ようこそ女装がバレたら即死の教室へ 作:納豆にネギ入れない派
文章はAIでその前の段階で色々手を加えてる感じです。それでも良いという方はご覧いただけると嬉しいです。
入学式当日の朝、俺は鏡の前で自分の髪と格闘していた。
いや、正確に言えば格闘はすでに終わっている。現在進行形で行われているのは、苦労して整えた髪型が本当にこれで正しいのかという、実に不毛な確認作業だ。
神様によって女のような姿に改造されてから、今日で三日目になる。
この三日間で学んだことは多い。例えば、長い髪は見た目の美しさに反比例して手入れが面倒だということ。ブラジャーには正しい着用方法が存在するということ。そして、スカートを穿くときには、ズボンと同じ感覚で動いてはいけないということ。
特に最後の問題は深刻だった。
何しろ俺は、生まれてこの方二十二年間、男として生活してきた人間である。十六歳の女子高生という新しい身分を与えられたところで、長年の習慣まで簡単に変えられるわけではない。
もっとも、三日も練習すれば、さすがに着替えで一時間も浪費するようなことはなくなった。
人間の適応能力というのは、なかなか侮れないものである。
「……よし。こんなもんかな」
鏡に映った自分を見ながら、制服の襟元を整える。
そこに立っていたのは、落ち着いた雰囲気を持つ一人の美少女だった。
背中まで伸びたダークブラウンの髪。少し垂れ気味の茶色い瞳。柔らかな印象を与える顔立ちに、同年代の女子としては高めの身長。
そして、制服の胸元を立派に押し上げている、神様特製のGカップ相当の胸パッド。
相変わらず、とんでもない完成度である。
これが本物の胸ではないというのだから、神様の技術力には感心するほかない。もっとも、その技術力を大学生一人の女装に注ぎ込んだことについては、今後も定期的に非難していく所存である。
それにしても、こうして制服を着ていると、いよいよ女子高生になってしまったのだという実感が湧いてくる。
いや、なってしまったというのは正確ではない。
俺は男だ。
戸籍上は女性だし、外見も声も完全に女性だが、れっきとした男なのである。
ここは決して譲れない。
「私は橘千紘です。よろしくお願いします」
鏡に向かって挨拶してみる。
やや低めの、落ち着いた女性の声が部屋に響いた。
うむ。
悪くない。
「趣味は読書とゲームで、運動も好きです。高校生活では、いろんな人と仲良くなれたら嬉しいです」
よし。
これなら問題なさそうだ。
自己紹介で重要なのは、変に気取らないことである。
下手にお嬢様っぽい話し方をしたところで、俺の中身が変わるわけではない。それどころか、いつか素が出たときに面倒なことになりかねない。
幸い、神様が用意した声は自然な女性のものだ。言葉遣いさえ多少気をつければ、無理に演技する必要もないだろう。
ただし、一人称だけは別である。
普段の俺は「俺」だが、学校では「私」を使うつもりだ。
別に女子が俺と言ってはいけないわけではない。しかし、男だとバレた瞬間に死亡する身としては、疑われる原因をわざわざ増やす理由もなかった。
「……しかし、似合うなあ」
改めて鏡を眺める。
悔しいが、我ながら相当な美人だった。
こんな女性が大学の同じ講義にいたら、間違いなく一度は目で追っていただろう。
もっとも、実際にいたとしても、積極的に口説きに行けたかどうかは別問題だが。
何しろ俺は、女の子をからかうのは好きでも、自分から恋愛方面で攻めるのはあまり得意ではない。
神様がそのあたりまで正確に把握していたことを思い出し、若干腹が立ってきた。
いかん。
朝からあの変態のことを考えるのは時間の無駄だ。
俺は鞄を手に取り、部屋を出ることにした。
◇
高度育成高等学校。
それが、これから三年間通うことになる学校の名前である。
東京都が設立した、進学率と就職率がほぼ百パーセントという、とんでもない実績を誇る学校だ。
生徒には毎月十万円相当のポイントが支給され、校内には充実した商業施設があり、生活の大部分を学校の敷地内で完結できる。
条件だけ聞けば、夢のような高校である。
ただし、その実態を知っている俺からすれば、手放しで喜べるものではない。
この学校は、名前のとおり実力至上主義なのだ。
成績だけでなく、日々の行動や集団としての評価も、学校生活の待遇に関係してくる。
原作を読んでいた頃は、なかなか面白い設定だと思っていた。
しかし、いざ当事者となれば話は別だ。
できれば普通の高校に通わせてほしかった。
いや、もっと言えば、大学生のまま放っておいてほしかった。
積んでいたゲームの続きも気になるし、友人と約束していた食事もある。家族に何も言わず姿を消したことも、考え始めれば気が重くなる。
……あの神様、本当に余計なことをしてくれたものである。
そんなことを考えながら歩いていると、目的のバス停が見えてきた。
すでに何人かの人が並んでいる。
その中には、俺と同じ制服を着た生徒の姿もあった。
男子が二人、女子が三人。
どの生徒も新しい制服に身を包み、どことなく落ち着かない様子を見せている。
俺も傍から見れば、同じように緊張した新入生に見えるのだろうか。
少なくとも、今から男子としての正体がバレないか心配している人間には見えないはずだ。
そうであってほしい。
やがてバスが到着した。
乗車して周囲を見回した俺は、後方へ続く通路の途中で足を止めた。
妙に目立つ男子生徒がいる。
金髪の、整った顔立ちをした少年だった。
背筋を伸ばして座っている姿は堂々としているが、周囲の人間などまるで眼中にないといった雰囲気を漂わせている。
……あれ?
