ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第92話「再戦! シンヤVSアキラ!」

 

セキエイリーグ・決勝リーグ。

 

 

第5回戦を突破したトレーナーたちは、続く準々決勝でも激戦を繰り広げていた。

 

 

そして準々決勝からは、ついに六対六のフルバトル。

 

 

これまでの三対三とは違い、ポケモンの交代や戦術の組み立て、トレーナー自身の判断力がより重要になる。

 

 

まず、シゲル。

 

 

彼は二匹を戦闘不能にされながらも、冷静な交代と的確な指示で相手の戦術を崩していった。

 

 

そして最後は、相棒であるカメックスが勝利を掴み取る。

 

 

「ふん。まあ、こんなものかな」

 

 

勝利したシゲルは、いつものように余裕の笑みを浮かべていた。

 

 

一方、サトシにとっては初めてのフルバトル。

 

 

最初は六匹という数に戸惑い、交代のタイミングにも苦戦していた。

 

 

それでも、ピカチュウやリザードンを中心に、これまで共に旅をしてきた仲間たちを信じて戦い抜いた。

 

 

グンジョウシティで捕まえたベトベトン。

 

 

大会中に進化したピジョット。

 

 

シゲルとのバトルでも活躍したスピアー。

 

 

そして、ゼニガメ。

 

 

それぞれの個性を活かし、サトシは初めてのフルバトルを勝利で飾った。

 

 

「やったぜ! みんな、ありがとう!」

 

 

「ピカピカ!」

 

 

サトシの喜びに、ピカチュウも嬉しそうに応える。

 

 

そしてリーフ。

 

 

彼女はキュウコンを中心とした晴れパーティーで相手を圧倒していた。

 

 

キュウコンの特性によって天候を晴れにし、炎技の威力を引き上げる。

 

 

さらに、晴れによって恩恵を受ける特性や技を持つポケモンたちを組み合わせ、相手の戦術を崩していった。

 

 

相棒のフシギバナは、せいちょうによって攻撃性能を高め、晴天の恩恵を受けた技で大きなダメージを与える。

 

 

ほかにもラフレシアなど、草タイプのポケモンたちが活躍していた。

 

 

こうして、シゲル、サトシ、リーフも準々決勝を突破。

 

 

そして――。

 

 

次に行われる試合は、シンヤの準々決勝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆準々決勝・シンヤVSアキラ

 

 

「まさかお前とはな――アキラ」

 

 

「おう。あれから旅して、バッジ集めてきたぜ。シンヤ!」

 

 

フィールドへ向かう通路。

 

 

そこでシンヤと対面したのは、かつてゴールデンボールブリッジで戦った少年だった。

 

 

自称・猛獣使い。

 

 

アキラ。

 

 

あの時のバトルの後、アキラはサトシとも出会い、バトルを繰り広げた。

 

 

さらにロケット団との戦いも経て、目標としていた百勝を達成。

 

 

その後も各地を旅し、バッジを集め、ポケモンたちと共に経験を積んできた。

 

 

そして今、セキエイリーグの準々決勝まで勝ち上がってきたのだ。

 

 

「お互い、ずいぶん遠くまで来たな」

 

 

「ああ。あの時からの俺たちの成長――見せてやるぜ!」

 

 

「望むところだ」

 

 

二人はフィールドへ向かう。

 

 

今回のバトルフィールドは、特別な仕掛けのない通常のフィールド。

 

 

草原でも、岩場でも、水場でもない。

 

 

何の変哲もない、平坦なバトルフィールドだった。

 

 

「じゃあ、言葉は不要ってことだな」

 

 

シンヤがボールを構える。

 

 

「ああ!」

 

 

アキラも笑みを浮かべ、六つのボールを取り出した。

 

 

「それでは、準々決勝第――試合! シンヤ選手対アキラ選手! 使用ポケモンは六匹! どちらかのポケモンが三匹戦闘不能になった時点で三分間のインターバルを挟みます!」

 

 

審判の説明が終わる。

 

 

「それでは、試合開始!」

 

 

両者が同時にボールを投げた。

 

 

「行け! ヘラクロス!」

 

 

「頼むぞ、ピカチュウ!」

 

 

アキラの先発はヘラクロス。

 

 

トキワの森の奥深くに迷い込んでいたところを、アキラが偶然発見し、捕獲したポケモンだ。

 

 

強靭な角と鍛え上げられた肉体を持ち、近接戦闘を得意としている。

 

 

対するシンヤの先発は――番長ピカチュウ。

 

 

「ピカッ!」

 

 

両者が向かい合う。

 

 

「へえ。最初からピカチュウか」

 

 

「こいつが行きたいって言ってるんでな」

 

 

「なら、遠慮はいらねえ!」

 

 

アキラが拳を握る。

 

 

「ヘラクロス! インファイト!」

 

 

「ヘラクロォォ!」

 

 

ヘラクロスが一気に距離を詰める。

 

 

拳が振り下ろされ、蹴りが繰り出される。

 

 

 

 

だが――。

 

 

 

 

「ピカッ」

 

 

ピカチュウは最小限の動きでかわす。

 

 

右へ。

 

 

左へ。

 

 

身体を沈め、頭上を通り過ぎる拳を避ける。

 

 

さらに一歩下がり、蹴りを紙一重でかわす。

 

 

「何っ!?」

 

 

ヘラクロスの攻撃が当たらない。

 

 

それどころか、ピカチュウは余裕すら感じさせる動きで攻撃を見切っていた。

 

 

「ヘラクロス! 焦るな!」

 

 

アキラの声が飛ぶ。

 

 

「相手の動きをよく見ろ! いつものお前なら、そんな簡単に焦らねえだろ!」

 

 

「ヘラッ!」

 

 

その声に、ヘラクロスが落ち着きを取り戻す。

 

 

だが――。

 

 

その瞬間、ピカチュウの姿が消えた。

 

 

「なっ!?」

 

 

ヘラクロスの背後。

 

 

ピカチュウはすでにそこへ回り込んでいた。

 

 

そして、ヘラクロスの大きな角に後ろからしがみつく。

 

 

「ピカッ!」

 

 

「ヘラクロ!?」

 

 

「十万ボルト!」

 

 

「ピィィカァァァ!」

 

 

 

 

 

バチバチバチバチッ!!

