30歳まで童貞を守ったら妖精が見えるようになった〜チートスキル「魔法少女」で美少女TS無双〜 作:へべれけ斉藤
30歳まで純潔を守ったことで秘められた「キラメキ」が開花し、身長40cmの妖精「リャナンシー」が見えるようになった佐藤健二。
無邪気に部屋を飛び回るリャナンシーの優しさに癒やされつつも、彼女がノーパンであることにヤキモキしながら交流を深める。
リャナンシーが寝静まった深夜、健二はネット掲示板に「30歳まで童貞を守ったら妖精が見える様になった」というスレッドを投稿する。
彼女との出会いがもたらす波乱の運命へと足を踏み入れていく。
第5話 私と契約して魔法少女になってよ
翌朝、俺は顔面を襲う猛烈な息苦しさで目を覚ました。鼻と口を完全に圧迫する、ズシリとした謎の重み。
「んぐ……っ!?い、息が……!」
「もうっ、起きてよ健二くん!もうお昼だよー!」
目の前――というか俺の鼻の真上で、リャナンシーが満面の笑みを浮かべて座っていた。顔面騎乗位である。
身長四十センチ。いわゆる四分の一スケール。フィギュア感覚で油断していると、この確かな生身の質量に鼻骨をやられる。小さくても、ちゃんと柔らかく肉感のある体なのだ。
「お、降りろ……!窒息死させる気か……!」
「えー?冷たいなぁ。せっかく可愛く起こしてあげたのに!」
しぶしぶ俺の顔を跨いで降りるリャナンシー。
昨日に引き続きΨ様だけではなく*様のご尊顔を拝見させていただき恐縮にございます。
ふわりと浮き上がったリャナンシーは、部屋の中をくるくると旋回した。
「――健二、起きてるの?朝ごはんできてるわよ」
階下から母親の声が響く。俺は心臓が口から飛び出るかと思った。
昼過ぎなのに朝ごはんとはこれいかに。
「お、起きてる!今行く!」
慌てて枕元のリャナンシーを抱え込んで隠そうとすると、彼女はぷくっと頬を膨らませて呆れ顔を向けた。
「もう、大丈夫だってば。昨日言ったでしょ?私は見える人にしか見えないんだから。健二くんのお母さんには、私の姿も声も届かないよ」
「……ほ、本当か?」
「本当本当!私を誰だと思ってるの?」
胸を張る仕草があまりに堂々としていたので、俺は半信半疑のまま部屋を出て階段を降りた。
食卓で味噌汁をすすりながら、こっそり視線だけを上に向ける。宙に浮いたリャナンシーが、俺の頭の真上で優雅に足をぶらぶらさせていた。母親はまったく気づく様子もなく、テレビのニュースを見つめている。
「……健二、どうしたの?さっきから上ばかり見て」
「な、なんでもない!天井裏に何かいるかと思って!」
「えっ、ゴキブリかしら!?やだ、バルサン焚かなきゃ……」
焦る母親の頭上で、リャナンシーが声を出さずに楽しそうに笑っていた。
……この妖精、案外いたずらっ子である。
*
朝食を済ませて自室に戻ると、リャナンシーは待ってましたと言わんばかりに、机の上で腕を組んで佇んでいた。
「さて!ごはんも済んだことだし、本題に入ろうか、健二くん!」
「本題……」
俺は淹れたてのコーヒーを一口含み、机の前に座り込む。
「昨日も言ったでしょ?健二くんには、『キラメキ』の才能があるの。その才能が昨日の夜にどんな力として開花したのか、私がちゃーんと鑑定してあげるね!」
「鑑定……?お前にそんなことができるのか?」
「ふふん、これでも妖精だからね!人の魂の中に眠る特別な可能性を読み取るなんてお手の物だよ。さあ、じっとしててね!」
パチン、と小さな指が鳴った。
次の瞬間、リャナンシーの瞳が淡いピンク色に輝き出す。朝日を受けた桜貝のような、神秘的な光だった。その視線が、俺の全身を頭のてっぺんからつま先まで、じっくりと舐めるように往復する。
なんだか素っ裸を覗き込まれているような気恥ずかしさを覚え、俺は思わず部屋着のだらしない腹回りを隠した。
「うーんと……あ、あったあった!健二くんの固有スキル!……えっ、名前は……あはは、やったね!健二くんの大好きな、『魔法少女』だって!」
「なん……だと……?」
「うーん、名前はストレートだけど、中身はとんでもないよ!?えーっとね、能力の詳細は――『魂の姿の完全再現』『身体能力の向上』『専用装備の具現化』……うわぁ。うわぁ……」
リャナンシーが驚きで目を丸くしている。
「な、なんだよ。具体的にはどうなるんだ?」
「このスキルを発動すれば、健二くんの『キラメキ』のかたちに最適化した『理想の美少女』に、完全変身できちゃうの!見た目も、声も、体も、ぜーんぶ女の子!しかもステッキや衣装まで勝手に付いてくるんだよ!」
「な……ッ!?」
俺は思わず立ち上がり、椅子が大きくギシッと悲鳴を上げた。
美少女に変身?女の子になれる……!?
