ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第91話「決勝リーグ開幕! シンヤVSクロス!」

 

 

セキエイ大会・決勝リーグ。

 

 

第5試合が始まる頃には、会場の熱気は最高潮に達していた。

 

 

ここまでの試合では、シゲルが相手を寄せつけない余裕の勝利を収め、サトシも友人であるヒロシとの激戦を制した。そしてリーフも順当に勝利し、次の試合へと駒を進めていた。

 

 

残る注目の一戦。

 

 

シンヤとクロスの対決である。

 

 

「さあ、続いての第5試合! カントー地方の期待の新人、シンヤ選手! 対するは、強力なポケモンを従えるクロス選手です!」

 

 

実況の声が響く。

 

 

フィールドの両端に、二人のトレーナーが姿を現した。

 

 

クロスはシンヤを見つけると、口元を歪める。

 

 

「やっと来たか。てめえをぶっ潰すために、ここまで勝ち上がってきたんだ」

 

 

「そうか。俺はお前を倒すためにここまで来たわけじゃないけどな」

 

 

「何だと……!」

 

 

「ただ、目の前に立ちはだかるなら倒す。それだけだ」

 

 

淡々と返すシンヤ。

 

 

クロスは舌打ちをした。

 

 

「ふん。すぐに吠え面かかせてやる」

 

 

審判が両者の位置を確認する。

 

 

「それでは、使用ポケモンは三匹! 先に相手のポケモン三匹を戦闘不能にした方が勝者となります!」

 

 

両者がボールを構えた。

 

 

「行け! キテルグマ!」

 

 

「頼むぞ、ハクリュー!」

 

 

クロスの先発はキテルグマ。

 

 

対するシンヤの先発はハクリューだった。

 

 

「おおっ! シンヤ選手、ここでハクリューを投入!」

 

 

観客席からどよめきが起こる。

 

 

一回戦での活躍を覚えている観客も多い。天候を操り、相手の動きを読み、技を組み合わせて戦うあのハクリューだ。

 

 

「天候操作が得意なハクリューか……」

 

 

クロスは小さく呟いた。

 

 

その目には、相手の戦い方を見抜いたという自信があった。

 

 

「試合開始!」

 

 

審判の合図と同時に、クロスが叫ぶ。

 

 

「キテルグマ、ちょうはつ!」

 

 

キテルグマがハクリューへ向かって挑発の声を上げる。

 

 

天候操作を得意とするハクリューに、変化技を使わせないつもりなのだろう。

 

 

「そいつの戦い方は知ってんだよ。天候操作からの、それに適した技の選択だ。そんなのこれで止めて――」

 

 

「そういうのを思い込みというんだ」

 

 

クロスの言葉を遮るように、シンヤが告げた。

 

 

「ハクリュー。たつまきからの、ほのおのうず!」

 

 

「リューッ!」

 

 

ハクリューが身体をしならせ、強烈なたつまきを発生させる。

 

 

渦巻く風がキテルグマへと迫る。

 

 

そして、命中する直前。

 

 

ハクリューは間髪入れずに、ほのおのうずを放った。

 

 

炎が竜巻の内側へと入り込み、風の流れに乗って激しく回転する。

 

 

炎と風が互いを巻き込み、巨大な火炎の竜巻へと変化した。

 

 

「なっ!?」

 

 

キテルグマは逃げようとするが、竜巻の勢いに押され、身動きが取れない。

 

 

炎が身体を包み、熱風が容赦なく吹きつける。

 

 

しかも、ただ炎をぶつけているだけではない。

 

 

竜巻がキテルグマを中心に巻き上がり、逃げ道を塞いでいるのだ。

 

 

「キテルグマ! 何とかしてその場から脱出しろ!」

 

 

クロスが叫ぶ。

 

 

しかし、炎と風がぶつかり合う轟音によって、その指示はキテルグマに届かない。

 

 

「何だよ、あの威力……! たつまきとほのおのうずを合わせただけだろ!?」

 

