四度目の正直 作:転生者
私は三回転生した。
一度目は現代日本。ごく普通に生まれて、ごく普通に育って、ごく普通の社畜になった。
ただし、世界の方は普通ではなかったらしい。
死ぬまで知らなかったのだが、どうやら伝奇世界だったようで、ある日の帰宅途中、私は化け物に襲われて死んだ。
二度目は、いわゆるナーロッパ的な世界だった。
剣と魔法があって、魔物がいて、スキルなんてものまで存在する。そこで私が最初に目覚めたスキルは、アイテムボックスだった。
便利だった。
便利すぎた。
結果、生きた保管庫として誘拐され、隷属させられ、散々こき使われた挙げ句、魔物に殺された。
三度目はSF世界。
宇宙船が星々の間を飛び交い、人類がいくつもの惑星に進出している世界だった。
今度こそ面白い人生になるかと思ったのだが、幼い頃、乗っていた宇宙船が宇宙海賊に襲われた。
そして死んだ。
三度目の人生で新しく発現したスキルは、バリア。
二度目から引き継いだアイテムボックスも健在だったので、死ぬ間際、襲撃されて大破した宇宙船を丸ごと収納することには成功した。
そして四度目。
私は、また現代日本に生まれた。
新しく発現したスキルは、ワープ。
一度行ったことのある場所なら、どこへでも移動できる。
――どこへでも。
試してみたら、過去に転生した世界にまで行けた。
それを知った時、私は決めた。
もう好きに生きよう。
三回も不完全燃焼で死んだのだ。
四回目くらい、生きたいように生きたって罰は当たらないだろう。
そんなわけで、私は幼い頃から色々なことを勉強した。
漫画、裁縫、護身術、プログラミング、経理。
漫画が描ければ、来世でもし娯楽のない世界に放り出されても自家発電できる。裁縫ができれば服に困らない。三回も死んでいるのだから、自分の身を守るための武術だって必要だ。
プログラミングと経理は今世用。
四回目の人生では、ちゃんと金を稼ぐつもりだった。
お父さんとお母さんには、出世払いということでたくさん習い事をさせてもらった。
パソコンを買ってもらった。ペンタブも、教本も、絵具も、布も、ミシンも。
高校はアニメーターを目指せる学校へ進学した。
本当にお金がかかったと思う。
それでも両親は応援してくれた。
おかげで技術も身についたし、業界とのコネも多少できた。
本当に感謝している。
だからこそ、私はその恩を返せるくらい成功したかった。
ちなみに、お年玉はほぼ百円ショップに消えた。
百円ショップで買った小物を二度目の世界へ持ち込み、魔石と交換しまくったのである。
スキルを使うには魔力が必要だ。魔石はいくらあっても困らない。
三度目のSF世界にも何度か足を運んだ。
アイテムボックスに入れっぱなしだった大破した宇宙船を持っていき、危険なので武器の類は全部売却。得たお金で船内を清掃してもらい、最低限必要そうなものを買い揃えた。
弟が高校生になったらスキルストーンを飲ませて、魔石のお守りも月に一度渡していた。
もっとも本人は、そのありがたみをまったく理解していなかったけれど。
そして高校卒業を目前に控えた一月。
私は両親と弟を居間に集め、その場で土下座した。
「前々から言ってたけど! 四月から独立したい! 起業したくて、もう段取りも組んでて商品も用意してる! でも万が一にも商品を担保にしたくないから、お金を貸してください!」
頭を下げる私に、お父さんが困惑した。
「起業って……漫画家になるんじゃないのか? 賞は取ったのか?」
「漫画も描く! でも、それとは全然別の事業をやりたい!」
「別の事業?」
「説明するより見てもらった方が早い。――スキル、ワープ!」
家族全員を巻き込んで、私は跳んだ。
次の瞬間。
私達は、宇宙船の中にいた。
「は!?」
「きゃああああ!? 何ここ!?」
「えっ、何ここ!? 姉ちゃん今、スキルって言った!?」
三者三様に混乱している。
私は胸を張った。
「私の宇宙船」
「宇宙船!?」
「大破してるけどね。譲ってもらったの」
嘘ではない。
この宇宙船の所有者は、三回目の人生における私の両親だった。そして生存者は私一人。
つまり相続した。
たぶん。
「あ、それと弟にはスキルストーン飲ませてるから、そのうち超能力に目覚めると思うよ。毎月渡してる魔石のお守りを肌身離さず持ってればね」
「引き出しに放り込んでた……」
「いらない?」
「いる!」
弟が即答した。
お父さんはそれどころではないらしく、壁や天井を呆然と見回している。