どこかで見たような。
というか、あの金髪。
あの妙に自信に満ちた態度。
もしかして。
「……高円寺?」
小さく呟いた声は、バスの走行音に紛れて消えた。
高円寺六助。
原作でも相当に濃い存在感を放っていた、Dクラスの問題児の一人である。
いや、問題児という呼び方が正しいのかどうかは分からない。
能力だけなら非常に優秀だったはずだが、とにかく自由奔放で、他人に合わせるという発想がほとんど存在しない男だった。
あの男が本当に高円寺だとすれば、どうやら俺は原作開始の瞬間に居合わせているらしい。
思わぬ遭遇に興奮しそうになったが、すぐに気持ちを落ち着ける。
俺からすれば知っている人物でも、向こうからすれば見知らぬ女子高生である。
いきなり名前を呼びかければ、不審がられるに決まっている。
それに、高円寺なら不審がるより先に、何か妙なことを言い出しそうだ。
俺はひとまず、通路の邪魔にならない場所へ移動した。
バスはその後も乗客を乗せながら、学校へ向かって走り続けた。
◇
しばらくして、車内でちょっとした騒ぎが起きた。
途中の停留所から乗ってきた年配の女性をきっかけに、優先席を譲るべきかどうかという話になったのである。
発端は、座席に座っていた金髪の男子生徒だった。
やはりというべきか、彼は自分の席を譲るつもりがないらしい。
スーツ姿の女性に声をかけられても、まるで悪びれる様子がなかった。
それどころか、自分が席を譲る必要はないという主張を、実に堂々と展開している。
すごいな。
いや、本当にすごい。
あそこまで堂々と自分の意見を言い切れる人間は、なかなかいないと思う。
内容への賛否はともかく、あの精神力だけは見習いたい。
もっとも、俺が同じことをするつもりは毛頭ないが。
俺は立っていたので、そもそも譲れる座席がなかった。年配の女性が通りやすいように少し身を引くと、近くにいた女子生徒が心配そうに様子を見ていることに気づいた。
明るい色の髪をした、可愛らしい女の子だった。
その子は周囲へ協力を求め、何とか年配の女性に座ってもらおうとしている。
……櫛田桔梗か。
なるほど。
確かに、原作でもこんな場面があった気がする。
彼女は誰に対しても愛想がよく、相手の気持ちを考えて行動できる人物として知られている。
もちろん、俺は彼女の別の一面も知っている。
だからといって、今ここで年配の女性を気遣っている行動まで否定する理由はなかった。
実際、困っている人を助けようとする姿勢は立派なものだと思う。
最終的には別の乗客が席を譲り、騒ぎは収まった。
俺も年配の女性が無事に座ったことを確認し、手すりから離れていた身体を戻す。
ふう。
何というか、朝から濃いものを見せられた。
これが高度育成高等学校の日常なのだろうか。
いや、いくら何でも初日からこれでは先が思いやられる。
……そういえば。
俺は車内をさりげなく見回した。
確か、このバスには綾小路と堀北も乗っていたはずだ。
原作の記憶を頼りに探してみると、少し離れた場所に黒髪の女子生徒が見えた。
綺麗な顔立ちをしているが、表情はどこか近寄りがたい。
周囲の騒ぎにも積極的に関わる様子はなく、落ち着いた態度を保っている。
……堀北鈴音。
間違いないだろう。
そして、その近くには、これまた見覚えのある男子生徒がいた。
特別目立つ容姿というわけではない。
制服の着こなしも普通で、表情にも大きな変化がない。
しかし、俺は知っている。
あの男こそが、この作品の主人公。
綾小路清隆である。
「…………」
……おお。
なんだろう。
ちょっと感動してしまった。
画面や挿絵で見ていた人物が、実際に目の前にいる。
これまで頭では理解していたが、こうして実物を見ると、いよいよ異世界に来たという実感が強くなる。
いや、世界そのものは現代日本とほとんど変わらないのだが。
それにしても、綾小路か。
原作ではとんでもない実力を持っていた人物である。
できれば仲良くしておきたい。
ただし、変に警戒されるのも困る。
何しろ俺には、絶対に知られてはいけない秘密があるのだ。
相手がどれほど優秀でも、普通に接しているだけで男性だと見抜かれるとは思わない。
しかし、余計な注目を集める必要もないだろう。