 

「技と技の合体だよ」

 

 

シンヤは冷静に答えた。

 

 

「それに、そのキテルグマ……おそらく特性は、もふもふだろ」

 

 

「っ!?」

 

 

クロスの表情が強張る。

 

 

もふもふ。

 

 

直接攻撃を受けた際のダメージを半減する一方、ほのおタイプの技から受けるダメージは二倍になる特性だ。

 

 

つまり、シンヤはキテルグマの特性を見抜いたうえで、炎の技を組み込んだのだ。

 

 

「たつまきで炎の渦を強化しているだけじゃない。風の流れで炎を何度も身体に叩きつけている。しかも、逃げられないように閉じ込めているんだ」

 

 

「くそっ……!」

 

 

クロスが歯噛みする。

 

 

やがて、竜巻の勢いが弱まり、炎が消えていく。

 

 

 

 

シュゥゥゥ……。

 

 

 

 

その中心には、全身が黒く焦げたキテルグマが立っていた。

 

 

しかし、その目は閉じられている。

 

 

「キテルグマ、戦闘不能!」

 

 

審判の判定が響いた。

 

 

「ちっ……戻れ、キテルグマ!」

 

 

クロスは悪態をつきながらボールへ戻す。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

ピカッ――――!

 

 

 

 

ハクリューの身体が、まばゆい光に包まれた。

 

 

「えっ?」

 

 

シンヤが目を見開く。

 

 

ハクリューの身体が大きく変化していく。

 

 

身体は一回りも二回りも大きくなり、手足が伸びる。長かった尻尾は短くなり、背中には大きな翼が生まれた。

 

 

「バオォォォッ!」

 

 

光が弾ける。

 

 

そこに立っていたのは――カイリューだった。

 

 

「ハクリューが……カイリューに進化した!」

 

 

実況の声が会場に響き渡る。

 

 

「おおおおおっ!」

 

 

観客席が沸き立つ。

 

 

「すげえ! ここで進化したぞ!」

 

 

サトシも思わず身を乗り出した。

 

 

シンヤはカイリューを見上げる。

 

 

「……そっか。お前、ここで進化したんだな」

 

 

カイリューは嬉しそうに鳴き、シンヤの方へ顔を向けた。

 

 

その様子に、シンヤも笑みを浮かべる。

 

 

「おめでとう。これからもよろしくな」

 

 

「バオッ!」

 

 

しかし、クロスにとっては面白くない展開だった。

 

 

「くそっ! このタイミングで進化だと!?」

 

 

クロスは二匹目のボールを投げる。

 

 

「行け! ルガルガン!」

 

 

現れたのは、まよなかのすがたのルガルガン。

 

 

シンヤはカイリューをそのままフィールドに残した。

 

 

「進化したばかりのポケモンを続投させるつもりかよ!」

 

 

「問題ない。カイリューはまだ戦える」

 

 

「糞が! こうなったら――目にもの見せて――」

 

 

「大海原を駆ける優しき翼よ」

 

 

クロスの言葉を遮るように、シンヤが声を張り上げる。

 

 

「今こそ絆を糧に、すべてを包み込む絶対の力へと昇華せよ!」

 

 

シンヤの手にあるメガストーンが輝き始めた。

 

 

「カイリュー、メガシンカ!!」

 

 

「バオォォォォッ!!」

 

 

カイリューの身体を光が包む。

 

 

進化したばかりの身体が、さらに変化していく。

 

 

翼が大きく広がり、身体を覆うエネルギーが膨れ上がる。力強い姿へと変貌したカイリューが、フィールドに降り立った。

 

 

その姿を見た観客たちは、しばらく言葉を失った。

 

 

「カイリューが……メガシンカした……?」

 

 

「そんなことがあるのか!?」

 

 

実況席も騒然となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、会場の別の場所。

 

 

ガタッ!

