30歳まで童貞を守ったら妖精が見えるようになった〜チートスキル「魔法少女」で美少女TS無双〜 作:へべれけ斉藤
リャナンシーに急かされ半信半疑で「変身」と念じた健二は白黒基調のゴスロリドレスを着た黒髪パッツンの美少女「ブラックロータス」へ変身を果たす。
リャナンシーから泥中に咲く黒蓮になぞらえて三十年間の人生と『キラメキ』を肯定され、健二は胸を熱くする。
しかし鏡で自分の姿を凝視した健二は、変身後の姿が「己の性癖ど真ん中」の美少女である事実に気づいて絶叫する。
下ネタ注意!
第7話 そんな事よりオ〇ニーだ!
変身から三十後。俺は未だに、部屋の隅にある姿見の前から一歩も動けずにいた。
「……可愛い。いや、ガチで可愛いな俺」
「健二くーん?さっきから同じポーズで固まってるよー?」
部屋の中をパタパタと飛び回っていたリャナンシーが、呆れたような声を上げて俺の肩に降り立つ。だが、今の俺には彼女の声を右から左へ聞き流すだけの余裕しかなかった。
鏡の中に映る黒髪パッツンの美少女が、俺の動きに完全に連動して、じっとこちらを見つめ返してくる。
艶やかな黒髪に一房だけ混じる鮮烈な白メッシュ。憂いを帯びた大きな瞳と、小さな唇。どこをどう切り取っても、俺が三次元にも二次元にも求めていた「理想の美少女」そのものだった。
「見てくれよリャナンシー、この角度!ちょっと顎を引いたときのこの儚げな表情!俺の癖に刺さりすぎて心が痛いんだが!?」
「うん、うん。健二くんの癖が全開だもんね」
「そしてこの前髪パッツンロング!ゴスロリのケープと蓮の花びらスカート!誰だこんな完璧なデザインを弾き出した神クリエイターは!」
「健二くんの魂だよ」
「俺か!俺の魂は天才だな!?」
自画自賛の無限ループが止まらない。
今まで二次元の推しを画面越しに愛でてきた俺にとって、「手の届かない存在」こそが至高だった。どれだけ好きでも触れられない、会話もできない、だからこそ尊い――それがオタクの矜持だったはずだ。
だが、今目の前にいるのは、俺の性癖を100%凝縮した最高峰の美少女。そしてその正体は、自分自身。
推しが自分という、自己完結型の極限状態に俺の脳内ヒューズはとっくに焼き切れていた。
「あ、そうだ。これ、スマホのカメラで撮ったらどう写るんだ?」
「ふふん、気になる?試してみたら分かるよ!」
俺はデスクの上からスマホを手に取り、内カメラを起動して画面を覗き込んだ。
画面には、鏡と同じく完璧な黒髪ゴスロリ美少女が映っている。試しにパシャリと一枚撮影してみる。
「……なるほど。見た目は綺麗に写ってるのに、なんというか……絶妙な違和感があるな」
「そうそう!それが魔法少女の認識阻害だよ!写真や映像を通しても、他人が見ると『美少女がいる』とは分かっても、顔のパーツにどこか違和感を覚えて『元が誰なのか』と結びつけられなくなるの」
「テレビのニュースやネットの画像でも見かけるアレか。顔はハッキリ見えているはずなのに、誰なのか特定しようとすると脳に引っかかりみたいな違和感が残るっていう……。」
「大正解!健二くん本人の『キラメキ』で変身してるから、しっかり意識して見れば健二くんにはそのままの可愛い姿がちゃんと見えるんだよー!」
「どれどれ……、おっ、本当だ!オタクとしては助かる仕様だな。おかげで自分用としては完璧な写真だ」
素晴らしい。俺はスマホを掲げ、怒涛の自撮りラッシュを開始した。
少し首を傾げた上目遣い、髪を一房耳にかける仕草、ステッキを構えたポーズ。どれを撮っても、画面の中には破壊力抜群の美少女が収められていく。
「ふ、ふふ……ふははは!神ショットしか撮れん!」
「健二くん、顔が思いっきりデレデレになってるよー」
「いいんだよ!推しが可愛いんだから仕方ないだろ!」
自撮りをするたびにオタク特有の熱量がぐつぐつと煮えたぎる。この構図、この光の当たり方、完全にガチ勢のオタ活だった。推しが自分自身であることを除けば。