 

 

 

 

 

至近距離から電撃が放たれる。

 

 

ヘラクロスの身体が大きく震えた。

 

 

「ヘラァァァッ!」

 

 

苦しそうに声を上げながら、ヘラクロスはピカチュウを振り落とそうとする。

 

 

しかし、ピカチュウはヘラクロスの動きに合わせて身体の位置を微妙に変えていた。

 

 

右へ振れば左へ。

 

 

左へ振れば右へ。

 

 

頭を振り上げれば、角の付け根に身体を寄せる。

 

 

そのたびに十万ボルトを浴びせ続ける。

 

 

「くっ……!」

 

 

アキラは歯を食いしばる。

 

 

「ヘラクロス! 角ごと地面に叩きつけろ!」

 

 

「ヘラァァッ!」

 

 

ヘラクロスが大きく頭を振り上げた。

 

 

頑丈な角だからこそ可能な、強引な叩きつけ。

 

 

地面にピカチュウごと叩きつけようというのだ。

 

 

だが、その動作に入る瞬間。

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウが跳び上がった。

 

 

「アイアンテール!」

 

 

シンヤの指示が飛ぶ。

 

 

「ピカチュウ!」

 

 

ピカチュウの尻尾が鋼のように輝く。

 

 

そして、上空から勢いよく振り下ろされた。

 

 

ヘラクロスの角を地面へ叩きつける動作。

 

 

上空から振り下ろされるアイアンテール。

 

 

二つの叩きつけが重なった。

 

 

 

 

 

ドゴォォォン!!

 

 

 

 

 

「ヘラクロォォ……!」

 

 

大きな音と共に、ヘラクロスが地面へ叩きつけられる。

 

 

ピカチュウはその反動を利用して、軽々と距離を取った。

 

 

「ヘラクロス!」

 

 

ヘラクロスはまだ立ち上がろうとしていた。

 

 

身体は震え、足元もふらついている。

 

 

それでも、まだ戦う意思は残っていた。

 

 

「いいぞ! お前の気合いと根性、見せてやれ! きしかいせ――」

 

 

「それはさせない。十万ボルト」

 

 

「ピカチュゥゥゥゥゥ!」

 

 

 

 

 

 

バチバチバチバチッ!!

 

 

 

 

 

 

ヘラクロスが何をしようとしているのか、シンヤは瞬時に理解していた。

 

 

きしかいせい。

 

 

残り体力が少ないほど威力が上がる技。

 

 

アキラは、ヘラクロスの持ち味である根性と耐久力を活かし、最後の一撃を狙っていたのだ。

 

 

だが、シンヤはその隙を与えない。

 

 

ピカチュウもまた、嫌な予感を感じ取っていたのか、すでに電撃を放つ準備を整えていた。

 

 

至近距離からの十万ボルト。

 

 

「ヘラァァァァッ!!」

 

 

電撃が直撃する。

 

 

そして――。

 

 

 

 

ズドォォン!!

 

 

 

 

ヘラクロスが地面に倒れた。

 

 

「ヘラクロス、戦闘不能!」

 

 

審判の声が響く。

 

 

「第一匹目、シンヤ選手!」

 

 

「マジか……。これでもかなりタフなヘラクロスだったんだがな」

 

 

アキラは苦笑しながら、ヘラクロスをボールへ戻した。

 

 

「よく頑張った。戻れ」

 

 

そして、次のボールを取り出す。

 

 

「いけ、ニドキング!」

 

 

「ニッドォォォォ!」

 

 

現れたのはニドキング。

 

 

通常よりも一回り大きく、角には少し傷がついている。

 

 

その姿から、これまで幾度となく戦いを重ねてきたことが伝わってくる。

 

 

「なるほどな……」

 

 

シンヤはニドキングを見つめる。

 

 

(アキラも、しっかり鍛えてきたみたいだな)

 

 

「試合再開!」

 

 

アキラが先に動く。

 

 

「ニドキング! だいちのちから!」

 

 

「ニッドォォォォ!」

 

 

ニドキングが地面へ力を流し込む。

 

 

地面が輝き、ピカチュウの足元が爆発するように盛り上がった。

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウは瞬時にその場から離れ、空中へ跳び上がる。

 

 

爆発が起こり、地面が大きく隆起した。

 

 

「空中なら逃げられないだろう! ストーンエッジ! 追尾型!」

 

 

「ニドォォ!」

 

 

ニドキングが片手をかざす。

 

 

岩の塊が次々と出現し、空中のピカチュウへ向かって飛んでいく。

 

 

「ピカチュウ! 回転しながら十万ボルト!」

 

 

「ピッカカカカカカカ!」

 

 

ピカチュウが空中で身体を回転させる。

 

 

その身体から放たれた電撃が、四方八方へと広がっていく。

 

 

まるで、何方向からも電撃が放たれているようだった。

 

 

飛来するストーンエッジが次々と電撃にぶつかり、砕け散る。

 

 

「なっ!?」

 

 

アキラが目を見開く。

 

 

「そういや、サトシの奴もかえんほうしゃで似たようなことをやってたな!」

 

 

「そのまま続けて――なみのりだ!」

 

 

「ピイィィィカァァァ!」

 

 

ピカチュウが空中で勢いをつける。

 

 

すると、どこからともなくサーフボードが現れた。

 

 

そして、足元に巨大な波が出現する。

 

 

ピカチュウはその波に乗り、ニドキングへ向かって突き進んだ。

 

 

「ニドキング! 全体じゃねえ! 自分に迫る部分の波の真下に、だいちのちから!」

 

 

「ニッドォォォォ!」

 

 

ニドキングが地面へ手を当てる。

 

 

すると、目の前の地面が盛り上がり、穴が開いた。

 

 

迫っていた波の一部が、その穴へ吸い込まれていく。

 

 

「なるほど。なら――ピカチュウ! かげぶんしん! その状態で四方八方に走り回れ!」

 

 

