ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第93話 ライバル対決! フルバトル! サトシVSシゲル! 後編

 

インターバルに入り、サトシは一旦オコリザルをボールへ戻していた。

 

 

互いに休憩スペースのベンチへ腰を下ろす。

 

 

ここまで、両者とも一歩も譲らない攻防を繰り広げてきた。

 

 

シゲルはニドキング、オニドリル、ウインディの三匹を失った。一方のサトシも、ゼニガメとベトベトンの二匹が戦闘不能になっている。

 

 

残るポケモンは、サトシが四匹。シゲルが三匹。

 

 

数字だけを見ればサトシが優勢だが、単純にそうとは言い切れない。

 

 

サトシの手持ちには、すでに疲労を抱えているポケモンもいる。対するシゲルは、残る三匹をどのように使うか、まだ十分な選択肢を持っていた。

 

 

今回、サトシの応援席にいるタケシもカスミも、何も言わなかった。

 

 

いや、言えなかったのだ。

 

 

事前にサトシから、

 

 

「アドバイスなんかはいらないからな!」

 

 

と言われていた。

 

 

それも当然だろう。

 

 

互いに同じマサラタウン出身。幼い頃から顔を合わせてきた、誰よりも長い付き合いのライバル同士なのだ。

 

 

ここは二人だけで決着をつけるべき場所。

 

 

旅の仲間とはいえ、タケシやカスミが間に入るわけにはいかなかった。

 

 

二人にできることは、タオルや飲み物をサトシに渡してやることくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

一方、シゲル側の応援席も静かだった。

 

 

いつもなら華やかな声援を送るシゲル応援団も、今回は控えめに見守っている。

 

 

彼女たちも理解していたのだろう。

 

 

これはシゲルにとって、特別な試合なのだと。

 

 

応援団もまた、タオルや飲み物を用意し、シゲルが休めるようにしていた。

 

 

そして――。

 

 

「まもなくインターバル終了です! 両選手、準備をお願いします!」

 

 

場内アナウンスが響く。

 

 

サトシとシゲルは立ち上がった。

 

 

「……行くぜ、ピカチュウ」

 

 

「ピカ!」

 

 

「僕も、ここからが本番だよ」

 

 

シゲルは残る三つのボールを確かめる。

 

 

互いに視線を交わし、再びフィールドへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第六戦――ピジョットVSエレブー

 

 

「さあ、インターバル終了! 準決勝第一試合、後半戦の開始です!」

 

 

サトシが先にボールを構える。

 

 

「いけ、ピジョット! 決めてこい!」

 

 

「ピジョットォォォォ!」

 

 

翼を大きく広げ、ピジョットがフィールドへ舞い上がる。

 

 

「ならこちらは――エレブー!」

 

 

「ブル!」

 

 

シゲルが繰り出したのは、電気タイプのエレブーだった。

 

 

タイプ相性だけで考えれば、ピジョットには不利な相手。

 

 

しかし、シゲルは油断していなかった。

 

 

 

 

(相手はサトシだ。正攻法だけで押し切れると思わない方がいい)

 

 

 

ここまでの試合で、サトシは何度も予想外の戦術を見せている。

 

 

ならば、相手の動きを見てから対応するのではなく、先に戦場そのものを自分に有利な形へ変えてしまえばいい。

 

 

「試合再開!」

 

 

「ピジョット! でんこうせっかからの、つばめがえし!」

 

 

「ジョットォォォ!」

 

 

ピジョットが一気に加速する。

 

 

電光石火で勢いをつけ、そのまま鋭い軌道でエレブーへ迫った。

 

 

だが、シゲルは慌てない。

 

 

「エレブー! あまごい!」

 

 

「ブルー!」

 

 

エレブーが両腕を掲げる。

 

 

すると、フィールド上空に雨雲が広がり――。

 

 

 

 

ザアァァァッ!

 

 

 

 

激しい雨が降り始めた。

 

 

「っ、ピジョットのスピードが!」

 

 

サトシが目を見開く。

 

 

ピジョットの動きが、わずかに鈍くなっていた。

 

 

「それだけの速度で突っ込んでくるんだ。ピジョットの翼なら、濡れるのも早いだろう?」

 

 

シゲルは落ち着いた口調で説明する。

 

 

シンヤは控室で、その戦術に目を細めた。

 

 

 

(なるほど。雨で翼を濡らして、飛行能力そのものを落とすつもりか)

 

 

 

シンヤが第一回戦でバタフリーなどに使った、羽を濡らして動きを鈍らせる戦法に近い。

 

 

ただし、今回は条件が違う。

 

 

バタフリーの翅は虫タイプ特有の構造をしており、羽毛のように水を大量に含むわけではない。濡れるまでにも、ある程度の時間が必要だった。

 

 

しかし、ピジョットの翼は羽毛。

 

 

水を含みやすい。

 

 

しかも、電光石火からつばめがえしへとつなげ、勢いよく飛び込んでいる。雨粒を受ける面積も大きくなり、翼が水を含むのも早くなる。

 

 

シゲルは、ピジョットの素早さを逆手に取ったのだ。

 

 

「くっ……!」

 

 

ピジョットは何とか軌道を変えようとする。

 

 

だが、翼が重くなったことで、先ほどまでのような鋭い動きができない。

 

 

その隙を見逃すシゲルではなかった。

 

 

「エレブー! かみなり!」

 

 

「ブッル!」

 

 

 

 

 

 

バチィィィィン!!

