七海千秋(別人)のようこそ実力至上主義の教室へ。 作:ろやる
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豪華客船《
「…うーん、風が気持ちいいね。海を旅するキャラ達も、きっとこんな気持ちで言ってたんだね…」
「千秋さんらしい感想ですね」
「どんな気持ちなのかオレはわからないが、ゲームのワンシーンのみならず会話まで丸々飛び出してくるのは、後にも先にも七海くらいじゃないか?」
船の最後尾あたりの人がいない所で七海は手すりに両腕を机の上で寝るときのように重ねて寄りかかり、坂柳と綾小路の2人はそれよりも少し後ろからそれぞれ海を見ながら話を弾ませていた。
「そういえば
「お手柔らかにな…」
「色々な意味で楽しみですね…そういったゲームを遊んだ後の綾小路くんの変化が」
「坂柳、
「あら、何のことでしょう?」
坂柳は現在、綾小路に車椅子を押してもらっている状態だった。
七海は綾小路と合流してから坂柳の右隣を歩いていたが、現在は船の手すりに寄っている。
両手に花とまでは行かないが…それでも周囲から見られたらどう捉えられるかは彼も薄々察してはいた。
「まあ、いいけどな…若干手遅れだし」
「…綾小路くん?手遅れってなんの話?」
「聞こえていたのか…堀北の話だ」
七海からの追及に本当のことを話しつつ話題を逸らす綾小路。
先程までの会話から坂柳はそのことに気付いていたが、敢えてスルーする。
坂柳自身、昨日まで船内で姿を見かけたり、食事の時3人に合流した堀北と少し会話もした。
そういう出来事もあり彼女の顔も名前も覚えていた。
そしてそんなーー今日は姿を見かけなかったーー人物の話題が出たため、綾小路のごまかしへのつっこみは控え、続きを静かに聞く。
「堀北さん?……そういえば、今日はまだ船の中で一度も見てない、かも?」
「七海も気づいていたから話すが…あいつはちょっと体調を崩していてな。今は自室で休んでるって連絡が来たが、恐らく無人島に着くまでに完全に回復はしないだろうなと思っている」
「…大丈夫なのですか?側に居てあげなくても」
「堀北もそんな柔な奴じゃない。ちょっとした頼まれごともあるから、ここに居ても問題ない。寧ろ「私に構わず3人で楽しんで」と言われた時は驚い…アイツの強さに感心したくらいだ」
ーー実際に、何か船旅に変化があるようであれば報告するように頼まれていたため嘘ではない。が、堀北もただのバカンスとは思っていない事までは、クラスとして競い合う相手に伝えること等しない綾小路であった。
「…ん?足音…?」
「おや、どなたでしょうか…」
「〜〜〜♪」
何やら近づいてくる気配に気づいた綾小路と、クスクスと口元を隠しつつ上品に笑う坂柳。
そして特に気づくこともなく会話が途切れた後から音ゲーの曲か何かを口ずさんでいる七海。
そんな3人…いや、そのうちの1人へと向かう勇ましい足音が1つーー
「な、七海!…さん」
ーーやがて、1人の男子生徒が七海の元へと近寄りながら声を掛ける。
「〜〜♪〜〜?…あ、須藤くん?久しぶりー…別に、同い年なんだから"さん"付けしなくても、大丈夫だよ?」
七海は手すりから両手を離しつつ前へ預けていた重心もゆったりとニュートラルの位置に戻しながら、須藤と呼ばれるDクラスの男子生徒の方へ自然と体の方向を変え、一組の男女が向かい合う形となる。
…何故、2人が顔見知りなのか。
話は5月の前半に巻き戻る。
ーー
その日、七海は非常に上機嫌な様子で放課後の校舎付近を歩いていた。
つい最近、
もしかしたら、外の色んな場所でゲームをしたら友達が増えるのでは…?
そう思い携帯ゲーム機やアナログゲームを詰め込んだリュックを背負って、七海は色んなところを歩いていた。
ーー尚、その方法ではゲーム友達が増えることは無いとこの後出会った生徒に言われ、以降は諦めることとなった。
「クソがッ!!不良品だと!?なんだってんだよ!!!!!」
ーーガンッ!!
ーーパシッ!!
