更にシゲルside、リーフsideも。
◆闘魂ジムへの連絡
セキエイリーグ第二回戦が終わった、その日の夜。
ポケモンセンターの一室で、サトシは通信機を手にしていた。
画面に映っているのは、各地の格闘トレーナーたちからも一目置かれている人物――闘魂ジムを経営する格闘家、アノキだった。
「おお、サトシ君か! 久しぶりだな!」
「アノキさん! お久しぶりです!」
画面越しに、アノキが豪快に笑う。
「それで、今日はどうしたんだ? まさか、また格闘ポケモンの修行をしたくなったのか?」
「いえ、実は……今日のリーグで、すごいポケモンを見たんです」
サトシは、シンヤが使ったコノヨザルのことを話し始めた。
オコリザルの進化系であること。
圧倒的な力でウインディとニョロボンを倒し、最後にはメガシンカしたフシギバナまで打ち破ったこと。
そして、最後に放った技――ふんどのこぶし。
アノキは最初こそ興味深そうに頷いていたが、話が進むにつれて、その表情は格闘家としての真剣なものに変わっていった。
「なるほど……オコリザルの進化系か」
「はい! あんなポケモンがいるなんて、オレ、全然知りませんでした!」
「いや、私も実物を見たことはない。だが、話を聞く限り、非常に興味深いポケモンだな」
アノキは顎に手を当て、考え込んだ。
「オコリザルというポケモンは、もともと怒りの感情を爆発的な力へ変える性質がある。格闘技の訓練でも、感情に振り回されず、怒りを攻撃の集中力へ変えることは重要だからな」
「はい」
「その進化系が、怒りのエネルギーをさらに限界まで高め、何らかの要因によって、その力を身にまとった姿になった……そう考えることもできる」
アノキは腕を組んだ。
「そして、見た目の変化や、死者の魂を思わせるような雰囲気。そこから考えると、ゴーストタイプが複合している可能性もあるな」
「ゴーストタイプ……!」
サトシは、試合の映像を思い出した。
あの荒々しい姿。
怒りを力に変え、受けた痛みさえも拳に乗せるような戦い方。
そして、最後の一撃。
「ふんどのこぶし……」
サトシが呟く。
「もしかしたら、あの技が何か関係してるのかもしれませんね」
「そうだな。技の性質と進化の関係は、まだ分からないことも多い。だが、もしオコリザルが同じ技を習得できるのなら、実戦の中で何かが見えてくるかもしれない」
アノキはそこで、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば……サトシ君。君のオコリザルは元気にしているぞ」
「えっ!?」
その時だった。
通信画面の奥から、見慣れた姿がひょこりと顔を出した。
「オコリザル!?」
サトシが椅子から立ち上がる。
オコリザルは画面越しにサトシの顔を見た瞬間、目を見開いた。
そして――。
「ウキィィィィッ!!」
嬉しそうな鳴き声を上げ、画面へと駆け寄ってきた。
「オコリザル! 久しぶりだな!」
サトシは画面に手を当てる。
オコリザルも、まるでその手に触れようとするかのように、画面へ拳を押しつけていた。
離れていた時間は、決して短くなかった。
それでも、互いのことを忘れていたわけではない。
サトシの顔には、自然と笑顔が浮かんでいた。
◆アノキの判断
「ははは! どうやら、ずいぶん会いたかったようだな」
アノキが笑う。
「実はちょうど、オコリザルの格闘技術がどこまで向上したのか、実戦形式で試してみたいと思っていたところだったんだ」
「本当ですか!?」
「ああ。基礎的な体力や技の精度は、かなり伸びている。だが、今の実力を測るには、やはり実戦経験が必要だ」
アノキはオコリザルの肩を軽く叩いた。