「「「「「「ピッカカカカカカカカ!」」」」」」

 

 

「んげっ!?」

 

 

アキラが思わず声を漏らす。

 

 

ニドキングも目を見開いた。

 

 

着地と同時に、ピカチュウがかげぶんしんを展開する。

 

 

元々素早いピカチュウが、さらに分身を生み出したことで、フィールドのあちこちに大量のピカチュウが現れた。

 

 

そして、それぞれが波を生み出す。

 

 

「その状態で、なみのりだぁ!」

 

 

『ピカァァァァァ!』

 

 

前後左右。

 

 

あらゆる方向から、なみのり状態のピカチュウがニドキングへ迫る。

 

 

「ニドキング! 慌てるんじゃねえ!」

 

 

アキラが叫ぶ。

 

 

「周りを囲むタイプのストーンエッジで囲んで、それを思いっきり尻尾でぶっ飛ばせ!」

 

 

「ニドォォォ!」

 

 

ニドキングが地面に手を当てる。

 

 

自身の周囲に、鋭い岩の柱が次々と生まれていく。

 

 

そして、身体を大きく回転させた。

 

 

 

 

ズガガガガガガガン!!

 

 

 

 

尻尾が岩を砕き、その破片が周囲へと飛び散る。

 

 

岩の破片がピカチュウの分身たちを次々と撃ち抜いていく。

 

 

しかし――。

 

 

すべてを迎撃することはできなかった。

 

 

本体のピカチュウが、波に乗ったままニドキングへ突っ込む。

 

 

 

 

ドォォン!!

 

 

 

 

「ニドォォ……!」

 

 

ニドキングがずぶ濡れになる。

 

 

そして、その角の先に――。

 

 

静かにピカチュウが降り立った。

 

 

「ピカッ」

 

 

小さな身体に電気が集まっていく。

 

 

それを見て冷や汗の止まらないアキラにニドキング。

 

 

シンヤはその様子を見ながら、心の中で呟いた。

 

 

(普通なら電気技は地面タイプに効かないんだが……。なぜか、濡れていると効くんだよな)

 

 

そして、口を開く。

 

 

「十万ボルトォォォォ!」

 

 

「ピィィィカァァァチュゥゥゥゥ!」

 

 

 

 

 

バチチチチチチチ!!

 

 

 

 

 

電撃がニドキングの身体を走る。

 

 

「ニドドドドドドドッ!?」

 

 

 

 

 

ズドォォォォ――――ン!!

 

 

 

 

 

ニドキングが大きく吹き飛ばされた。

 

 

地面に倒れ、動かなくなる。

 

 

「ニドキング、戦闘不能!」

 

 

「第二匹目、シンヤ選手!」

 

 

「は、ハハハハ……」

 

 

アキラは冷や汗をかきながら、ニドキングをボールへ戻した。

 

 

「サトシの奴のピカチュウより、よっぽどやべえじゃねえか……」

 

 

その言葉に、シンヤは小さく笑った。

 

 

「こいつはうちの番長だからな」

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウは得意げに腕を組む。

 

 

その姿は、まさに番長そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆番長ピカチュウ

 

 

観客席。

 

 

サトシは、フィールド上のピカチュウを食い入るように見つめていた。

 

 

「すげえ……! あのピカチュウ、前に一回戦ったけど、あんなに強かったのか!」

 

 

「相手の動きを見てから判断するのが物凄く早いな……」

 

 

タケシが感心したように呟く。

 

 

「それに、シンヤがどんな指示を出すのかも、ピカチュウ本人が予想して動いているように見えるわね」

 

 

カスミも頷く。

 

 

実際、ピカチュウはシンヤの指示を待つだけではない。

 

 

相手の動きや状況を見て、自分で判断し、シンヤの指示に先回りして動くことさえある。

 

 

それは長い時間を共に過ごし、何度も戦い、互いの考えを理解してきたからこそできることだった。

 

 

そして、フィールドでは――。

 

 

ピカチュウが堂々と腕を組んでいる。

 

 

その風格は、まさに番長。

 

 

「なんかあのピカチュウ、異常に強いけど……なんかこう、あれだな」

 

 

サトシが言葉を探す。

 

 

「うむ。大昔にいたとされている『オヤブン』のような風格があるわい」

 

 

オーキド博士が頷く。

 

 

「オヤブンというか――」

 

 

シンヤのピカチュウを見つめていたシゲルが、ぽつりと呟いた。

 

 

「番長じゃないか?」

 

 

「……!」

 

 

その言葉に、サトシたちが反応する。

 

 

「番長……!」

 

 

「あっはははは! それだ!」

 

 

「確かに、あの堂々とした態度は番長ね!」

 

 

観客席のあちこちから声が上がる。

 

 

「番長ピカチュウ! これしかないな!」

 

 

「ああ! まさに番長だ、あのピカチュウは!」

 

 

こうして、シンヤのピカチュウには新たな呼び名が定着することとなった。

 

 

――番長ピカチュウ。

 

 

当の本人は、その呼び名を気に入ったのか、さらに胸を張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第三戦――VSウインディ

 

 

「あっはははは! ここまでピカチュウにやられるとはな!」

 

 

アキラが笑う。

 

 

「だが、まだまだこれからだ! 行け、ウインディ!」

 

 

「ガウゥゥゥゥゥ!」

 

 

三匹目はウインディ。

 

 

威風堂々とした姿でフィールドに現れる。

 

 

その瞬間、ウインディの身体から威圧感が広がった。

 

 

「……!」

 

 

ピカチュウの攻撃力が下がる。

 

 

特性・いかく。

 

 

相手の攻撃を下げる能力だ。

 

 

「なるほどな」

 

 

シンヤはウインディを見つめる。

 

 

(ウインディということは、あの技もある、か?)

