『』のときは、翁と媼には「あう〜」や「う〜」としか聞こえてないです。
「マジでどうしよ」
隕石に激突して、意識を失ったまま地球に降りて早三日目。
人の気配が一切しない竹林に墜落した『もと光る竹』は地中奥深く潜り、抜け出せないままでいた。
試しに飛行して抜け出そうと思ったが、故障してしまってビクともしない。
思念体である俺は現実の物には触れることができないので、現段階で宇宙船を地中から引き上げる方法がない。
八方塞がりの状況に船の共同製作者であるかぐやに助けを求めようと連絡してみるが応答がなかった。
かぐやの船も近くに墜落しているはずだ。それなのに応答がないということは、事故の影響でどこか遠くへ飛ばされてしまったのだろうか。
隕石に衝突したとは言え、進路上には地球しかなかったから他の惑星に着いたり、宇宙に漂流するなんてことはないはず。
ということは──
隕石と衝突した衝撃でかぐやの宇宙船が壊れて応答できないか、それとも別の時代の地球に飛ばされた可能性が高い。
なので、かぐやと合流するのは諦めて、月に救援要請を送ることにしたのだが……
「そもそもこれ、きちんと連絡届いてるのか?」
そう思って船をスキャンすると『もと光る竹』の信号を担う先端部分が微かに凹んでいた。
「あ〜、先っちょが凹んでるじゃん。でも、頑丈に作ったお陰で少し弄ればすぐに直りそう」
でも、信号部分を修理するには、外部から自分の手で直接しないといけないのだが、今の俺には身体がない。つまり、完璧に詰んでるということだ。
「クソ〜、身体さえあれば『もと光る竹』を掘り起こせるし、修理もできるのに!」
そうボヤくが時間だけが過ぎていく。
そうして記憶を頼りに解決方法を探していると、月人であるかぐやが2ヶ月も地球で普通に生活していたのを思い出した。
そういえばかぐやって、どうやって身体を手に入れたんだろう。
……………あ、確かかぐやが地球で活動するために宇宙船の『擬態』という機能が勝手に肉体を作ってくれるって言ってたような……はっ!
もしかしたらそれを使えばなんとかなるのでは!?
俺は早速、船内で擬態機能について探してみることにした。
えーと、擬態機能、擬態機能………あった、これか!
幸いにも壊れてなさそう。よし、これで肉体を作って土に埋まったもと光る竹を掘り起こそう。
──ニ日後
よーし、上手いこと動いたな。
擬態機能の使い方を知らなくて詰んだかと思ったけど、ある程度セットされていたお陰でなんとかなりそう。
あとは、体を作る場所を決めるだけ。
まあ、竹林だから竹しかないんだけどね。
よし、さっそく竹に干渉してっと…………って身体ちっさ!
「でも、竹の中に入れるにしては大き過ぎるなぁ」
仕方ない。体のサイズを変えて再生成しよう。
ついでに資金として持ってきた金は邪魔なので、隣の竹に移して、っと。
………よし、もう1回やってみよう。
あ、小さすぎてエラー吐いた。
もう1回……
まただ。
今回は不要な機能は全て取り外してしまおう。
よし、今度こそ……!
お、作れた!やっとだ!
竹の中で生成された身体に歓喜に満ち溢れた俺は、さっそく身体に入って、地球人だったときのように身体を動かそうとするが、そうはいかなかなった。
『重っ……手を動かすだけでこんなにしんどいなんて……』
久しぶりに感じる重さ。
地球人だった頃はこの重いという概念が当たり前だったことに懐かしみつつ、ゆっくりと動かしていく。身体が出来たてなので、動きがぎこちない。
『まー、成長したらなんとかなるだろう』
まずはある程度、成長してから竹から出よう。数日もすれば最適化が終わって、幼児くらいまでは成長するはずだ。
そう思い、竹の中に設置された柔らかいマットの感触を堪能していると、突如として
『ほぇっ?』
驚きのあまり固まっていると上から人の顔が覗き込んでくる。
長い白い髭に、伸びたままの睫毛。顔は痩せており皺が刻まれていた。一言で言うとお爺さんだ。だが、服装は現代の物ではない。小袖と呼ばれる庶民が着る服を身に纏っていた。
そのお爺さんはジッと俺を凝視すると、驚きのあまり目を見開いた。
「なんということだ……竹の中から赤子が出てくるとは」
「天から授かった子じゃ……!」
となぜか感動している爺さんを横目にようやく固まった状態から戻った俺はつい叫んでしまった。
『誰だこの爺さん!?』
俺の叫びは爺さんに聞こえず、そのまま持ち上げられて家に連れて帰られた。あ、俺の宇宙船………
1ヶ月後
「ほ〜ら、あんよが上手」
お婆さんの拍手と共に覚束ない足取りで立つ練習をする赤子が一人。
『くっそ〜!全然体が思うように動かない!』
内心キレ散らかしているこの赤子は、事故で遥か昔にタイムスリップしてしまった月人である。
老夫婦は赤子の性別を女性だと勘違いして女児の服を着せていた。
実際は
そんな事情を知る由もないお婆さんは、「まぁ、可愛いこと」と目を細めながら、輝夜を綺麗な小袖で着飾っていた。
あう、とまともに声を出せず、力のない月人はされるがままだった。