キモオタ、無職、体重百キロ超、子供部屋おじさんの俺が?
自分の醜い容姿に強いコンプレックスを抱き、二次元の可愛い美少女たちに救いを求めて生きてきたこの俺が、自らの力で理想の美少女になれるというのか!?
脳内で一瞬にして歓喜のファンファーレが鳴り響いた。TS変身。男なら一度は夢見る究極のロマン。うれしい。正直めちゃくちゃ魅力的だ。
だが、次の瞬間、冷や水を取り澄ましたような現実的な疑念が頭をもたげた。
「……おいおい、待て待て。そんなウマい話があるわけないだろ。キモオタで、陰キャで、デブで、ニートの俺だぞ?そんな棚ボタみたいなチートスキルが、俺なんかに宿るわけが……」
「本当だってば!健二くんの『キラメキ』は本物だもん!私が鑑定したんだから間違いないよ!」
胸を張って断言するリャナンシー。その自信満々な笑顔に、俺の胸は高鳴りを抑えきれなくなっていく。
「マジかよ……俺、本当に女の子になれるのか……?」
「うん!というわけで健二くん、魔法少女になってよ!私という可愛くて頼りになる相棒もいるんだしさ、このスキルを使って、二人で一緒に楽しいこといっぱいしようよ!」
リャナンシーはぱっと表情を輝かせ、胸の前で小さな手を握りしめて提案してきた。
魔法少女とそのマスコット、最高のパートナーとして仲良くなろうとする、どこまでも無邪気で魅力的なお誘い。
「楽しむ、か……」
想像するだけで鼻血が出そうだ。
だが、テンションが最高潮に達したところで、俺の脳裏にふと二つの巨大な壁が立ちふさがった。
一つは、現実の恐怖。
「いや……でも待てよ。魔法少女ってことは、あのニュースに出てくるような『怪人』と戦ったりするのか……?怪人とか普通に怖すぎるんだが!?あんなバケモノと殴り合うなんて絶対無理だぞ!?」
「えー?最初は部屋の中で変身して遊ぶだけでもいいんだよ?」
「それに……もう一つ、もっと重大な問題がある」
俺は腕を組み、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「もし俺が魔法少女として外に出たら……推しのチェリーブロッサムちゃんたちと遭遇したり、言葉を交わしたりする可能性があるってことだろ……?」
「えっ、それってすごく嬉しいことじゃないの?」
「愚か者め!」
俺は熱弁をふるった。
「推しには近づかない!遠くから見守るのがプロのオタクとしての鉄の掟であり尊厳なんだよ!本当は……本当は生で会いたいしお喋りだってしてみたいよ!?でも、オタクの我欲で推しの聖域を汚すわけにはいかんのだ!」
「ええー……健二くん、変なところで拘りが強いね……」
リャナンシーは呆れたように首を傾げたが、すぐににっかりと笑って俺の肩にふわりと降り立った。
「ふふっ、でも戦わなくても、推しに近づかなくてもいいよ!まずはこの部屋の中で、健二くんがどれだけ可愛い魔法少女になれるか試してみようよ!私、健二くんの可愛い姿、すっごく見たいな!」
「う……部屋の中で試すだけ、か」
小さな相棒の甘い囁き。
怪人と戦う必要もなく、推しの邪魔にもならず、ただ自室で理想の美少女に変身するだけ。
断る理由が、どこにもなかった。
「……よし。一回だけ、部屋の中で試してみるか!」
「やったぁ!健二くん大好き!」
リャナンシーは飛び上がり、俺の頬にすりすりと顔を寄せてきた。日差しを浴びた花畑のような、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
俺は鼻の下を伸ばしながら、その小さな体を指先で撫でてやった。
(ふふ……マスコットと相棒になってドタバタ日常を送る、ベタなファンタジー展開だな!)
「じゃあ健二くん、準備はいい?次はついに、君の魂の花を咲かせる番だよ!」
無邪気に笑うリャナンシーの手を取りながら、俺はまだ見ぬ自分の変身姿に、胸を躍らせていたのだった。