 

 

「ピカチュウ、戻れ」

 

 

「ピカァァァ!?」

 

 

ピカチュウが振り返る。

 

 

まだ戦える。

 

 

もっと暴れたい。

 

 

そんな気持ちが顔に出ていた。

 

 

「火力を下げてきているんだ。ここは戻って、また出番を信じな」

 

 

「ピーカ……」

 

 

不満そうな顔をしながらも、ピカチュウはボールへ戻った。

 

 

「ふっ。交代か」

 

 

アキラが笑う。

 

 

シンヤは次のボールを手に取った。

 

 

「行け、ギャラドス!」

 

 

「ギャオォォォォォ!」

 

 

巨大なギャラドスがフィールドへ現れる。

 

 

その威圧感が、ウインディへと向けられた。

 

 

ウインディの攻撃力がさらに下がる。

 

 

こちらも特性・いかく。

 

 

「なるほど、そっちもいかく持ちか」

 

 

アキラは面白そうに笑う。

 

 

「だが、こっちには関係ねえ!」

 

 

ウインディが吠える。

 

 

「試合再開!」

 

 

「先手必勝! ウインディ、しんそく!」

 

 

「ガウゥゥゥ!」

 

 

ウインディが一瞬で距離を詰める。

 

 

凄まじい速度。

 

 

「ギャラドス! りゅうのまいから、とびはねる!」

 

 

「ギャオォォォォ!」

 

 

ギャラドスが身体をくねらせ、りゅうのまいを舞う。

 

 

その勢いを利用して、空高く跳び上がった。

 

 

ウインディはギャラドスのいた場所を通過する。

 

 

「逃がすな!」

 

 

アキラが叫ぶ。

 

 

「ワイルドボルトォォォォ! それに合わせて、しんそくだぁ!」

 

 

「ガウゥゥゥゥッ、ガアアア!」

 

 

ウインディが電撃を纏う。

 

 

 

 

 

バチバチバチッ!!

 

 

 

 

 

そのまま上空へ向かって突進した。

 

 

だが、その動きは直線的。

 

 

ギャラドスは――。

 

 

「ギャオォォ!」

 

 

 

 

スッ。

 

 

 

 

空中で力を抜いた。

 

 

身体の重みを利用して、一気に落下する。

 

 

「なっ!?」

 

 

「ガオッ!?」

 

 

標的が突然落下したことで、ウインディの攻撃は空を切った。

 

 

「落ちながら、りゅうのまい!」

 

 

「ギャォォォォン!」

 

 

ギャラドスは落下しながら身体をくねらせ、再び舞う。

 

 

そして、そのまま地面へ着地した。

 

 

「技を途中でキャンセルして、身体から力を抜いて……その重みで回避したのか!」

 

 

アキラが舌打ちする。

 

 

「これでもうちのギャラドスは、空中・水中・地上で戦えるように鍛えているからな」

 

 

シンヤが答える。

 

 

「――――はっ! おもしれえ!」

 

 

アキラは笑った。

 

 

「それでこそ、百勝をいろんなポケモンでした奴だ!」

 

 

「そういうお前もな。噂には聞いてたぞ」

 

 

「そうでもねえさ……」

 

 

アキラはウインディを見る。

 

 

「ウインディ! その状態のまま、ギャラドスに上空から突っ込め!」

 

 

「ガウ!!」

 

 

ウインディは技を維持したまま、上空から重力を利用して突っ込んでくる。

 

 

電撃としんそくを纏った、強烈な突撃。

 

 

しかし――。

 

 

ギャラドスは動かない。

 

 

シンヤも指示を出さない。

 

 

「……?」

 

 

観客たちが不思議そうに見つめる。

 

 

アキラも眉をひそめた。

 

 

そして、攻撃が命中する寸前。

 

 

「まもる!」

 

 

「ギャオォォ!」

 

 

ギャラドスの前に緑色のバリアが展開される。

 

 

 

 

 

ドゴォォン!!

 

 

 

 

 

ウインディがバリアに激突した。

 

 

「ガウッ!?」

 

 

直前に防御が展開されたことに、ウインディも驚く。

 

 

しかも、ワイルドボルトとしんそくを維持してから時間が経過していた。

 

 

激突の衝撃で技が解除され、ウインディの身体が弾き返される。

 

 

「ガウゥゥゥ!?」

 

 

その隙を見逃す二人ではない。

 

 

「たきのぼり!」

 

 

「ギャオォォ!」

 

 

ギャラドスが勢いよく突進する。

 

 

まるで水の流れを登るように、ウインディへと迫る。

 

 

ザブゥゥン!!

 

 

そして――。

 

 

 

 

 

ドゴォォォン!!

 

 

 

 

 

水を纏った巨体がウインディを捉えた。

 

 

水タイプの技。

 

 

炎タイプのウインディにとっては効果抜群だ。

 

 

ウインディは吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

 

「ウインディ、戦闘不能!」

 

 

審判の声が響く。

 

 

「アキラ選手のポケモンが三匹戦闘不能となりました! ここで三分間のインターバルに入ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆前半戦終了

 

 

「そこまで! 両選手、ポケモンを戻してください!」

 

 

審判の声に、シンヤはギャラドスをボールへ戻した。

 

 

「よくやった。ピカチュウもギャラドスも、ありがとう」

 

 

一方、アキラもウインディをボールへ戻す。

 

 

「戻れ、ウインディ。よく頑張った」

 

 

アキラは三つのボールを見つめた。

 

 

ヘラクロス。

 

 

ニドキング。

 

 

ウインディ。

 

 

どれも自信を持って送り出したポケモンだった。

 

 

それが、前半戦だけで三匹とも戦闘不能。

 

 

対するシンヤは、まだ一匹も失っていない。

 

 

「……ははっ」

 

 

アキラは笑った。

 

 

「やっぱり強えな、シンヤ」

 

 

その目は、まだ諦めていない。

 

 

「だが、俺たちだってここまで来たんだ。後半はそう簡単にはいかねえぜ」

 

 

シンヤは静かに頷いた。

 

 

「ああ。楽しみにしてる」

 

 

二人の視線が交差する。

 

 

三分間のインターバル。

 

 

だが、勝負はまだ終わっていない。

 

 

アキラの残る三匹。

 

 

 

そして、シンヤの残る六匹フルメンバー。

 

 

後半戦、ここからが本当の勝負だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆三分間のインターバル

 

 