そんな声と少々鈍い音が聞こえてきて、七海は散策中の足をぴたりと止める。
彼女は声が聞こえてきたほうにそっと歩いていく。
声や音から暴力沙汰の可能性が高いと考え、
しかし、現場に複数いた場合を脳内でシミュレートした結果、彼一人だと厳しいかもしれない。
そう分析した七海は先の連絡文を残したまま、
後はスマホ片手にいつでもタップ一つでグループチャットを通じて両者にメッセージが送れるようにした状態で、近づいていく。
ーーガンッ!!
ーーパシッ!!
「ああっ!!クソックソッ!!ふざけんじゃねえよ!!」
ーーガンッ!!
ーーパシッ!!
何度も鈍い音がして、いよいよこれはーーと思い始めた七海。
しかし彼女は同時に、喧嘩や暴力にしては…さっきから同じ音しか聞こえていないことに少し疑問を抱いていた。
とはいえ、音が止むことはないためやはり喧嘩か暴力の可能性はある。
そう結論付けた七海は意を決して顔だけをそっと出す。
そこにはーー
シュッーー
ーーガンッ!!
ーーパシッ!
ーー何度も練習用と思われるバスケのゴールネットにボールを投げ、リングに当たってはバウンドする前にキャッチする。
そんな一連の動作をスムーズにこなす赤髪短髪の男子生徒がいた。
「…えっ?」
シュッーー
ーーガンッ!!
「…あ?…あっ」
ボトッ…ボトッ…コロコロコロコロ…
七海の驚きの声が聞こえたのか、男子生徒は声の出どころへ振り向き、目を離してしまったボールをキャッチし損ねる。
コロコロコロコロ…ポテッ
ボールは転がり、思わず体ごと飛び出していた七海の足先で止まる。
「…」
「…」
これが、七海とバスケの才能が光る男子生徒ーー須藤健の出会いだった。
ーー
「…須藤くんは、見事にバスケだけパラメータ極振りなんだね」
「そういうテメ…七海は、ゲームばっかりじゃねーか。ガキかよ…」
「むっ…こう見えても、チェスで世界大会で優勝したことあるんだけどなー」
「チェスぅ…?…よくわかんねーけど、世界大会ってことは…すげー、のか?」
ーーあの後、須藤はイライラしていた姿を見られていたのかと思い、自分でもよくわからない居心地の悪さを無意識に感じ取っていた。
しかし、七海はそんな彼の様子を見てポンッと手を叩き、足元のボールを拾ってトトトトッと須藤に近寄った。
ーーはい、ボール。
ーーお、おう…あんがとよ。
ーー…。
ーー…。
ーー練習、しないの?
ーー…あ?
ーーさっきまで、リング当てしてたんでしょ?
ーー…テメェ、バスケ知ってんのか?
ーーうん。ゲームでね。あと私の名前はテメェじゃなくて七海、七海千秋だよ。キミの名前は?
ーー…は?ゲーム?……須藤だ。須藤、健。
ーー須藤…健………うん、覚えた。そう!ゴールネットにシュートするだけじゃなくてマイナーなんだけどリング当てのゲームとかもあってね!それかなあって思ったんだけど、どう?合ってる??