「う、宇宙船だと……」
「そう。でね、この大破した宇宙船を売ってお金を作って、やりたいこと全部したいの」
「やりたいこと?」
「貿易。贅沢。漫画制作、衣装制作、それから冒険! とにかく色々! ワクワクしない?」
「そ、そうか……」
お父さんが黙った。
考え込む。
私は追加で安心材料を提示した。
「武器は全部取り外してもらってるから安心して」
「そうか……」
またしばらく沈黙したあと、お父さんは大きく息を吐いた。
「わかった。協力しよう」
「本当!?」
「ただし、その前に引っ越すぞ。セキュリティのしっかりしたところだ。会社の事務所も自宅とは別にする」
「賛成!」
「それから俺も会社を辞める」
「えっ」
「壊れているとはいえ、宇宙船を売るんだろう。売れれば金はある。お前一人に任せておける話じゃない。手伝うから雇ってくれ」
「良いよ!」
「お母さんもスキルが欲しいわ」
「俺、姉ちゃんの会社に入る! 大学受験しない!」
「それも、その方が安全かもしれんな。それから俺にもスキルをくれ」
こうして家族会議は、予想以上にあっさりまとまった。
「ありがとう! でも社長は私ね!」
そこだけは譲らない。
両親にもスキルストーンと魔石のお守りを渡し、お父さんから資本金を借りる。
我が家の貯金もほぼ全部投入した。
小さな事務所を借り、一家揃ってセキュリティのしっかりしたマンションへ引っ越した。
会社用のパソコンを一人一台。
仕事用のスマホも人数分。それとは別に会社の代表番号用としてもう一台。
必要なものを揃えて、会社を設立する。
社名は――
『夢実現!流れ星工房株式会社』
社是は、『願いを叶える』。
ホームページも作った。
SNSアカウントも作った。
そして、記念すべき第一弾プロジェクト。
『宇宙船が欲しい!』
ホームページのトップに、大破した宇宙船の写真をでかでかと掲載した。
――社長が独自のルートで入手した、大破済み宇宙船。武装撤去済み。
修理するもよし。
リバースエンジニアリングするもよし。
観光資源にするもよし。
買取希望者、大募集!
お値段、二兆円。
現状渡し。返品不可。
リバースエンジニアリングおよび、それによって得た技術の特許取得は自由。ただし、当社が現在および将来にわたって販売・保有・運用する製品やサービスについて、取得した特許権を行使しない旨の契約を結んでいただきます。
四月七日から二週間、鳥取砂丘にて実物展示!
会社設立とホームページ公開日は、四月一日。
エイプリルフールである。
ここは絶対に譲れなかった。
そして四月七日。
鳥取砂丘に、大破した宇宙船をドーンと置いた。
二十一日までの二週間限定展示である。
五月には招待制の見学会と説明会も開催予定。
とにかく宣伝が大事だ。
広い砂丘に宇宙船を置いて世間の注目を集め、買ってくれる相手を募るのだ。
大破しているとはいえ、船体そのものの機能は完全に死んでいるわけではない。二週間程度なら船に搭載されたバリアシステムで浮かせ続けられる。
社名とホームページアドレスを書いた巨大な垂れ幕も用意した。
五月一日の会議室も予約。
経理担当も雇った。
準備万端。
なお、運転資金は一年も保たない。
◇
「宇宙船じゃないですか!」
初日。
鳥取砂丘に浮かぶ巨大な船体を見上げて、観光関係者のおじさんは腰を抜かしかけていた。
「そうなんですよ。社長がどこからか手に入れてきたんですけど、大破してまして。これを売りたいんです」
「凄いですね! いや、凄いですね!!」
「警備員を大量に雇うお金もないんで、とりあえず外から眺めてもらうだけなんですけどね。まあ無料だしいいかなって」
「無料でも凄いですよ!」
「売れるといいんですけどねえ。お値段二兆円」
「二兆円!?」
「リバースエンジニアリング自由ですからね」
「ははぁ……! いや、凄いですね!」
ふふふ。
そうだろう、そうだろう。
そして翌日。
笑っていられなくなった。
人が押し寄せた。
メールボックスは一瞬でパンクした。
ホームページも無事に落ちた。
「ホームページ死んだ!」
「姉ちゃん! 電話鳴りっぱなし!」
「SNSは!?」
「生きてる!」
「よし! 契約要項を上げよう!」
こうしてSNSに、二兆円の宇宙船に関する契約要項と、五月一日に開催する見学説明会の申込書をアップロードした。
説明会の参加条件は、日本語で意思疎通ができ、当社の指示に従えること。
そして参加費、一人一千万円。
冷やかし防止である。
高い?
