英雄とは、神が気まぐれに投げたサイコロである 作:千本桜
なかなか気にいる形にならなくて。
ある天才は言った。
「この宇宙にある英雄は、
人も人外も、神の手のひらで踊る存在に過ぎないと。
努力も希望も絶望も、全てが其らの手にあると。
それが真実だという確証ならば、この世界のそこかしこに広がっている。
………しかし、ならば。
神をも超えて、自らの理想を果たそうとするものがいたらどうなるだろう。
定められた運命から脱し、自らの道を征くものがいたならば。
この問いを見た皆様も、どうか見届けて欲しい。
◆◆◆
「アバババババ!??これ死ぬ死ぬ!!」
やあみんな!俺だ!
みんなは家でぬくぬく、俺は空でバタバタ、それじゃ!
なんて言ってる場合ではない!
調子こいてあいつの真似したら思ったより乗るのが難しくて無人機から振り落とされそうになっている。
なんとも間抜けな構図だが、やっちまったもんは仕方ないのでなんとかする方法を探さなければならない。
『………何やってるのよ、もう』
「姫子サン!助けてください!これじゃ目標に着くまでに落下して死にます!!」
『あんたが調子に乗って
「わかってますよすみません!!」
とかやってたら通信が耳元から聞こえてきた。
相手はもちろん、俺の上官兼担任の姫子先生だ。
日頃から真面目に授業を受けているとは言い難く問題児である自覚はあったが、これはいつもよりかなり呆れられている声色だ。
まあ側から見なくても馬鹿みたいな理由だからさもありなんだが。
『とにかく、それは自力でなんとかしてちょうだい』
「え!?そんな殺生な!」
『あんたならなんとかできるでしょ?』
そう言うと同時に、通信が切れる。
解決することなく通信はぶち切られて、今俺は必死に捕まっている最中だ。
いやこれどうしろって言うんだよ……。
ま、なんとかはできるかもだけど。
「─────ちょうどいいところに来たな、テメェら」
瞬間、無人機の翼がへし折れる。
それはもう無惨に、金属の装甲が引き裂かれて分離する。
それと同時に機体は安定を崩し、下へ向かって真っ逆様である。
さらに機体は無数の超高速体によって穴だらけにされ、爆散した。
それを成したのは、
人類の大敵たる
人外の怪物である。
………しかし、まあ。
「ちょうどいい足場になるんだなぁ!!これが!!」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎──────!??」
そいつの胴体にナイフをブッさしながら、俺は崩壊獣に捕まる。
ナイフがちょうどいい持ち手となり、どれだけこいつが暴れようが振り落とされることはない。
もちろんただで敵が乗せてくれるわけもなく、痛みと振り落とそうとする意思で暴れる暴れる。
(もう一つの無人機までの距離はそんなに遠くない……さらに言えば足場は大量にある)
崩壊獣の表皮を引っ掴んでナイフを抜き、逆手に持ち変える。
(────行けるな)
それを思い切り首筋にブッ刺し、絶命させる。
浮力を失い落下する崩壊獣を足場にし、他の目標へと飛び移る。
片手に持つ突撃小銃の銃剣を頭に突き刺し、発砲してまた殺す。
コッキングレバーをひきボルトを後退させ、鉄の擦れる音と共に弾丸が薬室に籠る。
こ気味のいい金属音は、すぐにでも生命の活動を停止させることができると主張しているようだ。
こちらに突撃する崩壊獣を認識し、ぶれる照準を合わせ引き金を引く。
真っ直ぐと大気を引き裂き進むその弾丸は、回転しながら崩壊獣の表皮を突き破り血とは呼べない液体を飛散させる。
一つ前に殺した崩壊獣が落下し切るまでの間に、これを行う。
そして高度を失うその前に、その崩壊獣を足場にしてさらに飛び移る。
その時、少し遠くを飛行していた筈の無人機がこちらへと不自然に寄ってくる。
「……なんだ?」
それを認識したのと同時に、通信が繋がる。
直接の音声ではなく、メッセージのようなものであったが。