 

モニターを見ていた一人のトレーナーが、思わず立ち上がった。

 

「カイリューがメガシンカ、した……だと!?」

 

驚愕のあまり、身につけていたマントが肩からずり落ちる。

 

その人物は、モニターから目を離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、フィールドのクロスは怒りを露わにしていた。

 

 

「ふざけんな! 何が絆だ! 下らねえ!」

 

 

クロスの腕に装着されたZリングが輝き始める。

 

 

はめ込まれたイワZが光を放ち、ルガルガンもそれに呼応するように身体を構えた。

 

 

トレーナーとポケモンの動きが、まるで一つになったかのように重なる。

 

 

「これが俺の力だ! ルガルガン、ワールズエンドフォール!!」

 

 

ルガルガンが高く跳び上がる。

 

 

その身体を巨大な岩のエネルギーが包み込み、凄まじい勢いでメガカイリューへと落下していく。

 

 

「カイリュー! たつまきを起こして、ほのおのうずとこごえるかぜを同時に放て!」

 

 

「バウッ!」

 

 

メガカイリューが翼を大きく広げる。

 

 

たつまきが発生し、その渦へ炎が巻き込まれる。

 

 

さらに、反対側からこごえるかぜが吹きつけた。

 

 

熱い炎と冷たい風。

 

 

相反する二つの力が、たつまきの中で激しく渦巻く。

 

 

炎と氷が交互に襲いかかる、巨大な氷炎の竜巻が完成した。

 

 

「はっ! 無駄だ! Zワザにそんな技が効くわけ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

シュドオォォォォォォォォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

両者の技が激突する。

 

 

本来ならば、通常の技では真正面から受け止めることも難しいほどの威力を持つZワザ。

 

 

しかし、シンヤは真正面から力をぶつけているわけではなかった。

 

 

メガシンカによって底上げされたカイリューの力。

 

 

そして、三つの技を重ね合わせた氷炎の竜巻。

 

 

炎が岩を熱し、直後に冷気が叩きつける。激しい温度変化と風圧が、巨大な岩の塊を内側から揺さぶっていく。

 

 

「な、何だ……!?」

 

 

クロスの目の前で、岩のエネルギーが砕け始めた。

 

 

そして――。

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォン……ガラガラガラ!

 

 

 

 

 

 

ワールズエンドフォールが、氷炎の竜巻に押し負けて相殺された。

 

 

「うっそ、だろ……」

 

 

クロスは呆然と呟いた。

 

 

一度しか使えないZワザ。

 

 

その大技が、通常の技の組み合わせによって打ち消されたのだ。

 

 

だが、シンヤはそこで攻撃を止めない。

 

 

「隙。見せるなよ」

 

 

カイリューの氷炎の竜巻は、まだ消えていなかった。

 

 

Zワザを相殺した勢いのまま、ルガルガンへと襲いかかる。

 

 

「ガルゥゥ!!」

 

 

Zワザを放ち終えたルガルガンは、次の指示を待っていた。

 

 

しかし、クロスはまだ目の前の光景に意識を奪われている。

 

 

その一瞬が致命的だった。

 

 

氷炎の竜巻がルガルガンを包み込む。

 

 

「ガウウウッ!!」

 

 

悲鳴を上げながら、ルガルガンは竜巻の中で翻弄される。

 

 

「くっ……ルガルガン、耐えろ!」

 

 

クロスがようやく指示を出した時には、すでに遅かった。

 

 

竜巻が消え、ルガルガンが地面に倒れ込む。

 

 

「ルガルガン、戦闘不能!」

 

 

クロスは歯を食いしばり、ルガルガンをボールへ戻す。

 

 

「くそ……! ふざけやがって……!」

 

 

残るポケモンは一匹。

 

 

「行け! ガオガエン!」

 

 

クロスの最後のポケモン、ガオガエンがフィールドに現れた。

 

 

対するメガカイリューは、まだ立っていた。

 

 

しかし、シンヤはその様子を注意深く観察する。

 

 