「そこでだ。セキエイリーグが終わるまでの間、オコリザルを君に預けようと思う」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろんだ。ただし、本人が望むなら、だがな」
アノキがオコリザルを見る。
オコリザルはすぐさま拳を握り、力強く前へ突き出した。
「オコォッ!」
その姿に、アノキは満足そうに頷いた。
「よし、決まりだな。サトシ君、リーグの間、オコリザルの力を試してやってくれ。私としても、どれだけ成長したのかを知りたいからな」
「ありがとうございます、アノキさん!」
サトシは深々と頭を下げた。
「オコリザルを預かってくれて、本当にありがとうございます! オレ、こいつと一緒に頑張ります!」
「なに、礼には及ばん。格闘技を磨く機会は、何も道場の中だけにあるわけではないからな」
アノキは笑顔で続けた。
「それに、君から聞いたコノヨザルというポケモンの話も、私にとってはいい刺激になった。オコリザルの可能性を、改めて考え直すきっかけになりそうだ」
サトシは再び頷いた。
画面の向こうでは、オコリザルが早くこちらへ行きたいと言わんばかりに、落ち着きなく拳を動かしている。
「それでは、準備ができ次第、オコリザルをそちらへ送ろう」
「はい! 待ってます!」
通信が切れる直前まで、サトシはオコリザルへ手を振り続けていた。
その顔は、リーグの初戦を突破した時以上に明るかった。
◆格闘家の直感
通信を終えたアノキは、オコリザルと向き合った。
「さて……お前も、久しぶりにサトシ君と戦えるのが楽しみなんだな」
オコリザルは拳を鳴らして応える。
アノキはその様子を見ながら、先ほどの話を改めて頭の中で整理した。
オコリザルの進化系、コノヨザル。
怒りのエネルギーを高め、痛みや憤怒を拳へ変える技、ふんどのこぶし。
そして、ゴーストタイプを思わせる外見。
「もし、私の推測が正しければ……」
アノキは目を細めた。
「怒りという感情を、単なる闘争心の範囲からさらに押し広げた存在なのかもしれんな。肉体だけでなく、魂に近い領域にまで、その力が及んでいるのかもしれない」
オコリザルは、じっとアノキを見つめていた。
「もちろん、実際に見なければ分からないことも多い。だが、サトシ君が言うには、あのコノヨザルは、戦いの中で受けた痛みや怒りを技に乗せていたそうだ」
アノキはオコリザルの拳を見た。
「お前にも、怒りを力に変える才能がある。だが、それだけで同じ進化を遂げるとは限らない。ポケモンには、それぞれの歩みがあるからな」
オコリザルは力強く拳を握る。
アノキは満足そうに頷いた。
「まずは、今のお前ができることを極めよう。進化はその先にあるかもしれないし、別の道があるのかもしれない。焦る必要はない」
そして、彼はニヤリと笑った。
「……しかし、もし本当にオコリザルの進化系がゴーストタイプを持っているのなら、これは興味深い研究になりそうだ」
後日、コノヨザルが実際にかくとう・ゴーストタイプであると知ったアノキは、得意げに胸を張ったという。
「やはり私の見立ては正しかったな!」
「もう!調子に乗らないのお父さん!」
その話を聞いた者がどう反応したかは、また別の話である。
◆再会、そして再びの相棒へ
数日後。
サトシは研究所へ連絡を入れ、手持ちの入れ替えを行っていた。
キングラーを一旦オーキド研究所へ戻し、アノキから送られてきたオコリザルを受け取る。
転送装置が作動し、モンスターボールがサトシの手元へ届いた。
「よし……!」
サトシはボールを掲げる。
「出てこい、オコリザル!」
光が弾け、懐かしい姿が目の前に現れた。
「ウキィィィッ!」
オコリザルはサトシを見るなり、拳を構えた。
「えっ!? お、おい、ちょっと待てって!」
いきなりスパーリングの構えを取られ、サトシは慌てて両手を上げた。
しかし、オコリザルは攻撃してきたわけではない。
