地球までの道中は順調だった。
自他共に認める天才少女かぐやが開発した自動運転ナビゲーションシステムは、宇宙に浮かぶデブリを次々と避けていく。
「いや〜かぐや様々だわ。本来だったら手動で運転しないといけないところを自動運転にしちゃうなんて……さっすが!稀代の天才美少女!」
「ふっふ〜ん♪そうでしょ!もっと褒めてくれてもいいんだよ〜?」
「いや、これ以上褒めたら調子乗りそうだから遠慮しとく」
「なんでよ!?」
俺の宇宙船もかぐやのお陰で自動運転任せの気楽な旅だった。
そうして、暫く乗っていると日本列島がはっきりと見える位置まで近づいていた。
「そろそろタイムスリップするよ〜」
「了解」
目的地は二十六年前の地球。
タイムスリップ中に互いの機体が離れると、それぞれ別の時間軸へ流される危険がある。そのため、俺は前にいるかぐやの宇宙船と自分の宇宙船を並走させ、固定具で固定した。
「よし!固定できたぞ!」
「じゃ、いっくよ〜〜!!」
かぐやの号令と共に、二機の宇宙船は時間の流れへ飛び込むように、一気に加速した。
あともう少しで地球に着く。
そう思うと少し気が緩んでしまって、地球に着くまでの間にかぐやと雑談を始めていた。
「ねえねえ、君は地球に着いたらなにするの?私は彩葉と君の三人で配信したいな〜。あと、ヤチヨにも会ってほしい!」
「そっくりだから?」
「そ!ヤチヨもきっと驚くよ!」
かぐやはヤチヨが俺を見て驚く姿を想像しているのか、楽しそうに笑っていた。確かに記憶の中にある彼女なら良い反応をしそうだ。
「次は君が答えてよ」
「私は……」
言葉が止まった。
やりたいことは山ほどある。 なのに、それ以外に何か大切な目的があったような気がした。
「……ゲームしたり、ツクヨミって仮想空間に行ったり。あとは……」
「?」
「いや、なんでもないよ」
会いたい人がいる。そう口にしようとしたが、できなかった。だって、俺は誰と会おうとしていたのか分からなかったのだから。
会いたい人を思い出そうとするほど、その人物像は靄がかかって遠ざかっていく。
「……ま、いっか」
数百年も昔の記憶だ。 忘れていても不思議じゃない。
そう自分に言い聞かせた、その瞬間。
視界の端になにかが写った。
「そういえば──」
「ごめん。ちょっと待って」
気になった俺は、かぐやとの会話を切り上げて、窓の外へ目を向けるとその"なにか"の正体が判明した。
とてつもなく巨大な隕石が、俺達の真横から猛スピードで迫ってきていた。進行方向的に……クソっ!ダメだ!このままだとぶつかる……!
「かぐや!! 右から隕石が来てる!!」
「えぇ!?ほんどだ!」
隕石に気付いたかぐやは慌てて進路を変えようとするが、間に合わず。猛スピードで迫る隕石に、かぐやの宇宙船は避けきれず──
ズガァァァンッ!!
隕石へ激突した。
「がはっ……!」
直撃したのはかぐやの宇宙船だったが、固定具で連結していた俺の船にも猛烈な衝撃が伝わる。
耐えきれなくなった固定具が粉砕され、俺たちは互いに弾き飛ばされるように離れ離れになってしまった。
意識が薄れていく中、最後に見えたのは、徐々に近づいてくる日本列島の姿だった。
◇
地球に向かう二人の月人。
その道中であろうことか、隕石に激突してしまいました。
肉体がない思念体とは言え、その拠り所である宇宙船が壊れるのは別のお話。気を失った二人が乗る機体は、それぞれ別々の時代の地球に降り立ちました。
一人は八千年前の地球へ。
そしてもう一人は──
「なんということだ……竹の中から赤子が出てくるとは」
『誰だこの爺さん!?』
平安時代へと。
地球産月人の睡眠事情
地球産月人は地球人だったときの記憶を持つバグ個体で、月人が本来持つリソースの1割を記憶で占領している。
そのため、本来同じ性能を持つかぐやよりやや性能が劣る。
自主的に睡眠を始める前は処理落ちでシャットダウンすることが多かったが、それは性能が上のかぐやと同じ仕事量をしていたため。
ちなみに寝ている間は不必要な情報を体が判別して削除してくれている。つまり、地球産月人が会いたいと言っていた人は、現段階では不必要な情報として消去されている