進化直後にメガシンカし、さらに二つの相手と連戦した。

 

 

身体には確かな疲労が見え始めている。

 

 

「……よく頑張った。カイリュー、戻って休んでくれ」

 

 

「バオッ」

 

 

カイリューはシンヤに頷き、ボールへ戻っていった。

 

 

「逃げるのかよ!」

 

 

クロスが吐き捨てる。

 

 

「交代だ。無理をさせる理由はない」

 

 

「ちっ……!」

 

 

シンヤは次のボールを取り出した。

 

 

「頼むぞ、ニドクイン!」

 

 

「ニドッ!」

 

 

現れたニドクインは、堂々とフィールドに立つ。

 

 

ニドキングと同じく、シンヤがかなり早い時期に仲間にしたポケモンだ。

 

 

長い時間を共に過ごし、数え切れないほどの実戦と訓練を積み重ねてきた。

 

 

その経験は、今も確かな力となっている。

 

 

「ガオガエン! ぶっ潰せ!DDラリアット!」

 

 

ガオガエンが勢いよく飛び出した。

 

 

その巨体を活かし、ニドクインへ真正面から突っ込んでいく。

 

 

しかし――。

 

 

ニドクインは動じない。

 

 

ガオガエンの攻撃が届く直前、身体をわずかに傾ける。

 

 

攻撃が空を切った。

 

 

そして、その回避した姿勢のまま。

 

 

「カウンター!」

 

 

シンヤの指示が飛ぶ。

 

 

ニドクインの身体に力が宿る。

 

 

ガオガエンの攻撃で受けた衝撃を利用し、強烈な反撃を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォン!!

 

 

 

 

 

 

 

「ガオッ!?」

 

 

ガオガエンの巨体が吹き飛ばされる。

 

 

そのまま地面を転がり、起き上がろうとする。

 

 

しかし、身体に力が入らない。

 

 

「ガオガエン、戦闘不能!」

 

 

審判の声が響いた。

 

 

「試合終了! 勝者、シンヤ選手!!」

 

 

会場が大きく沸き立つ。

 

 

「シンヤ選手、勝利です! クロス選手の三匹をすべて倒し、準々決勝への進出を決めました!」

 

 

クロスは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「う、嘘だ……嘘だぁぁぁぁ!!」

 

 

その叫びがフィールドに響く。

 

 

シンヤはクロスを一瞥した。

 

 

だが、何も言わない。

 

 

勝利を誇ることも、挑発に乗ることもない。

 

 

ただ、ニドクインをボールへ戻す。

 

 

「お疲れ。カイリューも、ニドクインもよく頑張った」

 

 

静かにそう告げると、シンヤはフィールドを後にした。

 

 

勝利の余韻に浸ることもなく、次の戦いを見据えるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆観客席

 

 

「すげえ……!」

 

 

試合を見ていたサトシは、興奮を隠せない。

 

 

「ハクリューがカイリューに進化しただけでも驚いたのに……まさかメガシンカまでするとはな!」

 

 

タケシも腕を組み、感心したように頷く。

 

 

「それも、技同士の合わせ技か。あんな風に組み合わせることもできるんだな」

 

 

カスミも目を丸くしていた。

 

 

「たつまきとほのおのうずだけでも凄かったのに、最後はこごえるかぜまで……。しかも、あのZワザを相殺しちゃったわよ!」

 

 

その近くには、ハナコ、オーキド博士、シゲル、リーフ、ブルーの姿もあった。

 

 

シゲルは腕を組み、モニターに映るメガカイリューを見つめる。

 

 

「元々強いカイリューが、さらにメガシンカか。これは当たったら厄介ってものじゃない」

 

 

「そうだね。でも、シンヤ君の手持ちはあれだけじゃないし」

 

 

リーフがそう返す。

 

 

実際、シンヤは今回、三匹の選出枠のうち2匹しか出していない。

 

 

それどころか、最後の一匹であるカビゴンはボールから出ることすらなかった。

 