軽やかなステップで前後に動き、拳を突き出し、素早く引き戻す。
以前よりも動きが滑らかだった。
無駄な力が入っておらず、足運びにも安定感がある。
攻撃の軌道も鋭く、拳を繰り出した後の隙が小さい。
「おぉ! 無駄な動きがない!」
タケシが驚きの声を上げた。
「本当だ……。前よりずっと動きが洗練されてる!」
カスミも目を丸くする。
オコリザルは一通りの動きを見せると、サトシの前へ戻ってきた。
その目は、はっきりと語っていた。
――さあ、次はお前と戦いたい。
サトシは笑った。
「ははっ! 分かったよ。でも、まずは挨拶だろ?」
サトシが手を伸ばす。
オコリザルは一瞬だけ首を傾げ、それからサトシへ抱きつくように飛び込んだ。
「うわっ!? オコリザル!」
二人は勢いよく抱き合い、サトシは懐かしい感触に笑顔を浮かべた。
「久しぶりだな! 会いたかったぜ!」
「ウキィィッ!」
オコリザルも嬉しそうに声を上げる。
しばらくして、サトシはオコリザルから少しだけ離れ、真剣な表情で向き合った。
「なあ、オコリザル」
オコリザルが顔を上げる。
「今、オレはポケモンリーグに出てるんだ。まだまだ強い相手がいるし、これからも厳しい戦いが続くと思う」
サトシは拳を握った。
「だから……リーグの間、オレに力を貸してくれるか?」
オコリザルは一瞬だけ目を見開いた。
そして、満面の笑みを浮かべるように拳を突き出した。
「ウキイィッ!」
サトシも拳を突き出し、互いの拳を軽くぶつけ合わせる。
「よし! また一緒に頑張ろうぜ、オコリザル!」
「オコォッ!」
再び、二人の心が一つになった。
リーグの途中ではあるが、サトシの手持ちに、かつての仲間が戻ってきた。
キングラーは研究所で休息と訓練を続ける。
そしてオコリザルは、新たな戦いの舞台へと戻ってきた。
シンヤのコノヨザルが見せた進化の可能性。
それはサトシに、かつて別れた仲間の成長を確かめたいという思いを呼び起こしたのだった。
◆シゲルとオーキド博士
同じ頃、ポケモンセンターの一室。
シゲルは祖父であるオーキド博士と向き合っていた。
「おじい様。僕にも、あのコノヨザルのことを黙っていましたね?」
シゲルは少しだけ不満げに言った。
オーキド博士は、いつもの調子で笑う。
「当然じゃろ。いつか対戦するやもしれんおぬしらに、手の内を教えることなどせんわい」
「ええ。だからこそ、僕も彼と当たる時のワクワク感がたまりませんね」
シゲルの目は輝いていた。
彼はトレーナーであると同時に、研究者を目指す者でもある。
未知のポケモン。
まだ十分に解明されていない進化。
怒りを力に変える技。
どれもが、研究者の卵であるシゲルの知的好奇心を刺激していた。
「コノヨザルの進化条件は何なのか。ふんどのこぶしという技は、どのような仕組みで威力を増すのか……。考え始めると、気になることばかりです」
「フォッフォッフォ。研究者の血が騒ぐというわけじゃな」
「ええ。でも、僕はトレーナーでもありますから。もし彼と戦うことになったら、研究はその後です」
シゲルは笑みを浮かべた。
「まずは全力で勝ちにいきますよ」
その時、背後から黄色い声が響いた。
「いいぞいいぞシゲル! 頑張れ頑張れシゲル♪」
振り返ると、シゲルの応援団の女性陣が、いつものように声をそろえて応援していた。
シゲルは慣れた様子で軽く手を振る。
一方、オーキド博士は呆れたようにため息をついた。
「やれやれ。専用の応援団もよいが、足元をすくわれるんじゃないぞ?」
「……ええ」
シゲルの表情が、少しだけ真剣になった。
「サトシとの研究所のバトル。あれは、僕がサトシには負けないだろうと思い込んでいたことが招いた結果ですから」
◆半分に割れたモンスターボール
