「かぐやちゃん!復·活〜!」
目が覚めると机の上に乗って、ピースを掲げる少女ありけり。
「わぁ」
以前のような無機質な性格になる前に、もっとおねだりを聞いてあげたらよかったなぁ……って悩んでいた張本人が
復活して状況を把握した俺もこれにはびっくり。
いつもだったらスルーしているのに、マヌケな声を漏らしてしまった。
「えっと、おかえり?」
「ただいま!」
満面の笑みで返してくる。 どうやら完全に元に戻ったようだ。 しかも、自分のことを『かぐや』と名乗っている。
「君、そのかぐやって名前は地球で付けられたの?」
「そうだよ!かぐやの大切な人がつけてくれたんだ〜♪」
大切な人ってのは、記憶の中にある彩葉っていうJKかな?
へぇ……たった二ヶ月で大切な人ができるとは、さすが月人屈指の陽キャ。
「そうだ!」
何かを思い出したように、かぐやが俺の前へ身を乗り出した。
「私、また地球に行きたい!」
「仕事はどうするんだい?」
「今度はきちんと仕事終わらせてから行く!」
「そうかい。かぐやは偉いねぇ〜」
ニコニコと笑みを浮かべ、彼女の成長っぷりに感心していると、どこか不満げな表情を浮かべた。
「ねぇ、なんでそんなお爺さんみたいな口調なの?」
その問いに穏やかな笑みを浮かべていた俺の顔は、すっと真顔になった。
「二ヶ月のデスマーチで瀕死になったあと、他人の記憶を頭に流し込まれたらこうなるよ。」
一拍置いて、俺は遠い目をする。
「今なら大抵のことは笑って許せる気がする」
悟ったかのような穏やかな笑みを浮かべると「うわ……」と露骨に引いた顔になる彼女。
いいよ。そんな顔をできるのは今のうちだけだ。どうせ数十年経つ頃には仕事の多さに頭がおかしくなって君もこうなってるよ。
「試しに君もやってみるかい?記憶が流れてくると同時に頭がパンって破裂する感覚を味わえるよ」
「やらないよ!?そんなことしてるよりも早く地球に戻りたいもん!」
「頑張ってね。ちなみに私が担当していた分は全て終わらせたから、残ってるプロジェクトは全て君待ちだよ」
「え」
固まった彼女に部屋の隅に積み上げられた巻物を指差す。
あれらは彼女がいないと完成しないプロジェクトの一部だ。
他の部屋にも同様に積み上げられた巻物の塔があるので、そうだな……
「早くても30年はかかるかもね」
「…………」
その瞬間、彼女の首が錆びついたブリキ人形みたいに、ぎ……ぎ……とこちらへ向いた。次の瞬間、俊敏な動きでいつの間にか目の前に来ていた。
「おねが〜〜い……かぐやのこと助けて〜?」
上目遣いで助けを求める彼女を、俺は断固とした意志で首を横に振った。
「かぐや……残念だけど、それはできない」
「えぇ〜……」
「だって君、引き継ぎしなかったじゃない」
「あ」
かぐやの頭に、月を出発した日の記憶が蘇る。
『え、ちょっ! 仕事どうすんの!?』
『君にもできる内容だから大丈夫だよ』
『肝心なところは君が全部担ってたじゃん! 地球に行くのは許すからせめて引き継ぎして!』
『あ〜あ〜! 私なんにも聞こえない〜!』
「……ね?」
「あ〜〜」
「思い出した?」
「思い出したぁ……」
しまったぁ……と唸るかぐやを見て、俺は満足気に頷く。
彼女は俺の要求に応じず、引き継ぎを一切せずに地球に向かったのだ。なので、俺に手伝えることはない。
「ほな、自業自得ってことで」
「待って待って待って!」
「待たないよ。では、私は一足先に地球へ行ってきます。三十年後に地球で会おう。さらば!」
厭味ったらしく笑ってその場から去ると、ムキーッ!とかぐやは怒りを顕にした。
「裏切り者ぉぉぉ!」
置いていかれた仕返しできてスカッとした俺は、後ろから聞こえるかぐやの叫びを無視して、地球に向かうための準備を始めた。
やっぱ現代の地球でする事と言えば、ゲームだよねぇ。
かぐやの記憶から地球にいた頃にはなかったツクヨミっていう仮想空間もあるみたいだし、こりゃ久しぶりに興奮が止まらんわ!
俺はウッキウッキの状態で準備を済ませ、休暇届を出しに上層部に向かった。これまでの経歴を加味して休みもらえますよね?そう期待の視線を向けていたのだが………
「なんで!?」
俺の期待はあえなく消えた。
どういうことですか!?菩薩さん!
かぐやの時は無断欠勤で2ヶ月も待ってくれてたのに!
そう問うと菩薩型の月人は上体を傾けた。
え、休暇届は既に出されてる?期間は数十年後から?
しかもかぐやと一緒?
意味が分からず混乱していると、肩に手が置かれた感覚がした。
「地球には行かせないよ……君と私は一蓮托生だよ〜〜?」
振り返ると、目がガンギマリのかぐやの姿があった。
痛みは感じないはずなのに、かぐやに掴まれた肩が痛い。
咄嗟に手を振りはらい、かぐやから離れるが、ジリジリと壁に追い詰められる。
「ま、まさか!休暇届を出したのは……」
「私だよ〜!一人で抜け駆けするなんてズルいよ♪」
「君だって一人で抜け出してたじゃん!」
「でも、かぐやが来る頃には30年は経ってるんでしょ?かぐやがいた2ヶ月よりも遥かに長い時間を過ごすのは違うんじゃない?」
「う……そ、そんなの知らない!私は念願の休暇を楽しむんだ!……菩薩さん!今すぐその休暇届を却下して私だけ……」
「もう諦めなよ。もう承認されちゃったし、君は私と一緒じゃなきゃ、地球には行けないよ〜?早く行くために手伝って、くれるよね??」
手をわきわきと動かしながら近付いてくるかぐや。
助けを求めようと菩薩さんのいた方へ視線を向けるが、いつの間にか姿を消していた。菩薩さんからすれば、効率的に仕事が終わるのなら俺の事情など、どうでもいいのだろう。
お、終わった…………すぅ
「いぃやァァァァァーーーッッ!!」
この日、一人の月人の悲鳴は思念となって月中へ駆け巡った。
地球産月人
念願の休暇を得るために着々と仕事をこなしてきた人。
かぐやが無断欠勤を2ヶ月もしていたのに咎められていなかったのを見て、「それなら自分も行けるじゃ~ん」と調子に乗り、本来の役職(かぐやの補助役)をすっかり忘れて地球に向かおうとした。
案の定行けず、最後は雷に打たれて髪が金髪になった某鬼殺隊員のような絶叫を披露した。