アキラの手持ちが三匹倒れ、試合は三分間のインターバルに入った。

 

 

シンヤが自陣へ戻ると、待っていたレンたちがすぐに駆け寄ってくる。

 

 

「はい、シンヤ。タオル」

 

 

「ありがとう、レン」

 

 

「坊ちゃま、こちらもどうぞ。水分補給を忘れないでくださいね」

 

 

レムから飲み物を受け取り、シンヤは一気に喉を潤す。

 

 

「はいはい。ちゃんと飲んでるよ」

 

 

「本当にもう……」

 

 

ラムが呆れたように肩をすくめる。

 

 

そのとき、観客席から大きく手を振る人物が見えた。

 

 

「シンヤー! 頑張ってねー!」

 

 

 

母のミサキだった。

 

 

隣には父のマサユキもいる。

 

 

シンヤは軽く手を上げて応える。

 

 

(来てたのか。まあ、そりゃそうか)

 

 

息子のリーグ戦だ。両親が見に来ないはずもない。

まあ、予選落ちると思ってないため決勝リーグから見てたみたいだが

 

 

飲み物を飲み終えたシンヤは、タオルで顔を拭いた。

 

 

「彼、以前の時とは別物ね」

 

 

レンがフィールドの反対側にいるアキラを見ながら言った。

 

 

「坊ちゃまとレン様は彼とは?」

 

 

「ああ。以前、ハナダでレベル上げも兼ねてバトルした最後の相手だ」

 

 

「なるほど。因縁の相手なのね」

 

 

「そそ。まさかリーグに参加しているとは思いもしなかったけど」

 

 

 

シンヤはアキラをちらりと見る。

 

 

向こうも用意していた飲み物を飲んでいるところだった。

 

 

(しかし、なかなかいいメンツを揃えているな)

 

 

ヘラクロスは、今のカントーでは珍しいポケモンだ。いったいどこで捕まえたのだろうか。

 

 

ニドキングもウインディも、かなりのレベルだった。

 

 

猛獣使いの名に恥じまいメンツを揃えているようだ。

 

 

(心を通わせる能力、か。確かに伊達じゃないな)

 

 

レンがシンヤの手持ちを見た。

 

 

「こちらは六匹全部。相手は残り三匹。どうするの?」

 

 

「……うーん。そろそろ決勝リーグだし、相棒を出そうかなって」

 

 

「リザードンを?」

 

 

「そう」

 

 

レンは少し考える。

 

 

「……そういえば、力が有り余っているみたいだったわね」

 

 

調整中や練習試合の際にも、リザードンはほとんど出番がなかった。

 

 

そのため、ここまで出番がないことへの鬱憤が溜まっているようだった。

 

 

「ここからの三匹は、全部リザードンで相手をするつもりだ」

 

 

「まあ、危なければ交代すればいいだけですからね」

 

 

「そうね、レム。わざわざ三匹全てをリザードンで相手にする必要はないもの」

 

 

「ま、危なければ、だけどな」

 

 

シンヤにとって、リザードンは最も信頼している相棒だ。

 

 

誰が相手でも、そう簡単に負けるとは思っていない。

 

 

それに、本人もここまで出番がなかった分、相当やる気になっているはずだ。

 

 

「そろそろ時間ね」

 

 

「ああ」

 

 

シンヤは空になった飲み物の容器を片付け、フィールドへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆後半戦――リザードンVSギャラドス

 

 

「それでは、シンヤ選手からポケモンを!」

 

 

シンヤはボールを構える。

 

 

「出てこい、リザードン!」

 

 

「グオォォォォォン!」

 

 

力強い咆哮とともに、リザードンがフィールドへ降り立つ。

 

 

「あの時のリザードか!」

 

 

アキラは目を細めた。

 

 

「だったらこっちは――ギャラドス!」

 

 

「ギャオォォォォン!」

 

 

 

巨大なギャラドスが姿を現す。

 

 

その瞬間、威圧感がフィールドを包み込んだ。

 

 

ギャラドスの特性、いかく。

 

 

リザードンの攻撃力が下がる。

 

 

「それでは後半戦、試合再開!」

 

 

「先手必勝! ギャラドス、ハイドロポンプ!」

 

 

「ギャオォォォ!」

 

 

口から強烈な水流が放たれる。

 

 

リザードンは真正面から受け止めようとはしなかった。

 

 

翼を一度大きく羽ばたかせ、低空を滑るように移動する。水流の射線から外れたところで、身体を傾けながら上昇した。

 

 

そして、そのまま空中で舞い始める。

 

 

――りゅうのまい。

 

 

シンヤから指示はない。

 

 

回避の動きの中で、リザードン自身が判断して能力を高めているのだ。

 

 

「指示もなく、りゅうのまい?!」

 

 

アキラが目を見開く。

 

 

「……いや、こりゃ相当特訓でポケモン側の判断に任せてやがるな!?」

 

 

過酷な修行をサンドにさせていたアキラだからこそ、瞬時に理解した。

 

 

「余裕があれば、りゅうのまいで回避しつつ能力を上げるように特訓したからな」

 

 

「余裕とは言ってくれるぜ! なら、ギャラドス! かみなり!」

 

 

「ギャオォォォォ!」

 

 

ギャラドスの全身から電撃が放たれる。

 

 

空へ向かって伸びた電撃が、上空から雷となって降り注いだ。

 

 

しかし、リザードンは大きく動かない。

 

 

翼の角度をわずかに変え、身体をひねる。

 

 

雷の落ちる位置を見極め、当たらない距離を保ちながら、再び舞う。

 

 

まるで雷の間を縫うような動きだった。

 

 

観客席からも感嘆の声が上がる。

 

 

「綺麗な動き……」

 

 

レンが呟いた。

 

 

「え?」

 

 

「何がよレン様?」

 

 

ラム・レムはレンを見る。

 

 

「あれはコンテストにも通じる動きよ。攻撃を避けるだけじゃない。身体の向きも、翼の動かし方も、次の動作へ自然につながっているもの」

 

 

確かに、リザードンの動きには無駄がない。

 

 

回避のために大きく姿勢を崩すこともなく、舞の流れを止めることもない。

 

 

攻撃を避けることと、能力を高めること。

 

 

二つの動作が一つの流れになっていた。

 

 

ここまでに積み重ねた「りゅうのまい」は二回。

 

 

攻撃と素早さがそれぞれ高まっている。

 

 

「リザードン。かみなりパンチ!」

 

 

「リザァ!」

 

 

リザードンが急接近する。

 

 

腕に電撃を纏わせ、ギャラドスへ拳を振り抜こうとした。

 

 

「ギャラドス! 地面に向かって生やすタイプのストーンエッジ!」

 

 

「ギャォォォォォ!」

 

 

ギャラドスが尻尾で地面を叩く。

 

 

 

 

 

ドスン!

