◆午後の旅立ち、次なる目的地へ!
トキワシティのポケモンセンター。
「よし、みんな回復できたな!」
昼食を終えたシンヤは、カウンターで返却されたモンスターボールを確認しながら、満足そうに頷いた。
ヒトカゲ、ポッポ、コイキング、ニドラン♂、マンキー。
現在の手持ちは五匹。
そのうち、ポッポは22番道路で六連戦をこなしたばかりだった。ポケモンセンターでしっかり休ませたおかげで、先ほどまで見られた疲労もだいぶ和らいでいる。
「ポッポー!」
ポッポが元気よく鳴き、シンヤの肩の近くを飛び回る。
「おっ、もう元気いっぱいだな。でも、無理はするなよ。野生の頃の自分と今日の自分は違うんだからな」
「ポッポ!」
「いや、わかってるのか……?」
シンヤは苦笑した。
その足元ではヒトカゲが尻尾の炎を揺らし、コイキングは水の入った携帯用容器の中で元気に跳ねている。
ニドラン♂とマンキーも、外の様子が気になるのか、落ち着かない様子だった。
「さて、午後はどうするかな……」
シンヤは地図を広げた。
マサラタウンを出発し、トキワシティへ到着。22番道路ではポッポの実戦経験を積みながら、新たに六匹のポケモンと出会った。
まだ旅の初日だというのに、なかなか濃密な時間を過ごしている。
だが、旅の目的を忘れてはいけない。ポケモンリーグへの挑戦。
そのためには、ジム戦を重ねてバッジを集める必要がある。
「せっかくトキワに来たんだ。まずはジムを見に行こうか」
「ヒトカゲ!」
「ポッポー!」
二匹が元気よく返事をする。
「よし。それじゃ、トキワジムへ出発だ!」
シンヤは荷物を整え、仲間たちとポケモンセンターを後にした。
◆トキワジム――あれ、閉まってる?
しばらく歩くと、目的の建物が見えてきた。
トキワジム。
ゲームで何度も訪れた場所であり、カントー地方のジム巡りをするうえで重要な施設だ。
シンヤは建物を見上げた。
「おお……ここがトキワジムか」
ゲーム画面越しに見ていた場所が、実際に目の前に存在している。
その感動は、何度味わっても薄れそうにない。
建物の造り、入口の門、周囲の景観。細かいところまで、現実の風景として目に入ってくる。
「さて、ジムリーダーはいるかな?」
シンヤは期待を込めて入口へ近づいた。
しかし――。
「…………ん?」
門は閉じていた。
入口の扉も開く気配がない。
建物の中から、人の声やポケモンの鳴き声も聞こえてこなかった。
シンヤは入口の前で立ち止まり、左右を見渡した。
「……あれ?」
もう一度、門を見る。
やはり閉まっている。
「いやいやいや。まさか……」
念のため、入口の近くまで行って確認してみる。
だが、どう見ても営業している様子はなかった。
「……留守?」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
ゲームなら、ジムリーダーが待ち構えていたり、イベントを進めることで挑戦できるようになったりする場所だ。
しかし、ここはゲームの画面ではない。
ジムリーダーにも都合があるし、ジムを運営する人々にも日常がある。
いつでも必ず挑戦できるとは限らないのだ。
「うーん……せっかく来たんだけどなぁ」
シンヤが困ったように頭を掻いていると、近くを歩いていた住民がこちらに気づいた。
「おや? 君、もしかしてトキワジムに挑戦しに来たのかい?」
「はい。これからジム巡りを始めようと思いまして」
「そうかそうか。だけど、残念だったね」
住民は、閉じた門を見ながら説明を始めた。
「トキワジムは、しばらく留守にするそうなんだ。ジムに挑戦したいなら、後日改めて来てくれって話らしいよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。どうやら、ジムの関係者がしばらく外に出ることになったらしくてね」
シンヤは門を見つめたまま、黙り込んだ。
(マジか……。初日にジム戦を見学できるかと思ったんだけどな)
いや、見学どころか、挑戦すらできない。
もっとも、考えてみれば当然の話でもある。
ジムリーダーも常にジムにいるとは限らない。ポケモンの調整や仕事、外部との用事など、ジムを離れる理由はいくらでもあるだろう。
「それで、いつ戻ってくるんですか?」
「詳しい日程までは聞いていないんだ。ジムの門下生たちが案内の看板を用意しているそうだけど、まだ間に合っていないみたいでね」
「看板もですか……」
「急な話だったのかもしれないね。だから、今は入口に何も出ていないんだよ」
シンヤは改めて門を眺めた。
確かに、入口には休業を知らせる看板も、再開予定日を記した掲示もない。
事情を知らなければ、単に誰もいないだけの建物にしか見えなかっただろう。
「なるほど……教えてくださってありがとうございます」
「いやいや。君も旅を始めたばかりだろう? 頑張りなよ」
「はい!」
住民に礼を言い、シンヤはジムから少し離れた場所まで歩いた。
そして、仲間たちを振り返る。
「……というわけで、トキワジムはお預けだ」
「カゲ?」
ヒトカゲが不思議そうに鳴いた。
「簡単に言うと、今日はジム戦ができないってこと。相手がいないんだから、どうしようもないだろ?」
ヒトカゲは門の方を見て、それからシンヤを見上げた。
ポッポも、何となく事情を察したように翼を動かす。
「ポッポー……」
「まあ、仕方ないさ。旅は予定どおりに進むとは限らないからな」
シンヤは肩をすくめた。
(こういうところも、ゲームとは違うんだよな)
ゲームなら、ジムの攻略は物語の進行に合わせて用意されている。
しかし、現実の世界ではそうはいかない。
相手が不在なら、別のことをする。
目的地までの道が通れないなら、別の道を探す。
旅の途中で予定外の出会いがあれば、そちらに目を向けることもある。
それこそが、旅の面白さなのかもしれない。
「よし、気持ちを切り替えよう!」
シンヤは地図を開いた。
次の目的地は、ニビシティ。
その途中には、広大な森が広がっている。
「トキワの森を抜けて、ニビシティを目指そう!」
「ヒトカゲ!」
「ポッポー!」
二匹の声が響く。
コイキングも携帯容器の中で跳ね、マンキーは拳を突き上げた。ニドラン♂も、前へ進もうとするシンヤの足元についてくる。
「お前たち、やる気満々だな。だけど、森に入る前に準備を確認しておこう」
シンヤは荷物を開き、水や食料、ポケモンたちの状態を一つずつ確認した。
森の中では、街中のようにいつでも店や施設が見つかるとは限らない。
野生ポケモンとの遭遇も増えるだろうし、道に迷う可能性だってある。
だからこそ、準備は怠らない。
「水よし、食料よし、救急用品よし。ポケモンたちの状態も問題なし……っと」
確認を終え、シンヤはバッグを背負い直した。
「それじゃ、出発だ!」
こうしてシンヤと五匹の仲間たちは、トキワシティを後にする。
目指すは、トキワの森。
そして、その先にあるニビシティ。
まだ知らない野生ポケモンとの出会い、新しい環境での経験、そしてこれから待ち受けるジム戦。
そのすべてが、シンヤの旅を形作っていく。
森の木々が遠くに見え始めたところで、シンヤは足を止め、仲間たちに笑いかけた。
「さあ、ここからが本番だ。みんな、楽しんでいこうぜ!」
「ヒトカゲーッ!」
「ポッポー!」
「コココココッ!」
「ニッド!」
「ウッキー!」
元気な鳴き声を背に、シンヤはトキワの森へと歩き出した。
今回は特に更新するものはなし。