ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第88話「勝利以外に価値はない! エレキブル、耐久戦術を打ち破れ!」

◆セキエイリーグ・第3回戦――草のフィールド

 

 

セキエイリーグ、第3回戦。

 

 

第1回戦ではハクリューを、第2回戦ではコノヨザルを巧みに操り、勝利を収めてきたシンヤ。

 

 

その戦いぶりは、観客たちの間でも少しずつ話題になり始めていた。

 

 

そして今回、彼が立つのは草のフィールド。

 

 

緑豊かな芝生が広がり、ところどころに低い岩や段差が設けられた戦闘場だ。

 

 

実況席から、勢いのある声が響く。

 

 

「さあ、注目の第3回戦! マサラタウン出身の期待の新人、シンヤ選手! 対するは、タマムシシティ出身! エリートトレーナーのキョウヘイ選手です!」

 

 

観客席から歓声が上がる。

 

 

シンヤは落ち着いた足取りでフィールドへ進み、対戦相手を見た。

 

 

キョウヘイは、整った身なりに余裕たっぷりの笑みを浮かべている。しかし、その目には相手を見下すような冷たさがあった。

 

 

「君が噂のシンヤ君か。ハクリューにコノヨザル……随分と珍しいポケモンを持っているそうじゃないか」

 

 

「それがどうかしたのか?」

 

 

「いやいや。珍しいポケモンを持っているだけで、実力まで伴っているとは限らないだろう?」

 

 

キョウヘイは肩をすくめた。

 

 

「僕は勝利以外に価値はないと思っている。ポケモンとの絆? なつき度? そんなものは勝敗に関係のない感傷だよ。必要なのは、効率よく勝つこと。それだけさ」

 

 

シンヤの表情から、笑みが消えた。

 

 

「……へえ」

 

 

「バトルは効率だよ。相手を一撃で倒す必要なんてない。動けなくして、逃げ道を塞いで、じわじわと削っていく。相手が何もできなくなったところで勝利を確定させる。実に合理的だろう?」

 

 

キョウヘイは、わざとらしく首を傾げる。

 

 

「君のポケモンがボロボロになって泣き叫ぶ姿、楽しみにさせてもらうよ」

 

 

その言葉を聞いたシンヤは、静かに息を吐いた。

 

 

(出たよ。相手を動けなくして、回避率を上げて、状態異常と回復で時間を稼ぐタイプか)

 

 

前世で、こうした戦術には嫌というほど付き合わされてきた。

 

 

初代の仕様を利用した耐久型。命中率と回避率を巡る理不尽な駆け引き。眠りや麻痺で行動そのものを封じる構築。そして、こちらが疲弊したところにエースを投入する展開。

 

 

対戦相手の心を折ることまで含めて、戦術として完成している。

 

 

(厄介なのは確かだ。でも、勝ち筋が見えているなら話は別だ)

 

 

シンヤは腰のモンスターボールに手をかけた。

 

 

「ポケモンを道具扱いする奴に、俺の戦い方をとやかく言われたくないな」

 

 

「ふん。威勢だけはいいようだね」

 

 

「その余裕、最後まで保てるといいな」

 

 

両者がそれぞれのボールを構える。

 

 

「それでは――バトル、開始!」

 

 

「行け、ラッキー!」

 

 

キョウヘイの先発はラッキー。

 

 

「出てこい、エレキブル!」

 

 

シンヤが繰り出したポケモンの姿を見て、観客席がざわめいた。

 

 

「な、なんだあのポケモンは!?」

 

 

「エレブーに似ているようだが……」

 

 

実況も驚いた声を上げる。

 

 

「シンヤ選手のポケモンは、またしても見慣れない姿! これは……エレブーの進化系なのでしょうか!? どうやら、遠く離れた地方で発見されたポケモンのようです!」

 

 

キョウヘイはエレキブルを眺め、鼻で笑った。

 

 

「ふうん。そんなポケモンまでいるのか。まあ、何であろうと関係ないけどね」

 

 

シンヤはエレキブルの背中を見つめる。

 

 

「頼むぞ、エレキブル」

 

 

エレキブルは両腕を打ち鳴らし、力強く吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ラッキー――絶望の壁

 

 

「ラッキー、でんじは!」

 

 

開幕早々、キョウヘイは状態異常を狙った。

 

 

ラッキーの身体から放たれた電気が、エレキブルへと走る。

 

 

 

 

だが――。

 

 

 

 

バチッ!