 

 

 

 

直後、地面から鋭い岩の柱が次々と突き出した。

 

 

 

 

 

ズガガガガガガ!

 

 

 

 

 

迫り来る岩の刃。

 

 

リザードンは正面から突破しようとせず、空中で身体を横向きに傾けた。

 

 

岩の先端が翼のすぐ脇を通り過ぎる。

 

 

そのまま一度だけシンヤを見る。

 

 

シンヤもまた、リザードンの目を見た。

 

 

言葉は必要なかった。

 

 

「そのまま、ドラゴンクロー展開!」

 

 

「リザァァァァァ!」

 

 

リザードンは身体を丸めるようにして回転した。

 

 

電撃を纏った両腕を身体の前へ集め、回転の軸をぶらさないように姿勢を整える。

 

 

まるでドリルライナーのような突撃姿勢。

 

 

そして、その先端に竜の爪を思わせるドラゴンクローが展開された。

 

 

雷を纏った、回転する竜の爪。

 

 

ストーンエッジと正面から激突する。

 

 

 

 

 

ガガガガガッ!

 

 

 

 

 

岩が砕け散る。

 

 

リザードンは回転の勢いを落とさない。

 

 

翼を畳んで、残っていた勢いでそのまま進んでいく。

 

 

正面に現れる岩は爪で砕き、軌道を塞ぐ岩は身体の角度を変えてかわす。

 

 

りゅうのまいによって高められた速度を利用し、次々と出現する岩を突破していった。

 

 

「なっ……!」

 

 

アキラが目を見開く。

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

 

「ギャオ?!」

 

 

「リザァァァァァ!」

 

 

ギャラドスは、まさか自分の作り出した岩の壁を突き破ってくるとは思っていなかったのだろう。

 

 

一瞬、反応が遅れた。

 

 

その隙を逃さず、電撃を含んだドラゴンクローがギャラドスの顎を捉えた。

 

 

 

 

 

ドォン!

 

 

 

 

 

強烈な衝撃に、ギャラドスの巨体が宙へ浮く。

 

 

リザードンはその勢いを殺さず、回転を解きながらギャラドスの横をすり抜けた。

 

 

そして、空中で身体をひねる。

 

 

「リザァ!」

 

 

振り抜かれた尻尾が、ギャラドスの胴体を横から叩きつけた。

 

 

 

 

 

ドゴォォン!

 

 

 

 

 

ギャラドスはフィールドの端まで吹き飛ばされる。

 

 

「ギ、ギャラドスゥゥ?!」

 

 

「ギャァァァ……」

 

 

ギャラドスは目を回し、そのまま気絶した。

 

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

 

 

会場が大きく沸き上がる。

 

 

「マジかよ……」

 

 

アキラは呆れたように呟いた。

 

 

「なんだよ、あのドリルライナーみたいな体勢からの攻撃って……」

 

 

そう言いながらも、その表情には獰猛な笑みが浮かんでいる。

 

 

かつて自分とサンドを倒したリザード。

 

 

今、目の前にいるリザードンこそ、あの時の相棒だった。

 

 

「まだだ! いけ、サイドン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第五戦――リザードンVSサイドン

 

 

五匹目のボールが開く。

 

 

「サイドン!」

 

 

現れたのは、通常よりも大きな個体のサイドン。

 

 

雄々しい鳴き声とともに、フィールドへ足を踏み出した。

 

 

「試合再開!」

 

 

「サイドン、気合い入れろ! まずは動きを制限する! ステルスロック!」

 

 

「サイィィ!」

 

 

サイドンが雄叫びを上げる。

 

 

その瞬間、フィールド全体に不可視の岩の破片が散りばめられた。

 

 

「ステロか。最初にそれをされていたら、場に出るだけでやばかったな」

 

 

「ああ。そこは俺の判断ミスだ。ギャラドスで何とかできると思い込んでたからな」

 

 

アキラは悪態をつきながらも、冷静にリザードンを見据える。

 

 

「だが、これでリザードンは動きにくくなっただろう! サイドン、ロックブラスト!」

 

 

「サイ!」

 

 

サイドンが岩の塊を連続で撃ち出す。

 

 

「両手にかみなりパンチ。前進しつつ、周辺にかえんほうしゃ!」

 

 

「リザァァァァ!」

 

 

リザードンは両手に電撃を纏わせながら前進する。

 

 

飛来する岩を、タイミングよく拳で破壊していく。

 

 

ただし、岩を破壊することに集中しすぎない。

 

 

拳を振り抜いた後はすぐに腕を引き、次の岩へ備える。

 

 

さらに、攻撃の合間を縫うように、口から炎を放った。

 

 

かえんほうしゃが周囲を薙ぎ払う。

 

 

 

 

すると――。

 

 

 

 

空間に浮かんでいた岩の破片が熱せられ、次々と姿を現した。

 

 

「なっ?! 不可視のステルスロックを、そんな方法で目視するのか!?」

 

 

「これで、どこにステロがあるかわかるな。リザードン」

 

 

「リザ」

 

 

「後はお前の空中飛行能力で、当たらないように立ち回れ」

 

 

「リザ!」

 

 

リザードンは翼を広げ、ステルスロックの隙間を縫うように上昇する。

 

 

岩の位置を見極め、翼の角度と身体の向きを細かく調整する。

 

 

その飛行の合間にも、舞うことを忘れない。

 

 