シゲルの脳裏に、研究所でサトシと戦った時の記憶がよみがえる。
あの時、自分はサトシを甘く見ていた。
経験も知識も自分の方が上だと思っていた。
だからこそ、サトシのポケモンが見せた予想外の動きに、対応が遅れた。
そして、サトシは勝った。
あの敗北は、シゲルにとって単なる一敗ではなかった。
自分が相手を見誤っていたことを認めざるを得なかったのだ。
しかし、サトシとの因縁は、もっと幼い頃から始まっていた。
まだ二人がポケモントレーナーになる前。
ある日、二人は川で釣り対決をしていた。
どちらが先にポケモンを釣り上げるか。
そんな、子供らしい勝負だった。
ところが、二人はまったく同じタイミングで、一つのモンスターボールを釣り上げてしまった。
「オレが先に釣ったんだ!」
「何を言っている! 僕の方が先だ!」
互いに譲らず、二人はモンスターボールを引っ張り合った。
そして――。
ぱきん。
モンスターボールは、二人の力に耐えきれず、真っ二つに割れてしまった。
「……え?」
二人は、手元に残った破片を見つめた。
結局、どちらが先に釣ったのかは分からず、勝負は決着がつかなかった。
サトシはあっさりと笑った。
「なんだよ、じゃあ引き分けだな!」
だが、シゲルは納得できなかった。
「引き分けだと!? そんなわけないだろう!」
「でも、どっちが先か分かんないじゃん!」
「くっ……!」
その日以来、シゲルはモンスターボールの破片を半分ずつ持ち、サトシをライバルとして意識するようになった。
最初は、ただ勝ち負けにこだわっていただけだったのかもしれない。
だが、いつしかサトシは、自分にとって簡単には追い越せない存在になっていた。
シゲルは今も、その破片を大切に持っている。
指先でそっと確かめると、あの日の悔しさと、サトシへの対抗心がよみがえった。
「サトシ……」
シゲルは窓の外を見つめる。
「僕らに当たるまで、負けたら許さないぞ」
それは、ライバルに向けた挑発であると同時に、サトシの実力を認めているからこその言葉だった。
シゲルはまだ知らない。
その頃、サトシがオコリザルと再会し、再び共に戦う約束を交わしていたことを。
もし知ったなら、きっと驚きながらも、ますますサトシとの対戦を楽しみにしただろう。
◆リーフと母ブルー
さらに同じ頃。
リーフは、母親とともに過ごしていた。
「いやぁ、さすがお母さん自慢の娘ね! 危なげなく第二回戦も突破!」
そう言いながら、リーフの母親―――ブルーは娘の髪を優しく撫でた。
リーフは顔を赤くする。
「もう、お母さん……。まだ第二回戦を突破しただけよ?」
「いいじゃない。勝ったんだから、いっぱい褒めてあげないと!」
ブルーは楽しそうに笑った。
二人は顔立ちも雰囲気もよく似ている。
何も知らない人が見れば、若々しいブルーが姉で、リーフが妹だと思ってしまうかもしれない。
だが、実際は母と娘。
ブルーは、娘の成長を誰よりも喜んでいた。
「それで、マーくんからの発明品の贈り物、キュウコンに使ったんだって?」
「うん。特性パッチっていうのだったかな?」
リーフは頷いた。
「まさか、キュウコンの特性がひでりになるなんて思わなかったわ」
「でしょうね。私も聞いた時は驚いたもの」
ブルーが言う「マーくん」とは、シンヤの父親であるマサユキのことだ。
近所付き合いもあり、ブルーはシンヤの両親と親しくしている。
マサユキは、特性カプセルと特性パッチの研究を進めていた。
シンヤにもその仕組みを説明していたが、シンヤ自身はリーグ中に自分のポケモンの特性を変更するつもりがなかった。
そこでマサユキは、近所付き合いのあるブルーを通じて、完成品の一つをリーフに渡していたのだ。
リーフはキュウコンに特性パッチを使い、その結果、通常の「もらいび」から、隠れ特性の「ひでり」へと変化した。