『保護してくれたのはありがたいけど、女の子の服を着せてくるのはやめてほしいなぁ……』
ぺたん、と歩くことを諦めて座り込んだ月人は、身に纏った衣服を見る。
仕方ないと分かってはいるものの、納得するかは別である。
「それにしてもこの子、もうこんなに大きくなりましたよ……ほんの一ヶ月前までは手に収まるほど小さかったのに。ねぇ、お爺さん」
「そうじゃな……しかし、儂の稼ぎではこの子を育てきれるかどうか」
一日経つごとに大きくなっていく幼子に、老夫婦はため息を吐いた。彼女を育てる意思は変わりないが、お爺さんの収入では、急激に大きくなる幼子を養うのはかなり厳しい。
頭を悩ませる二人の姿を見ていた月人も自身の異端さを理解していた。本来、赤子とは四つん這いで歩くだけでも一年近くかかるものだ。しかし、月人は老夫婦に保護されて一ヶ月で一歳児の体型にまで成長し、立つ練習を始めていた。
体が大きくなるということは、それに応じて服も食事も、何もかも用意し直さなければならない。二人には、それだけの蓄えがない。
『仕方ない……一ヶ月とはいえ、世話になったんだ』
肉体を作った竹の隣へ移しておいた金。 月人はそれら全てを老夫婦へ譲ることに決めた。
月へ帰れば、金など不要になるものだ。どうせなら、この二人のために使ってもらった方がいい。
共に過ごした時間は短いが、老夫婦の人柄は十分に分かっていた。 欲深さとは無縁で、人が困っていれば放っておけない。そんな、お人好しで真面目な二人だ。金を手に入れたところで散財せずに、上手いこと使ってくれるだろう。
『……よし』
───────
翁と媼は成長速度が異常な幼子とのこれから先の未来を話し合っていた。幼子は竹から生まれた子であり、実の子ではない。しかし、二人は幼子を実の娘のように可愛がっていた。
だが、そんな二人に立ち塞がるどうしようもできない問題があった。それは、寿命だった。収入は翁の稼ぎだけが頼りだったが、彼が寿命を迎えてしまえば、収入がなくなり、媼と幼子が路頭に迷うことになる。
村人達に見てもらうことを考えたが、どこの家も似たような経済状況で自分の子で手一杯。そんな村の連中に幼子を任せたらどのような環境に置かれるのか、想像する必要なく分かる。
老夫婦はため息を吐いて、頭を悩ませていると「あう〜」と横から幼子の声が聞こえた。視線を向けると、幼子が翁へ向かって両手を伸ばしていた。
「おお、抱っこしてほしいのか」
笑みが自然と浮かんだ翁は、両手で幼子を優しく抱き上げた。幼子は「うう〜」と喚きながら、竹林の方角へ腕を伸ばす。手をブンブンと振り、竹林の方へと何度も腕を伸ばすので、翁は幼子が何かを伝えようとしていることに気付いた。
「あっちに行きたいのか?」
「あう」
翁は不思議そうに首を傾げながらも、幼子が指差す方へ歩いていく。
やがて、幼子を見つけた竹の近くまで来た、その時だった。
「……む?」
一本の竹が、淡い黄金色の光を放っていた。
「なんじゃ、この竹は……」
翁は腰の鉈を抜き、慎重に竹を切り倒す。
真っ二つになった竹の中から、音を立てて転がり落ちてきたのは──黄金色に輝く、金の延べ棒だった。
「なっ……!」
一本だけではない。 二本、三本と次々と金塊が地面へ転がり落ちていく。
「そ、そんな馬鹿な……」
翁は震える手で金を拾い上げた。 間違いない。本物の金だ。
「ば…婆さんや!!」
驚きと嬉しさの混じった声で、幼子と金を持った翁は大慌てで家へ駆け出した。腕の中にいる幼子は振動で体が大きく揺れるが、彼にそんなことを気にする余裕などなかった。
「どうしたのですか?お爺さん」
夕餉の準備を始めていた媼が困惑した様子でお爺さんを迎えると、手には金の延べ棒があり、より一層困惑した顔になる。
「幼子の行きたい場所に連れて行ったら、金が入った竹を見つけたんじゃ!」
あまりにも嘘のような内容だったが、証拠に手に金があることから媼は事実だと認識した。
「本当ですか!?それならば……」
「ああ……これで金の心配はなくなった」
懸念事項が消えたことに、二人の顔には安堵が宿っていた。
子宝に恵まれなかった老夫婦がついに手に入れた
先の短い彼等が唯一心残りだったのは、なにも残せないまま彼女を置いて行ってしまうこと。だが、これだけの金があれば、自分達が彼女を置いて死んでしまっても一人で生きていける。
腕の中でキャッキャッと笑う幼子を見て、老夫婦は自然と笑みを浮かべる。
どうか、この子が健やかに育ちますように。
二人は、ただ静かにそう願った。
地球産月人(無性)
一歩間違えればかぐやと同じルートに行っていたかもしれない月人。竹の中に収まる大きさの肉体を作るために、人間の様々な機能を次から次へと外した結果、老夫婦に♀だと勘違いされてしまう。
かぐや
詩人と移動しつつ、地球産月人を捜索中。
翁&媼
竹の中から幼児を見つけて育児中。
育つスピードが異常で戸惑っているが、竹から生まれた子だからそんなもんかと納得している。
金の延べ棒を手に入れたお陰で今後の心配がなくなり、安定した生活を送れるようになった。