 

 

 

 

 

空から巨大な雷が落ちる。

 

 

ピジョットを真正面から捉えた。

 

 

「ピジョッ……!」

 

 

効果は抜群。

 

 

ピジョットの身体が大きく揺らぎ、地面へ向かって落ちていく。

 

 

だが――。

 

 

「ピジョット!」

 

 

サトシの声に応えるように、ピジョットは最後の力を振り絞った。

 

 

翼を大きく広げる。

 

 

そして、サトシのいる側へ向けて、強い風を送り出した。

 

 

その風はフィールドを駆け抜け、サトシ側の空気を大きく動かす。

 

 

(あれは……!)

 

 

シンヤが気づく。

 

 

おいかぜ。

 

 

味方側のポケモンの素早さを上げる、飛行技だ。

 

 

ピジョットは、自分が倒れる前に、後続へと力を残していったのである。

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

 

「ピジョット、戦闘不能!」

 

 

「ピジョット……!」

 

 

サトシはボールを構え、ピジョットを戻した。

 

 

「ありがとうな。よく頑張ったぜ」

 

 

ボールを一度見つめ、すぐに次のボールを手にする。

 

 

「次はお前だ! いけ、オコリザル!」

 

 

「ウキィィィィ!」

 

 

再びフィールドへ現れたオコリザル。

 

 

だが、その様子はいつもと少し違っていた。

 

 

身体を低く構え、拳を握り締めている。

 

 

目には強い闘志が宿っていた。

 

 

「試合再開!」

 

 

「エレブー! 雨が続いている間にケリをつける! かみな――」

 

 

シゲルが指示を出そうとした、その瞬間。

 

 

オコリザルが動いた。

 

 

「なっ!?」

 

 

風を切るような速度。

 

 

エレブーが技を放つよりも早く、オコリザルは目の前まで迫っていた。

 

 

「そうか……!」

 

 

シゲルはすぐに理解した。

 

 

「ピジョットが最後に翼を広げた動作……おいかぜか!」

 

 

「そうさ!」

 

 

サトシは力強く頷く。

 

 

「最後にピジョットが力を振り絞って、後を託してくれたんだ! その思いを無駄にはしないぜ!」

 

 

そして、オコリザルを見る。

 

 

「そうだろう? オコリザル!」

 

 

「ウキィィィィ!」

 

 

オコリザルが拳を鳴らす。

 

 

「よし! 気合い入れろよ! インファイトォォォォ! れいとうパンチを纏え!」

 

 

「ウ―――キキキキキキキキキ!」

 

 

オコリザルの両拳に冷気が宿る。

 

 

そのまま、エレブーへ向けて怒涛の連撃を繰り出した。

 

 

拳。

 

 

蹴り。

 

 

再び拳。

 

 

冷気を纏った攻撃が、次々とエレブーへ叩き込まれる。

 

 

凍りついては砕かれ、凍りついては砕かれる。

 

 

「エレブー! 負けるな!」

 

 

シゲルもすぐに指示を飛ばす。

 

 

「サイコキネシス! 雨や空気中の水分を集めて、オコリザルを包み込め!」

 

 

「エレ……ブゥ!」

 

 

エレブーの目が光る。

 

 

フィールドに降り注ぐ雨粒、空気中に漂う水分。

 

 

それらが超能力によって集められ、オコリザルの周囲に球体を形成していく。

 

 

このまま閉じ込めれば、オコリザルの動きを封じられる。

 

 

しかし――。

 

 

「負けるなオコリザル! れいとうパンチを解除!」

 

 

サトシが叫ぶ。

 

 

「弱めに発生させたふんどのこぶしの力を、放たないでそのまま拳に残せ! インファイトに上乗せするんだ!」

 

 

「ウキィィ……プギィィィィィィィ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

シゲルが目を見開く。

 

 

本来、ふんどのこぶしは怒りのエネルギーを拳に集め、攻撃として放つ技だ。

 

 

それを放たず、拳に留めたまま、インファイトへ上乗せする。

 

 

そんな使い方があるとは、シゲルも考えていなかった。

 

 

控室のシンヤも、思わず身を乗り出す。

 

 

(あれは……!)

 

 

ふんどのこぶしは、怒りを凝縮して拳状のエネルギーとして放つ技。

 

 

少なくとも、シンヤの知識ではそうだった。

 

 

それを、あえて放出せずに拳へ纏わせる。

 

 

さらにインファイトの連撃に重ねるなど、思いつきもしなかった。

 

 

そもそも、サトシは技の細かな仕組みを理解して行っているわけではない。

 

 

目の前の状況を見て、オコリザルと一緒に突破口を探した結果、自然とその発想にたどり着いたのだ。

 

 

まさに、サトシらしい戦い方だった。

 

 

「エレ―――!」

 

 

「今だぁ!」

 

 

オコリザルが拳を振り抜く。

 

 

その拳には、怒りのエネルギーが留まっていた。

 

 

連続攻撃の最後。

 

 

アッパーカットのように、エレブーの顎を下から打ち抜く。

 

 

 

 

 

シュドォォォォン!

 

 

 

 

エレブーの身体が宙へ浮き、そのまま地面へ叩きつけられた。

 

 

ズドン!

 

 

「エレブー、戦闘不能!」

 

 

「よしっ!」

 

 

サトシが拳を握る。

 

 

健闘したエレブーだったが、ここで戦闘不能。

 

 

シゲルの残りは二匹となった。

 

 

「ウキィィイィ!」

 

 

オコリザルは腕を天に伸ばし、勝者は自分だと言わんばかりに雄叫びを上げる。

 

 

「ははっ! まだバトルは続くぞ、オコリザル!」

 

 

サトシがそう声をかけた、そのときだった。

 

 

 

 

 

ピカッ!