この変更は、リーフにとって大きな意味があった。
これまでは、技の「にほんばれ」を使ってから炎技を強化し、ソーラービームのチャージを短縮する必要があった。
しかし、ひでりなら、キュウコンが場に出るだけで天候を晴れにできる。
天候を整えるための手順が減り、戦術の幅も広がった。
「キュウコンも、今まで以上に戦いやすくなったと思う。マサユキさんには、もう効果が出たって報告したわ」
「それならよかったわね。マーくんも、きっと喜んでいるわ」
ブルーは満足そうに頷いた。
そして、ふと思い出したように、にやりと笑った。
「にしても――シンヤ君、十歳なのに、ずいぶんいい男前レベルになってるわね♪」
「……え?」
リーフの笑顔が止まった。
「同じ年の子に、年上のメイド服の双子の子たちを侍らして♪ 同じ年の子のレンちゃんって子も可愛いし、なかなかやるじゃない?」
ブルーは冗談めかして言ったつもりだった。
しかし、リーフの周囲に、じわりと黒いオーラが漂い始めた。
「……お母さん」
「は、はい?」
ブルーは娘の変化に気づき、思わず背筋を伸ばした。
リーフは笑顔を浮かべている。
ただし、その笑顔は目にまったく届いていなかった。
「私も知ってるレンって子。だけど……メイド服の二人?」
ゆらり。
リーフが一歩、ブルーへ近づく。
ブルーは一歩、後ろへ下がった。
「え、ええと……?」
「詳しく教えてくれるかな? かな?」
「……は、はい」
ブルーは、娘のあまりにも凶変した様子に冷や汗を流した。
どうやら、うっかり踏んではいけない地雷を踏み抜いたらしい。
◆可愛いメイド二人の正体
ブルーは観念したように話し始めた。
「ええとね、ラムちゃんとレムちゃんっていう双子の子たちよ。二人ともシンヤ君のお家で働いていて、メイド服を着ているの」
「……ラムとレム」
リーフの口元が、ぴくりと動く。
「二人ともシンヤ君より年上で、見た目も可愛いのよね。とっても仲がいいみたいだし、シンヤ君のことを大事にしているみたい」
「……へえ」
「もちろん、レンちゃんも一緒にいることが多いみたいよ?」
「……ふぅん」
リーフの声は、どこまでも穏やかだった。
穏やかすぎて、かえって恐ろしい。
ブルーは慌てて付け加える。
「で、でもね! ほら、シンヤ君のお家は大きいし、二人ともお仕事として一緒にいるわけだから! 変な意味じゃないと思うわよ!」
「そうね。お仕事、だものね」
リーフは笑顔を深めた。
「ふふふ……」
「リ、リーフ?」
「可愛いメイド二人、ね……」
リーフは窓の外を見つめた。
その脳裏には、フィールドで堂々と戦うシンヤの姿が浮かんでいた。
コノヨザルを使いこなし、ベテランのタツマを打ち破った少年。
ポケモンに対する理解も深く、強くて、頼りになる。
同じ年なのに、時々、自分よりずっと大人びて見える。
そんなシンヤのそばに、年上の可愛いメイドが二人。
さらに、レンまでいる。
リーフの胸の奥で、何かが静かに燃え始めた。
「……ふふふ」
「リ、リーフ? 何を考えているの?」
ブルーが恐る恐る尋ねる。
リーフは振り返り、にっこりと笑った。
「何でもないわ、お母さん♪」
その笑顔を見て、ブルーは確信した。
――あ、これは絶対に何でもなくないわ。
リーフは心の中で、静かに決意していた。
「シンヤ……もし次の試合で当たったら、覚悟してね?」
その表情は、リーグで勝利を目指すトレーナーのもの。
そして、少しだけ嫉妬に燃える、十歳の少女のものでもあった。
セキエイリーグは、ポケモンたちの戦いだけでは終わらない。
サトシは再びオコリザルと共に歩き始め、シゲルはライバルとの再戦を待ち望み、リーフはシンヤへの新たな感情を自覚し始めていた。
それぞれの想いを胸に、彼らのリーグは続いていく。