 

 

 

 

電気が触れた瞬間、エレキブルの身体が反応した。

 

 

「…エレキブルゥゥゥ???」

 

 

電気はエレキブルを麻痺させるどころか、その力を引き出す。

 

 

特性『でんきエンジン』。

 

 

電気技を受けることで電気エネルギーを取り込み、素早さを上昇させる能力だ。

 

 

「なっ……!?」

 

 

キョウヘイの笑みが一瞬だけ引きつった。

 

 

シンヤは見逃さない。

 

 

「効かないどころか、こっちの強化になったな」

 

 

「くっ……なら、ラッキー! ちいさくなる!」

 

 

ラッキーは身体を縮め、攻撃を避ける構えを取った。

 

 

「回避率を上げて、相手の攻撃を空振りさせるつもりか」

 

 

シンヤはすぐに指示を出す。

 

 

「エレキブル、サンダーダイブ!」

 

 

「正面から突っ込んでくるなら、かわすだけだ! ラッキー、横へ――」

 

 

キョウヘイの指示が終わるより早く、エレキブルが地面を蹴った。

 

 

強化された速度を活かし、ラッキーの進路を塞ぐように跳躍する。

 

 

ラッキーは小さな身体を左右へ動かし、逃げ道を探した。しかし、エレキブルは単純に追いかけているのではない。

 

 

逃げられる方向を読み、先回りしているのだ。

 

 

「な、何だと!?」

 

 

次の瞬間。

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 

 

 

 

エレキブルがラッキーの真上から落下した。

 

 

小さくなった身体が芝生に押しつけられ、ラッキーは大きく跳ね上がる。

 

 

「ラッキー!」

 

 

ラッキーは着地しようとするが、衝撃に目を回して動けない。

 

 

 

 

怯みだ。

 

 

 

「エレキブル、今だ。近づいて、ちょうはつ!」

 

 

エレキブルはラッキーの目の前まで歩み寄ると、顔を近づけ、わざとらしく両腕を広げた。

 

 

「エレキッ、キブル!」

 

 

その態度は、まるで「どうした? もう終わりか?」と挑発しているかのようだった。

 

 

ラッキーはむっとした様子でエレキブルを睨む。

 

 

キョウヘイは、その意図に気づかない。

 

 

「何をしている! ラッキー、タマゴうみだ! 回復して立て直せ!」

 

 

ラッキーは両手を動かそうとする。

 

 

しかし――何も起こらなかった。

 

 

「……は?」

 

 

キョウヘイの顔が固まる。

 

 

「どうしたラッキー! タマゴうみだ、早く!」

 

 

ラッキーは困ったように振り返る。

 

 

ちょうはつの効果で、変化技が使えないのだ。

 

 

「まさか……今のは、ちょうはつ!?」

 

 

シンヤは薄く笑った。

 

 

「気づくのが遅いな」

 

 

キョウヘイの額に汗が浮かぶ。

 

 

彼の戦術は、回復と回避を組み合わせ、相手の攻撃を無力化することにある。だが、回復手段を封じられた今、ラッキーは耐久戦術の要を失っていた。

 

 

「ラッキー! なら、ちきゅうなげで削れ!」

 

 

「させるか。エレキブル、れいとうパンチ!」

 

 

エレキブルの両拳に冷気が宿る。

 

 

ラッキーは必死に逃げようとするが、エレキブルはすでに次の攻撃に移っていた。

 

 

 

バキィッ!!