 

「うむ。進化の瞬間を見られただけでも幸運じゃったが、そこにメガシンカまで見られるとはのう」

 

 

オーキド博士も興奮を隠せない。

 

 

「凄いですねー!」

 

 

ハナコも目を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ブルーは少し違うことを考えていた。

 

 

(というか、あの年齢の割に恥ずかしい格好をしているドラゴン大好き男……確実にわめいているでしょうね)

 

 

思い浮かべた人物の反応に、ブルーは小さく息を吐いた。

 

 

「それにしても、シンヤ君は本当に次々と新しいものを見せてくれるね」

 

 

リーフが呟く。

 

 

「進化したばかりのカイリューをすぐにメガシンカさせるなんて……」

 

 

「でも、最後はちゃんと交代させていた」

 

 

タケシが指摘する。

 

 

「進化したばかりで、あれだけの大技を使ったんだ。疲労を見て無理をさせなかったんだろう」

 

 

「うん。シンヤらしいよね」

 

 

サトシは拳を握りしめた。

 

 

「よーし! 俺も負けてられないぞ!」

 

 

その声に、ピカチュウも元気よく鳴く。

 

 

「ピカッ!」

 

 

シゲルもまた、静かにフィールドを見つめていた。

 

 

「次に戦う時は、あのカイリューだけを警戒していればいいわけじゃない。今回出ていないポケモンもいるからね」

 

 

「そうだね」

 

 

リーフも頷く。

 

 

決勝リーグは、まだ始まったばかり。

 

 

シゲルも、サトシも、リーフも、そしてシンヤも。

 

 

それぞれの目標へ向かって、勝ち上がっていく。

 

 

その中で、シンヤはまた一つ、新たな力を手に入れた。

 

 

ハクリューからカイリューへ。

 

 

そして、メガカイリューへ。

 

 

三本目の戦いを終えた少年の前には、まだ見ぬ強敵たちが待ち受けている。

 

 

決勝リーグは、さらに激しさを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆おまけ「決別! クロスのポケモンたちとロケット団!」

 

 

 

セキエイ大会・決勝リーグ。

 

 

シンヤとのバトルに敗れたクロスは、選手控室へと戻っていた。

 

 

「くそっ……! 何で俺が負けるんだよ!」

 

 

壁を蹴りつけ、悪態をつく。

 

 

「キテルグマもルガルガンもガオガエンも……使えねえ奴らばっかりだ!」

 

 

クロスは自分のポケモンたちに責任を押しつけていた。

 

 

「特にルガルガン! Zワザまで使っておいて、何であんな技に負けるんだ! ちゃんと避けろよ!」

 

 

「……」

 

 

キテルグマが拳を握りしめる。

 

 

ルガルガンも、ガオガエンも、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

 

彼らだって、できることはやった。

 

 

キテルグマは、相手の戦術を封じようと挑発を使った。だが、シンヤの予想外の技の組み

合わせに対応できなかった。

 

 

ルガルガンはZワザを放ち、相手の大技とぶつかった。結果として相殺され、その後の攻撃に巻き込まれた。

 

 

ガオガエンは、最後に突っ込んできたところをカウンターで返された。

 

 

確かに敗北した。

 

 

だが、それは彼らだけの責任ではない。

 

 

むしろ、トレーナーであるクロス自身の判断にも問題があった。

 

 

それなのに。

 

 

「お前らがもっとしっかりしてれば、俺が負けるわけなかったんだ!」

 

 

その言葉に、三匹の怒りが限界へ達しかけた。

 

 

そこへ――。

 

 

「ちょっと待つニャ!」

 

 

突然、声が響いた。

 

 

「ニャ?」

 

 

クロスが振り返る。

 

 

そこにいたのは、ロケット団の三人だった。

 

 

ムサシ、コジロウ、そしてニャース。

 

 

「な、何だお前ら?」

 

 

「いやあ、たまたま通りかかっただけなんだけどね」

 