「んな方法ありか?!」

 

 

アキラは思わず声を上げた。

 

 

「サイドン、こうなったら隠し技の十万ボルトだ!」

 

 

「サ、サイド!」

 

 

サイドンが電撃を放つ。

 

 

水場や水ポケモン、空を飛ぶポケモンへの対策として覚えさせた技なのだろう。

 

 

 

 

しかし――。

 

 

 

 

「素早さが三段階上がっているリザードンに、届くはずがないぞ」

 

 

「くそっ、滅茶苦茶はええ!」

 

 

リザードンは雷撃の軌道を見切り、軽々とかわす。

 

 

攻撃を止めたサイドン。

 

 

その隙を逃さず、リザードンが急降下した。

 

 

「ドラゴンクロー!」

 

 

「くっ、近寄らせるな! ロックブラスト!」

 

 

岩の塊が連続して撃ち出される。

 

 

だが、リザードンはステルスロックの隙間を縫うように飛び、飛来する岩の間もすり抜けていく。

 

 

回避のために大きく旋回することはない。

 

 

翼をわずかに動かし、身体を傾け、必要な分だけ軌道を変える。

 

 

当たらない。

 

 

掠りもしない。

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

「グォォォォォォ!」

 

 

 

 

ザシュン!

 

 

 

 

「サイ、ド……」

 

 

サイドンの身体が大きく揺れる。

 

 

 

 

ドスン。

 

 

 

 

その巨体が地面に倒れた。

 

 

「サイドン、戦闘不能!」

 

 

アキラの手持ちは、これで五匹が戦闘不能。

 

 

対するシンヤは、まだ一匹も失っていない。

 

 

そして、リザードンはまだまだ元気だった。

 

 

「……相棒。どうやら俺たちは、崖っぷちみたいだ」

 

 

アキラはサイドンをボールへ戻す。

 

 

残るボールは一つ。

 

 

それを手にしたアキラは、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

「最後まで、俺らしく! 俺たちらしくいこうぜ!」

 

 

そして、最後のボールを投げる。

 

 

「行け!」

 

 

 

 

ポンッ!

 

 

 

 

現れたのは――。

 

 

「サンドパ!」

 

 

「……サンドが進化したか」

 

 

シンヤはその姿を見て呟いた。

 

 

「ああ。ジム戦中にな。タマムシのエリカさんは強かったぜ」

 

 

「へぇ……」

 

 

草タイプのジム戦にサンドを連れていくとは、いかにもアキラらしい。

 

 

そして、その戦いの中で進化を果たしたのだろう。

 

 

シンヤはサンドパンを見つめた。

 

 

(あのサンドが、ここまで成長したのか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第六戦――リザードンVSサンドパン

 

 

「試合再開!」

 

 

「こうそくスピンで上空へ! そのまま、まるくなるでころがるだぁ!」

 

 

「サンドパン!」

 

 

サンドパンは高速回転しながら上空へ飛び上がる。

 

 

そのまま身体を丸め、勢いを乗せてリザードンへ突撃した。

 

 

ころがる。

 

 

丸くなることで防御を固め、回転の勢いを利用した強烈な一撃。

 

 

本来なら地面に面しているところで使うのが普通だがアキラのサンドパンはサンド時代からのむちゃな特訓に塚行ってきたおかげで変な無茶にも対応できるようになっていた!

 

 

リザードンは正面からドラゴンクローで迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

ガキィィン!

 

 

 

 

 

身体全体で攻撃するサンドパンと、リザードンの爪が激突する。

 

 

火花が散った。

 

 

弾かれるサンドパン。

 

 

しかし、すぐに元の体勢へ戻る。

 

 

リザードンも空へ逃げず、その場に留まっていた。

 

 

「こうそくスピン! そして、すなあらしだ!」

 

 

「サンドパ!」

 

 

サンドパンはその場で高速回転し、周囲に砂嵐を巻き起こす。

 

 

視界が悪くなり、先ほどリザードンが熱で姿を見せたステルスロックも、砂の中でよりはっきりと確認できるようになった。

 

 

だが、アキラの狙いはそれだけではない。

 

 

砂嵐の中で、サンドパンの姿が見えにくくなっていく。

 

 

「……すながくれの特性か」

 

 

「そうだ! 俺のサンドパンはすながくれ! 相手の視界から消え、見えにくくする!」

 

 

アキラが笑う。

 

 

その言葉どおり、サンドパンの姿は砂嵐に紛れていった。

 

 

次の瞬間。

 

 

リザードンの死角から、丸くなったサンドパンが転がってくる。

 

 

砂が煩わしいのか、リザードンは嫌そうに顔をしかめた。

 

 

「見えない……」

 

 

シンヤは砂嵐を見つめる。

 

 

目で追えないなら、どうするか。

 

 

音を聞く。風の流れを読む。砂の動きを見る。

 

 

だが、それだけでは足りない。

 

 

相手の動きに合わせるのではなく、相手が動く前から、その動きを捉える必要がある。

 

 

波動で感じ取ることもできるがそれはしたくない。

 

 

「攻撃が見えにくいなら、こうするまでだ。リザードン。業、使うぞ」

 

 

「……リザ?」

 

 

その言葉を聞いたリザードンが、一瞬だけ目を見開いた。

 

 

 

 

"業"

 

 

 

それが何を意味するのか、リザードンは知っている。

 

 

シンヤが教えた、普段の戦い方とは異なる動き。

 

 

単純な技の威力や速さを高めるものではない。

 

 

呼吸、重心、視線、筋肉の動き。

 

 

それらを一つの流れにまとめ、次の動作へ移るまでの無駄を限りなく削る。

 

 

そして、相手の動きを読むことで、攻撃が届く瞬間に自分の力を重ねる。

 

 

まだ完全なものではない。

 

 

だが、今のリザードンなら――。

 

 

「鋭く、早く――りゅうのまい」

 

 

リザードンは砂嵐の中で静かに舞い始めた。

 

 

ただし、いつものような大きな動きではない。

 

 

翼を広げる幅を抑え、重心をぶらさず、呼吸に合わせて身体を回す。

 

 

鋭く、速く。

 

 

無駄を削ぎ落とした、研ぎ澄まされた舞。

 

 

砂が翼の周囲を流れていく。

 

 

その流れのわずかな乱れを、リザードンは感じ取っていた。

 

 

そして――。

 

 

「力強く――ドラゴンクロー」

 

 

リザードンの爪が輝く。

 

 

普段よりも長く溜められた力が、巨大な竜の爪となって形を成した。

 

 

ただ力を溜めているのではない。

 

 

身体の軸を固定し、力を逃がさず、爪の先端へと集中させている。

 

 

そして、砂の中から迫るサンドパンの動きを捉えた。

 

 

「リィィィザァァァァァ!」

 

 

リザードンが一歩踏み込む。

 

 

その動きは、サンドパンが攻撃に入る瞬間と完全に重なった。

 

 

 

 

 

ザシュン!