 

 

 

冷気をまとった拳がラッキーを捉え、身体を大きく吹き飛ばす。

 

 

ラッキーは芝生を転がり、どうにか立ち上がろうとしたものの、足に力が入らない。

 

 

「ラッキー、戦闘不能!」

 

 

審判の宣告に、観客席が沸いた。

 

 

「うおおおおっ!」

 

 

「ラッキーが、こんなにあっさり!?」

 

 

キョウヘイは唇を噛んだ。

 

 

「馬鹿な……! ラッキーの耐久力を突破しただと!?」

 

 

「耐久力が高いのは認めるよ。でも、回復できない状態なら、ただ攻撃を受け続けるだけだ」

 

 

シンヤは淡々と答えた。

 

 

「それに、回避率を上げたからって、逃げ道までなくなるわけじゃない。攻撃を当てる方法はいくらでもある」

 

 

キョウヘイは悔しそうにボールを握り直した。

 

 

「……次だ。次で終わらせてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ナッシー――催眠ハメ

 

 

「出てこい、ナッシー!」

 

 

キョウヘイの二匹目はナッシー。

 

 

長い首と三つの顔を持つ草・エスパータイプのポケモンだ。

 

 

ナッシーが現れると、キョウヘイの表情に再び余裕が戻った。

 

 

「ラッキーのように単純な耐久戦術だけだと思わないことだね。ナッシー、さいみんじゅつ!」

 

 

三つの顔がエレキブルを見据え、眠りへ誘う力を放とうとする。

 

 

しかし、シンヤはその動きを予測していた。

 

 

「エレキブル、ちょうはつ!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

エレキブルはすぐさまナッシーへと向き直り、両腕を振り回して挑発する。

 

 

ナッシーの集中が乱れ、さいみんじゅつは不発に終わった。

 

 

「くっ、またちょうはつか!」

 

 

「さっきのラッキーを見ていなかったのか? それとも、同じ手が通用するとでも思った?」

 

 

「黙れ! ナッシー、サイコキネシス!」

 

 

今度は念動力で押し潰すつもりだ。

 

 

ナッシーの周囲に青白い光が広がり、エレキブルの身体を捉えた。

 

 

「エレキブル!」

 

 

念動力がエレキブルを持ち上げようとする。

 

 

だが、エレキブルはその力に抗いながら、地面へと両手を伸ばした。

 

 

「……まさか!」

 

 

シンヤの目が鋭くなる。

 

 

エレキブルは地面に指を食い込ませ、全身の力を込めて芝生と土を引き剥がした。

 

 

 

 

バキバキバキッ!!

 

 

 

 

地面が大きく割れ、土と根が絡み合った塊が壁のように持ち上がる。

 

 

直後、サイコキネシスが炸裂した。

 

 

だが、念動力が捉えたのはエレキブルではない。

 

 

持ち上がった地面の壁だった。

 

 

「何だと!?」

 

 

ナッシーの三つの顔が驚きに染まる。

 

 

エレキブルは念動力に拘束される直前、地面を盾にしたのだ。

 

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 

エレキブルは壁の裏側へ回り込み、両腕を振りかぶる。

 

 

「エレキブル、ぶち抜け!」

 

 

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

 

 

エレキブルの拳が、地面の壁を後ろから殴りつけた。

 

 

砕けた土塊が勢いよく飛び出し、ナッシーへ襲いかかる。

 

 

サイコキネシスの集中が途切れたナッシーは、避ける間もなく土塊をまともに受けた。

 

 

「ナッシー!」

 

 

ナッシーがよろめく。

 

 

エレキブルは両手に冷気をまとわせ、ゆっくりと距離を詰めた。

 

 

その姿を見たキョウヘイは――不意に笑った。

 

 

「……くくっ。そうか。そういうことか」

 

 

シンヤの眉がわずかに動く。

 

 

(この状況で笑う? 何を狙っている……?)

 

 

キョウヘイはナッシーを見据えた。

 

 

「ナッシー! だいばくはつ!」

 

 

「エレキブル!」

 

 

シンヤの声が飛ぶ。

 

 

エレキブルは、拳にまとわせていた冷気を即座に消し、両腕を身体の前で交差させた。

 

 

「まもる!」

 

 

次の瞬間、ナッシーの身体が激しく光り輝く。

 

 

 

 

 

ドゴォォォォンッ!!