二兆円の商品を買うかもしれない人向けの説明会だよ?
これくらい払える人じゃないと困る。
申込書を受け付け、こちらで審査して、承認者に申込番号を送付。その番号を使って振り込んでもらい、入金確認後に予約番号を発行する。
全部人力である。
宇宙船を所有する会社なのに。
全部、人力である。
それでも早々に入金があり、ひとまず私は胸を撫で下ろした。
これで当面は会社が潰れない。
四月後半には、そのお金で清掃業者も入れた。
観光客が増えた結果、砂丘周辺にゴミも増えたからだ。
マナー悪くなったね、日本人……。
二週間の展示が終わると、宇宙船は再びアイテムボックスへ収納した。
そのままSF世界へ運び、向こうの宇宙ステーションに係留しておく。
さて。
次はいよいよ、本格的な販売だ。
◇
五月一日。
想定以上の申し込みがあったため、予約していた会議室では到底収まらず、急遽もっと大きな会場へ変更した。
受付で参加費の入金と本人確認を済ませ、一人ずつ会場へ通していく。
私は壇上に立った。
「それでは、夢実現!流れ星工房株式会社、宇宙船販売見学会を始めたいと思います」
ずらりと並んだ、いかにも偉そうな人達を見渡す。
政治家っぽい人。
研究者っぽい人。
企業のお偉いさんっぽい人。
どう見ても護衛の人。
そして明らかに冷やかしの配信者。
一千万円払って冷やかしに来たの?
金持ちだなあ。
「本日は、契約内容の説明、現物の見学、その後に質問受付という順番で進めます。購入希望のお申し出をいただいた方の中から当社で売却先を選定し、九月末で募集を締め切ります。十月中に社内協議で売却先を決定し、十二月までに入金を確認でき次第、商品をお渡しします。進行の都合がありますので、質問は最後の質問時間までお待ちください」
それから、契約について説明した。
宇宙船は現状渡し。
分解してもいい。
好きなだけ調査していい。
リバースエンジニアリングも自由。
そこから新技術を生み出して、特許を取るのも構わない。
ただし、解析・分解・修理・運用その他、引き渡し後に発生した事故や損害について当社は責任を負わない。
そして、この宇宙船から得た技術や特許を使って、流れ星工房が現在および将来に販売・保有・運用する製品やサービスを妨害しないこと。
そのかわり、当社は十年間、他の宇宙船を売らない。宇宙船を使った旅行業はする。
研究はどうぞ。
特許もどうぞ。
でも私の商売は邪魔しないでね。
十年以内に実用化して必要な特許を取ってね。
要するに、そういう契約である。
一通り説明を終えたところで、私は手を叩いた。
「それでは、お待ちかねの現物見学に移ります。今から一日ほど携帯電話の電波が届かない場所へ移動しますので、ご了承ください。事前にご案内した通りです」
そして――ワープ。
会場にいた全員を巻き込み、SF世界へ跳んだ。
次の瞬間、ざわめきが爆発した。
窓の外には、宇宙空間を背景に係留された巨大な宇宙船達。
そして遠くには、明らかに人類のものではない構造物。
「……宇宙?」
「おい、あれ……」
「エイリアンの宇宙ステーションじゃないか!?」
「外に出られるのか!?」
「ここはどこなんです!?」
アーアー聞こえなーい。
「それでは操縦席から見ていきます! 大破していますが、システムと駆動部はまだ生きてるんですよ! 良かったですね!」
「良かったですね、じゃない!」
私は先頭に立って船内へ入った。
お父さん、お母さん、弟は、見学者が勝手にどこかへ行かないよう周囲を固める。
ここで迷子なんか出されたら困る。
私は宇宙船のスペックを説明しながら、操縦席、居住区、機関部など、見せても問題のない場所を順番に案内した。
皆さん、宇宙船より窓の外が気になっている。
商品を見ろ。
商品を。
◇
見学を終えて地球へ戻り、ようやく質問コーナーである。
真っ先に手が上がった。
「二兆円という金額の根拠を伺いたい」
「半分は税金、半分は当社の運営資金です」
「……宇宙船そのものの価値ではない?」
「価値なんて私にはわかりませんよ。異星文明の宇宙船なんて相場ないでしょう?」
それもそうだ、と何人かが黙った。