 

 

 

 

 

「サ、サン?!」

 

 

激突。

 

 

しかし、吹き飛ばされたのはサンドパンだった。

 

 

サンドパンは逆向きに転がり、フィールドを滑っていく。

 

 

その衝撃で、周囲の砂嵐まで吹き飛ばされた。

 

 

「な、何が起こった???」

 

 

砂嵐の中で何が起きたのか、アキラには見えていなかった。

 

 

観客も、サトシたちも、レンたちも同じだった。

 

 

誰もが突然の出来事に困惑している。

 

 

ただ一人、リザードンだけは違った。

 

 

砂嵐が晴れたフィールドで、静かにサンドパンを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻――セキチクジム

 

 

ガタッ!

 

 

「……あ、あの一瞬の動き。もしや?!」

 

 

セキチクジム。

 

 

リーグの様子をテレビで見ていたキョウが、思わず立ち上がった。

 

 

先ほどのリザードンの動き。

 

 

それには、確かな見覚えがあった。

 

 

以前、グンジョウシティの一件でシンヤに譲った、一族に伝わる巻物の写し。

 

 

そこに記されていた動き、そのものだったのだ。

 

 

キョウ自身も、これまでの一族も、誰一人として内容を理解できずにいた。

 

 

古い言葉と、不可解な動作の記録。

 

 

何を意味するのか。どのように実践するのか。

 

 

長い年月を経ても、答えは出なかった。

 

 

だが、今のリザードンの動きは違う。

 

 

単に速く動いたわけではない。

 

 

相手の攻撃を待ち、動き出す瞬間を捉え、その力が最も効果を発揮する一点へ自分の動きを重ねていた。

 

 

「もしや、シンヤ殿……お主――理解したのか?!」

 

 

キョウはテレビに釘付けになる。

 

 

「まさか、あの巻物の技を……!」

 

 

驚きと興奮を隠せないまま、画面を見つめ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆最後の一撃

 

 

 

場面は再び、セキエイリーグへ戻る。

 

 

叩きつけられたサンドパンは、何とか立ち上がった。

 

 

「サンドパン!」

 

 

アキラが声をかける。

 

 

しかし、サンドパンの視界に入ったのは――。

 

 

 

 

 

ゴォォォォ……

 

 

 

 

口に炎を溜めているリザードンだった。

 

 

「リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 

「グォォォォォン!」

 

 

 

 

ゴォォォォォン!

 

 

 

 

 

強烈な炎がサンドパンを包み込む。

 

 

「サァァン……」

 

 

サンドパンの目がぐるぐると回る。

 

 

そして、そのまま気絶した。

 

 

「サンドパン、戦闘不能!」

 

 

審判が高らかに宣言する。

 

 

「アキラ選手の手持ち全てが戦闘不能になったため――勝者、マサラタウンのシンヤ選手!」

 

 

会場が大きな歓声に包まれた。

 

 

こうして、シンヤは準決勝進出を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆再戦の終わり、そして次の戦いへ

 

 

試合終了後。

 

 

シンヤはリザードンを労い、ボールへ戻した。

 

 

「お疲れ、リザードン。最後までよく頑張ったな」

 

 

ボールの中から、誇らしげな鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

その後、シンヤはアキラのもとへ向かう。

 

 

「いいバトルだったな、アキラ」

 

 

「ああ。完敗だぜ」

 

 

アキラは苦笑しながら手を差し出す。

 

 

二人はしっかりと握手を交わした。

 

 

「お前のリザードン、あの時のリザードとは別物みたいだったな」

 

 

「そっちのサンドパンもな。まさか進化しているとは思わなかった」

 

 

「エリカさんとのジム戦でな。あいつもあの時から、ずっと強くなってる」

 

 

「そうか。いい相棒じゃないか」

 

 

「ああ。自慢の相棒だ」

 

 

アキラはサンドパンのボールを見つめる。

 

 

「またいつか、どこかでバトルしようぜ」

 

 

「もちろん。次はもっといい勝負にしよう」

 

 

「言ったな!」

 

 

二人はもう一度笑い、握手を交わした。

 

 

アキラが退場口へ向かう途中、サトシの前を通りかかる。

 

 

「次はお前とも、改めてバトルしたいな。サトシ」

 

 

「ああ! 俺も楽しみにしてるぜ、アキラ!」

 

 

短い言葉。

 

 

けれど、互いに伝わるものは十分だった。

 

 

アキラは手を振り、そのまま会場を後にした。

 

 

こうして、セキエイリーグの準決勝へ進む四人が決定した。

 

 

シゲル。

 

 

サトシ。

 

 

リーフ。

 

 

そして、シンヤ。

 

 

驚くべきことに、準決勝進出者四人全員がマサラタウン出身者という、異例の事態となった。

 

 

長く続くセキエイリーグの歴史においても、前例のない出来事。

 

 

その記録は、後世まで語り継がれることになる。

 

 

だが、四人にとってはまだ通過点に過ぎない。

 

 

ここから先は、いよいよ決勝を懸けた戦い。

 

 

そして、シンヤにとっても――。

 

 

次の戦いは、これまで以上に大きな意味を持つものになる。

 

 

セキエイリーグ準決勝。

 

 

その舞台が、すぐそこまで迫っていた。

 

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