 

 

 

 

 

草のフィールド全体を揺らすほどの爆発が起こった。

 

 

爆風が芝生をなぎ払い、砕けた土塊が宙を舞う。観客席から悲鳴と歓声が入り混じった声が上がった。

 

 

爆発の中心は、煙に包まれて何も見えない。

 

 

キョウヘイは腹を抱えて笑い始めた。

 

 

「アッハハハハ! どうだ! いくら強いポケモンでも、大爆発をまともに受ければただでは済まない! ナッシーが倒れたとしても、君のエレキブルも――」

 

 

煙が晴れ始める。

 

 

その中に、両腕を構えたまま緑色の幕に覆われて立つエレキブルの姿があった。

 

 

傷一つない。

 

 

「…………は?」

 

 

キョウヘイの笑いが止まった。

 

 

「ま、まもる……だと?」

 

 

シンヤは肩をすくめる。

 

 

「相手が最後に何をするかくらい、考えるさ。特に、追い詰められた時に自爆するような戦術ならな」

 

 

エレキブルは腕を下ろし、まもるを解除、平然と立っている。

 

 

対するナッシーは、大爆発の反動で戦闘不能になっていた。

 

 

「ナッシー、戦闘不能!」

 

 

「そんな……僕の計算が……!」

 

 

キョウヘイは震える手でナッシーのボールを握った。

 

 

ラッキーの回復は封じられ、ナッシーの催眠術は封じられ、最後の大爆発さえも防がれた。

 

 

シンヤは、キョウヘイの得意とする戦術を理解したうえで、一つずつ対策を講じていた。

 

 

「残るは一匹だな」

 

 

シンヤの声に、キョウヘイは顔を上げる。

 

 

その目には、怒りと焦りが入り混じっていた。

 

 

「……いいだろう。最後の一匹で、君のその余裕を粉々にしてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ケンタロス――最後の切り札

 

 

「出てこい、ケンタロス!」

 

 

三本の尾を振り回し、ケンタロスがフィールドに現れた。

 

 

力強い脚で芝生を踏みしめ、鼻息を荒くする。その姿には、並のポケモンでは太刀打ちできない迫力がある。

 

 

キョウヘイはケンタロスの背後から、冷たい笑みを浮かべた。

 

 

「このケンタロスこそ、僕の切り札だ。素早さも攻撃力も申し分ない。ここまでの二匹で相手を疲弊させ、最後にケンタロスで仕留める。これが僕の必勝戦術さ!」

 

 

「なるほど。確かに、強そうだ」

 

 

シンヤはエレキブルへ視線を送る。

 

 

「けど、まだ終わってないぞ」

 

 

キョウヘイが叫ぶ。

 

 

「ケンタロス、じしん!」

 

 

ケンタロスが前脚を高く持ち上げ、地面を踏みつけた。

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 

 

 

 

地面が大きく揺れ、亀裂が走る。

 

 

だが、シンヤは動じなかった。

 

 

「エレキブル、足元!」

 

 

エレキブルは先ほどの大爆発で吹き飛ばされ、地面に散らばっていた大きな残骸へと飛び乗った。

 

 

地面から伝わる衝撃を、わずかに高い足場でやり過ごす。

 

 

もちろん、それだけで地震の影響を完全に消せるわけではない。しかし、揺れが集中する地面との接触を減らし、直撃を避けることはできた。

 

 

「ちっ……なら、ふぶき!」

 

 

ケンタロスの前方に冷気が集まり、猛烈な吹雪がエレキブルへ襲いかかる。

 

 

「エレキブル、まもる!」

 

 

エレキブルは防御の構えを取った。

 

 

吹雪がその周囲を包み込み、芝生を白く凍らせる。

 

 

しかし、エレキブルはその猛攻をしのぎ切った。

 

 

「今だ、駆けろ!」

 

 

吹雪が止んだ瞬間、エレキブルが走り出す。

 

 

キョウヘイはすぐに指示を飛ばした。

 

 

「ケンタロス、のしかかりで迎え撃て!」

 

 

ケンタロスが前脚を踏み込み、突進の構えを取る。

 

 

だが、エレキブルは正面からぶつかろうとはしなかった。

 

 

走りながら地面へ腕を叩きつけ、芝生の表面を勢いよく剥ぎ取る。

 

 

「何を……!?」

 

 

エレキブルが掴んだ草と土を、ケンタロスの顔へ向けて投げつけた。

 

 

 

 

バサッ!