 

 

 

 

オコリザルの全身が眩い光に包まれる。

 

 

「なっ!?」

 

 

サトシが目を見開く。

 

 

光の中で、オコリザルの身体が変化していく。

 

 

そして――。

 

 

「プギィィィィィ!」

 

 

「お、オコリザルが……コノヨザルに進化した?!」

 

 

会場が大きく沸いた。

 

 

インファイトにふんどのこぶしの怒りのエネルギーを纏わせ、連続して攻撃したこと。

 

 

本来とは異なる用途で技を使い続けたことで、怒りのエネルギーが少しずつ蓄積されていた。

 

 

その蓄積が、オコリザルの進化を早めたのだ。

 

 

「……本当に君は、予想を超えることをしてくれるね」

 

 

シゲルは呆れたように笑う。

 

 

「試合中に進化とは……君、これで二回目だろう?」

 

 

「へへっ!」

 

 

一回目は、ピジョンがピジョットへ進化したとき。

 

 

そして今度は、オコリザルがコノヨザルへ。

 

 

「このままいくぜ、コノヨザル!」

 

 

「プギィィィ!」

 

 

進化したコノヨザルが、力強く拳を構える。

 

 

「ふっ……ここからどうにか挽回していくか」

 

 

シゲルは最後の二つのボールを見る。

 

 

そして、一つを手に取った。

 

 

「いけ、カイリキー!」

 

 

「リッキィィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第七戦――コノヨザルVSカイリキー

 

 

四本の腕を持つ格闘ポケモン、カイリキー。

 

 

対するは、進化したばかりのコノヨザル。

 

 

どちらも格闘タイプを持つポケモン同士。

 

 

しかし、両者には決定的な違いがある。

 

 

コノヨザルはゴーストタイプも持つため、格闘技を無効化できるのだ。

 

 

その事実を踏まえれば、相性はコノヨザルに傾いている。

 

 

だが、シゲルはそれだけで勝負が決まるとは考えていなかった。

 

 

カイリキーはここまでの戦いでゼニガメを倒し、ベトベトンとの交代を経て、再びフィールドに戻ってきた。

 

 

そして先ほどのウインディ戦で、オコリザルのふんどのこぶしも目にしている。

 

 

相手の技を知ったうえで、どう対処するか。

 

 

それが重要だった。

 

 

「試合再開!」

 

 

「コノヨザル! インファ――」

 

 

「カイリキー! その厄介なコノヨザルに何もさせるな!」

 

 

シゲルが先手を取る。

 

 

「四本全ての腕で、ほのおのパンチ! そのままバレットパンチを連打だ!」

 

 

「リィィィィ……キキキキキキキキキ!」

 

 

カイリキーの四本の腕に炎が宿る。

 

 

「炎……もしかして?!」

 

 

サトシはその攻撃を見て、何かに気づいた。

 

 

「コノヨザル! インファイトで迎え撃て!」

 

 

「プギィィィィィィ!」

 

 

二匹が同時に動く。

 

 

拳と拳がぶつかり合う。

 

 

カイリキーの四本腕による連続攻撃に対し、コノヨザルは闘魂ジムで鍛えた動きで応戦する。

 

 

腕だけではない。

 

 

足も使い、身体全体で攻撃を受け流しながら、反撃を繰り出していく。

 

 

その光景は、まるで二体の格闘家が互いに一歩も譲らず、拳を交わしているかのようだった。

 

 

 

 

いや、むしろ――。

 

 

 

 

某奇妙な冒険に登場する、二体の背後霊が繰り広げるラッシュを彷彿とさせる。

 

 

しかし、ここでサトシは致命的な見落としをしていた。

 

 

インファイト。

 

 

この技には、使用後に自分の防御と特防が下がるというデメリットがある。

 

 

アニメでは、技を使った瞬間に目に見える変化が現れるわけではない。

 

 

そのため、トレーナーが気づかないことも多い。

 

 

だが、シゲルは知識として理解していた。

 

 

強力な技であっても、使い続ければ自分の首を絞めることがある。

 

 

だからこそ、シゲルは技の威力だけでなく、その後に生じる隙まで考えて戦術を組み立てていた。

 

 

 

 

 

 

一方、サトシは違う。

 

 

旅の途中では、気合いと根性で数々の壁を乗り越えてきた。

 

 

シンヤとの再会、そしてグンジョウシティでの一件を経て、以前よりも遥かに成長している。

 

 

それでも、知識の差までは一朝一夕で埋められない。

 

 

そして今、その差が表れようとしていた。

 

 

 

 

 

ガクッ。

 

 

 

 

「ウキィィ?!」

 

 

コノヨザルの身体が、わずかに揺らぐ。

 

 

連続してインファイトを使い続けたことで、防御面が大きく低下していた。

 

 

本人にも、突然身体から力が抜けたような感覚があったのだろう。

 

 

ほんの一瞬。

 

 

拳の応酬に隙間が生まれる。

 

 

それを見逃すカイリキーではなかった。

 

 

「リッキィィィ!」

 

 

四本の腕が一斉に動く。

 

 

炎を纏った拳が、コノヨザルの顔面へ連続で叩き込まれた。

 

 

さらに、その攻撃をバレットパンチで加速させる。

 

 

 

 

 

ズガガガガガガガガ!

 

 

 

 

「プギャァァァァァァァ?!」

 

 

コノヨザルの身体が吹き飛ぶ。

 

 

そのまま壁へ激突した。

 

 

 

 

ドォン!