『無人機を近くまで持ってきたから役立てなさい』という言葉が、誰がこれをしたのかを明確にする。
「───ナイス姫子先生!手間が省けた!」
あらかた掃討したために、邪魔するものはもういない。
これでようやく、目標を目指せると言うわけだ。
そう思うと同時、無人機は上昇を開始した。
◆◆◆
空中戦艦のデッキにて、ある戦闘が繰り広げられていた。
紫の配色の装甲を纏う深紫の髪の少女と、白いバトルスーツが目立つ白髪に二つの三つ編みの少女。
その二人が、今まさに崩壊獣との戦闘を行っている。
もっとも、もはや決着はついたようなものだが。
「チクショウ……」
膝をつき項垂れる白髪の少女。
立つ気力がないとまではいかないが、負傷がそうそう立ち上がる力を与えてはくれない。
「どうしてこんなに強いの……」
その言葉には、驚愕が込められているのがわかる。
先ほど、この少女が撃退したのがこの今目の前で戦っている崩壊獣。
しかし今、彼女ともう一人では叶わぬほどに強くなっている。
明らかにおかしい。
「こんなところで……倒れるわけには……」
深紫の髪の少女もまた、この怪物の強さに押されて敗北寸前だ。
というより一人で勝てるものではない。
何せ二人で挑んでやられているのだから。
「
それでも、手がないわけではない。
危険な手だが、それでも後ろの大切な少女────キアナを守るためには。
たとえ、ここで自分が爆死したのだとしても。
それでも────
「─────おじゃマンボ!!」
そう覚悟を決めて力を解放しようとした少女────雷電芽衣の決意は、あるふざけた声によってかき消される。
声が聞こえると同時に、ある弾丸が凄まじい威力を伴い崩壊獣の表皮を貫通する。
その威力に押され、被弾した箇所が弾丸の進行方向と同じ方向へ引っ張られていく。
戦艦から見える空に、一つの影が差したがそれの正体もじきに分った。
「おぅらぁ!!」
仰け反った一際大きい崩壊獣の頭部に合わせ、落下速度と共にナイフが振り下ろされる。
衝撃を殺しきれていなかったソレは、もろに攻撃が脳天に直撃する。
もちろんそれだけでは、崩壊獣は死なない。
混乱しながらも、反撃をしようと対象へ手を伸ばした。
「ふっ!!」
残念ながらソレは叶わず、首筋を掻き切られて活動を停止した。
この間はわずか5秒にも満たなかった。
「すまん、遅くなったわ」
振り返ってそういう彼は、いつもと変わらぬ笑顔で。
それに思わず安心してしまう。
「もー……遅い、よ……」
後ろからのキアナの声が聞こえると同時に、彼女の声が弱々しいことに気づく。
声はさらに弱っていき、グラリと体が平衡を失う。
そして彼女が倒れる寸前で、芽衣はなんとか手を伸ばした。
「キアナちゃん!!」
「キアナ!」
すぐに少年が軽く見たところ、得意に大事にはなっていないようで。
滑り込むように抱き抱えた彼女は、気を失っているようだが特に負傷もしていない。
それに安堵する芽衣は、背後の扉が開閉する音に気づく。
そこから現れたのは、彼女らの仲間である少女────ブローニャ・ザイチクであった。
「芽衣姉様!ムメイ!大丈夫ですか?」
「ああ、俺は問題ない……ただ、芽衣とキアナは少し診てやってくれ」
「特に負傷はないようだけど、戦闘を行なってたからな」と少年もといムメイは言う。
負傷が外見からは見当たらなくても、それこそ見えない部分までは無事とは言い難い。
本当はもっと設備がある方がいいのだろうが、それは高望みだろう。
「わかりました……ムメイは、大丈夫なんですね?」
「ああ、問題ない……ちょっとふざけて危ない時はあったけど……」
「何か言いましたか?」
「イイエナンデモ」
先ほどのおふざけで間に合わないところだったって言うのは、黙っておいた方がいいだろうと少年は判断した。
正解である、もし言ったらキアナのガチギレが待っていただろう。
そうして、彼ら彼女らは戦艦の内部へと侵入したのだった。