 

 

 

 

「モォオッ!?」

 

 

草が目元に張りつき、ケンタロスは反射的に目を閉じる。

 

 

視界を奪われたのは、ほんの一瞬。

 

 

しかし、エレキブルにとっては十分だった。

 

 

「サンダーダイブ!」

 

 

エレキブルは地面を強く蹴り、勢いよく跳躍した。

 

 

ケンタロスの頭上を越え、身体を前へ傾ける。

 

 

さらに、両手に冷気をまとわせた。

 

 

「れいとうパンチも重ねろ!」

 

 

エレキブルは四つん這いに近い姿勢で、両腕を前方へ伸ばしながら落下していく。

 

 

両拳から冷気が噴き出し、空中で白い軌跡を描いた。

 

 

「ケンタロス、目を開けろ! 破壊光線だ! 迎撃しろ!」

 

 

キョウヘイの叫びに、ケンタロスは無理やり目を開いた。

 

 

視界に飛び込んできたのは――目前まで迫るエレキブル。

 

 

その両拳には、強烈な冷気が宿っていた。

 

 

「モオオオッ!!」

 

 

ケンタロスの口元に破壊光線の光が集まる。

 

 

だが、遅かった。

 

 

「エレキブル、押し切れ!」

 

 

 

 

ドゴォォォンッ!!

 

 

 

 

サンダーダイブの勢いと、れいとうパンチの冷気が同時にケンタロスへ叩き込まれた。

 

 

強烈な衝撃がケンタロスの巨体を押し倒し、芝生を巻き上げる。

 

 

ケンタロスの破壊光線は放たれることなく、光を失った。

 

 

「ケンタロスッ!!」

 

 

キョウヘイが叫ぶ。

 

 

砂煙が晴れる。

 

 

そこには、目を回して倒れたケンタロスと、その傍らに着地したエレキブルがいた。

 

 

審判が旗を上げる。

 

 

「ケンタロス、戦闘不能! よって、この試合――勝者、シンヤ選手!」

 

 

一瞬の静寂。

 

 

次の瞬間、観客席が大歓声に包まれた。

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 

「三匹とも倒したぞ!」

 

 

「しかもエレキブル一匹で!?」

 

 

シンヤはエレキブルのもとへ歩み寄り、拳を軽くぶつけた。

 

 

「よくやった、エレキブル!」

 

 

「エレキブル!」

 

 

エレキブルは満足げに胸を張る。

 

 

その姿を見て、シンヤは小さく笑った。

 

 

(相手の得意な戦術に付き合う必要なんてない。回復を封じる。催眠を封じる。大技は守る。最後は地形と視界を利用して一気に仕留める――それだけだ)

 

 

 

 

 

 

 

一方、キョウヘイはその場に立ち尽くしていた。

 

 

「ば、馬鹿な……」

 

 

握りしめた拳が震える。

 

 

「僕の……僕の完璧な戦術が……!」

 

 

彼はシンヤを睨みつけた。

 

 

「泥臭い奇跡なんか、僕は絶対に認めないぞ!」

 

 

シンヤは振り返る。

 

 

「奇跡?」

 

 

そして、静かに言った。

 

 

「違う。お前の戦術を見て、対策しただけだ」

 

 

キョウヘイは言葉を失った。

 

 

「ポケモンを道具扱いして、勝つことだけを考える。それも一つの戦い方なのかもしれない。けど、相手を見下して、こっちが何も考えていないと決めつけた時点で、お前は負けてたんだよ」

 

 

エレキブルが、シンヤの隣で力強く吠える。

 

 

「それに――」

 

 

シンヤはエレキブルの肩へ手を置いた。

 

 

「俺はこいつを信頼してる。こいつも俺を信頼してくれている。だから、俺たちは相手の想定を超えられるんだ」

 

 

キョウヘイは何も答えられなかった。

 

 