俺は視線を外し、窓の向こうへ目を向けた。
バスは学校へと近づいていた。
◇
「……でっか」
思わず、そんな言葉が漏れた。
目の前に広がっていたのは、立派な校舎と広大な敷地だった。
高度育成高等学校。
その名前は知っていたし、原作で施設の充実ぶりについても読んだ覚えがある。
しかし、実際に見ると印象が違う。
建物は新しく、周囲の設備も整っている。敷地の広さも、一般的な高校とは比べものにならないように感じられた。
前世で通っていた大学もそれなりに大きかったが、こちらはこちらで相当なものである。
こんな場所で三年間生活できるというのは、なかなか贅沢な話だ。
……男バレ即死という条件さえなければ。
いや、もう考えるのはよそう。
せっかくの入学式なのだ。
もう少し明るい気持ちで臨むべきだろう。
周囲には、俺と同じ制服を着た新入生たちが歩いている。
友人らしき相手と楽しそうに話している生徒もいれば、一人で校舎を眺めている生徒もいた。
緊張しているのか、何度も案内書を確認している男子生徒もいる。
ああいう姿を見ると、こちらまで懐かしい気分になる。
俺も大学の入学式では、教室の場所が分からずに随分と迷ったものだ。
最終的には同じように迷っていた男子と意気投合し、二人で案内図を眺めながら右往左往した。
懐かしい思い出である。
ちなみに、その男子とは大学に入ってからも友人関係が続いていた。
……元気にしているだろうか。
そんなことを考えていると、横から声をかけられた。
「あの、すみません」
「はい?」
振り向くと、同じ制服を着た女子生徒が立っていた。
少し緊張した様子で、手には入学案内を持っている。
「一年生の教室って、こっちで合ってますか?」
「ああ、そうですね。案内を見る限り、こっちで合ってると思いますよ」
俺は案内図を確認しながら答えた。
「よかった。建物が大きくて、ちょっと迷っちゃって」
「分かります。私も大学……じゃなくて、こういう大きな学校は初めてなので」
「大学?」
「あ、いえ。大学みたいに広いなって思って」
危ない。
危うく前世の話をするところだった。
女子生徒は特に気にした様子もなく、納得したように頷いた。
「確かに、大学みたいですよね」
「ですよね。施設も綺麗ですし」
何とか誤魔化せたらしい。
俺は内心で胸を撫で下ろした。
……いや、落ち着け。
今のは別に男だとバレるような発言ではない。
大学の話をしたところで、いきなり男性だと疑われるわけがないのだ。
どうも、秘密を抱えていると、何でもないことまで気にしてしまう。
これはあまりよろしくない。
むしろ、気にしすぎる方が不自然だろう。
「それじゃあ、一緒に行きます?」
「あ、いいんですか?」
「もちろん。私もそっちなので」
「ありがとうございます!」
女子生徒は嬉しそうに笑った。
うむ。
こういうのは悪くない。
困っている人に道を教える。
ただそれだけのことだが、少し気分がよくなる。
俺は彼女と並んで校舎へ向かった。
途中、どのクラスに配属されたのかという話になった。
「私はDクラスなんです」
「あ、そうなんですね。私はBクラスでした」
「おお、Bクラスですか」
なるほど。
別のクラスらしい。
少し残念ではあるが、同じ学校なのだから、今後も会う機会はあるだろう。
「それじゃあ、教室は途中まで一緒ですね」
「はい!」
そんな会話を交わしながら歩いていると、やがて教室の並ぶ階へ到着した。
彼女とは途中で別れ、俺は一人でDクラスへ向かう。
初日から誰かの役に立てたことだし、なかなか幸先のよいスタートである。
……よし。
今度こそ、本当の高校生活が始まる。
◇
教室の前に到着した。
一年Dクラス。
扉の近くに掲げられた表示を確認する。
うん。
間違いない。
俺がこれから三年間所属することになるクラスだ。
中にはすでに何人かの生徒がいるらしく、話し声が聞こえてくる。
男子の笑い声。
女子同士の会話。
机や椅子が動く音。
何とも懐かしい雰囲気だった。
大学でも講義室に入れば似たような光景は見られたが、高校の教室というものは少し違う。
全員が同じ制服を着ていて、決められた席があり、一年間同じ顔ぶれで授業を受ける。
思えば、こういう環境からは随分と離れていた。