 

 

 

 

砂埃が舞い上がる。

 

 

攻撃を終えたカイリキーも、肩で息をしていた。

 

 

当然だ。

 

 

四本の腕を同時に使い、普段なら行わないような連続攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

カイリキーにも相応の負担がかかっている。

 

 

やがて煙が晴れる。

 

 

そこには、目を回したコノヨザルが倒れていた。

 

 

「コノヨザル、戦闘不能!」

 

 

「……ありがとう、コノヨザル。進化したばかりなのに、よく頑張ったな」

 

 

サトシはボールを構え、コノヨザルを戻す。

それと同時にピジョットのおいかぜは止む。

 

 

会場からは大きな拍手が送られた。

 

 

実況も興奮した声を上げる。

 

 

「サトシ選手のオコリザル、いや、コノヨザル! 進化直後とは思えない見事な戦いでした! しかし、このバトル! またもやシゲル選手が追いついたぁぁぁ!」

 

 

会場が沸き立つ。

 

 

これでサトシは四匹目を失った。

 

 

シゲルもまた、四匹目を失っている。

 

 

残るポケモンは、互いに二匹ずつ。

 

 

 

そして――。

 

 

 

シゲルのカイリキーも、決して無傷ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆闘魂ジムの観戦席

 

 

一方、そのバトルを見ていた闘魂ジムのアノキはというと。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ! オコリザル……いや、コノヨザル! いいバトルだったぞぉぉぉ!」

 

 

立ち上がり、両腕を振り上げて大声で叫んでいた。

 

 

「もう! お父さん、うるさい!」

 

 

隣にいた娘のマナミが、あまりの声量に父親を叱る。

 

 

以前のこともあり、マナミにはあまり大きな顔ができないアノキだった。

 

 

「す、すまんマナミ。興奮のあまり、つい……」

 

 

「もう! けど、ナイスガッツだったよ、コノヨザル」

 

 

マナミもフィールドを見つめる。

 

 

オコリザルとして闘魂ジムで鍛えられていたポケモンが、今や新たな姿へと進化した。

 

 

その成長は、彼女にとっても嬉しいものだった。

 

 

「ああ。だが……あんなポケモンがいることすら知らなかった」

 

 

アノキは腕を組む。

 

 

「それを知っているシンヤ君は、一体何者なのだ?」

 

 

また一つ、シンヤへの謎が深まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第八戦――ピカチュウVSカイリキー

 

 

場面は、コノヨザルを戻した後へと戻る。

 

 

「いけ、ピカチュウ!」

 

 

「ピッカ!」

 

 

バチバチと電撃を溜めながら、ピカチュウがフィールドへ現れた。

 

 

その姿を見たシゲルの視線が、今まで以上に鋭くなる。

 

 

「君のピカチュウのことだ。何か、とんでもない戦法を使ってくるんだろうね」

 

 

「相棒だからな!」

 

 

サトシは笑って答える。

 

 

「試合再開!」

 

 

五匹目同士のバトルが始まった。

 

 

「ピカチュウ! 十万ボルト!」

 

 

「ピィィカァァァチュゥゥゥゥ!」

 

 

ピカチュウの身体から、強烈な電撃が放たれる。

 

 

しかし、シゲルはすぐに対応した。

 

 

「カイリキー! 地面に向かってれいとうパンチ! 壁を作れ!」

 

 

「リッキ!」

 

 

カイリキーの四本の腕が、地面へ向かって振り下ろされる。

 

 

冷気を纏った拳が連続で叩きつけられ、地面から巨大な氷の壁がせり上がった。

 

 

十万ボルトが氷の壁にぶつかり、電撃が散る。

 

 

「そのまま、その氷を壊してぶつけるんだ!」

 

 

「リキィィィ!」

 

 

カイリキーがバレットパンチを連続で叩き込む。

 

 

氷の壁が砕け、無数の破片となってピカチュウへ襲いかかった。

 

 

「ピカチュウ! 足場にできそうな氷を見つけて、上空へ行けぇぇぇ!」

 

 

「ピカ!」

 

 

ピカチュウは飛来する氷の破片を見極める。

 

 

その中から足場にできるものを選び、次々と飛び移っていく。

 

 

氷の破片を利用し、少しずつ上空へと移動していった。

 

 

「十万ボルト!」

 

 

「ピッカ!」

 

上空から電撃が放たれる。

 

 

「かわせ、カイリキー!」

 

 

「リキ!」

 

 

カイリキーが横へ跳び、電撃を回避する。

 

 

だが――。

 

 

「そのまま回転して、四方八方に電撃を飛ばすんだ!」

 

 

「ピーカーピーカーピーカッ――――!」

 

 

ピカチュウが空中で身体を捻る。

 

 

その動きに合わせ、電撃の軌道が不規則に変化した。

 

 

まっすぐ飛ぶはずの電撃が、空中で枝分かれするように広がっていく。

 

 

「なっ!」

 

 

シゲルが目を見開く。

 

 

カイリキーは避けようとするが、四方から迫る電撃を完全にかわすことはできなかった。

 

 

「リ、リキィィィィッ!」

 

 

電撃が直撃する。

 

 

さらに、先ほどのコノヨザルとの戦いで受けたダメージも重なり、カイリキーが膝をついた。

 

 

「カイリキー! 立つんだ!」

 

 

シゲルが叫ぶ。

 

 

だが、カイリキーの身体はすぐには動かない。

 

 

「よーし! いっけぇピカチュウ! 上空からでんこうせっか!」

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウが上空から急降下する。

 

 

膝をついたカイリキーは、避けることができない。

 

 

 

 

 

シュドン!