勝利だけを求めていた男は、勝利のために切り捨てたものが、自分の戦術を破る力になり得ることを突きつけられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆観客席――サトシたち

 

 

試合を見届けたサトシは、興奮した様子で身を乗り出した。

 

 

「すげえ! エレブーの進化系なのか!」

 

 

タケシは腕を組み、感心したように頷く。

 

 

「おそらく他の地方で発見された進化系だな。エレブーとは体格も違うし、戦い方もかなり変わっている」

 

 

「でも、なんでシンヤって、あんな珍しいポケモンを次々に持ってるのかしら?」

 

 

カスミは首を傾げた。

 

 

「ハクリューにコノヨザル、それに今度はエレキブル……。どれも普通の新人トレーナーが簡単に手に入れられるポケモンじゃないわよね」

 

 

サトシは目を輝かせたまま、フィールドを見つめる。

 

 

「けど、すっごく強いな! コノヨザルもすごかったけど、あんなポケモンまで使いこなせるなんて!」

 

 

タケシは試合の流れを思い返す。

 

 

「第1回戦はハクリュー、第2回戦はコノヨザル、そして今回はエレキブル……。3回戦まで、まだ三匹しかポケモンを繰り出していない。いったい、どれほどの特訓を積んできたんだ?」

 

 

「しかも、どの試合でもフィールドを利用しているわね」

 

 

カスミが指摘する。

 

 

「水のフィールドでは水を使って相手の動きを制限して、岩のフィールドでは岩を利用して攻めていた。そして今回は、地面を壊して壁にしたり、草を投げつけたり……」

 

 

「そうか!」

 

 

サトシは手を叩いた。

 

 

「相手の技だけじゃなくて、周りにあるものも使ってるんだ!」

 

 

「それだけじゃない。相手が何を狙っているのかを考えて、先に対策しているんだ」

 

 

タケシは真剣な表情で続けた。

 

 

「今回のキョウヘイというトレーナーは、回復や状態異常を組み合わせる戦術だった。シンヤはそれを見抜いて、ちょうはつで回復と催眠術を封じた。最後の大爆発にも、ちゃんと備えていた」

 

 

サトシは拳を握った。

 

 

「すげえな、シンヤ! オレも負けてられないぜ!」

 

 

カスミは呆れたように笑う。

 

 

「まったく、あんたはいつでもそれね」

 

 

「当たり前だろ! 強い相手がいるなら、オレだってもっと強くなるんだ!」

 

 

サトシの視線は、勝利を収めてフィールドを去っていくシンヤへと向けられていた。

 

 

その胸には、対戦相手としての興味と、いつか本気で戦いたいという思いが、また一つ強く刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆観客席――シゲル

 

 

別の観客席では、シゲルが顎に手を当てて考え込んでいた。

 

 

「エレブーの進化系、か……」

 

 

彼の手持ちにもエレブーがいる。

 

 

「僕のエレブーも、いつかあの姿になるのかな?」

 

 

進化の可能性を考え、頭の中でいくつかの仮説を組み立てる。

 

 

しかし、肝心の進化条件が分からない。

 

 

「……ふん。今考えても仕方ないか」

 

 

シゲルは小さく息を吐いた。

 

 

「今進化されたとしても、能力や戦い方が変わる可能性がある。進化した後の動かし方を一から覚える必要もあるだろうしね」

 

 

彼らしい、冷静な判断だった。

 

 

「今はエレブーのままでいいさ。リーグが終われば、シンヤと話す機会もあるだろう。その時に聞いてみよう」

 

 

そう言いながらも、シゲルの目はフィールドを離れなかった。

 

 

新しい進化形の存在は、研究者を目指す彼にとっても興味深いものだった。

 

 

そして何より――シンヤが、まだどれほどのポケモンを隠し持っているのか。

 

 

その疑問は、ますます大きくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆観客席――リーフとブルー

 

 

一方、リーフは隣に座る母・ブルーへ尋ねていた。

 

 

「ねえ、ママ。あのエレキブルって、シンオウ地方で発見されたポケモンなの?」

 

 

