックミートの日だよ!」
テレビの画面に一匹の黒いウサギが映った。
チアの上に学ランを着ている。どうやら今回の衣装を合わせたようだ。正直、かなりダサい。
「じゃあ、ルールを説明するからよく聞いといてね」
それから、行われた説明を要約するとこうだ。
参加者は合計八十人。それを色ごとに十のクラスに分けて競わせる。
方法は、三日間で合計十の種目を行い、順位に応じて点数が与えられる。
一位は八十点、二位は五十点で、三位から九位までは五点刻みで下がっていく。そして、最下位である十位は0点だ。
そして、十の種目が終わった後、合計点の下位三チームが脱落する。翌朝八時にお迎えが来るとのこと。クリアしたクラスも同時刻に。
もし、同点の場合は翌日にもう一つゲームをやって決めるらしい。そうなった場合はクリアが確定したチームも観覧する側として、この建物に残らなければならないらしい。
全体的な感想としては、脱落する数は生還率からして妥当だな、と思った。それと、《お迎え》の言い方が皮肉だなと思った。
「何か、質問がある人はいるかな?」
最後にウサギは聞いてきた。
「なあ、もし勝利が確定した場合は種目にでやんでもいいん?配点的にはそうなる可能性もあるはずやと思うねんけど。」
「このゲームはみんなが主役だから、棄権はなしだよ〜」
どの種目も強制参加らしい。何かしら参加させなければならない理由でもあるのだろう。
「…そうか」と、
「他に質問がある人―?」
ウサギが聞いた。すると、今度は
「種目ごとに参加人数は分かれているのでしょうか?」
「そうだよー。でも、今は教えれないから、楽しみにしててね」
「了解いたしました。」
その後は他に質問をする人がいなかった。
「じゃあ、十三時に第一種目の説明があるから、みんなテレビの前に集まってね。」
と言って、テレビの画面は真っ暗になった。
〈9/13〉
「んじゃあ、俺から時計回りで自己紹介していくってことでええかな?」
説明が終わって、
「プレイヤーネームは
そして、
「そんなにやってるんですか」
その言葉は以前、
「秘密や」
なるほど、
その娘は納得したのか、聞いてはいけない、ということを感じ取ったのか、無言でこくこくと頷いた。
「後、こんな容姿やから、よう勘違いされるねんけど、ちゃんと女性やから安心してな」
確かに
いくら、男性っぽくてもこのゲームでは例外はないということらしい。
「じゃ、次
「
こちらはもっとすごい数字を出してきた。
「三十回、やっぱり意識はしますが、最善は尽くします。」
「あの……三十回目って何かあるんですか?」
「……理屈ではないんですけど、三十回になると、思わぬイレギュラーが発生して、急激に生存率が下がるらしいんです。この業界に蔓延っている、《三十の壁》といわれる呪いです。」
けれど、そんな
「そんな怯えんでええよ、
正直、経験者としては、そんなことでどうにもなるわけはないと思う。だが、四十五回という数字と屈強な体、その二つの要素に安心感を覚えたのか、少しだけ表情から恐怖が薄れた。
「では、次どうぞ」タイミングを見計らって、
「
だが、
参加回数こそ多いけれど、
「
お堅い挨拶だった。多分、バイトの面接とかだったら、合格は間違いないだろう。
「では次、
「
豪胆な娘だな、と思った。彼女は
「
普通そうな娘だった。今まで、クセのあるプレイヤーが多かったので、なおさらそう見えた。
「
順番を譲るためだろう、
《三十の壁》のことを知っていたし、七回目という
ではなぜか?