ーーわ、わーったよ七海!あってっから落ち着ー
と、七海の
「…まあ、優勝したからね。結構…稼いだよ?」
「へぇ…やんじゃねーか……?ンで目ぇ逸らすんだよ?」
須藤は、ゲームとはいえ確かな成績を残している女子生徒を褒めるも、当の本人は気まずそうに目を逸らしていた。
「いや、何でもない…と思うよ?」
「んだよ、それ……世界、か」
須藤は呆れながらも、何処か羨望の籠った眼差しを彼女に送る。
須藤の独り言部分が聞こえていたのかいないのか、七海はこれまでの会話から彼が目指しているものを感じ取り、確認するように
「須藤くんは、バスケで世界を目指してるの?」
「!…おう!バスケは俺の全てだからな!他は全部諦めてでも…バスケだけは絶対に諦めねーよ」
七海の
「…勉強、苦手?」
「あぁん?いきなりンだよ、喧嘩売ってんのか?」
「それは違う…よ。ただそうなのかなって…思っただけ」
「……」
「……」
「…チッ、そーだよ!文句あんのか!?テメェもバカにすんのか?!」
「うん」
七海の即答に、須藤は頭に血が上り拳を思わず振り上げる。
「ッッッ!テメ「バカにする気はないけど、文句はあるよ」……はあ!?」
そんな彼に対し、七海は目を逸らすことなく言葉をぶつける。
「ゲームじゃないんだから、バスケに極振りしたまま、他の能力値も上げられるよ。バランス崩壊も許されるよ」
七海の言葉の意味を須藤は半分くらいしか理解していなかったが、続く言葉に息が止まる。
「だから…『どうせ次の中間テストで退学だ』なんて思い込んで、諦める必要はどこにもない、かなって」
「……は?」
「まだ一週間以上もあるんだから、スケジュール立ててバスケの練習も休まずに勉強…中間テストも攻略する…うん。不可能じゃない「ちょ待てよ!おい七海!」よ…うん?どうしたの須藤くん?」
矢継ぎ早に繰り出される言葉にノックアウトされる前に声を荒げて静止する須藤。
七海は不思議そうに首を傾げている。
「テメェ…さっきから黙ってりゃ好き放題……勝手に人の
「でも、今のままじゃキミは退学の
「だ・か・ら!!なんでテメェに「あとそれも…かな?多分」あぁ!?」
「その怒りっぽい…喧嘩っ早い性格も治さなきゃダメだよ。カットなったらすぐ…物に当たったりするんでしょ?…さっきなんて、大好きなバスケに当たって「うるせぇんだよ!女が男に指図すんじゃーー」…そうやって女だから、男だからって下に見たりするのがキミの憧れのバスケ選手がすることなの?」
「ッ…それは…そういう話、じゃ……いや、違……ぐっ」
「ね?須藤くん…将来胸を張れるバスケ選手になるためにも、ちゃんと勉強しなきゃダメだよ?喧嘩もダメ…その短気な性格も、闘争心はあってもいいけど…ともかく、少しは治さなきゃダメだよ」
「……何でアレもダメコレもダメって、テメェに指図されなきゃなんねーんだよ。俺はバスケさえ出来りゃ「それで、胸を張れる?」…は?」
「だから、それでプロになって、自分に自信を持って胸を張れる?」
「
須藤は、
(…なんだそれ。バスケだけ?そんなの…そんなの……そ、んな、の……)
「どうかな?もしそれでも胸を張れるのなら……私はもう、何も言わないよ。それが、キミの選んだ
「でもね」と七海は続ける。
ふわりと微笑みながら、
「私は、キミには…須藤くんには、そんな
その言葉は、須藤のココロに…今まで聞いてきたどんな声よりも、深く響いた。
「……んでだよ」
「ん?」
「なんでだよ!なんで俺にそこまで……大体、お前とは今日初めて会ったばかりだろーが…」
語気が弱くなる。七海への呼び方も、少し変わっている。
「…なんで、そこまでして俺を鼓舞すんだよ…お前にメリットなんて何もねーだろーが。寧ろ、退学になったほうが嬉しいんじゃねえのかよ…うちのクラスじゃ見たことねーってことは…お前はBかAのヤツなんじゃねーのか」
途中から拗ねるような口調になった須藤から出た
そして、小さく笑う。
ーーなーんだ、
「ふふっ」
「…何で笑うんだよ。やっぱりおめーも「メリットなら、あるよ?」…は?」
「だって、私が見たいと思ったから。須藤くんの未来」
「…は?俺の未来?」
須藤は意味がわからないとばかりに眉を顰める。
その表情は怒りではなく、困惑だった。
「うん!だって、キミの才能は凄いと思う。…さっき少しだけ見せてもらったけど…高校生でそこまでバスケが出来るってことは、ずっと才能を伸ばし続けてきたんだよね?…ずっとずっと厳しい世界だと解った上で、今も努力し続けてるんだよね?それってとても凄いことだと思うな」