 

 

 

 

 

後頭部にでんこうせっかが直撃。

 

 

カイリキーの頭が地面へ叩きつけられ、そのまま気絶した。

 

 

「カイリキー、戦闘不能!」

 

 

「カイリキー……戻れ。よくやった」

 

 

シゲルはボールへ戻す。

 

 

これで、シゲルは五匹目を失った。

 

 

残るは最後の一匹。

 

 

対するサトシは、ピカチュウともう1匹が残っている。

 

 

「追い込まれた、か……」

 

 

シゲルは小さく笑った。

 

 

「ふふふ。それでこそ、僕の認めたライバルだよ。サトシ」

 

 

「ハハッ、サンキュ!」

 

 

「けど、ここからはそうはいかない」

 

 

シゲルは最後のボールを手にする。

 

 

「最後はこいつだ――行け、僕の相棒!」

 

 

「ガァァァメ!」

 

 

現れたのは、シゲルのエース。

 

 

カメックスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第九戦――ピカチュウVSカメックス

 

 

「試合再開!」

 

 

「先手必勝! ピカチュウ、十万ボル――」

 

 

「カメックス! ピカチュウに当てないで、直前の地面に向かってハイドロポンプ!」

 

 

「ガァメ!」

 

 

カメックスの砲台から、強烈な水流が放たれる。

 

 

それはピカチュウの目の前の地面へ着弾した。

 

 

 

 

 

バシャァァァ!

 

 

 

 

大量の水が跳ね上がり、壁のように広がる。

 

 

「なんも見えない?!」

 

 

「ピピカッチュ?!」

 

 

サトシとピカチュウの視界が、一瞬だけ遮られた。

 

 

その隙をシゲルは逃さない。

 

 

「カメックス。最後なんだ。後先考えずに行くぞ!」

 

 

シゲルはカメックスを見つめる。

 

 

「からをやぶる!」

 

 

「ガァァ――――メエェェェェェェ!」

 

 

カメックスが殻へと身体を引っ込める。

 

 

次の瞬間、殻が割れるような音とともに、強烈なエネルギーが溢れ出した。

 

 

攻撃、特攻、素早さが二段階上昇。

 

 

その代わり、防御と特防は一段階低下する。

 

 

最後の一匹。

 

 

ここで一気に勝負を決めるための強化だった。

 

 

「ピカチュウ! 十万ボルト!」

 

 

「ピーカーチュー!」

 

 

水の壁が消え、サトシはすぐに攻撃を指示する。

 

 

だが――。

 

 

「こうそくスピン!」

 

 

「ガァメ!」

 

 

カメックスは殻へと籠もり、高速回転を始めた。

 

 

その回転速度は、今までとは比較にならない。

 

 

からをやぶるによる素早さの上昇が、甲羅の回転にも影響しているのだ。

 

 

十万ボルトが甲羅に弾かれる。

 

 

「なっ!」

 

 

「ピカッ!?」

 

 

「驚いている暇はないよ! カメックス、ハイドロポンプ!」

 

 

「ガァァメ!」

 

 

カメックスが回転を止め、顔と砲台を出す。

 

 

 

そして、先ほどの二倍はあろうかという巨大な水流を放った。

 

 

「ピカチュウ、かわしていけ!」

 

 

「ピカ!」

 

 

ピカチュウはでんこうせっかで走り回り、水流をかわしていく。

 

 

しかし、カメックスは素早さが上がっているうえ、攻撃範囲も広い。

 

 

ピカチュウは反撃の隙を見つけられず、回避に専念するしかなかった。

 

 

(どうする……?)

 

 

サトシはフィールドを見回す。

 

 

シゲルやシンヤほどの知識があるわけではない。

 

 

それでも、目の前の状況を見て、何か突破口がないか考える。

 

 

「……ん?」

 

 

ふと、カメックスの足元に目が留まった。

 

 

先ほどのハイドロポンプで生まれた水たまり。

 

 

そして、攻撃のたびに周囲へ飛び散っている水。

 

 

さらに近くには、カイリキーが破壊した氷の破片が散らばっている。

 

 

サトシは、それらを見て閃いた。

 

 

「これだ……!」

 

 

「ピカチュウ! 限界まで速度を上げながら、電撃を放つんだ!」

 

 

「ピ、ピカッ?!」

 

 

ピカチュウは思わずサトシを見る。

 

 

今でも避けるので精一杯なのに、さらに速度を上げながら電撃まで放てというのか。

 

 

無茶な指示だ。

 

 

だが、ピカチュウはサトシの目を見た。

 

 

そこには、信じろという思いが宿っていた。

 

 

「ピカピッカ」

 

 

仕方ないトレーナーだなぁ、とでも言いたげに鳴く。

 

 

それでも、ピカチュウは応えた。

 

 

先ほどよりもさらに速いでんこうせっか。

 

 

フィールドを円を描くように走りながら、全身から電撃を放っていく。

 

 

「何を考えている、サトシ?」

 

 

シゲルには、サトシの狙いが理解できなかった。

 

 

ただでさえ、ぎりぎりのところで攻撃を避けているピカチュウだ。

 

 

なぜ、さらに無理をさせる?

 

 

そう疑問に思った、そのときだった。

 

 

「……!」

 

 

シゲルの表情が変わる。

 

 

ピカチュウが放った電撃が、少しずつ空気中に留まり始めていた。

 

 

シゲルが発生させた雨。

 

 

カイリキーが作り出した氷の破片。

 

 

カメックスが放つ水流によって飛び散った水。

 

 

それらが重なり合い、フィールドに変化を生み出していた。

 

 

円を描くように走りながら電撃を放ち続けたピカチュウ。

 

 

その行動によって、フィールドのあちこちに電気が広がっていく。

 

 

「なっ……これは……!」

 

 

シゲルは目を見開く。

 

 

「まさか、エレキフィールド?!」

 

 

「エレキフィールド???」

 

 

サトシは首を傾げる。

 

 

シゲルは知っている。

 

 

だが、サトシは知らない。

 

 

もっとも、名前を知っているかどうかなど、今は関係なかった。

 

 