少しの間、
「その…………私も、三十回なんです…」
〈10/13〉
「……わーお…」
その場にいた全員はもちろん、豪胆な
けれど、
春の陽だまりが氷を溶かすのは当然だと言わんばかりに、穏やかに、それでいて確実に。
「なあ、
「……?そう、ですね」
「やから、それと同じ理屈で呪い同士がかけ合わさったら、祝福にでもなるんとちゃう。三十回が二人って、逆にラッキーやん」
だが、その機転を利かせた発言は、重くなった空気を陸に引きずり上げるには十分だった。
気遣い上手、というのはまさにこのような人を指すのだろう。しかも、殺人ゲームという非常に難易度の高い場所で難なくやってのけた。
なんとなく、
そんな
「あくまでもジンクスや。現に俺は生きとるし、
コース料理のデザートのように、
その言葉で場の空気はさらに軽くなった。容姿と性格は満点。学生時代はさぞかしモテていただろう。
「……ありがとうございます」
それを受けて、
そして、
「
そう呼ばれた
「えっと…
やはり初めてだったようだ。
しかし、あの有様になったのはなぜだろうか?
「ん、ありがと」
これで、自己紹介は終わりだった。けれど、
「ああなった理由って説明してもええかな?みんなも気になってると思うし、誤解を解くためにもさ」
やらかしてしまったと思っているのか、
けれど、最終的には頷いた。やはり、誤解は解いておきたいんだろう。
そして、
「このゲームに参加したキッカケってさ、エージェントさんに誘われてやん」
「で、軽く内容とか説明されるんやと思うねんけど、…一攫千金とか、サバゲーやとか。」
「……《全員殺さないと生き残れない》って言われたんやって」
一体どこの戦闘民族だろう。あながち間違いではないが、かなり歪曲した事実を伝えられていたようだ。素直に可哀想だな、と思った。
「物騒っすね」
理由を聞けば、
「それで、殺そうとしたんですか?」
そして、
ど直球もいいところだ。またもや、
横にいる
対する
そんなやりとりの後、ややあって
「いえ、…その………すみませんでした」
「いや、大丈夫ですよ。お互い特に怪我も──」
お腹が空いたことを知らせる合図だ。
誰なのかはすぐ分かった。
顔を赤くして、俯いていたので明らかだった。きっと、初めてのことで疲弊したのだろう。
「腹ペコ青虫っすねー」
「
「はーいっす」
場の空気は柔らかくなった。嵐の前の静けさかもしれないが、心地よかった。その様子を見て、
「じゃあ、ちょっと早いけど、お昼にするか」
「……はい」
〈11/13〉
食料庫はリビングと同じくらい広かった。缶詰やレトルト食品、保存の利いたものが置かれていた。というか、それしかなかった。
「あーっ!」
そして、食料庫に入って数秒、なにを見つけたのだろうか。
「お酒だ!」
お酒だった。
昼食を探しに来たはずだったのだが、
「シャルトリューズ・ヴェール、ジョーヌ、エリクシール・ヴェジェタル……あっ、スピリタスもある!」
よほど、お酒が好きなんだろう。
そして、そんな
「あーっ!返してください。私のですよ、師範」
「ゲーム前に酒飲もうとすんなや、アホ」
「飲みませんって……流石に分かってますよ」
「……ほんまやな?」
「はい、
「……はあ、絶対にあかんからな」
最終的に
「もちろんですよ。……ふふ、楽しみだなあ」
本当に飲まないんだよな?
〈12/13〉
その後、各自で食料庫を漁り、昼食を確保した。リビングには大きな机と人数分の椅子があったので、全員で机を囲んで食べた。こんなふうに大勢と食卓を囲むのは、小学校以来だと思う。直近も似たようなことがあった気がするが、それは記憶の隅に寄せといた。
昼食を終えると、
三十回目のトラウマが尾を引いてるので、できることなら、一人で入りたいが、今はそうもいかないだろう。
それと、リビングには、トランプやオセロなどの遊び道具も置かれていた。先十三時までは特にやるべきことはなかったため、プレイヤー達は自由時間を過ごすことになった。遊び道具を使って時間を潰すものもいれば、仮眠を取る者もいた。
そして、十三時。
テレビの画面に再び黒ウサギが現れた。
場の空気が一気に引き締まり、緊張が走る。
「これから、第一ゲームの説明を始めるよ」
さあ、本格的なゲームの始まりだ。
〈13/13〉