「な、なんだよ急に…褒めても何も出ねー「だからね」ぞ…はい?」
須藤は、照れていた。
あの、喧嘩とバスケ以外知らない男が…初めて褒められたことにより、怒ってもいないのに顔を真っ赤にしていた。
「そんな須藤くんが、誰にも負けないくらい強くなった時、これまで歩いてきた道が、時間が、誰よりも立派で、素敵な思い出だったら…それって一番いい
「それは…」
須藤は想像する。
バスケだけじゃなくて、勉強も頑張った自分。
外国人相手の英語の軽口に、自分も同じ言語で返す自分。
現地で優勝した時に、インタビューの時に、自信を持って答える自分。
それは、なんて素晴らしい未来なんだろうか。
それ以上の未来は、きっとないだろう。
「そうだけどよ……」
「けどよ?」
「俺は…俺には、勉強とバスケを両立なんて、出来っこな「それは違うぞ!」んな!?急に大声あげてどうし「あのね須藤くん」…?」
「いい必殺技を教えてあげる。えへへ…この言葉を一対一で言うのは、須藤くんが初めてだよ」
両手をグーにしてフンス!とした七海はこう言った。
「勉強もバスケも、両方とも『やればなんとかなる』…ってヤツだよ!バスケに掛ける情熱を、未来のために、少しだけ勉強に変えよう?私も、須藤くんが慣れるまで手伝うからさ」
こうして…須藤は恋に落ちた。
尚、七海はうっかりメッセージを誤送信していた。
それを確認した綾小路は急いで駆けつけた後、2人に気づかれない位置から状況を観察していたが、問題ないことを察して坂柳に連絡した。
その後、隠れて様子を見ていたところを七海に発見され、須藤とも少し話をしたことで、今ではたまに話をする仲になった。
ーー
「あの!その、節?は、あんがとございました!!」
「ん?ううん、いいんだよ。キミが退学するような未来にならなくて良かった。私も、嬉しいよ」
七海は穏やかに微笑む。本当に、心の底からそう思ってるとわかる顔だ。
一方で、それを向けられた側はと言えばーー
「ぐっ!うっ…」
何故か、悶絶していた。
腹を手で抱えるようにして、その場で丸くなる。
「どうしたの?お腹、痛い?先生呼んで「いえ!大丈夫っす!」…そう?ならいいけど…本当に「ホントのほんとです!ピンピンしてるっすよ!」お、おう…なら呼ぶのはやめとくね「ありがとござます!!」う、うん」
七海が困惑する中、綾小路と坂柳はこの後の展開を予想した。
まだまだ色恋沙汰の話には乏しい綾小路でも、須藤から何度か相談を受けてはネットで調べたりして聞きかじりの情報を教えたりしており、今がその時だと判っていた。
坂柳も七海のゲームに付き合う中でいくつかそういうシーンも見てきた。
「それで、その…」
やがて落ち着いた須藤はゆっくりと立ち上がり、大きく深呼吸をした。
そしてーー
「俺と、付き合ってください!!」
「「!!((おお…))」」
完全に野次馬と化した2人はクラスが違えど告白した須藤の勇気を内心で讃えていた。
3人は七海の返事を待つ。
しばらく黙って聞いていた七海は口を開き
「いいよ?」
と答える。
「!!!!っしゃあ!!!!!」
「「!?」」
須藤は思わずその場でガッツポーズをした。
綾小路と坂柳は驚いていた。
ーーあの綾小路も、坂柳と同じく滅多に見せないくらい目を見開いていた。
晴れて2人は付き合い始め、これにておしまいーー
「で、どこに付き合えばいいの?」
ーーとは絶対にならないのが、七海千秋だった。
「「「…は???」」」
その場にいる七海以外の3人の声が重なる。
「…?だから、どこに「「嘘ですよね/だろ!?」」…?」
思わずと言った様子で、綾小路と坂柳が突っ込む。須藤はポカーンとしている。
七海は、前世も今も恋愛ゲームが苦手であった。
それでも、他人の恋愛には多少鋭くなっているのは成長と呼べる…だろうか。
少し間が空いたのはこの後に予定があったかを頭で考えていたからだった。
少し落ち込みつつも「諦めませんから!」と決意の言葉を放つ須藤。
何を諦めないのか…そもそも何の会話だったのかすらわかっておらず
両者のすれ違いに「いったいオレは何をどうアドバイスすれば正しかったんだ…」と呟きながら頭を抱える綾小路。
何もわかっていない彼女を見て「七海さん…す、凄いですね…ええ、ほ、本当に…」と小さな声で笑いを堪えきれずに口元をひくつかせる坂柳。
そして、一切何も知らずにベッドで休んでいる堀北。
一つ余計なのが混じった気がするが、そこにはカオスな空間が広がっていた。
無人島サバイバル試験へ、つづく?