サトシにとって重要なのは、この状況が自分たちにとってチャンスだということだ。

 

 

「なんだかわかんないけど、いけピカチュウ! 十万ボルト!」

 

 

「ピッカー!」

 

 

ピカチュウが電撃を放つ。

 

 

フィールドに広がった電気が呼応するように輝き、先ほどよりも大きく強化された十万ボルトがカメックスを襲った。

 

 

「ガァァメ!?」

 

 

電撃が直撃する。

 

 

からをやぶるによって耐久が下がっていたカメックスには、かなりのダメージだった。

 

 

しかし――。

 

 

「ガァァァメ!」

 

 

カメックスは砲台を構える。

 

 

そこから、竜の形をしたエネルギーが放たれた。

 

 

まるで生きているかのように、軌道を変えながらピカチュウへ迫っていく。

 

 

「ピカチュウ?!」

 

 

突然の攻撃に驚くピカチュウ。

 

 

十万ボルトを放った直後だったこともあり、回避が間に合わない。

 

 

 

 

 

ドガァァァァ―――ン!

 

 

 

 

爆発がフィールドを揺らす。

 

 

「ピ、ピカチュウ?!」

 

 

煙の向こうから、ピカチュウが転がり出てくる。

 

 

「ピーカァ―――」

 

 

目を回していた。

 

 

「ピカチュウ、戦闘不能!」

 

 

「……よし」

 

 

シゲルは小さく息を吐く。

 

 

「大丈夫か、カメックス?すまない、焦ってた僕の指示を待つよりも自身で行動させてしまったね」

 

 

「ガ、ガァメェ……」

 

 

カメックスも苦しそうに息をしていた。

 

 

耐久が下がった状態で、強化された十万ボルトを受けたのだ。

 

 

決して軽いダメージではない。

 

 

それでも、まだ戦える。

 

 

シゲルは最後の相棒を見つめた。

 

 

「よく耐えたな、カメックス」

 

 

サトシもピカチュウを抱えて、ベンチに寝かせる。

 

 

「ありがとう、ピカチュウ。最後までよく頑張ったぜ」

 

 

そして、残る最後のボールを手にした。

 

 

「最後はお前だ――いけ、リザードン!」

 

 

「グォォォォ!」

 

 

大きく翼を広げ、リザードンがフィールドへ現れる。

 

 

それを見て、シゲルは笑みを浮かべた。

 

 

「やはり最後はリザードンか!」

 

 

シゲルの視線は、リザードンの全身を見据えている。

 

 

「面白い。シンヤとのバトルに向けた、いいデモンストレーションになる!」

 

 

「いいや! 勝つのは俺だ、シゲル!」

 

 

両者、最後の一匹。

 

 

カメックスはダメージを負っているものの、からをやぶるによって攻撃力、特攻、素早さが上昇している。

 

 

一方のリザードンは、まだダメージを受けていない。元気一杯だ。

 

 

ここからが、本当の勝負だった。

 

 

「試合再開!」

 

 

 

 

 

 

 

第十戦――リザードンVSカメックス

 

 

「リザードン、新技行くぜ! ニトロチャージ!」

 

 

「グォォォォ!」

 

 

リザードンが炎を纏う。

 

 

そのまま、カメックスへ向かって突撃した。

 

 

「カメックス! ハイドロポンプ!」

 

 

「ガァメ!」

 

 

砲台から強烈な水流が放たれる。

 

 

だが――。

 

 

ピカチュウが残していった電撃のフィールド。

 

 

そこに広がる電気が、水流の軌道をわずかに乱した。

 

 

まるで、攻撃を阻むかのように。

 

 

ハイドロポンプはリザードンの進行方向から逸れ、明後日の方向へ着弾する。

 

 

「何っ?!」

 

 

シゲルが目を見開く。

 

 

リザードンはそのままカメックスへ突っ込んだ。

 

 

カメックスはこうそくスピンで迎撃しようとする。

 

 

しかし、間に合わない。

 

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

 

炎を纏ったリザードンが、カメックスへ体当たりする。

 

 

カメックスの身体が揺れる。

 

 

炎技によるダメージも受けていた。

 

 

そして、リザードンは止まらない。

 

 

ニトロチャージの勢いを維持したまま、さらに速度を上げていく。

 

 

そのときだった。

 

 

カメックスの身体が青白いオーラを纏う。

 

 

「げきりゅうか!」

 

 

シゲルが声を上げた。

 

 

「それほど体力が減っているのか、カメックス!」

 

 

「げきりゅう?」

 

 

サトシが首を傾げる。

 

 

「体力が一定以下になると、水技の威力が上がる特性さ。知らないのかい?」

 

 

「わ、悪いかよ!」

 

 

「知識不足だね。その辺りは変わりないようだね、サトシ」

 

 

「こ、これから覚えていくさ!」

 

 

「……それを準決勝で口にするとは、ある意味大物だよ、君」

 

 

シゲルは呆れたように言う。

 

 

しかし、その目は真剣だった。

 

 

ここから先は、カメックスの水技がさらに危険になる。

 

 

「カメックス! 放出するんじゃない! ハイドロポンプを連射して、一定間隔で放て!」

 

 

「ガーメ!」

 

 

カメックスの砲台から、一定量の水流が何度も放たれる。

 

 

一発ごとの間隔は一定。

 

 

ただ闇雲に撃っているわけではない。

 

 

リザードンが回避する方向を読み、その先へ水流を配置していく。

 

 

リザードンは右へ、左へと動きながら攻撃をかわす。

 

 

だが――。

 

 

 

 

 

バシャッ!