 

コジロウが苦笑する。

 

 

「聞き捨てならないことを言っていたから、つい口を挟んじゃったのよ」

 

 

ムサシは腕を組み、三匹を見た。

 

 

「ニャースには、この子たちの言いたいことが分かるニャ」

 

 

ニャースが三匹へ近づく。

 

 

「ニャース、通訳してやるニャ」

 

 

キテルグマが一歩前へ出た。

 

 

「……」

 

 

「一回でいいから、謝ってほしいそうだニャ」

 

 

クロスは眉をひそめる。

 

 

「はあ?」

 

 

ニャースは続ける。

 

 

「自分たちは、できることをやった。キテルグマは相手を止めようとしたし、ルガルガンはZワザを使った。ガオガエンも最後まで戦った。それなのに、負けた責任を全部押しつけるのはおかしいって言ってるニャ」

 

 

「……」

 

 

「そもそも、相手の技を読み違えたのも、Zワザを使った後に隙を見せたのも、トレーナーであるお前の判断ミスだって」

 

 

「ふざけんな!」

 

 

クロスが怒鳴った。

 

 

「俺の指示に従うのがポケモンだろうが! 負けたなら、あいつらが弱かったってことだ!」

 

 

「……ニャ」

 

 

ニャースは呆れたように耳を伏せた。

 

 

「謝る気はないのかニャ?」

 

 

「あるわけねえだろ!」

 

 

その瞬間。

 

 

キテルグマの目が鋭くなった。

 

 

ルガルガンが低く唸る。

 

 

ガオガエンも拳を握りしめた。

 

 

三匹の怒りが、ついに爆発した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

クロスが後ずさる。

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

 

キテルグマがクロスの腰へ手を伸ばした。

 

 

「お、おい! 何を――!」

 

 

キテルグマは自分のモンスターボールを奪い取る。

 

 

ルガルガンも、ガオガエンも同じように自分のボールを取り返した。

 

 

「おい! 返せ!」

 

 

クロスが取り返そうとするが、三匹はそれを許さない。

 

 

バキッ!

 

 

バキバキッ!

 

 

三つのボールが、次々と破壊された。

 

 

「なっ……!?」

 

 

クロスの顔が青ざめる。

 

 

ポケモンが自分のボールを壊す。

 

 

それは、トレーナーとの関係を完全に断ち切るという意思表示だった。

 

 

だが、三匹の行動はそれだけでは終わらなかった。

 

 

キテルグマが、控室の隅に置かれていた別のボールを見つける。

 

 

ルガルガンとガオガエンも、それに続いた。

 

 

そこにあったのは、クロスの残りの手持ち。

 

 

ダダリン。

 

 

オニシズクモ。

 

 

クワガノン。

 

 

三匹のボールだった。

 

 

「お、お前ら……何をするつもりだ!?」

 

 

キテルグマがボールを手に取る。

 

 

そして――。

 

 

バキッ!

 

 

バキバキッ!

 

 

残る三つのボールも破壊された。

 

 

「……え?」

 

 

クロスは呆然とする。

 

 

その様子を破壊され拍子に出てきていたダダリン、オニシズクモ、クワガノンも困惑していた。

 

 

「ダダ……?」

 

 

「シズ……?」

 

 

「クワガ……?」

 

 

突然、自分たちのボールが壊されたのだから当然だ。

 

 

すると、ルガルガンが三匹に向かって何かを話し始めた。

 

 

ガオガエンも続けて説明する。

 

 

ニャースがそれを聞き、通訳した。

 

 

「どうやら、こいつらも前からクロスに不満があったらしいニャ」

 

 

「え?」

 

 

「自分たちも、ずっと道具みたいに扱われてきたって言ってるニャ。今回の敗北をきっかけに、もう我慢しないと決めたそうだニャ」

 

 

ダダリンがゆっくりと頷く。

 

 

オニシズクモも、クワガノンも同意するように鳴いた。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

クロスの顔から血の気が引いていく。

 