「一兆円くらい手元に残れば、当面やりたいことができますからね。大部分は次の宇宙船を買うための資金にしますけど、他にもアニメ、コスプレ、冒険なんか色々プロジェクトをやりたいんですよ」
会場がざわついた。
「……新品の宇宙船を買うことができるのか?」
「できますよ」
ざわめきが大きくなった。
「ならば、この船を売らずに新品を買ってくればいいのでは?」
「当社の資金繰りが難しいので却下ですね」
「しかし――」
「当然ですが、地球のお金を持っていっても、エイリアンの宇宙船は買えませんよ?」
会場が静かになった。
「買うには錬金術が必要です」
「錬金術?」
「錬金術です。なお錬金術は社外秘ですし、売ってません。当面の運転資金と錬金術の元手を稼ぐために、この宇宙船を販売しています」
ざわざわざわざわ。
実際には、1兆円で地球の商品を大量に向こうへ持っていき、売って、向こうのお金に換えて、そのお金で宇宙船を買う。
つまり貿易なのだが、詳しく教える必要はない。
錬金術でいいのだ。
「しかし二兆円は……」
「いくらなんでも……」
また会場が静まり返った。
おかしい。
いい話だと思うんだけど。
別の人物が手を挙げた。イケメン外国人だ。
「他国へ売却する意思もあるのかな?」
「あります。ただし、正直なところ日本政府が手を挙げて、期限までに二兆円用意できるなら日本政府を優先します。私、日本人ですし」
何人かの日本人らしき参加者が目に見えて反応した。
「でも十二月までに入金が間に合わないなら、他国政府でも企業でも手を挙げた人に売ります。なお武器と武器関連の情報は全部抜いてあります」
「買い手が現れなければ?」
「宇宙船産業は一旦諦めます」
あっさり答えると、何人かが目を丸くした。
「今回の説明会で当座の運転資金は確保できましたから、細々やっていく分には問題ありません。十年くらいかけてお金を貯めて、今の宇宙船を下取ってもらえばグレードの低い船は買えるので、それから宇宙旅行産業を始めます」
「……宇宙船に固執していない?」
「だって他にもやりたいこといっぱいありますから」
「例えば?」
「発展途上の星で、知識人の出版をお手伝いしたいですね」
会場の空気が変わった。
「それから現地の労働者を雇って資源採掘。ファッションにも切り込みたいです。漫画とかアニメとかゲームとか、娯楽関係もやりたい。すでに発展してる星で地球の商品を売ろうとしても、せいぜい食料とか資源くらいでしょう? それだけじゃ面白くないですからね。発展させるのが一番楽しいですよ。いや、アニメなら発展してる星でも販売の余地がありますけど。ああ、いいかもしれませんね、発展した星でアニメ産業。候補に入れましょう」
「……どちらかと言えば、私はそちらに噛みたい」
誰かがぼそりと言った。
別の人も手を挙げる。
「我が社も共同事業として――」
「嫌です」
「なぜ!?」
「市場が小さいんで、絶対に他社は参入させません」
「ずるい!」
「なんてずるいんだ!」
「こっちだって異星で商売したいぞ!」
「いい思いしたいぞー!」
「リバースエンジニアリング頑張ってください。そのために宇宙船売るんですから。二兆円の価値はあると思いますよー」
ブーイングが飛んでくる。
知らん知らん。
私だって三回死んで、ようやく四回目なんだ。
今世くらい好きにやらせてもらう。
そして予定時間が来たので、質問タイムは終了した。
◇
その後、色々なところで色々な話し合いが行われたらしい。
詳しいことは知らない。
結果だけ言えば、日本政府を中心として複数国と企業、研究機関が参加する、国際的な宇宙技術研究プロジェクトが立ち上がった。
どうやら本当に二兆円を用意するらしい。
凄いね。
宇宙船を置く場所についても、広大な土地が確保された。
周囲への影響が少なく、警備もしやすく、必要なら施設をいくらでも増設できる田舎の土地が買い上げられ、急ピッチで整備されていく。
そして十二月。
入金確認。
よし。
宇宙船、お買い上げありがとうございます!
私はアイテムボックスから大破した宇宙船を取り出し、完成したばかりの広大な研究施設へ鎮座させた。
後は好きなだけ分解するなり、解析するなり、直すなりしてほしい。
頑張って欲しい。
あっそうだ。
「オマケでマニュアルの日本語訳もあげるね……」
危ない危ない。
忘れるところだった。