 

 

 

 

「グォッ?!」

 

 

突然、上空から水が降ってきた。

 

 

「リザードン?! さっき放った水が上から?!」

 

 

そう。

 

 

カメックスが放ったハイドロポンプは、リザードンが避けた後も空中に残っていた。

 

 

勢いを失った水が、重力に従って落下してきたのだ。

 

 

それらが次々とリザードンを襲う。

 

 

下からはカメックスのハイドロポンプ。

 

 

上からは、先ほど放たれた水の落下。

 

 

リザードンは回避を続けるが、次第に動きを制限されていく。

 

 

(まずい……!)

 

 

サトシは状況を見て判断する。

 

 

リザードンも自分も、目の前のカメックスに集中している。

 

 

そこへ上空からの水まで警戒し続けるのは難しい。

 

 

ならば――。

 

 

「こうなったら……リザードン! カメックスに向かって、ほのおのうず!」

 

 

「リザ……?」

 

 

リザードンは一瞬、サトシの指示を不思議に思った。

 

 

だが、トレーナーの判断を信じる。

 

 

「リィィザァァァァ!」

 

 

 

 

 

ゴォォォォォッ!

 

 

 

 

カメックスの周囲を、巨大な炎の渦が取り囲む。

 

 

「こちらの攻撃を止めることが目的かい?!」

 

 

シゲルはすぐに狙いを考える。

 

 

「カメックス! そんな炎、吹き飛ばせ!」

 

 

「ガァァァメ!」

 

 

カメックスが砲台を構え、ハイドロポンプを放つ。

 

 

炎の渦に大量の水がぶつかる。

 

 

 

 

 

ジュワァァァッ!

 

 

 

 

高温の炎に水が触れ、大量の水蒸気が発生した。

 

 

あっという間に、フィールド一面が白い煙に包まれる。

 

 

「……しまった!」

 

 

シゲルが何かに気づく。

 

 

「サトシの狙いは――!」

 

 

煙の向こうから、二つの影が動く。

 

 

「リィィィザァァァァ!」

 

 

「ガ、ガメェェェェ!」

 

 

煙が晴れていく。

 

 

そこには、ニトロチャージの炎を纏ったリザードンがいた。

 

 

そして――。

 

 

両手でカメックスを掴み、互いに力比べをしている。

 

 

「よっしゃ!」

 

 

サトシが拳を握る。

 

 

「これを狙っていたのか!」

 

 

シゲルも理解した。

 

 

ほのおのうずは、カメックスの攻撃を止めるためだけではない。

 

 

水流をぶつけさせ、水蒸気を発生させる。

 

 

その煙で視界を遮り、リザードンがカメックスへ接近するための隙を作ったのだ。

 

 

カメックスは、からをやぶるによって攻撃力などが上昇している。

 

 

しかし、ピカチュウから受けた十万ボルトをはじめ、これまでのダメージは蓄積していた。

 

 

そのうえ、リザードンのニトロチャージによる攻撃も受けている。

 

 

今のカメックスには、全力で力比べを続ける余裕はなかった。

 

 

「よっしゃ! これで決めるぞ!」

 

 

サトシが叫ぶ。

 

 

「リザードン! ニトロチャージをしたまま――ちきゅうなげだ!」

 

 

「グオォォォォォ!」

 

 

リザードンがカメックスを抱えたまま飛び立つ。

 

 

炎を纏い、空中へ。

 

 

カメックスは砲台を使い、何とか体勢を変えようとする。

 

 

だが、体力が残っていない。

 

 

さらに、ニトロチャージの炎による継続的なダメージも重なり、集中力が続かない。

 

 

リザードンは速度を上げていく。

 

 

ニトロチャージの勢いを保ったまま、空中で回転する。

 

 

その身体の中心に、赤く輝く地球を思わせる光が一瞬だけ見えた。

 

 

そして――。

 

 

「グォォォォォ!」

 

 

超スピードのまま、リザードンがちきゅうなげを繰り出す。

 

 

カメックスを抱えたまま、地面へ向かって急降下。

 

 

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

 

 

大きな衝撃音が響き渡った。

 

 

土煙が舞い上がる。

 

 

やがて煙が晴れると、そこには倒れたカメックスの姿があった。

 

 

「カメックス、戦闘不能!」

 

 

審判が旗を上げる。

 

 

「シゲル選手のポケモンが全て戦闘不能になったため、準決勝第一試合!」

 

 

実況者が大きく息を吸い込む。

 

 

「勝者は――――マサラタウンのサトシ選手!!」

 

 

会場が歓声に包まれた。

 

 

準決勝第一試合。

 

 

サトシの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆勝者と敗者

 

 

試合を終えたリザードンは、勝利の喜びを抑えきれない様子だった。

 

 

「グォォォ!」

 

 

そして――。

 

 

サトシに向かって炎を吐いた。

 

 

「うわぁぁぁ! 熱っ!」

 

 

サトシの身体が、あっという間に真っ黒になる。

 

 

それでもサトシは気にしなかった。

 

 

「ははは! やったな、リザードン!」

 

 

そのままリザードンに抱きつく。

 

 

リザードンも嬉しそうに鳴き、サトシを受け止めた。

 

 

観客席からは大きな拍手が送られる。

 

 

サトシの母、ハナコ。

 

 

タケシにカスミ。

 

 

そして、オーキド博士。

 

 

誰もが二人の勝利を祝福していた。

 

 

激しい戦いだった。

 

 

どちらが勝ってもおかしくない、最後まで目の離せないフルバトル。

 

 

その勝者は、サトシだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆次の戦いへ

 

 

控室で試合を見ていたシンヤに、リーフが声をかける。

 

 

「サトシが勝ったな」

 

 

「ああ」

 

 

シンヤはフィールドを見つめたまま頷いた。

 

 

「次は俺達だ」

 

 

「うん。負けないよ、シンヤ君!」

 

 

リーフの表情には、強い決意が宿っていた。

 

 

彼女もまた、ここまで勝ち上がってきたトレーナーだ。

 

 

簡単に譲るつもりはない。

 

 

「私が勝ったら、一つだけ私のお願いを聞いてもらうからね!」

 

 

「面白い。なら、俺も同じように願い事をさせてもらおうか」

 

 

「ふふっ。いいよ」

 

 

互いに笑みを浮かべる。

 

 

しかし、その視線は真剣そのもの。

 

 

 

 

バチバチバチッ!