「そうよ。ママが若い頃にシンオウ地方を旅していた時にも、進化したエレキブルの話はあったわね」

 

 

ブルーは思い出すように頬へ指を当てた。

 

 

「エレブーに特殊な道具を持たせて進化させるんだったかしら。細かい条件までは、今すぐには思い出せないけど」

 

 

「へえ……。じゃあ、エレブーなら誰でも進化できるのかな?」

 

 

「種族としては進化先がある、ということね。でも、実際に進化させるには条件を満たす必要があるはずよ」

 

 

リーフはフィールドを見つめた。

 

 

先ほどラッキーが使った電磁波は、エレキブルに麻痺を与えられなかった。それどころか、エレキブルの動きは速くなった。

 

 

「それにしても、どうして電磁波が効かなかったの?」

 

 

「エレキブルの特性ね。『でんきエンジン』という能力を持っているの。電気技を受けると、その電気を利用して素早さを上げられるのよ」

 

 

「だから、あの直後に速くなったんだ!」

 

 

「そういうこと。キョウヘイは、その特性を知らなかったのでしょうね」

 

 

ブルーは楽しげに笑った。

 

 

「ま、自称エリートのトレーナーには、いい薬だったんじゃないかしら?」

 

 

「なんで?」

 

 

「リーグには、ああいうタイプが何人かいるものよ。自分の戦術こそ完璧だと思い込んで、相手を見下してしまう人ね」

 

 

「あー……」

 

 

リーフは納得したように頷く。

 

 

「確かに、相手のことを知らないのに、自分が絶対に勝てるって決めつけてたもんね」

 

 

「そう。どれほど優れた戦術でも、相手が対策してくれば崩されることはあるわ。大切なのは、自分のポケモンを理解すること。そして、相手を理解しようとすることよ」

 

 

ブルーは、シンヤがエレキブルと拳を合わせる様子を見つめた。

 

 

「それにしても、本当に珍しいポケモンを揃えているわね、シンヤ君は」

 

 

「うん。しかも、珍しいだけじゃなくて、ちゃんと使いこなしている」

 

 

リーフの表情が引き締まった。

 

 

彼女もまた、シンヤと戦うことを目標にしている。

 

 

「十歳で、あれだけの判断力……。相手の技も、特性も、フィールドも全部使って勝っている」

 

 

「だからこそ、勝ちたい?」

 

 

ブルーが尋ねる。

 

 

リーフは小さく頷いた。

 

 

「うん。勝ちたい」

 

 

その目には、憧れだけではない、確かな闘志が宿っていた。

 

 

「シンヤ君がどれだけ強くても、私だって負けるつもりはないんだから」

 

 

ブルーは娘の横顔を見て、満足げに微笑んだ。

 

 

「その意気よ。次に戦う時は、相手の強さを認めたうえで、自分の勝ち筋を見つけなさい」

 

 

「分かってるわ、ママ」

 

 

リーフは再びフィールドへ目を向けた。

 

 

彼女の心の中で、シンヤへの対抗心が静かに燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆試合後――勝利の意味

 

 

控室へ向かう通路で、シンヤはエレキブルのボールを手に取った。

 

 

「お疲れ、エレキブル。今日は助かったよ」

 

 

ボールの中から、短い鳴き声が返ってくる。

 

 

シンヤはその反応に微笑んだ。

 

 

(相手の戦術がどれだけ嫌らしくても、焦らなきゃいい。相手が何をしたいのかを見て、こっちは何ができるのかを考える。それだけで、崩せる戦術は多い)

 

 

もちろん、すべての耐久戦術が簡単に破れるわけではない。

 

 

挑発が通らない相手もいる。特性やタイプ相性でこちらの手段が制限されることもある。相手がこちらの対策を読んでくる場合だってある。

 

 

だからこそ、観察し、考え、状況に応じて手を変える必要がある。

 

 

(次の相手は、どんなポケモンを使ってくるんだろうな)

 

 

シンヤは前を向いた。

 

 

第3回戦を突破した彼の前には、まだ多くの戦いが待っている。

 

 

そしてその一つ一つが、シンヤと仲間たちをさらに成長させていくのだった。

 

 

 

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