 

六匹は互いに顔を見合わせた。

 

 

そして、揃ってクロスを睨みつける。

 

 

「お、おい……待て!」

 

 

次の瞬間。

 

 

六匹の攻撃が一斉に放たれた。

 

 

キテルグマの強烈な一撃。

 

 

ルガルガンの岩の攻撃。

 

 

ガオガエンの炎。

 

 

ダダリンの錨を振り回す一撃。

 

 

オニシズクモの水流。

 

 

クワガノンの電撃。

 

 

「うわああああああああああっ!!」

 

 

クロスは見事に吹き飛ばされた。

 

 

壁に激突し、そのまま床へ転がる。

 

 

六匹はそれぞれ、すっきりしたように息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ロケット団の新たな仲間?

 

 

「……私たちも悪って自覚はしているけど……」

 

 

ムサシは頬に手を当てる。

 

 

「手持ちのせいにするとかは、さすがにないだろう……」

 

 

コジロウも複雑そうに呟いた。

 

 

ニャースは六匹と、床に倒れているクロスを交互に見る。

 

 

「六匹から同時に攻撃されるとは、どんだけ人望がないのかニャ???」

 

 

三人は思わず顔を見合わせた。

 

 

すると。

 

 

キテルグマが、三人の前に歩み寄ってきた。

 

 

「……?」

 

 

ムサシが首を傾げる。

 

 

ルガルガンも隣に並ぶ。

 

 

ガオガエン、ダダリン、オニシズクモ、クワガノンも続いた。

 

 

そして六匹は、三人に向かって頭を下げた。

 

 

「えっ?」

 

 

「な、何?」

 

 

ニャースが六匹の言葉を聞く。

 

 

「……ニャ?ニャんですと???」

 

 

一瞬、ニャースの目が丸くなった。

 

 

「どうしたのよ、ニャース?」

 

 

「この六匹……」

 

 

ニャースは三人を見上げる。

 

 

「お前たちの仲間にしてほしいって言ってるニャ」

 

 

「えええええっ!?」

 

 

三人の声が重なった。

 

 

まさかの申し出だった。

 

 

六匹は、自分たちを道具ではなく、仲間として扱ってくれそうな相手を求めていたのだ。

 

 

「……どうする?」

 

 

コジロウが二人を見る。

 

 

「珍しいポケモンばかりじゃない。しかも、他地方のポケモンばっか」

 

 

ムサシは六匹を見回す。

 

 

キテルグマにルガルガン、ガオガエン。

 

 

さらにダダリン、オニシズクモ、クワガノン。

 

 

確かに、どれも貴重なポケモンたちだ。

 

 

「よし! これはサカキ様に報告するニャ!」

 

 

ニャースが勢いよく叫んだ。

 

 

「そうね。勝手に決めるわけにもいかないし」

 

 

「うん。まずはサカキ様に相談しよう」

 

 

三人は六匹に向き直る。

 

 

「私たちが仲間にできるかどうか、ボスに確認してくるわ。それまで待っていてくれる?」

 

 

キテルグマたちは頷いた。

 

 

サカキからの通達

 

 

その後、ロケット団の三人はサカキへ報告を行った。

 

 

クロスのポケモンたちが自らの意思で元のトレーナーと決別したこと。

 

 

そして、六匹がロケット団の仲間になることを望んでいること。

 

 

報告を受けたサカキは、しばらく考え込んでいた。

 

 

「……なるほど。トレーナーとの関係を断ち切り、新たな居場所を求めているということか」

 

 

「そうですニャ!」

 

 

「ポケモンたちの意思を無視するわけにもいきませんしね」

 

 

コジロウが続ける。

 

 

サカキは短く頷いた。

 

 

「分かった。ならば、その六匹はお前たちが面倒を見ろ」

 

 

「えっ!?」

 

 

ムサシが目を丸くする。

 

 

「よろしいんですか!?」

 

 