 

 

 

二人の間に、火花が散った。

 

 

次は自分たちの番。

 

 

サトシとシゲルの戦いに続き、もう一つの準決勝が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ライバルの証

 

 

そして、試合を終えたサトシとシゲル。

 

 

シゲルはサトシの前に立ち、懐から何かを取り出した。

 

 

それは、欠けたモンスターボールの一部だった。

 

 

「サトシ。これを受け取ってほしい」

 

 

「う、受け取れないぜ、シゲル?!」

 

 

サトシは戸惑う。

 

 

それは、シゲルが大切にしていたお守りのようなものだと知っていたからだ。

 

 

「いいや。受け取ってほしいんだ」

 

 

シゲルは静かに語り始める。

 

 

「今回のリーグを通して、僕はポケモンの生態について、改めて興味を持つようになってね」

 

 

「生態?」

 

 

「ああ。同じ種類のポケモンでも、それぞれ性格や行動が違う。育った環境によっても変わる。そういう部分をもっと知りたいと思うようになったんだ」

 

 

シゲルは手の中の欠けたボールを見つめる。

 

 

「元々、僕がトレーナーになったのは、そういうポケモンの違いを自分の目で確かめたかったからでもある。祖父と同じように、研究者としてポケモンを調べていきたいと思っていたんだ」

 

 

「そうだったのか……」

 

 

サトシは初めて聞く話に、目を丸くする。

 

 

「君は昔からポケモンマスターになると言っていたよね。だけど、僕は違う。トレーナーとして名を残すより、研究者として名を残すことを昔から考えていたんだ」

 

 

シゲルは少しだけ笑う。

 

 

「けど、君と出会った」

 

 

「俺と?」

 

 

「ああ。僕より知識も経験も足りない。何から何まで、君は僕に負けていると思っていた」

 

 

「お、おい!」

 

 

「でもね」

 

 

シゲルはサトシの目を見つめた。

 

 

「君は自然とポケモンに好かれる。君の周りには、いつもポケモンが集まってくる。僕はそれが……密かに羨ましかったんだ」

 

 

サトシは何も言わず、シゲルの話を聞いていた。

 

 

「だから、トレーナーとしての僕の意思を、これと一緒に引き継いでほしい」

 

 

シゲルは欠けたモンスターボールを差し出す。

 

 

それは、二人が幼い頃に手に入れた思い出の品。

 

 

かつて釣りで、二人が同時に一つのモンスターボールを釣り上げた。

 

 

どちらが手に入れるかで引っ張り合い、結局、ボールは二つに割れてしまった。

 

 

それぞれが半分ずつ持つことになった、二人だけのお守り。

 

 

その片割れだった。

 

 

サトシは少し考えた後、ゆっくりと手を伸ばす。

 

 

「……わかった。なら、ありがたく貰っておくよ」

 

 

そう言って、シゲルから欠けたモンスターボールを受け取った。

 

 

シゲルは満足そうに笑う。

 

 

「いい試合をありがとう。僕のライバル」

 

 

「楽しい試合をサンキュー! シゲル!」

 

 

 

 

ガチッ!

 

 

 

 

二人は固く握手を交わした。

 

 

幼い頃から続いてきた二人の関係。

 

 

勝ち負けだけではない、互いを認め合うライバルとしての絆。

 

 

それは、これからも変わらない。

 

 

そして、握手を終えたシゲルは、ふとサトシに告げた。

 

 

「十中八九、決勝はシンヤが来ると思う」

 

 

「えっ? なんでだよ? リーフだってここまで勝ち上がってるんだぜ?」

 

 

「リーフは君と同じで、仲間にしているポケモンは自分が気に入ったポケモンだろう?」

 

 

「そうだな」

 

 

「ここまでの戦いで、彼女があるパターンで戦っていることに気づいているかい?」

 

 

「ん???」

 

 

サトシは首を傾げる。

 

 

シゲルは呆れたようにため息を吐いた。

 

 

「僕に勝ったんだから、せめてもう少し知識やらを身につけてほしいね」

 

 

「な、なんだよぉ~~~!」

 

 

「ハハハ。まあ、君らしいけどね」

 

 

シゲルは笑う。

 

 

「自ずと答えはわかるよ。試合開始直後にね」

 

 

「えぇ???」

 

 

よく分からない様子のサトシ。

 

 

シゲルはそんな彼を見て、再び笑った。

 

 

そして、視線をフィールドの入り口へと向ける。

 

 

 

 

(彼女自身、気づいているかどうかは分からないけど……)

 

 

 

 

シゲルは考える。

 

 

(彼女の戦い方は、おそらくシンヤには――――)

 

 

その先を口にすることはなかった。

 

 

ただ、次の試合の行方を思い描くように、シゲルは静かにフィールドを見つめていた。

 




かつてのジョウトリーグで行った岩のフィールドを火炎放射で熱して、カメックスの動きを止める→冷やすためにハイドロポンプで冷やし、水蒸気で白い煙で見えなくなる。

そこから接近→ちきゅうなげの流れをある程度再現してみた。
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