*
「よし、決めた。今日はこの姿のまま過ごす!」
「えっ、一日中?」
「せっかくのチートスキルなんだ、身体の使い方や可動域を研究しておくに越したことはない!」
俺は部屋の中を優雅に歩いてみた。ふわりと揺れる黒蓮のスカート。三桁あったはずの体重は完全に消え去り、驚くほど身軽だ。
途中、デスクの棚に置かれたチェリーブロッサムのフィギュアと目が合った。俺はそっとその頭を指先で撫でる。
「……チェリーブロッサムちゃん」
「どうしたの、健二くん?」
「いや。これで俺も、あの子たちと同じ『魔法少女』になったわけだろ」
俺はフィギュアを見つめたまま、静かに、しかし断固とした声で言った。
「だが、俺はあの子たちに近づかない。変身できるようになったからといって、ファンが推しの現場に上がり込んでいい理由にはならんのだ。俺のオタクとしての矜持がそれを許さない!」
「健二くん……」
「だからこの力は、誰にも見せず、自分の部屋の中だけで完結させる!」
真顔で宣言する俺を見て、リャナンシーはどこか感心したように目を細めた。
「ふふっ……健二くんって、本当に変なところで紳士だよね」
*
夕方になり、リャナンシーから変身解除の方法を教わった。
「心の中で『解除』って強く念じれば元に戻れるよ」
「よし……解除!」
ポンッ、と軽い音とともに光が収まる。
次の瞬間、全身を襲ったのは泥のような重圧感だった。百キロオーバーの巨体、無精髭、ヨレヨレのTシャツ、突き出た腹。
「…………」
「ど、どうしたの健二くん?」
「……落差で精神が死にそうだ」
「あ、あはは……」
現実の己の姿を客観視した瞬間、猛烈な拒絶反応が脳を駆け巡った。俺は間髪入れずに叫んだ。
「――変身ッ!!」
一瞬で包まれる光。鏡の中に舞い戻る黒髪ゴスロリ美少女。
「ふぅ……あー、落ち着く。やっぱりこっちの姿の方が精神衛生上圧倒的にいい」
「自分の元々の体に拒絶反応起こさないでよ!?」
その後、小腹が減ったので変身を解除してコンビニへ向かい、カップ麺を買って帰宅。即座に再変身し、ゴスロリ衣装の美少女姿でズルズルとカップ麺をすする……という極めてシュールな中食を済ませた。
*
夜。遮光カーテンを閉め切った部屋で、俺は変身した姿のままベッドに横たわっていた。
ティッシュ箱の寝床から、リャナンシーが眠たそうに顔を出す。
「ねえ健二くん、夜になっても変身したままなの?」
「ああ。この姿の素晴らしさを全身で噛み締めているところだ」
「ふーん。ねえ、人間の人って、寝る前に何かすることあるの?私、まだよく分からなくて」
無邪気な瞳で尋ねてくる小さな妖精。俺はゴクリと生唾を飲み込み、平静を装って咳払いをした。
「え、ええと……そのだな。これから俺は『自己啓発活動』を行うのだ」
「じこけいはつ……?」
「そうだ。己の魂を高め、内なる美と向き合うための過酷なトレーニングだ。非常に集中を要するため、静かにしていてくれると助かる」
「そうなんだ!健二くんってすごく勉強熱心なんだね!じゃあ私、邪魔しないように先に寝てるね。おやすみー!」
「あ、ああ……おやすみ、リャナンシー君」
リャナンシーがすやすやと寝息を立て始めたのを確認し、俺は静かに布団を被った。
薄暗い布団の中。
鏡で見たあの完璧な黒髪美少女の姿、スマホに保存された無数の神ショット、そして手元に伝わる華奢で柔らかい女の子の体感。
(俺が……俺のストライクゾーンど真ん中すぎる……っ!!)
脳内で暴走する欲望のエネルギー。
こうして俺は、生まれて初めて「魔法少女の姿」で過酷な自己啓発活動に励んだのであった。
ただ一言、言えるのは、女の体でする自己啓発活動は素晴らしく。翌朝、体力と全身の筋肉痛と引き換えに、俺の魂とテクニックは間違いなく次のステージへと進化を遂げていた、ということだけである。