「お前たちが連れてきたポケモンだ。最後まで責任を持て」

 

 

「は、はい!」

 

 

三人は姿勢を正した。

 

 

こうして、六匹のポケモンたちはロケット団の新たな仲間となった。

 

 

担当は次の通り。

 

 

 

 

ムサシ

 

 

・キテルグマ

 

 

・ダダリン

 

 

・ルガルガン(まよなかのすがた)

 

 

 

 

コジロウ

 

 

・ガオガエン

 

 

 

・オニシズクモ

 

 

 

・クワガノン

 

 

「よろしくね、キテルグマ!」

 

 

「これから一緒に頑張ろうな、ガオガエン!」

 

 

「ニャースもいるニャ! 仲良くするニャ!」

 

 

六匹はそれぞれ、三人の言葉に反応した。

 

 

まだ完全に打ち解けたわけではない。

 

 

それでも、少なくとも今までのように道具として扱われることはない。

 

 

新しい関係が、ここから始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆数日後――キテルグマの秘密

 

 

それから数日後。

 

 

ロケット団の三人は、キテルグマと一緒に過ごしていた。

 

 

そんなある日のこと。

 

 

キテルグマがムサシの前にやってきた。

 

 

「ん? どうしたの?」

 

 

キテルグマは何かを伝えるように、身振り手振りを交えて話す。

 

 

ニャースが通訳した。

 

 

「ニャニャ……。どうやら、キテルグマには子供がいるらしいニャ」

 

 

「えっ!?」

 

 

ムサシが目を丸くする。

 

 

「子供!?」

 

 

キテルグマは頷いた。

 

 

そして、遠慮がちにムサシを見る。

 

 

「もしかして……迎えに行きたいの?」

 

 

キテルグマは、もう一度頷いた。

 

 

ムサシは少し考えた後、笑顔で答える。

 

 

「もちろんいいわよ。家族なんだから、会いに行ってあげなさい」

 

 

「クマァ!」

 

キテルグマは嬉しそうに鳴いた。

 

 

「ただし、ちゃんと戻ってきてね」

 

 

その言葉にも、キテルグマは力強く頷いた。

 

 

そして数日後。

 

 

「ンンンーーーー!」

 

 

ムサシたちの前に、キテルグマが戻ってきた。

 

 

その隣には――。

 

 

「ヌイッ!」

 

 

小さなヌイコグマがいた。

 

 

「きゃあああっ! 何この子、可愛い!」

 

 

ムサシが思わず駆け寄る。

 

 

コジロウも目を輝かせた。

 

 

「キテルグマの子供か! なるほど、こんなに小さいんだな!」

 

 

「ヌイコグマというようだニャ!」

 

 

ヌイコグマはキテルグマの後ろに隠れながら、三人を見上げる。

 

 

キテルグマが優しく背中を押す。

 

 

「ヌイ……」

 

 

小さなヌイコグマが、そっと一歩前に出た。

 

 

「ふふっ。よろしくね、ヌイコグマ!」

 

 

ムサシがしゃがんで目線を合わせる。

 

 

コジロウも笑顔で手を振った。

 

 

ニャースは小さなヌイコグマを見て、にんまりと笑う。

 

 

「また賑やかになったニャ!」

 

 

こうしてロケット団には、新たに六匹のポケモンと、そのうちの一匹の家族であるヌイコグマが加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クロスはというと――。

 

 

自分のポケモンをすべて失い、リーグからも敗退。

 

 

そして、彼らが自分のもとへ戻ってくることはなかった。

 

 

自分の行動が招いた結果を、彼はまだ理解していないのかもしれない。

 

 

 

しかもこの出来事がきっかけでクロスの他のポケモン達も見切りをつけ、野生に戻ってしまっていった。

 

 

だが、六匹にとっては違った。

 

 

彼らはようやく、自分たちを仲間として迎えてくれる居場所を見つけたのだから。

 

 

ロケット団に、新たな仲間が加わった。

 

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