それを、まさか女子として再び経験することになるとは。
人生というのは、本当に何が起こるか分からないものである。
いや、今回に限っては神様が原因なのだが。
……あの野郎。
おっと。
いけないいけない。
入学初日から神様への悪口を考えていても仕方がない。
俺は表情を整え、教室の扉を開いた。
瞬間、何人かの視線がこちらへ向いた。
当然といえば当然だ。
新しい生徒が教室に入ってきたのだから、多少なりとも気になるだろう。
しかし、分かっていても少し緊張する。
これまでの人生で、教室へ入った瞬間に女子たちから視線を向けられる経験はあったが、男子からも同じように見られる経験はあまりなかった。
……いや、何だか妙な言い方になってしまったな。
普通に考えれば、全員がこちらを見ているというだけの話である。
俺は軽く会釈してから、教室内を見回した。
まず目に入ったのは、窓際の席に座る黒髪の女子生徒だった。
背筋を伸ばして座っており、周囲の会話には加わっていない。
その顔には見覚えがある。
堀北鈴音。
先ほどのバスで見かけた少女である。
そして、その近くには綾小路清隆の姿もあった。
どうやら二人とも、無事に教室へ到着したらしい。
当たり前のことだが、原作人物が当たり前のように生活している光景を見ると、やはり少し感動してしまう。
もっとも、そんなことを顔に出すわけにはいかない。
俺は案内されていた自分の席を探し、教室の中へ進んだ。
その途中、前方の方で明るい声が聞こえた。
「おっ、また可愛い子が来た!」
……ん?
声の方を見る。
何人かの男子生徒がこちらを見ていた。
その中の一人が、俺と目が合うと慌てたように視線を逸らした。
……なるほど。
今のは、俺のことだったらしい。
何とも複雑な気分である。
いや、褒められて悪い気はしない。
実際、神様が用意したこの容姿が美人であることは、俺自身も認めている。
しかし、前世では男だった人間にとって、男子から可愛いと言われるのは、何とも説明しがたい感覚だった。
どう反応すれば正解なのだろうか。
……とりあえず、軽く笑っておくか。
俺が小さく会釈すると、男子生徒はますます慌てた様子で隣の友人と何かを話し始めた。
何だろう。
別に変なことはしていないはずなのだが。
まあ、いいか。
俺は自分の席に腰を下ろし、鞄を机の横へ置いた。
窓から差し込む春の日差しが、教室の床を明るく照らしている。
周囲では新入生たちが楽しそうに会話を交わしていた。
その様子を眺めながら、俺は小さく息を吐く。
……しかし、こうして座っていると、本当に高校生に戻ったんだなあ。
前世では大学生だった俺が、今は十六歳の女子高生。
しかも、周囲には綾小路清隆や堀北鈴音といった、原作で知っている人物たちがいる。
改めて考えると、とんでもない状況である。
もっとも、いつまでも驚いているわけにはいかない。
これからは俺も、このクラスの一員なのだ。
友人を作って、学校生活を楽しんで、できれば三年間無事に卒業する。
……うん。
目標としては悪くない。
そう考えていると、不意に横から声がかかった。
「あの、隣いいかな?」
「はい?」
顔を上げると、明るい髪色の女子生徒が立っていた。
人懐っこい笑顔を浮かべた、可愛らしい女の子である。
……あれ?
この顔は。
「私、櫛田桔梗っていうの。よろしくね!」
……ああ。
なるほど。
どうやら俺の女子高生生活は、思っていた以上に早く賑やかになりそうだった。
「橘千紘です。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺がそう答えると、櫛田は嬉しそうに笑った。
いやあ。
それにしても、実物の櫛田は本当に可愛いな。
原作で見ていた頃も思っていたが、実際に目の前で笑われると、なかなか破壊力がある。
……ただし。
この子のことを何も知らないわけではない、というのが少々厄介なところである。
もっとも、今はそんなことを考えても仕方がない。
せっかく向こうから話しかけてくれたのだ。
まずは普通に仲良くなろう。
俺はそう考えながら、櫛田との会話を始めた。
こうして、橘千紘としての高校生活が幕を開けたのである。